私はソーマのパートナー   作:サンリアフレ

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第4話 ソーマside

最近セナの付き合いが悪い。

 ジュース詐欺をされた三日後辺りからアナグラで姿を見かけなくなり、顔を合わせても「ゴメン! 畑作らないといけないからしばらく一緒に行けない!」と訳の解らない理由ではぐらかさた。

 

 新手のからかいかと一週間ほど放っておいたが一向にやめる気配が無く、セナの姿を見かけたのはそのはぐらかされた一回きりで、ターミナルにメールを送ってみても返信が返ってこないし、一日中出撃ゲートを張り込んでも見つけられなかった。

 

 お陰で久方ぶりに名前も知らない奴らに怖がられながらミッションを淡々とこなす日々が続いており、いつも騒がしい奴がいないせいで俺の周りは静寂に満ちることが多くなった。

 俺はようやくそこで出会う前はこんなにも冷え切った日々を過ごしていたのかと気づいた。

 

 ──……気に入らねぇ。もともと俺はこういう境遇で育ってきただろうが。どうせ(セナ)も飽きてすぐ顔を見せるようになる。それまでの……──

 

 そして、はたと気づく。いつの間に俺はセナが一緒にいる前提で話を進めているのか、と。

 

「クソッ!!」

 

 脳裏に過ぎった甘ったれた思考を消し去るために、近くに転がっていた錆びれた鉄屑を踏み潰す。

 それでも心にこびり付いた寂寥感(せきりょうかん)を何かにぶつけようと辺りを見回すと、遠巻きに怯えた表情で俺を見る男のゴッドイーターがいた。

 その男と目が合ったと同時に無線が入る。

 

『ソーマさん、大丈夫ですか?』

 

 ヒバリの声を聞いて、そう言えば今はミッション中だったなと思い出す。

 ここ数日いつもこんな調子だ。全くミッションに身が入らない。

 ふとした拍子にさっきのようなクソったれな考えに耽っている。

 

 ──ここは戦場だぞ。いつ何が起こるか解らないところで、んなくだらねぇことに気ぃ取られてどうする!? 他の奴より強ぇ俺がしっかりしねぇとまた"死神"になっちまうだろうが!! ──

 

「……あぁ、大丈夫だ」

 

 頭をガシガシ掻きながら吐き捨てる。

 無線の奥から言葉を返そうか迷う気配がしたが、すぐにヒバリは『武運を祈ります』と事務的に短く締めくくった。

 下手な言葉をかけると逆効果になると判断したのだろう。

 

 コイツ、確か俺より年下だったな。

 年下に気を遣われるなんてみっともねぇ真似を晒しちまった。

 

「悪ぃ」

「……別に」

 

 ミッションに同行している男に短く詫びると素っ気無く返事をされる。そしてさっさとアラガミ反応のある地点へ走っていく。

 

 それでいい。

 俺は半分アラガミの化け物、本来誰かと仲良しこよし出来る身分じゃない。

 セナが常人とかけ離れてただけで、人の皮を被った化け物にはこういうドライな関係がふさわしい。

 

『ソーマ君がアラガミでも全然怖くないよ。こんなに可愛くて優しいアラガミが世界に溢れてたら良かったのにねー』

 

 ぽんぽんと頭を撫でてきながらそう言ったアイツが変なだけだ。

 受け入れられる方がおかしいだけ。

 これまで何度も拒絶されて、確かめたことだろうが……。

 

 胸に込み上げてきた熱を乱暴に吐き捨てたと同時に奥の通路から悲鳴が響き渡った。

 

「ちっ、また俺は……ッ!」

 

 不注意な自分に悪態をつき地面を思い切り蹴る。

 

『ソーマさん、No.3が危険です! 至急応援に──』

「解ってる! 責任は取る!!」

 

 怒鳴り返し全力で狭い通路を駆け抜ける。

 悲鳴の大きさ的にそう遠くは無いはずだ。

 絶対に死なせねぇ……!

 

 通路を抜けた先は開けたドーム状の空間になっており、その中央に尻餅をついた男がいた。

 そして男の目の前にはコンゴウが雄叫びを上げている。

 よく見れば右足が不自然な方向に曲がっている上に奴の神機は遠くに転がされていた。

 

「クソったれぇ!!」

 

 怒号を張り上げコンゴウの注意を引き付ける。

 聴覚が優れているコンゴウはバカ正直に俺に振り向く。

 その真っ赤な顔面にダッシュの慣性を乗せた全力の《チャージクラッシュ》を叩き込む。

 致命傷を与えた手ごたえが手に伝わり、そのまま地面を割る勢いで振り抜いた。

 

 盛大に砂埃と轟音が立ちこむ視界が回復すれば、引きちぎられた傷跡を晒しながら真っ二つに別れ、ひび割れたコアを剥き出しにするコンゴウが映った。

 

 従来の《チャージクラッシュ》は神機のオラクル活性を促すのに集中する必要があるため静止した状態から解き放つのがセオリーだが、オラクルの扱いに慣れてしまえばダッシュ中に溜めてしまうこともできる。

 煉瓦色の髪に教えてもらった。

 

 体からスタミナががっつり抜けたのを実感しながら、地面にめり込んだ神機を放っておいて同行者のそばに寄る。

 白い骨が皮膚から飛び出ている足を抑えてる男の顔は蒼白だ。

 殺される寸前だったのだ、無理はない。

 

「じっとしてろ」

 

 自分の生命力を分け与える《リンクエイド》を男に施す。

 回復錠でオラクル任せに無理やり回復させると折れた骨が正常な形に戻るか不安が残るが、《リンクエイド》なら自己治癒能力に働きかけるため心配は少ない。

 尤も、あくまで緊急救命の技術のためすぐに復帰することは出来ない。

 

 更に力の抜けていく実感を覚え、思わず膝を突きそうになるところを男が手を出して止めた。

 

「……すまねぇ」

「俺の不注意だった。謝るのは俺の方だ」

 

 男の手を払い何とか自力で立ち上がる。

 頭がふらつくが、俺の体ならじきに回復する。

 それまでどこかに身を潜める必要がある。

 そう思った矢先男は、はっと思い出したように血相を変えて叫んだ。

 

「そうだ、ここにいるのはコンゴウだけじゃねぇ!!」

「何っ?」

 

 神機を回収しに向けていた背を振り返らせると、奥から黒煙を噴きながら高速で近づいてくる筒状の白い物体が見えた。

 

「あの巨体は間違いねぇ、クア──!!」

 

 考える前に体が動いていた。力任せに座り込む男の襟首を掴み適当に放り投げた。

 俺も逃げなくてはと思った時には視界が真っ白に塗りつぶされた。

 

  ◆◆◆

 

 目を覚ますと見知らぬ白い天井が見えた。

 同時に鈍い頭痛が襲い呻き声を小さく漏らすと、俺の視界に目に涙を溜めたセナの顔が飛び込んできた。

 

「ソーマ君っ、ソーマ君! 目を覚ましたんだね!?」

「……あぁ、ここは……?」

「アナグラの医務室。全身に重症負って丸々二日寝込んでたんだよ」

 

 右手を見ればギプスで固定されており、体中に包帯が巻かれている。

 つまり今の俺はミイラ状態か。

 

 体に意識がいった途端に痛みが発せられ顔を歪ませると、セナは慌ててナースコールを押した。

 気づけば左手がセナにしっかり握られていた。

 包帯越しに感じる温かさに気を取られていると老人の医者がすっ飛んできてセナを追い出した。

 自由になった左手を意味も無く開閉させてみる。まだ柔らかい感触が残っていた。

 

「ふむ、もう体を動かせるのか。さすがと言ったところかね」

 

 普通のゴッドーイーターなら即死だったはずなんだがなぁ、と呟きながら男の老人は白い髭を撫でながら続ける。

 

「全身重度の火傷および複雑骨折。しかも右腕と左足は開放骨折。加えて複数の内臓破裂。簡単に言えば人肉ミートボール状態で担ぎ込まれたんだが……意識が途切れる前の記憶はあるかね?」

 

 激しい衝撃が全身を叩いたのは覚えているが、それ以降の記憶はぷっつり切れている。

 それよりも《リンクエイド》を施したばかりの男と瀕死の俺だけで、どうやってクアトリガから逃げ切れたかの方が気になった。

 老人は丸眼鏡をペンで押し上げながら言う。

 

「ヒバリさんが要請した援護部隊がギリギリ間に合ったそうだ。キミの同行者はお隣でぐっすり眠ってるよ」

 

 もちろん永眠って意味じゃないよ? と笑えない冗談をかます。

 隣はシーツで仕切られており姿は見えない。

 援護部隊が駆けつけるまで俺を庇いながら戦ったらしく、重傷を負ったらしい。まだ意識は戻っていないが命に別状は無いそうだ。

 

 ……俺はまた"死神"になっちまったんだな。

 シーツに深い皺が走る。

 

 医者は小さくため息を零した後にこう言った。

 

「伝言を頼まれている。お隣さんからだ」

 

「……聞かせろ」

 

「『借りは返した』、だそうだ」

 

 短い言葉に、俺は何も言えなくなった。

 ミッションに出る前は近寄ろうともしなかった奴が、どうして身を呈してまで化け物の俺を助けたんだ。

 奴の怪我の原因は俺の不注意だったのは明らかだった。借りなんざ作ってねぇ。なのにどうして……。

 意識が戻ったばかりの頭は鉛のように重く鈍かった。

 

 しばらく俺の反応を窺った医者は最後にと前置きをし付け加えた

 

「さっきキミを看病していた子にはちゃんと礼を言っておくように。キミが寝ている間、ずっとそばにいたからね。面会謝絶だと言ってるのに無視したのはいただけないけどね?」

 

 この調子だと一週間くらい安静にしてれば退院できるから、とだけ言うとそそくさと違うベッドへ歩いていった。

 入れ違いに戻ってきたセナは医者に頭を下げてからベッドに腰掛けた。

 目に浮かんでいた涙は消えており、代わりに目尻がわずかに赤くなっていた。

 

「無事で良かった……。ほんとに心配したんだからね」

 

 悪い、と一言言えば済む。

 なのに、セナの安堵する顔を見ていると無償に腹が立ってくるのは何故だ? 

 どうして俺はセナが何も解っていないと思っているんだ?

 

「……ったんだよ」

「え?」

「どこに行ってたっ()ってんだよ!!」

 

 急に怒鳴った俺にセナは目をまん丸に見開いて呆然とした。

 老人の医者も何事かと眉を顰めながら覗いてきた。

 病室ということを忘れていたが、それでも俺の口は止まらない。

 

「急に姿消しやがるから連絡しても出ねぇし! エントランスで待ってても来ねぇし! ツバキの野郎に聞いても知らねぇの一点張りだし! ここ一ヶ月、どれだけ俺が……ッ、俺が……!」

「えぇっと、いったん落ち着こ? あぁ、ほら泣かないで」

「な、泣いてなんかねぇよッ!」

 

 解った解ったと取り出したハンカチで俺の目元を拭う。

 医者はやれやれと呟きながら引っ込んだ。

 何でこんなに取り乱しているのか自分でも解らない。

 重傷を負った後遺症か何かか?

 丁重な手つきで拭われるまま、混乱する頭を整理しようとする。

 涙が枯れた頃にセナはハンカチを膝に置いて頬を掻きながら言った。

 

「ちゃんと言ったじゃん。畑作りに行くって」

 

「はぁ!? それはからかって言ったことだろ!」

 

「本当のことなんだってば! あんまり大っぴらに言えることじゃないんだけど……」

 

 周りをチラチラと見渡してから、ぐっと耳元に口を近づけて囁いた。

 

「実は極東支部の管轄外の人たちの世話をしてたんだよ。一応()の人たちと関わっちゃいけないって本部の決まりがあるから、秘密裏にするしかなくてさ。もしバレたら面倒だからソーマ君には知らせられなかったの」

「それで俺のメールは無視したってのか?」

「へ? メール?」

 

 豆鉄砲を食らったような顔で間抜けた声を漏らすと、心当たりがあったのか困り笑いを浮かべながら答えた。

 

「あー……もしかして私の自室のターミナルに送ったりした?」

「携帯端末にも送った」

「ゴメン、それは気づけなかった……。一ヶ月くらい極東支部にいなかったから」

 

 なんでも、コロニーの外にある廃れたダムの近くに村を作ったらしく、そこの村に畑を作りにリンドウと共に寝泊りしていたらしい。

 携帯端末は自室に忘れたらしく、取りに帰るか迷ったがゴッドイーターの仕事は有給を取ったから連絡が入ることはないと思いスルーした。

 そして一ヶ月近く本当に畑を作っていた。帰ってきた日に俺が担ぎ込まれ、自室に戻りもせずにずっと看病していたと……。

 

 ──つまり、俺の心配はセナの凡ミスと俺の勘違いが重なったて出来た勘違いだったと? ──

 

 ピキリと表情筋が固まる音が聞こえた。

 説明し終わったセナは気まずそうに後頭部を掻きながら笑った。

 

「いやぁ、まさかソーマ君がそんなに心配してくれてたなんて知らなかったよー。もう勝手に離れないって約束するからさ、許して?」

 

 離れない、という言葉を聞いて、複雑に混ざっていた頭の混乱がすんなり収まった。

 

 単に俺はセナがいなくなってしまうのが怖かっただけなんだ。あの冷め切った日々に温かさを(もたら)してくれたセナを失うのが怖かっただけなんだ。

 最初は受け入れられたことに戸惑いを覚えて、次第に今まで知らなかった温かさに慣れて、いつしかその温かさが当たり前な物と錯覚していた。

 

 顔を合わせて何気ない話をする、この瞬間が何より大切なものだった。

 それが突然消えるまで気づけなかった(バカ)が、無様にその瞬間を探していただけの話だったのだ。

 取り戻せて安心して涙を流しただけだった。こんな単純な話に任務中上の空になるくらい悩んでいたのが恥ずかしい。

 

「許さない」

「えぇ……」

 

 今度は見失わないように、その左手をしっかり握って。

 

「俺が退院するまで傍にいろ。それで許してやる」

 

 母親譲りの黒い肌で良かったと心から思った。

 全力で目を逸らしながら出来るだけぶっきら棒に言った。

 パチクリと目を瞬かせた後に、柔らかいパンのようにふにゃりと笑って頷いたのだった。





──入院中──

ソーマ「何で奴は化け物の俺に『借りを返した』なんて言ったんだ?」
 セナ「きっとソーマ君の優しい心を解ってくれたんだよ。全く、誰かの代わりにクアドリガのミサイルをまともに受けるなんて正気の沙汰じゃないよ」
ソーマ「そういうもんか……。ところで、何でお前は両手に初恋(ゲテモノ)ジュースを持ってるんだ?」
 セナ「んー? 今なら正しい味を分かち合えるんじゃないかなーって思ってさ」
ソーマ「……フン」

同行者(もう一度爆発しねぇかなアイツ)
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