私はソーマのパートナー   作:サンリアフレ

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あ、あけましておめでとうございます(超小声)
ゴッドイーターの小説で16話経ってもアリサちゃんが出てこない作品があるらしい。
ハンニバル神速種君は今か今かと待っているけどまだ出番は来ない模様。

●前回のあらすじ
闇雲に焦っていたソーマ君がエリックに諭され、これから自分はどうするべきか考え始めた


第16話 ソーマside

 俺とセナは久しぶりの休暇を過ごしていた。

 本当は第一班にミッションが入っていたのだが、リンドウが『お前らがいると新人(こいつら)の教育にならん』とメンバーから外したのだ。

 何を今更と思ったものの、個人プレーの鍛錬は施している一方でチームプレーの訓練は殆どしていない自覚はあった。

 

 そんなわけで得られた休日はセナの誘いによって潰されたのだった。

 尤も、セナの部屋でぐうたら過ごすだけなのだが。

 

 こいつの部屋には何度か来たことがある。そのたびに女らしくない部屋という感想を抱く。

 

 何もかも束縛されたご時世、細やかなものに慰みを求めるようになったせいか、やたらと小物に注目が集まる時代になった。

 そんな時代の女性が黙っているはずもなく、ファッションをはじめとした身の回りの気配りが尋常ではない。サクヤの部屋も一回だけ見たことがあるが、一言で言えばワチャワチャしていた。

 

 翻るにセナの部屋は、もしかしたら男性より閑散としているかもしれない。生活感がないという意味ではなく、無駄がなく着飾らないという意味だ。

 カーペットやシーツ、カーテンは配当されたものだし、娯楽品の類も見受けられない。唯一目につく小物は机に置いてある古びたロケットだけだ。

 

 普段のセナからでは信じられないほどの無機質っぷりだ。無邪気・快活・元気溌剌の明るい三拍子が揃っている女はこいつくらいじゃないか。

 しかし同時に俺は思う。セナは理由無しで変なことをしない。この質素な生活も金の節約のためなのかもしれない。

 特務やその他諸々の功績で目も眩むような大金を持っているはずなのに、それを更に貯めてどうしようというのか。

 そこまではわからないが、きっと彼女の信念に基づくことに使うつもりなのだろう。例えば見ず知らずの人たちのために村を作るとか。

 部屋主が引っ張り出して来た来客用の布団に腰を落ち着けさせこの殺風景な部屋を見回した後、ベッドに寝転がる部屋主に目を向ける。

 

 いつものフェンリル制服ではなくラフな部屋着に着替えているセナは裸足をぷらぷらとさせながらタブレットを眺めている。

 あまりの無防備さに呆れのため息が出るが、こいつはこいつなりにガードが固いことを知っている。逆に言えば、こんな隙を見せるのはガードをする必要がないと言っているようなもので、俺に対する信頼が現れているとも言える。

 

 一応俺も男なんだがな……。なら襲うのかと言われれば全くの否だが。

 セナがこの答えを聞けばやっぱりねと笑みを浮かべることだろう。男としては受け入れ難くも嬉しいような、複雑な信頼感である。

 

 入室してからそれきり秒針が時を刻む音とセナの足が布団を叩く音だけが支配するなか、手持ち無沙汰になった俺は適当な世間話を投げかけた。

 

「それ、何読んでんだ?」

 

「んー?現代技術の資料」

 

 メガネの奥からこちらを見上げたセナはタブレットを俺に寄越した。

 受け取って見てみると、いくつかの図面とたくさんの専門的数式や用語が並んでいた。図を見る限り神機の構造を説明しているようだが、詳しい内容はほとんどわからない。

 

 肩を竦めて返せばセナが面白そうにほくそ笑んだ。

 

「これでもわかりやすくまとめてある方なんだから」

 

「なんでそんなもん読んでんだよ」

 

「もちろん勉強のため」

 

 大きく伸びをしたセナ。

 

「私ね、将来は技師になろうって思ってるの。技術開発だね」

 

「へぇ……」

 

「あんまり驚かないんだね」

 

「何となくそんな気がしてたからな。前々からリッカに色々教えてもらってただろ」

 

 神機作成の場に立ち会わせてもらったこともあるらしい。よほど関心がない限りそれの見学を望むことはないだろう。

 

「鋭いねー。リッカと知り合ってからずっと教えてもらってるんだよね。あと二年くらいで見習い技師になれるってさ」

「てことは最初から技師になるつもりでいたのか」

 

 てっきり最近思い至ったのかと思っていたが。言外にそのニュアンスを含ませると困ったような笑みを浮かべる。

 

「まぁ、俗に言えば将来の夢ってやつでさ。実はゴッドイーターになったのもその土台のためだったりするんだよ」

 

 将来の夢。そんな言葉をついぞ聞くとは思わなかった。

 アラガミがいなかった時代は知らないが、現代は明日を迎えるために糊口を凌ぐのに精一杯だ。将来は選ぶものではなく、決まっているようなものだ。数少ない例外は神機適正を得られたゴッドイーターたちなのだが、それでも多少生活が楽になる代わりに一般人より厳しい毎日を送らなくてはならない。

 

 そんなギスギスした時代に、いつしか人々は夢を見ることをやめた。過酷な現実にのみ目を向けて、血眼になりながら暗中をがむしゃらに模索する日々だ。

 

 偉そうに述べる俺も然りだ。具体的な将来なんて考えたこともなかった。精々がゴッドイーターのままクソッタレな日々を送るのだろう、くらい。

 

「ソーマ君はないの?なりたいものとか、やりたいこととか」

 

 三角座りして膝に顔を埋めこちらを見つめてくる瞳は、一緒に来ないかと誘っているようだった。

 

「……ねぇな。考えたこともねぇ」

 

 誘惑を断ち切るように断言した。少し残念そうに頰を膨らませたのを尻目に続ける。

 

「俺が今から技師を目指そうとしたって間に合わねぇだろ。確か八年は必要じゃなかったか?」

 

 そうだねと相槌を返したセナ。

 

 技師、とりわけ技術開発部門は言ってしまえば人類の明日を切り拓く部門だ。

 人類の明日を握っているとさえ言えるほど重要な部門は、いつでも有望な人材を欲している。コロニー内にある唯一の大学の仕組みを見る限り、人の生命を扱う医療部門より厳しいらしい。

 

 そのため技術開発部門に入学する生徒ははずば抜けて優秀な奴らで、さらに地獄のような教育を受けて才能を磨いているのだそうだ。

 リッカに聞いたところによれば五年かけて基礎教養を受けて三年間臨床実習をするらしい。これでも教育としては不十分だが、それでも技師が足りないからと卒業したらすぐ研究室に取り込まれる。

 

 それに引き換え、いわゆる天才と言われている奴らが八年間必死こいてようやく得られる地位をその半分くらいの期間で勝ち取ろうとしているセナは無謀を飛び越えて無理だ。それも本職のゴッドイーターの片手間に勉強している程度では、とても追いつけないだろう。

 

 しかし、リッカが言うにはあと二年でセナは暫定的に合格できるらしい。全体の履修期間は大体五年くらいか。

 

 甘やかして適当なことを言ってる可能性もあるが、バカが付くほどの職人気質で有名なリッカが自分の土俵上の話をおろそかにするとも思えない。セナが真剣に考えているからこそ、なおさら真面目に対応しているだろう。

 

 そうなるとやっぱり近いうちに技師になれるのだろうか。

 この手のぶっとんだことは今に始まったことじゃないが、技師になってから周りの奴らに妬みで殺されないか心配だ。

 

 ちなみに俺と同い年のリッカはそんな超難関のところを三年飛び級して卒業している。世界の最前線と言われている極東を支える技師だけあってアイツも超が付く天才なのだ。

 

 閑話休題。

 

「仮に今から勉強しても俺じゃ追いつけねぇよ。それに興味あるものもあるしな」

 

「ほんと!?なになに!」

 

 目をキラキラさせて食いついてきたセナに苦笑いをこぼしながら素直に教える。

 

「アラガミの研究だ。特に建築関係だな」

 

「ソーマ君、それって……」

 

「あぁ。親父のことだ」

 

 本当に意外だったらしく、目を丸くしたまま言葉を失っている。

 

「そんなに驚くことかよ」

 

「……うん。たぶん今世紀で一番驚いた」

 

 おふざけを混ぜられる程度に驚いたらしい。

 

「多少は考えを改めた今親父を見つめ直すくらいするだろ」

 

「あー……わからんこともない」

 

「それで親父について詳しく調べた」

 

 正直、これが本当に自分の父親なのかと疑ったくらい、ヨハネス・シックザールという人物は偉大だった。

 今の世界が成り立つための基盤そのものを築き上げた現代建築の父。有名な建築物のプロジェクトに必ずと言っていいほど名を連ね、今なお開発をし続ける研究者。

 

 ただのクソ野郎だと思っていた親父の側面……いや、正体を目の当たりにした俺は考えを改めた。

 

 親父は尊敬に値する人物だった。父親としては相変わらず最低だと思うが、人としては親父を認めざるを得なかった。

 同時にそういう守り方もあるのかと思ったのだ。

 エリックに諭され、がむしゃらになっても仕方ないと気づいた今、ゴッドイーター以外の道にも目を向ける必要がある。

 その一環としてそういった進路を考えたのだった。

 

 が、ハンニバルという明確な脅威が明るみに出た以上、セナにお鉢が回ってくるのは目に見えているわけで。

 隣に立って戦いたいと願うのは無茶なことなのだろうか。

 

「……まぁ、色々思うことがあってな。その道を進むのもありかもしれねぇって考えてるだけだ」

 

 自分をはぐらかすように切り上げると煉瓦色の髪を楽しげに揺らした。

 

「それなら榊博士に相談してみたら?思い付きでも研究家になりたいって人なら大歓迎だと思うし」

 

「榊のおっさんか……。知らねぇ間に助手に仕立て上げられそうだな」

 

「私もそこはかとなく仕向けられたから気をつけてね」

 

 冗談めかして言っているが多分本当のことなのだろう。苦笑いがその証拠である。

 気をつけるという言葉とともにタブレットを返してやると、セナの楽しそうな笑みに郷愁の色が混ざった。

 

「そっか……。ソーマ君も将来のこと考えるようになっちゃったかぁ……」

 

「まるでそうなってほしくなかったみたいな口ぶりだな」

 

「いやぁ、決して悪い意味じゃないんだよ。ただ、キミももう大人になったんだなぁって実感してね」

 

 ぶーたれてたキミが懐かしいよ、と手元のスクリーンを指先で撫でた。その仕草がやけに子供っぽく見えた。

 

「……もう守られてばかりじゃいられなくなったからな」

 

「ソーマ君?」

 

 弾かれたように顔を上げたセナの目を見ながらはっきりと言った。

 

「お前を独りにしねぇ」

 

 すると、これでもかというほど目を見開いた後、おもむろに瞼が伏せられた。

 哀愁漂う儚い笑みのままポツリと呟いた。

 

「やっぱり言っちゃってたか……。言うつもり、なかったんだけど」

 

「……悪い」

 

「いいよ。ソーマ君のせいじゃないし。私も言っちゃったような気がしてたから」

 

 失明したセナが錯乱した時に口走った悲鳴は今でも耳に残っている。

 “また独りにしないで”。セナの胸の奥に隠されているモノを端的に表したその言葉。

 当時は記憶が曖昧だったが、落ち着くに連れて何を言ったのか朧げに思い当たったらしい。

 

 何にせよ、あまり触れられたくない話であることは明白だ。

 しかし俺にとってはいずれ直面する話でもある。俺自身がセナのそばに居たいと願う限り目を逸らすことはできない。

 

 だからこそ今このタイミングで持ち出した。どうすればセナを守れるのか、その答えを見つけるために。

 

 とは言え、それきり黙ってしまったセナになんて声をかければいいかわからず、ふるふると震える睫毛を見つめた。

 気弱に揺れ動く瞳がこちらを向いたのはしばらくした後だった。

 

「……聞かないんだね」

 

「このご時世ロクでもない話には事欠かねぇからな。聞いても聞かなくても同じだ」

 

 過去に何があっても、何をしていたとしても、この気持ちは変わらない。

 それに誰にでも言いたくない秘め事の一つはあるものだ。もちろん俺にだってある。

 

「言いたかったのはお前の過去についてじゃねぇ。俺の勝手な宣言だ。気にすんな」

 

 この手の気遣いをした試しがないせいでひどくぶっきらぼうな口調になった。

 が、人の機微に聡いセナには十分だったらしい。きもち明るい色が射した。

 

「……相変わらず優しいね。ソーマ君は」

 

「どうだかな。邪魔って言われてもつきまとってやるって話だぜ」

 

 冗談めかして言ってやると「それは困ったねぇ」と言葉とは裏腹の顔で返した。

 そして暗い雰囲気に戻さないようそのままの調子で続けた。

 

「ごめん。やっぱソーマ君でもまだ言えないかな。私自身も踏ん切りついてないからさ」

 

「別に無理して話そうとしなくていい」

 

「軽い気持ちで言えるようになるまで秘密ってことで」

 

 さっきまでの自分を吹き飛ばすかのようにベッドから飛び起きたセナはズカズカと側まで歩いてきて、ぬいぐるみにでも相手にするノリで背後から抱き着いてきた。

 急な奇行に思わず引き剝がしそうになったが、耳元の吐息が少し掠れていることに気づき、そのままにしておいた。

 

「でも、キミの気持ちは本当に嬉しかった。こんな私でもよかったらずっとそばにいて下さい」

 

「……おう」

 

 無愛想な返事にも満足そうに頷き、ことさら強い力を腕に込めてきた。

 

「おい。いい加減離れろ。暑いだろうが」

 

「ヤダ。今日はこのまま過ごす」

 

「んな冗談言ってる暇あったら勉強してろ」

 

「はーい。勉強に戻りまーす」

 

 すると器用に長い足でタブレットを引っ張ってきて手に取ったと思いきや、体勢はそのままで読み始めた。

 俺の目の前に画面がありそれを肩越しに見ているのだ。てっきりベッドに戻るとばかり思っていた俺はしばらく口が塞がらなかった。

 

「……おい。まさか本気で言ってんのか?」

 

「うん。そうじゃないと落ち着かない気分だから。……キミは嫌?」

 

 卑怯な声音と尋ね方だった。狙ってやってるのかわからない分タチが悪い。

 さっきのことがあった手前無碍にすることも気が引けた。思い切りため息をつきながら言ってやる。

 

「……せめてタブレットの位置は変えろ。邪魔すぎる」

 

「えへへー。ありがと」

 

 上機嫌な鼻歌を聞きながらこれからどうしようか考えるのだった。

 

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