私はソーマのパートナー   作:サンリアフレ

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ついこの間までお気に入り数200だった気がするんですけど、500突破しましたね(驚愕)
ありがとうございます。


第14話 リッカside

「セナの退院祝いに」

 

「リッカの偉大な発明祝いに」

 

「「「乾杯!」」」

 

 キンと涼しい音を立てて三人同時にガラスのコップを呷る。お酒だったら大人らしいけど、生憎セナはアイスミルクティー、ヒバリちゃんはアイスコーヒー、私はアップルジュースである。年頃という便利な言葉で言い訳しておくとする。

 

 今年で成人したセナは初めて配給されたビールを心底楽しみにしていたらしく、わざわざ私を呼び出して飲んだのだが想像を絶するマズさだったようで、それ以来はリンドウとの取引材料と化していた。

 つまりお酒が大の苦手なのだ。

 

 さておき、今日はセナの部屋で恒例の女子会を兼ねて祝賀会を開いていた。結構な頻度で開いているので新鮮さは皆無だけれども、こんなご時勢で苦労の耐えない職業に就いている女子同士は何かにつけて顔を合わせたいのだ。

 極東支部に所属する女性は全体の約二割と少ない上に、二十歳以下の者はここに集まっている私たちとほんの数人だけだ。職業柄大人びた女性ばかりだし年頃というのも相まってこの三人で集まるのがほとんどだ。

 

「ほんと、セナさんには肝を冷やされますよ。何だかんだで乗り越えちゃうから杞憂に終わりますけど、今回ばかりはダメかと思いました」

 

「あはは、私もミッション中にぶっ倒れたときは死ぬかもって思ったよー。目が見えなくなるわ耳がおかしくなるわ走馬灯が見えるわ、散々だったね」

 

「話のネタ程度に済んで本当に良かった。ソーマ君なんて目も当てられないくらい落ち込んでたし……」

 

「そうなんですよー! その日からセナさんに迫るくらい任務を受けて回るし、作戦行動中も無言で怖かったんですから」

 

 ソーマ君が担ぎこまれたときのセナより勝るものがあった。メンテナンスで顔を合わせるときなんて鬼気迫る表情で無言で神機を渡してくるもんだから喋り辛いったらありゃしない。

 事情を知っている人から見ると自分の無力さを呪い必死になっているって解るけど、はたから見たら急に不機嫌になって暴れまわってるようにしか見えないからね……。また変な噂されてなければ良いけど。

 

 当のセナは健気な弟を見守る姉のような笑みで聞いてるし、反省してんのかなこの人。

 

「口すっぱくして言ってるけど、もう二度と神機開放(バースト)を使っちゃダメだよ?」

 

「解ってるって。私も突然失明する体験なんてまっぴらごめんだよ」

 

 その点は本気で反省しているようで苦味100%というセナにしては珍しい表情だ。

 

 榊博士によると、これ以上神機開放(バースト)を使うと身体がオラクル細胞に対して危機感を覚えなくなり、偏食因子とオラクル細胞の境を見失ってしまう危険性があるらしい。何度も同じところに痛みを与えているとその内慣れてしまうように、偏食因子がオラクル細胞を捕食しなくなってしまうそうだ。

 当然アラガミ化を起こすし、そうなってしまうと今度こそは治らないかもしれない。今回のアラガミ化もセナの神機との適合率の高さによるものと推測されているけど、実際はなぜ治せたのか不明なままなのだ。神機開放(バースト)は本当に諸刃の剣、禁忌の技なのだ。

 

 ミルクティーを飲みきったセナは電子ポットに水を注ぎながら話を振る。

 

「そんなことより、《インパルスエッジ》の件なんだけどさ」

 

「何か不調子でもあった?」

 

「いや全然。《インパルスエッジ》に使う空のオラクルバレットをカスタマイズしてみたんだんだよね」

 

「便宜的にオラクルバレットの弾殻と言ってるけど、実際のオラクルバレットとは別物だから使えないと思うよ」

 

「昨日ミッションで使ってみたら効果絶大だったって話をしようとしてたんだけど……」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

 何食わぬ顔してまた何かやり始めたぞこの人。思わずその頭を引っぱたきたくなる衝動を堪えて眉間を揉むと、ヒバリちゃんがコーヒーに浮かぶ氷を鳴らしながら補足する。

 

「確かにセナさん射撃してましたね。でも普通のオラクルバレットとは全然違ったような……」

 

「弾丸モジュールと制御モジュールで発射される時の角度とされた後の軌道を設定して、球モジュールで指向性を設定、レーザーモジュールで標的を攻撃ってエディットしたからね」

 

「ごめん、もう一回言ってくれる? 今言ってたことの半分以上知らない単語だったんだけど?」

 

「あー私が勝手にそう呼んでるやつだからね。簡単に言えばオラクルバレッドを調整しただけだよ」

 

 ケロっとした顔で言いながら沸かし終えた湯をティーカップに注ぎティーパックを沈めるセナ。

 

 ──コ、コイツ……オラクルバレットを調整したって言ったのか? それがどれだけ難しいか解った上の発言か……? ──

 

 オラクルバレットの性質は現時点で大まかなカテゴリに分類できることが判明しているのだが、カテゴリの数が尋常でなく、詳しく調べれば調べるほど細分化できてしまうため、まさしくジーンマップのように複雑なのである。

 そのため現在用意されているオラクルバレットは単純化された物ばかりで、銃身型神機使いは専ら弾丸かレーザーを使用している。中には放射をメインにするトリガーハッピーがいたりする。

 そんなオラクルバレットは技術開発部の間で重要課題とされていて、極東支部が誇る優秀な開発者たちが日々頭を悩ませながら研究している。勿論私もその一人だ。

 

「……セナ、そのオラクルバレット持ってきて」

 

「わ、解りました」

 

 ヒバリちゃんが思い切り頬を引き攣ったのを横目にアップルジュースを一気に飲み干す。セナも物々しく引き出しから箱を取り出して私の前に差し出す。

 開いてみると弾倉にたくさんの弾殻が詰まっており、無言で促すといそいそと漁って一つの弾殻を選び取り私に手渡す。

 

 一見何の変哲もないオラクルバレットに見えるが、よくよく見てみると八段構造になっているらしく、一般のものとは完全な別物と解る。

 

「今日中にオラクルバレットに関する資料をまとめて私に提出すること」

 

「え、この後今日の任務の報告書三枚まとめる予定が────」

 

「このオラクルバレットは没収するね。詳しく調べないといけないから」

 

「いや、それ明日も使うつもり────」

 

「いいね?」

 

「アッハイ」

 

 この奇天烈ときたら長年研究者たちが悩まされてきたブラックボックスを平然と開発してのけたのだ。さすがに開発者の矜持に深い傷が付く。

 

 セナが半泣きでヒバリちゃんに助け舟を求めるが、ヒバリちゃんはもう我関せずの態度を決め込んでおりあえなく肩を落とした。ヒバリちゃんも日々セナの出鱈目っぷりにより仕事を奪われているから、多少は出来るのだろう。

 

「それで、セナさんはソーマさんとどこまでいきました?」

 

 オラクルバレットのくだりを丸々無かったことにして話を繋げたヒバリちゃん。兵器の話をするより恋話をする方がよっぽど女子らしい。私とセナだけだといっつも技術開発の話に流れちゃうから貴重な存在と言える。

 

 セナはこの後書くつもりだったのだろう白紙の報告書を遠い目で見つめながら応える。

 

「んー、特に進展なしかなー」

 

「セナさんそればっかりじゃないですか……。もっと積極的にアタックしないとマンネリ化しますよ」

 

「そんなこと言われてもなぁ。実際のところソーマ君のこと好きか解んないし」

 

「どの口でそんなこと言ってんの。それは嘘でしょ」

 

「どの口ってひどいな……。勿論好きなことは好きだよ? でもどちらかっていうと弟みたいな感じで好きなんだよなぁ」

 

 でもこの前看病してくれたときはキュンってしたしどうなんだろうね、と本気で悩んでいる顔でティーパックをいじる。

 あまりの優柔不断さにうわぁ……と呟きながら私とヒバリちゃんが無言で横目のやり取りをする。これじゃあまりにソーマ君が報われなさすぎる。

 

「確かにキスとかしたいなぁって思うときもあるけどさ、もっとこう、恋人らしいことをしたいとは思わないんだよね」

 

「キスより恋人らしいことってあるんですか」

 

「例えばエッチとか」

 

「キミの感性がどっかずれてるというのは良く解った」

 

 普段あんだけイチャイチャしていながらそれが恋人らしいことだということにまるで自覚がないらしい。セナにとっては普通のスキンシップなのかもしれないけど、ソーマ君からしたら猛攻撃されているようなものだろう。

 

 これだけ美人の人から無防備に迫られ続けたらそりゃ好きになるわ。しかも落ち込んでいるときに手を差し伸べてくれた天使のような人に、だ。

 これでいざ告白してみたら「ごめん、弟としか見れないから付き合えない」とか言われたら自殺しちゃうんじゃないかな。

 

 大体同じ感想を抱いたようでヒバリちゃんも頭を抱えている。

 

「私なんて六歳も上の成人男性から毎日言い寄られているのに……なんでセナさんはソーマさんのようなイケメンでカッコイイ人と両思いなんですかぁ……」

 

「タツミさんもイケメンでカッコイイじゃん」

 

「まぁ、それは認めますけど。絡み方がありえないくらい面倒くさくて……。あと年の差が絶望的にアレです。さすがに無理です」

 

 特に理由のない罵倒がタツミさんを襲う!! まぁ年の差結婚というのはよくある話だけど、さすがに十七歳の女の子視点で見ると七歳の差はキツイものがある。私も時々タツミさんがアプローチしているところを見たことあるが、あれはロリコンと陰口されても仕方ない。それがヒバリちゃんが職員になった年から、つまり十五歳から続いているのだから同情を禁じ得ない。

 

 こんなに可愛い女の子なら選り取り見取りだろうに、恋の闇を垣間見た気がする。

 

「タツミさんのことは忘れてください。アレはトラウマレベルなので……。それよりリッカさんは意中の人とかいないんですか?」

 

「言われてみればリッカの色話って聞いたことないね」

 

「えー私ー? 男性より神機の方が好きだから特にないなぁ」

 

「おう……この職人気質(かたぎ)っぷりよ……」

 

「勿体無さ過ぎですよリッカさん。噂によればリッカさんは密かに人気らしいですし」

 

 私が人気!? 思いもよらなかったなぁ……。常に油と埃で汚れた服を着ている私のどこが良いと思ったのだろうか。嬉しいと思う反面疑問が生じる。

 

「んー強いて言うならユウ君は好みかな。ゴッドイーターなのに珍しく穏やかな人だし、何より性格が良いし」

 

「おーさすがリッカ、お目が高い。私もユウ君が近々女性陣の間で流行ると見込んでたんだよねー」

 

 ほ、良かった。このまま流すのも白けちゃいそうだから、実はパっと思い浮かんだ人を言っただけだったんだけど、どうやらユウ君は好評のようだ。当然思っていた感想を言ったから嘘はついてないけど、なんだか失礼なことをした気がする。

 

 内心でゴメンと謝っていると、ヒバリちゃんがとんでもない爆弾を投下した。

 

「お二人とも冗談はよして下さい。ユウさんは女の子ですよ?」

 

「「……えっ」」

 

「えっ?」

 

 それこそ何の冗談だとばかりヒバリちゃんを凝視する私とセナ。当のヒバリちゃんは予想外の反応だったのか困惑した表情で私たち間で視線を行ったり来たりさせる。

 

「ほ、本気で男の子と思ってたんですかっ?」

 

「いや、ユウ君どう見ても男の子じゃない」

 

「セナの言う通りだよ。逆に女の子の要素はどこにあるの」

 

 強引に考えるとコウタ君以外には丁寧語を使っていたり、年頃の男性らしからぬ穏やかさを持っていたり、男性にしては妙に細くて弾力のある身体付きで可愛らしい顔をしているけれど、さすがにそれだけで女の子と断ずるのは無理な話だ。そもそも男性用フェンリル制服着てるし。

 あのセナですら気づけなかったのが良い証拠だ。

 

 ヒバリちゃんが「ちょっと待ってくださいね」とそばに置いていたタブレットを起動して慌しく指を走らせる。少ししてから本当は私以外閲覧禁止なんですけどと前置きをして画面を見せる。

 

「ゴッドイーターの登録書には確かに女性と書かれてますよ」

 

「……本当だ」

 

「入力ミスとかじゃなくて?」

 

「ゴッドイーターの全ての活動に関わる資料ですから誤植の可能性は無いと思います」

 

 ……すると、本当にユウ君はユウちゃんだったってこと? 驚愕の事実を前にセナすら口をぽっかり開けて画面に食いついている。

 

「ユウ君が女の子だったなんて……」

 

「これ知ってる人、たぶん私たちとツバキさんだけじゃ……」

 

「皆さんてっきり知っているものだと思ってました。男の子っぽい雰囲気してるからあえて君呼びをしていたのかと……」

 

「いやいやいや、そんなこと無いって。みんな心の底から男の子と思ってるって。だって制服からして男の子じゃん。え、これコウタ君知ってるの?」

 

「絶対知らないでしょ……。そうでなきゃ肩組んだりしないって普通」

 

 また新たな闇を発見してしまった私たち三人の間に言い難い沈黙が支配する。恋話をしていたはずなのになんでこんな複雑な気持ちになっているのだろう。恐らく三人がそう思ったはずだ。

 

「まぁ……アレだ、話を変えよう」

 

「そうだね……。さすがに業が深すぎる……」

 

「なんか、ごめんなさい……」

 

 そう言って再び沈黙の帳が下りる。まずい、ユウ君……じゃなくてユウちゃんの話を出したのは私だ。この気まずい沈黙を破る責任がある。

 

 こういうときに限って頭が上手く回らないものだが、奇跡的に天啓を得た。

 

「そう! 二人は終末捕食って知ってる?」

 

「なんじゃそりゃ。新しい捕食形態か何か?」

 

「違いますよセナさん。アラガミ同士が互いを捕食し続けた末に現れる最大のアラガミに地球そのものが捕食されるという終末論のことです」

 

 さすがヒバリちゃん、情報収集の広さと深さは追随を許さない。セナはほえーと相槌を打ちながら先を促す。

 

「風の噂によると、誰かが終末捕食を意図的に引き起こそうとしているらしいよ」

 

「意図的にですか? いずれ起こるだろうと都市伝説として語られているのは知ってますが、それはちょっと怖いですね」

 

「だよねー。今のアラガミたちを見ている限りじゃ考えられないし。……そんな思いつめた顔してどうしたの、セナ?」

 

 口元に手を当てて俯いて思考の海に潜っているセナに声をかけると、パっと顔を上げて誤魔化し笑いを浮かべる。

 

「あぁ、ううん。何でも無い」

 

「そんな真剣に捉えられちゃうと困りますよ。先ほども言った通り、これは都市伝説なんですから」

 

「そうだよね! ちょっと起こったときのことを考えたら怖くなっちゃって」

 

「セナさんがアラガミに怖がるなんてよっぽどですねー。セナさんも人間らしいところがあるって安心しました」

 

「ちょ、ヒバリちゃん私のこと何だと思ってるの……」

 

 お互いに冗談を言い合い笑い合う。ヒバリちゃんには上手く誤魔化せたみたいだけど、私は確かにセナが呟いたのが聞こえた。

 

 ──『アラガミ進化論』、か……── と。

 

 それが何のことを意味しているか解らないけど、セナがあれほど深刻な表情を浮かべていたとなるとただ事じゃないのは確かだ。

 

 じっと見つめているとセナが一瞬横目でウインクを寄越してきて、これ以上の詮索の拒否を申し立ててきた。

 喉に引っかかるものがあるけど、セナがそう言うのなら深く突っ込まないでおこう。一介の技術者に過ぎない私には知らない方が良いことなんて山ほどあるのだから。

 

 でも、その暗闇に親友が片足を呑まれているのだとしたら。私は我が身を顧みず支える覚悟だ。

 

 一瞬の不穏はセナの巧みな口によって吹き飛ばされ、時間を忘れて私たち三人は夜を過ごした。




ユウ君は女の子。誰も「ユウ君は男」と一言も言っていないだろう?
ネタバレするの早すぎた気しかしないですが、いつまでも出し惜しんでると白けそうなのでさっさとバラすことにしました。

──女子会終了後──

リッカ「お、もう報告書が届いてる。仕事早いなー」

カタカタ、ピッ

リッカ「さーてこれから忙しくなるぞー。……うん? 共同開発者名?」

_人人人人人人_
>  榊博士  <
 ̄^Y^Y^YY^Y ̄

リッカ「博士ぇえ!! 何で私に黙ってたのおお!!」

  榊「!?」
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