私はソーマのパートナー   作:サンリアフレ

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第3話 リンドウside

 奴さん──邦枝セナは変わった奴だ。

 

 奇抜な格好をしている奴とか、遥かに年下の女子に言い寄る奴とか、入隊して早々上官に向かって平気で報酬の釣り上げを要求する奴とか。

 挙げたらキリがないほどアナグラに変人はいるが、セナはその中でも異彩を放っている。

 

 まずゴッドイーターとしての奴さんは、一言で言うなら超人だ。

 

 一般に、神機は二ヶ月から三ヶ月ほど体に馴染ませる必要がある。

 いくら偏食因子が人体と神機の仲介を果たしてくれるとはいえ、人体からすると急に未知の細胞が自身に侵入してくると感じるわけで、人体の神機に対する拒絶反応を示す期間があるからだ。

 その期間中いくら神機を握ろうとうんともすんとも反応しない。

 

 だがセナは腕輪を着けたその日から神機を操ることが出来た。

 前代未聞の早さだ。

 最も神機と親和性が高いと思われていたソーマでさえ一週間掛かったのに、セナはその頃には高難易度のミッションをこなしていた。

 それも複数の神機を用いて、だ。

 

 そして、セナは全ミッションで同行者の生存率100%を叩き出している。

 それも入隊して今日に至る三年間ずっと。

 

 新兵は少なくとも一年以内には同行者を死なせる。

 ゴッドイーターは民間人からフェンリルに抜擢された奴がほとんどだ。

 突然武器を渡され世界を絶望に陥れた異形の化け物に立ち向かえと言われて、冷静でいられる奴なんざいるはずがない。

 特に極東は世界の最前線と言われるほどの激戦区。

 技術的にも精神的にも未熟な新兵が誰かを守りながら生き抜けるほど、アラガミは優しくない。

 

 かく言う俺も何人か死なせちまったことがある。

 ついこの間は背中を任せられるくらいには強くなれと講釈垂れてたはずが、今では言われる立場になっちまった。

 階級的には奴さんの方が下のはずなのに、おじさん参っちゃうね。

 

 そんな超人を支部長が逃すはずもなく。

 入隊して一年でエイジス計画とやらの促進剤とするべく特務を発注してたぜ。

 俺ことリンドウも特務を受けてる身だが、以前とは比べ物にならんくらいハードな毎日を送っている。

 お陰でこの前もサクヤに心配かけちまって泣きべそかかれた。

 

 それでダメ元で直談判しに支部長のとこに行ったら、いつものポーズで出迎えた支部長が疲れた表情で

 

「セナ君がもっと特務を回してほしいと言っていてね……。丁度私の方からキミに特務の頻度を下げる旨を伝えようと思っていたところだったよ」

 

 と言われた時は奴さんの頭を本気で疑ったぜ。

 そのことを本人に尋ねたら、ケロっと「神機開発のお金が足りないから」と来たもんだ。支部長はきな臭い奴だと思っているが、こればかりは同情する。

 

 そんなハードワーカーなくせに、よくもまぁ毎日ニコニコしてられるなぁとおじさんは感心させられる。

 いっつも一緒にいるソーマですら特務を受けてると気付かないくらい元気一杯だ。

 

 別に受けなくとも良いミッションも「今日のミッションコンプしないと気が済まないんだよねぇ」とか「あぁ……素材足りない……」とか言いながら受注してる姿を見てると逆に心配になるんだが、毎度かすり傷一つ負わずに帰ってくるから呆れる。

 

 あと何と言ってもその顔の広さだな。

 俺もそうなんだが、特務を任される奴は部隊に所属しない。

 基本的に支部長の駒として働くから縛らない方が都合が良いんだろう。

 緊急の戦力補給や支援時にはどこかしらの部隊に参加させられるくらいだ。

 つまり人脈が薄くなる。

 

 だがどういうことか奴さんはアナグラの職員はともかく、防衛班や偵察班、挙句には技術開発班とも親しい。

 セナの姿を見かけるとき大抵誰かが一緒にいる。

 当然のようにサクヤとも仲が良く、最近ではヒバリの嬢ちゃんとリッカの四人で食事したりしているのを見かける。

 まぁ、すげぇ荒れてたソーマすら手懐けたんだから不思議がるのも無駄か。

 

 そのくせ俺のように有名にならずに、誰かに噂されたりもしない。

 他にもあるがこれくらいでも十分伝わるだろうから割愛する。

 奴さんが変人であると解ってくれればそれでいい。

 

 今日も今日とてソーマを弄り倒したのだろう、仏頂面でゲートから足早に帰還してきたソーマの姿を見届けて奴さんが帰ってくるのを待つ。

 そして目立つ煉瓦色の髪のフェンリル制服を見つけて軽く手を挙げる。

 

「よぉ、今日も楽しそうだな」

「そう言うリンドウは手持ち無沙汰そうだねぇ」

 

 ソファに腰掛ける俺の隣をチラリと見るセナ。

 そこには誰もいないのだが、セナのニヤニヤ顔を見れば何を言いたいのかくらいは解る。

 

「今日はお前さんとデートしようと思ってな」

 

 するとわざとらしくズザっと後ずさって自身の身体を抱くようにして叫ぶ。

 

「この人でなし! 女(たら)し! ロリコン!」

 

「おいバカやめろ! ヒバリの嬢ちゃんに変態を見る目を向けられただろうが」

 

 姉上(ツバキ)は呆れたようにため息をこぼしヒバリの頭をタブレットで叩く。

 その様子にセナは満足そうに口端を釣り上げて体勢を戻す。

 

 毎度似たようなからかいをしてくるが、一応俺は歳も階級もお前より上なんだがなぁ……。

 ゴッドイーターに歳の差なんざ関係ないとは俺の持論だが、ここまで気兼ねなく接してくる後輩はコイツくらいだ。

 ソーマはただの反抗期な。

 やれやれと大げさに肩を竦めて見せて本題に入る。

 

「明後日くらいに()()()を見に行かないか?」

「じゃあ今すぐ行こ。そのはソーマとデートの約束があるから」

 

 休憩も仕事のうちだぞと教えたはずなんだが、どうやらこの子の辞書にはそんな単語は載ってなかったらしい。

 まぁ、ミッション終わった直後の癖に疲れた様子が一切見えないから良いか。

 

「今日はもうソーマとデートしないのか?」

「アプローチミスっちゃって嫌われちゃった。明日になれば機嫌直してくれるだろうし、今日はいいや」

 

 そう言うとさっさと先ほどくぐったばかりのゲートに戻っていくセナを苦笑いと共に見送りながら立ち上がる。

 横目で姉上に窺うと『手配しておいた』と頷きが返される。

 礼の手刀を切って俺もセナの後を追った。

 

 ◆◆◆

 

 例の木というのは『アラガミだけ食べる(アラガミ)』のことだ。

 たまたま俺が特務中に発見したアラガミで、保護したのが俺で栽培を提案したのがセナだ。

 

 コロニーに収容しきれなかった人たちを集めた村の防護壁として試験的に栽培している。

 サカキ博士に相談したところ数日で栽培方法を確立してもらい餌を開発してくれた。

 本部にも打診してくれたそうなのだが、生憎はした資金しか貰えなかったそうなので、俺とセナが立て直して何とかやっているのが現状だ。

 

 おかげさまで栽培できる量は少ないが、オウガテイルやザイゴートくらいの小型アラガミは食ってくれているから、村人たちの気休め程度にはなっているだろう。

 ヴァジュラを始めとした大型アラガミはもちろん、シユウなどの中型アラガミも食えないのが悩みどころだ。

 

 アラガミの進化速度はとんでもない。

 一週間前に見に来たときはそこらじゅう苗床だったはずが、今では大の大人くらいの高さになっている。

 どこまでデカくなるか密かに楽しみにしていたりする。

 

 コイツらの幹にアラガミのコアを液状にしたものを注射器で与えてやれば勝手に育つ寸法だ。

 村の連中に配給を配り終えたから、後は持ってきた餌を手分けして与えてやれば良い。

 

「リンドー」

「んー」

「ここに畑作ってもいいー?」

「おー。……何だって?」

 

 聞き慣れない単語が飛び出して思わず声のした方に振り向くと、少し離れたところで俺の方を向かずに餌を与え続けるセナの姿があった。

 

「畑だよ畑。もしかして知らないの?」

「あー、あれだろ? 土に野菜埋めたら野菜が採れるヤツ」

「そりゃ埋めて掘ってるだけなんだから採れるよね……。そうじゃなくて、種を植えて野菜を育てるの。この木みたいに」

 

 極東が日本国と呼ばれていた時代ではそこらじゅうに畑があり農業が盛んだったらしいが、今じゃそんなものありはしない。

 精々アメリカの一部くらいでしか行われてないだろう。

 

 あそこは土地がバカでけぇからコロニーを作っても余地があるし、アラガミも極東(ここ)よりずっと貧弱だから土壌の維持も現実的。

 色々と好条件が揃ってるからギリギリ農業が出来るってわけだ。

 ターミナルにそんなこと載ってた気がする。

 

 脱線したがつまり、今の時代に畑なんて単語をキチンと理解してる人間はほんの一握りというわけだ。

 そんな旧時代のシステムを持ち出されたら誰でも首を傾げる。

 無言で先を促すとセナは腰をポンポンと叩きながら続ける。

 

「ほら、ここの人たちの食べ物って配給以外にほとんど無いじゃん? だから自給自足できたら良いなーって思ってさ」

「んな簡単に話が進むんなら今頃どこかの誰かが広めてるだろ。それがないってことは無理なんじゃないのか」

「出来るって博士が言ってたんだよ。ただ極東で広まってないのは、コロニーに土壌を作る余地が無かったり、アラガミが畑を滅茶苦茶にしちゃったりするからなんだってさ」

「アメリカの真逆だからなぁウチは」

 

 コロニーに畑っつってもせいぜい五十人分の野菜しか作れないだろう。

 コロニーに収容している全員分を作れるなら話は違うが、それにはやはりバカでかい土地が必要だ。

 そんな土地を用意するくらいならコロニーを拡大して収容人数を増やした方が良いに決まってる。

 

 が、ここにいる連中は皮肉にもコロニーに入れなかった奴らだ。

 外壁が無い分、土地に困ることはない。

 まぁ、いずれこの木でこの村を囲むつもりだからコロニーと似た事情になるが……。

 

「確かこの村の総勢って五十人ちょっとでしょ? それくらいなら畑を作っても生産的だと思わない?」

「まぁ確かになぁ。でも畑ってそんな簡単に作れるもんなのか?」

「調べてみたら結構面倒くさいみたい。それに農具とか肥料とか必要だから、それも持ってこないと」

「……もしかしてお前さん、それ全部自分で用意する気か?」

「する気っていうか、もうしちゃった。博士とリッカちゃんにお金出して頼んだら何とかしてくれた」

 

 ようやくこちらへ振り向いたセナは舌を覗かせた。

 おいおい、もしかしてこの前聞いた『神機開発』ってのはそれも含まれてたのか……? 

 

「大した博愛っぷりだが、肝心なお前自身が潰れたら元も子もないぞ」

 

 『良い奴ほど先に逝く』

 ゴッドイーターの間では有名な言葉だ。

 良い奴は色んなことに首を突っ込みがちで、そのぶん危険を被る確率も高くなるから事故死しやすいってことだ。

 

 アラガミから新人を庇った奴。

 負傷した仲間のために殿を買って出た奴。

 居住区に侵入したアラガミの群れの注意を引く囮に立候補した奴。

 

 本当に優しくて良い奴らだったのに、みんな死んじまった。

 

 もっと俺みたいに自分のためだけに生きることは出来んのかね……。

 口に出しちゃいないがソーマも少なからず日々のオーバーワークを気にしてるようだし。

 そういう思いを込めて言うと、セナは困ったように苦笑いして言った。

 

「さっき村の子供たちが配給を食べ終わった後でもお腹が空いたって言ってきたんだ」

 

 そして苦笑いに僅かな陰が射した。長いことセナの笑顔を見てきたが、初めて見た暗さだった。

 

「私ってここの人たちと同じ()で生まれて育ったからさ、辛さを知ってるんだ。

 真っ当に生きることなんて出来ない世界で……盗み殺しは常套みたいな空気でね。

 そういうのはあの子たちに知ってほしくないなって思っただけだよ」

 

 ゴッドイーターになる奴は自分の出自を無闇に明かさない。

 一般人から抜擢されたとは言え、慢性的な食料不足に悩まされている世界で育った奴らばかりだ。

 治安の悪いとこから来た奴も少なくない。

 言い換えれば、それだけ後ろ暗いことをした経験のある奴らなのだ。

 

 いつも楽しそうに笑ってるせいで誤解してたが、やっぱりセナもそういう奴らの一人だったのだろう。

 小さいころから重い肉体労働や無茶な窃盗をやってきたのだろう。

 そうでなければそんな涙が出そうな笑顔は出来ないはずだ。

 そうでなければ異常なオーバーワークに耐えらる訳がない。

 

「……わりぃこと聞いちまったな」

「いいよ別に。あ、でもこのことはソーマにだけは絶対内緒だよ?」

 

 あの子優しいから余計な気を遣わせちゃうし、と顔を覆っていた陰を振り払った。

 代わりにいつものニヤニヤ顔を浮かべて言うのだった。

 

「でも傷ついちゃったなー。女の子の純真な心が傷ついちゃったなー。悲しいなー。思わずサクヤさんとのお楽しみの内容バラしちゃいそうだなー」

「よし畑耕すの手伝おう。それで手を打とう」

「ふふ、そういう男気あるところ好きだよ」

 

 脅迫されたんだがな……。

 まぁ、今のはさっきのやり取りは無かったことにしたいという思いを伝えるためだったんだろう。

 お互いの秘密を聞かなかったことにする、実にイーブンな取引である。

 

 というか何でコイツはそんなこと知ってるんだ。

 そうかサクヤを酔わせて聞き出したな……すーぐ酔うからなぁサクヤは。

 しかも酔ってる時の記憶はないという定番のヤツだ。

 大方お食事中に酔ったサクヤが惚気話を披露したってところか。

 後でお仕置きが必要だな。

 

 やれやれとため息をついて餌を与え終わったその時、苗床に叫び声が響いた。

 

「リンドウさん! あ、アラガミがっ! 村を襲ってきましたぁ!!」

 

 この村のリーダー的ポジションにいる、勝手に村長と呼んでいる男性が息も絶え絶えにアラガミがいるであろう方向を指差しながら走りこんできた。

 

「解った。種類と数は?」

「ボルグ・カムランが二体とヴァジュラが一体……」

 

 なるほど、大型アラガミが三体同時はちと面倒臭いな。

 しかも今この場にいるのは俺とセナの二人だけ。

 頭数も足りてねぇな。

 

 ……と、普通のゴッドイーターなら焦る場面だが、こっちにはセナがいる。

 何とかなるだろ。

 

「リンドウ、ボルグ一体の足止めできる?」

「バカ言え、二体同時にぶっ殺せる」

「じゃあ頼んだよ」

 

 そう言うや否や、いつの間に準備してたのか身の丈ほどある神機を携えてあっという間に行ってしまった。

 反応早すぎだっての、おじさん今から神機取りに行くんだけど。

 不安そうにセナの後ろ姿を見送った村長の肩を叩いてやる。

 

「心配ねぇさ。奴さんならヴァジュラ倒したついでにボルグの一、二体も倒せる」

「そ、そうだと言いんですが……」

 

 気遣いだと思ったのかなおも心配そうに表情を曇らせる男。

 見た目はただの元気いっぱいの美少女だからなアイツ。

 

 だけど中身は俺より圧倒的に優秀なゴッドイーターなんだぜ。

 俺が着く頃には本当に全滅させてそうだ。

 

 ◆◆◆

 

 案の定、俺が着いた頃にはボルグ・カムランが一体ボロボロの状態で残っていただけであり、参戦しようとしたときには生きてる状態でコアを強引に引き抜いてしまっていた。

 コイツ、活動停止を確認してからコアを摘出するのが常套ってマニュアル読まなかったのかな。

 

 相変わらずハチャメチャやってくれるなと頭を掻いたところで、コアを失い瓦解したボルグの影から一人の少女が現れた。

 それから駆け寄ってきたセナに飛びつきわんわん泣き出した。

 涙と鼻水で制服が汚れるのも気にせず抱きしめて、「もう大丈夫だよー」と何度も囁きながら頭を撫でるセナ。

 

 どうやら殺す暇もなかったほどの緊急事態だったらしい。

 セナの迅速な処理により死傷者0人。

 こりゃ完全にやらかしたな俺。

 そう思ったときにセナが遅刻した俺に可愛らしい笑顔ともに一言。

 

「畑仕事一ヶ月タダ働きね」

 

 そうしてしばらくして村の近くの荒野を俺たちと村人総出で耕すことになり、なんとか一ヶ月でそこそこの畑が出来上がった。

 ふかふかな土の上で子供たちを引き連れて肥料と種を撒くセナの姿は平和そのものだった。

 だが同時にどこか壊れてしまいそうな危うい気配が感じられた。

 精神的にも肉体的にもぶっとんでいるセナに限ってそんなことはないだろうとその時は流した。

 

 完璧超人なんて実在しないと知っているのに、俺はそう思い込んでいたのだった。

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