私はソーマのパートナー   作:サンリアフレ

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第12話 セナside

「うん、しっかり治ってるみたい」

 

「目の方も大丈夫かい?」

 

「博士の怪しい顔もバッチリ見えます」

 

 瞳が見えないほどの細目とゴッドイーターを生み出した頭脳を併せてまさしく狐のような榊博士は、私の軽口に合わせて芝居がかった笑顔を浮かべる。

 

 ソーマに持ってきてもらったフェンリル制服を着こみ、軽く準備運動をしながら身体の不調子が無いか確かめる。

 三ヶ月もベッドの上で寝転がっていたから固くなっている部分もあるけれど、筋肉や腱に負ったダメージは見事に回復していた。

 

 ハンニバルと交戦してから約三ヶ月で私は退院した。

 アラガミ化を起こしていたらしい右手は寸分違わず回復しており、ようやく現場復帰することが叶った。

 

 榊博士のラボに急遽作られた特別医療室から出てソファに腰掛ける。

 博士はいつも作業をしているデスクに就いた。

 

「退院おめでとう。セナ君」

 

「ありがとう博士。ゴッドイーターになって約五年、初めての入院でしたよ」

 

「普通は任務に着任して一ヶ月で入院を経験するはずなんだがね。セナ君も完璧超人ではなかったということだね」

 

「御冗談を」

 

 本気で言ったんだけどね? と呆れた声で返される。

 それから場を整えるように咳払いをすると、博士の顔は学者のものに変わった。

 

「さてセナ君。キミが話してくれた予想に従って私なりに調査してみた結果、ハンニバルについて面白いことが解った」

 

「やっぱりあのハンニバルは基本種じゃ無かったんだね?」

 

 私が先んじて言うとその通りと大仰に頷いて見せた。

 

 戦闘中に感じた違和感から出た疑問だったのだ。

 と言っても大したことじゃない。

 異様なスピードを誇るハンニバルだが、なぜか振り向くときや体勢を整えるときだけは他のアラガミと大差ない速度だったのだ。

 

 まるで攻撃だけは絶対に当てるという意思が表れているかのように。

 尤も、ハンニバルはそういう戦闘スタイルだったからと言われてしまえばそれまでだ。

 しかし、交戦経験豊富な私が戦闘中に感づいた違和感がただの勘違いとは思えなかったのだ。

 

 引っ張ってきたモニターに私が撮影したハンニバルの写真が映し出される。講義の時間である。

 

「本来、アラガミは進化の過程に於いて捕食というプロセスを踏まなくてはならない。またその進化は外見的進化を終えてから内面的進化を開始する。つまり、進化の過程をすっ飛ばしているように思えるアラガミの成長にも、必ず一本の根幹となる道筋が存在するということだね。その進化の過程に局地の天候といった外的営力が加わることによって堕天種が生まれるのだが、そういった進化は進化前の面影を色濃く残すものだ。例えばコンゴウとコンゴウ落天種のように、獲得する能力こそ違えど姿形は酷似している。

 しかし今回のハンニバルは全くの新種。容姿も決定的に違えば能力も違う。前代未聞のアラガミだ。ゆえにこのハンニバルはハンニバルという属の基本種だと想定される訳だけど、セナ君が持ち帰ってきてくれたコアを解析してみると、これまでに見たことのない突然変異を起こした形跡が見られた」

 

「突然変異ってヘラのように共食いの果てに至ったような感じのことですか?」

 

「それもあるだろうね。ヘラの場合は重合結合という特徴が見られたからそう予想されているんだけど、このハンニバルの場合は歪なオラクルが認められてね。あたかも()()()()()()()()()()()()かのような強化が施されていたんだ」

 

「天候とかに適応するため……じゃないんですよね」

 

「解りやすく例えると殺虫剤に耐性を持った虫のようなものだ。自身の命を脅かす何らかの影響に打ち勝つために、それに特化した防御を用意する。虫の場合は神経細胞と殻を分厚くしたが、ハンニバルは自身の戦闘能力の強化とコアの複製だったという訳だ。

 恐らくハンニバルを捕食する偏食を持ったアラガミに対抗するべく生み出された突然変異種だったんだろう。骨格や能力から察するに、基本種のハンニバルは決して脆弱ではなかったはずだ。それを突然変異種を生み出させるまでに追い込んだアラガミがいるということになるね」

 

「そのハンニバルの天敵と言えるアラガミの正体とかは?」

 

「さすがにそこまでは解らないよ。それに真に注目すべきはそこじゃない。私たちの与り知らぬところで強力なアラガミが大量に発生している可能性があるということだ」

 

「ハンニバルの基本種が生まれるまでの空白のプロセスに生まれるはずのアラガミ、そしてハンニバルから派生して進化したアラガミ、ハンニバルの天敵たるアラガミ、そのアラガミの進化系統のアラガミたち……。考えだしたらキリが無い」

 

「理解が早いね。まさしく水面下から迫る未曾有の脅威だ。今回はセナ君だったから大事には至らなかったけど、これが他のゴッドイーターだったらと思うとゾっとしないね。間違いなく殺されていただろうし、そうなるとハンニバルの存在すら知らずに終わっていただろう」

 

「でもこうした強力なアラガミが陰で大量発生しているということは、何かしらの原因があってのことのはず……。それを解消できれば、もしかしたら……」

 

「それは無理だね。一度発生してしまった以上、それを根絶やしにすることは不可能だ。そこを起点に増加していく一方だ」

 

 珍しく断言してみせた榊博士。

 

 アラガミのコアを抜き取っても殺したという訳ではない。

 目に見えない粒子となって大気に身を溶かしているだけなのだ。

 いずれオラクル細胞たちが身を寄せ合って再び形となる。

 

 最前線と呼ばれる極東だが、私が思っている以上に深刻な危機に直面しているのかもしれない。

 現場復帰して早々気が重くなる。

 

 私が唸ると博士が気まずそうに申し出る。

 

「ただ、原因については少し心当たりがあるんだ」

 

「さすが博士! それでその原因って何です?」

 

 博士が逡巡する素振りを見せて、それから顎に当てた指をビシっと私に突き付けた。

 

「多分キミだよ」

 

「えっ」

 

「そうとしか考えられないんだ……。接触禁忌種ほどの強力なアラガミを乱獲できるような何かと言ったら、キミを除いて誰がいると思う?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください! いったいどういう流れでそうなったんですか!?」

 

 博士は突き付けた手の姿勢を変えて待ったのポーズを取り、眉間に指を添えて考える。

 それから改めて私の顔を見て説明する。

 

「順番に説明しようか。我々極東支部で日々狩っているアラガミの種類は、実は少ないのは知っているね? その数はおよそ三十種。一般兵は基本種と堕天種までの討伐しか許可されていないからね。

 でも実際はもっと多くのアラガミがいるわけだけど、なぜその三十種に限られているかというとその他のアラガミは凄腕の神機使いですら危ういとされるほど強力という他に、これ以上強力なアラガミが出現するのを抑えるためでもあるんだ」

 

「えぇっと……それって人為的に抑えられるものなんですか?」

 

「ある程度はね。アラガミは大気に分散したオラクル細胞を結集して生まれる。この分散していたオラクル細胞の元となったアラガミが強力であればあるほど生まれてくるアラガミも強力になるという、『アラガミ進化論』から派生した理論が有名になってね。オラクル細胞自身が捕食をし、取り込んだ力もオラクル細胞自身に保存されるはずであり、それらオラクル細胞が結集すれば強力なアラガミが生まれるはずだということで、学会の間で強力なアラガミは極力避けることが賢明だという結論が出たんだよ」

 

「……まさか」

 

「そのまさかだよ。接触禁忌という由来の大部分はこの結論から来ているんだ。強いアラガミを狩ろうにも犠牲を払わないといけない上に、狩ってもさらに強力なアラガミが生まれる可能性が出るのだから誰も好き好んで狩ろうとは思わないだろう? それをキミは……」

 

 うっ頭が……、と額を押さえつけた榊博士。

 心労に心労が重なったと言わんばかりに汗を滲ませる。

 

 まるで私が悪いみたいな空気で甚だ心外だ。

 私はただ神機の強化と資金集めのために依頼をこなしていただけであって、接触禁忌種を狩りたいから狩っていたわけじゃない。

 

 つまり私は悪くない。

 

 ……いや、どう考えても私が悪い。背中にダラダラと汗が流れるのを感じる。

 

「あのぉ……私の討伐スコアとかってどうなってます?」

 

「聞かない方が賢明だよ。キミが犯人だと再確認するようなものだ」

 

 あ、これ完全に私が犯人だわ。

 

 悩みの種で頭痛を催す榊博士と現実逃避に忙しい私。

 そろって頭を抱えて(うずくま)る。良い年した大人たちの醜態がそこにあった。

 

「おーいセナー! 退院祝いに良い報せが────って何やってるのキミたち」

 

 そこに快活な声とともにラボに表れたリッカ。

 そして床に蹲る私たちを見てドン引きする。

 

「リッカ! 私は悪くないんだよ! 本当だよ!!」

 

「よし、ひとまず落ち着こうか?」

 

 差し入れの冷やしカレードリンクで口を湿らせながら事情を話すと、リッカも榊博士と同じく頭痛を催した。

 それからこのことは三人だけの秘密ということで話は強制的に打ち切られた。

 臭いものには蓋をするのが賢明だ。

 

「そうそう、セナが発案した《インパルスエッジ》がついに完成したんだ!」

 

「さすがリッカ君だ。あのむちゃくちゃな構造を何とかしてみせるとは、まさに麒麟児だね」

 

「リッカ愛してる!」

 

「まぁセナの神機と新型君の神機にしか搭載できなかったけどね」

 

 《インパルスエッジ》それは神機に生きたアラガミを捕食することでオラクルを取り込ませて一カ所に貯蔵する。

 そして空のオラクルバレッドに注入し射出するというものだ。

 

 もともと捕食形態はコアを摘出するために考案されたものだったが、捕食する際に神機内部にアラガミのオラクル細胞が紛れ込むことがあった。

 しかしそのオラクルを排出する機構が開発できず、メンテナンス時に取り除くしか方法が無かった。

 

 そこで刀身型神機に銃身型神機の一部を取り付けることで排出機構を設け、攻撃手段に転じることにしたのだ。

 

 この案は私が発案する以前より考えられていたことだったらしいが、具体的な設計やオラクルの働きが謎に包まれていたため実現することは無いと捨てられのだそうだ。

 

 だが、私がアラガミ化を抑えるためにリンクさせていた神機のデータを榊博士が収集、解析を行いわずか一ヶ月でオラクルの活動傾向を大まかに解明してみせ、図面に排出機構をおこしてリッカに開発を依頼したのだ。

 リッカもリッカで二ヶ月で試行錯誤の末にプロトタイプの開発に成功させたのだ。

 

 天才二人によって生み出された奇跡の技術なのだ。

 

「セナ君ほど神機との親和性が高くないと、あれほど詳しいデータは得られなかったよ。今まで我々技術開発班が行き詰っていた壁を取り除いてくれた。セナ君も立派な技術開発者の一人さ」

 

「神機を握ってるだけで技術開発者に加えられるのは気が引けますよ。二人の功績にしておいてください」

 

 私の名前が加わるとまた本部から召集が掛けられそうだからね。

 軽く流しておくと、リッカが少し申し訳なさそうな顔で付け加えた。

 

「それとセナの要望にあったバスターブレードに取り付けるってやつ、あれはちょっと無理そうかなぁ」

 

「え、バスターブレードくらいの大きさじゃないと接着が難しいって話だったじゃない?」

 

「接着自体は神機の内側に組み込んじゃえば良いって解ったから問題無かったんだ。でも重量が(かさ)んじゃって……」

 

「なるほどねぇ。バスターブレードだと重すぎるし、ショートブレードだと持前の機動力に傷が付く。ロングブレードにしか付けれそうにないかな」

 

「その通り。これでイマイチ特徴に欠けたロングブレードに瞬発的な火力が備わったって感じ」

 

「リンドウが喜びそうだね」

 

 自慢げに語っていた顔に苦みが生じる。表情がコロコロ変わって見てて面白い。

 

「あー……実はそのことで榊博士に相談があったんだ」

 

「私にかい?」

 

「これを見てほしいんです。こっちが《インパルスエッジ》を装備した神機で、こっちが通常の神機のデータです」

 

 タブレットの画面を二人で覗き込む。

 私は門外漢なのでソファにくつろぎ討議する様子を眺める。

 専門用語を飛び交わせつつ、なぜかチラチラと私に目を向け、揃ってため息をつく。

 

「なにその『これだからコイツは……』みたいな顔は」

 

「実際その通りだよ。なんだいキミは。どうしてこの神機を扱えるんだ」

 

 いったい何のことやら。リッカに助けを求めると呆れ顔で説明してくれた。

 

「本当は《インパルスエッジ》は新型の神機に搭載する予定だったんだ。刀身と銃身の二つを併せ持つから、設計上楽だからね。でもいざ搭載してみると神機の適合条件が跳ね上がっちゃってさ……。まぁ新型に適合するくらいなら問題ないんだけど、旧型が適合するのはとてもじゃないけど無理な数値になっちゃったんだ」

 

「その先は読めた」

 

「リストに照合してみたら、なぜかキミだけは条件をクリアしててね。こんだけ適合率が高かったら新型になれると思うんだけど……」

 

「なぜかセナ君は新型とは適合しないんだなぁ、これが」

 

 はぁ、と再びため息を零す二人。

 そんなこと言われたって私も知らないよ。

 

「新型で思い出した。セナ君、キミは第一部隊に配属されることになったから」

 

「えっ、特務の方はどうなったんですか?」

 

「それよりも新しく配属された新型君の方が大事だと判断したんだろうね。メンバーはユウ君とサクヤ君とソーマ君、新入りのコウタ君だ。リンドウ君も第一部隊の隊長として配属されたよ」

 

「コウタ君というのは初耳ですね」

 

「彼は元気が良いけど、ちょっと鬱陶しい感じの男の子だからね。ソーマ君と反りが合わなかったんだろう」

 

 さらっと毒を吐く榊博士。

 苦笑いしつつ否定しないリッカもひどいな。

 

「じゃあ私はメンバーに顔合わせしに行こうかな」

 

「そうすると良い。丁度任務から帰ってきたところみたいだから、ラウンジに行けば会えると思うよ」

 

「ありがとう博士。それじゃリッカ、夜に開発成功記念のお食事に誘うからー!」

 

「はいはい、気を付けてねー」

 

 二人に見送られながらエレベーターに乗り込んだ。






──セナ退出後──

リッカ「ところで何でセナが第一部隊に? リンドウさんだけで十分じゃないですか」

  榊「それは私が推薦したんだ。保険はあるに越したことないだろう?」

リッカ「その心は?」

  榊「これ以上好き放題接触禁忌種を狩られると困るから、監視させてもらうためさ」
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