私はソーマのパートナー   作:サンリアフレ

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第2話 ソーマside

 俺の暫定パートナー、邦枝セナは変なヤツだ。

 

 暇さえあれば手の込んだ悪戯を仕掛けてくるし、頭が空っぽなんじゃないかと疑うほど能天気だ。

 少し隙を見せれば、からかってバカ笑いしやがるから、絶対俺のことを玩具だと思ってやがる。

 

 だが見境無くというわけでもなく、俺がキレるギリギリのラインを弁えた上で仕掛けてくるから多少の遠慮はあるのかもしれない。

 いや、単に俺に殴られたくないだけか。

 

 何にせよ、そこらに歩いてる奴らとは言動からして違う。

 俺の出生を知っても態度を変えなかった数少ない一人でもあるからだ。

 

 他の人間(ゴッドイーター)たちとは別の生き物だと自覚してから、自分の身に宿る特別な力を嫌悪するようになった。

 アラガミから摘出した偏食因子をそのまま埋め込んだのだから、人の皮を被ったアラガミ同然の状態だ。

 俺の不自然さに気付いた奴らが何らかの動機で俺の素性を調べたのだろう、瞬く間に俺の正体はアナグラ中に広まった。

 支部長の息子ということもあり表立つことはなかったが、俺に対する嫌悪が根付いたのは確かだった。

 

 半アラガミの化け物と一緒に任務に就く奴らと連携を取れる訳もなく、不慮の事故に対応できず命を落とす奴が出た。

 それが憎悪の悪循環の始まりだ。

 いつの日からか"死神"と揶揄されるようになった。

 俺も否定する気は無いし同情されたくも無いから泳がせているが、ただ俺が救えなかった奴らに申し訳なさを覚えるようになったのはその頃からだった。

 

 そんな最低の毎日を過ごしていた俺に、不意に声を掛けてきたのがセナだった。

 

 セナは距離の詰め方が上手い。

 好き勝手話しているのを無視しその日要請されたミッションに意識を傾けていたはずが、いつの間にかミッションに同行することになっており、気付けばパートナーのような存在になっていた。

 そして俺もセナと一緒にいるときは自分の内側に(わだかま)る苦悩を忘れることが出来ると思い始めていた。

 

 ひょっとしたらコイツは俺の出生を知らないからこんな態度で接してきているのかと思い、巷で流れている風評を聞かせてやっても、セナは「知ってたけど、それがどうしたの?」と何故そんなことを聞かれたのか解らないといった顔で返された。

 

 何だっていいから早く背中を任せられるくらいには強くなれと笑ってみせたリンドウとはまた違い、ただからかい甲斐のありそうな人だったからだけど? と首を傾げたセナはやはり変人なのだろう。

 

 まとめると俺と正反対の人、それがセナだ。

 他人と深く関われば迷惑を掛けると口数を減らしていたせいか上手く回らなくなっていた口が、セナの時だけは幾らかはマシになったと思う。

 

 深く被ったフードの奥から正面に腰掛けるセナを盗み見る。

 アナグラでは珍しいフェンリル支給の制服を着込み、護送車に揺らされる煉瓦色の髪を指先に絡ませ、片足を立たせ大きく丸い瞳を遠くの景色に向けている。

 引き締まった右腕に抱える神機はその華奢な身体に見合わないほど大きい。

 

 大体の女性ゴッドイーターは銃身タイプと適合するのだが、セナは数少ない刀身タイプと適合している。

 加えて通常なら一人一つ適合すれば良い方の神機を、多くの神機と適合性を示す極めて珍しいゴッドイーターだ。

 こういうところからも変人臭が漂っている。

 

 不意に目が合いセナがニコリと微笑んできた。

 これは悪戯を思いついた時の顔だ。

 さっきは一杯食わされたからな、もう油断せず付き合わないことにした。

 フンと鼻を鳴らしフードを被り直すと、残念そうに頬を膨らませ足を組み替えた。

 こうやって明確な拒絶を見せると驚くほど素直に引く。

 お陰で余計な気を使う事もなく、ストレスも感じずに済む。こうして訪れる静寂も心地よく感じる。

 

 そう言えばセナと初めて出撃したときもこんな感じだったなと思い返す。

 あの時はフードの中に回復錠を入れられてブチ切れたような。

 初対面の人に仕掛けてくるのは流石に非常識だと憤慨したのは覚えてる。

 そして、「じゃあこれで顔見知りになったから、次からはオッケーってことだね!」と曲解されたのも。

 

 第一印象最悪だったはずが今では常に同行しているのだから不思議なものだ。

 

 セナは人付き合いが上手いが、こと戦闘に関しては図抜けている。

 正直俺はおろか、極東の大黒柱と呼ばれるリンドウにすら勝っているように思える。

 普段能天気な態度を取っているとは思えないほど戦闘中は冷静且つ大胆なのだ。

 かと言って独走するというわけでもなく、むしろ周りと波長を丁寧に合わせてくる。

 

 お陰で俺が"死神"と呼ばれる原因が協調性に欠けることにあると気付けた。

 もっと早く気付けていれば死なずに済んだ奴もいたと思う。

 そう確信するほどセナの戦闘技術は卓越していた。

 

『作戦エリアに到着しました。速やかに作戦を遂行してください』

 

 小型インカムからヒバリのオペレーションが聞こえたと同時に護送車から飛び出す。

 セナは俺の一歩手前で《贖罪の街》と呼ばれる廃ビル群を眺めた。

 

「ソーマ君、ここに来ると初めて一緒にミッションに行ったときのことを思い出さない?」

 

 奇遇なことにセナも過去を追憶していたようだ。

 努めて仏頂面のまま目の上にあるセナの顔を見やる。

 

「お前がうるさかったのは覚えている」

「もー、ずっとセナって呼んでって言ってるのに呼んでくれないよねー」

 

 別にそう呼ぶこと自体が嫌なわけではない。

 ただ、気安くセナと呼ぶには自分があまりにも汚れているだけだ。

 必要以上に親しくならないほうがいい。

 

 俺の内心を知ってか知らずかニカッと笑って「気が向いたときにでも呼んでよね」と囁くように言い、先に歩き出してしまう。

 

 その背が尊くて、そして遠くて。

 多くの借りを返した、その時に呼んでやる。

 小さく決意した俺は戦場に駆け出した。

 

 

◆◆◆

 

 

 やはりセナは変人だ。

 あの巨大な神機を棒切れのようにブンブン振り回しては、神機との適合率が高くないと発動できない熟練者にのみ許された《チャージクラッシュ》を難なくぶっ放してた。

 神機のオラクルを高度に活性化させなくてはならない分、自身のスタミナも大幅に削れるはずなのだが、軽く十回は撃っていたな。

 

 新兵殺しの渾名を持つコンゴウの顔が、泣きそうになるくらい物理的にぐちゃぐちゃになっていた……。

 頭を抱えて怯んでいる最中にも淡々と撃ち込むセナに、どちらが上位者なのかわからなくなった。

 

 俺が倒し終えた頃には周囲のアラガミは全滅していたし、何をどうしたらそうなる。

 マニュアルなぞそっちのけで暴れ回るのはついていくのも大変だからやめてほしい。

 

 作戦開始から僅か二分で完遂して、当然のようにSSS評価。

 ほぼセナのアシスタントのおかげだったことが自覚できるのが余計に腹立たしい。

 

 加えて作戦エリア周辺に確認されなかったヴァジュラが死角から突然襲い掛かってきても、見向きもせずに避けてみせ、そこからは不意打ちの仕返しと言わんばかりに顔面を執拗に斬り続け、ヴァジュラが倒れる頃には見るも無残な顔が仕上がっていた。

 アラガミの顔に怨みでもあんのか。

 

 一小隊で討伐に臨むのが通常のヴァジュラを片手間に始末する様子に、無線越しのヒバリすらも唖然となり無言になっていた。

 

 

 決意して早々にこの有様では俺も何も言えなくなり、セナが何か話しかけてきても上の空になってしまった。

 やはりコイツは変人だと再確認した瞬間だった。




─出撃中─

 セナ「ねぇソーマ君、機嫌直してよ」
ソーマ「(無視)」
 セナ「手、拭いてあげるから貸して」
ソーマ「(無言で差し出す)」
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