私はソーマのパートナー   作:サンリアフレ

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第5話 リッカside

 邦枝セナは奇想天外な人だ。

 

 私こと楠リッカは神機整備班に所属する整備士だ。

 ただ、まだ学生の身で正式なクルーではない。

 だから主に新人さんの神機の整備や、リストアップされた候補者に適応する神機を探したりするのが役目。

 

 セナと知り合ったのは、私が整備士として初めて神機のメンテナンスを請け負ったときだ。

 担当した神機の持ち主こそがセナであり、それが長い付き合いの始まりだった。

 

 学生の身とはいえ、学校ではトップの成績を持つ私は現場の整備士に負けず劣らずの知識を持っている。

 普通どこの部品が磨耗したり傷つきやすいかは解っている。

 

 だけど、目の前で誤魔化し笑いを浮かべているセナが持ってきた神機は、またしても不自然な消耗の仕方をしていた。

 

「セナってばまた変な使い方したでしょ」

「あはは……バレちゃった?」

「バレバレだよもー。で、今度はどういう使い方したの? 怒らないから言ってごらん」

 

 以前は『捕食形態にしながら強引に《チャージクラッシュ》を撃った』という、なんでそんなことする必要があるのか不思議でならない使い方でメンテナンスに出してきたから、滅多なことじゃ驚かない自信があった。

 

「中途半端に盾を展開してヴァジュラの体当たりを流して《チャージクラッシュ》しました。そしたら盾の接合部がガタつくようになりました」

「バッ、はぁ!? 普通は盾を展開したら身動き取れないはず……というかヴァジュラの攻撃を受け流すって言ってる意味が……あぁもう! 訳が解らないよ! とにかく、そんな使い方するから変なところに歪みが出ちゃってるじゃない!」

 

 ダメだった。普通に驚かされた。何故か悔しい思いに頭を抱える。

 

「お、怒らないって言ったじゃん……」

「怒るに決まってるでしょ! もし任務中に故障しちゃったらどうするの!? 神機は代えがきくけど、キミ自身の代わりはいないんだよ!?」

「神機が壊れないギリギリのラインは解ってるから壊すことはないと思うよ」

「そういう話じゃ……! って、今の言い方だとまるで壊さない程度に無茶な使い方をわざとしてるように聞こえるんだけど」

「技術は進化し続けなくちゃいけない! マニュアルに縛られてちゃダメなんだ!」

「もうダメだこの人早く何とかしないと……」

 

 これがセナが配属されてから二日目のやり取りだった。

 

 と、毎度こんな調子でボロボロになった神機を持ってくる。

 腹が立つことに彼女の言う通り、本当にあと少しでも酷使していたら使い物にならなくなっていた状態で、しかもボロボロの神機を複数一気に持ってくるので整備班の間ではセナのことを《整備士泣かせ》の異名で恐れられている。

 

 セナが配属された日から彼女に苛められた神機たちを見続けてきたお陰で、神機の状態を見るだけで所有者の戦闘スタイルが解るようになった。

 尤も、彼女の神機を見始めてから三年が経つ今になってもセナの戦闘スタイルはよく解らないけど……。

 

 一回堪忍袋の尾がブチ切れて、実際の業務にセナを付き合わせるたことがある。

 技術屋以外はうんざりしてどっかに行っちゃうのが常だから、神機の整備がいかに難しいかを能天気な頭に叩き込むついでに嫌がらせをしようと思ったのだ。

 

 けれど、不思議なことにセナは興味津々に取り組んで、挙句に「やらせてくんない?」とせがんできた。

 免許がないと整備してはいけないので許可はできなかったけれど、その代わり技術屋の蘊蓄を語ってあげたら大層喜んでくれた。

 

「ねね、神機関連の技術士ってどうやってなれるの?」

「座学五年実技三年がほとんどかなぁ。ま、私は座学二年で済んだけどね」

「んー、普通の場合なら大学に五年も通わないといけないのかぁ。さすがに面倒くさいなぁ」

「学科試験を合格することと十分な実技経験が見習い技師の条件だから、ぶっちゃけその両方が揃ってれば大学行かなくてもいいんだよ」

「えっ、そうなの!? じゃあ座学勉強しながら実技磨けばもっと短い期間で技師になれるってこと?」

「制度上ではそうだね。でもそれが出来ないから大学がカリキュラム組んでくれてるんだけどね」

「よし! じゃあリッカに両方教えてもらえば解決だ!」

「人の話聞いてる??」

 

 仕事を減らすために行ったことが、何をどう間違えたのか未だにわからないけれど、かえって仕事を増やすことになってしまったのだった。

 

 片手間に出来ることだし、それなりのお金も払ってもらってるから別に良いっちゃ良いんだ。

 でも何でセナはついて来れるのかな。

 当時の私でもハードなスケジュールで教えてるのに普通について来るからビックリだ。

 鬼才なのか天才なのか、今までに出会ったことのない人種だ。

 

 彼女の奇天烈なところはそれだけではない。

 セナはこれでもかというほど神機の製作を依頼してくるのだ。

 

 普通、予め作られている神機のどれかに適合性を示し神機使いとなる。

 つまり神機使いが神機を選ぶのではなく、神機が神機使いを選ぶ。

 そのため神機使いは選ばれた神機と一生を共にするのがほとんどだ。

 

 なのだが、今だに条件は判明していないが、極々稀に複数の神機に選ばれる者がいる。

 まさしくセナがその者で、極東支部では彼女だけが神機を()()者なのだ。

 しかも二個や三個という次元ではなく、作られたばかりの神機にすら適合するという前代未聞の沙汰だ。

 

 それに味を占めたセナは、どうやってそんなに集めてきたのか謎な神機の材料、すなわちアラガミの細胞片を持ってきては神機を作るよう言ってくるようになった。

 彼女が部隊に配属されて一週間経った時である。

 しかも何故か私をご指名してオーダーメイドを発注してくるので、同僚からは同情と哀れみの念を込めて《整備士泣かせ専属整備士》という大変不名誉な渾名を付けられる始末。

 神機製作にかかる手間ひまは言うまでもない。

 それを毎日のようにご丁寧に要望を書き連ねた製作依頼書を送りつけてくるので忙殺される日々を過ごした。

 一時期目の下に真っ黒なクマが出来てしまい、油汚れとして誤魔化した時期すらあった。

 

 そんな無茶振りに何とか答え続けたお陰で、本当ならあと三年は整備班で見習いをしなければ正式に配属されなかったところを、なんと一年に免除してもらえた。

 副次的に整備士としての腕も格段に上がったし、亡き父が残した《リンクサポートデバイス》の開発にも遠くない日に取り組めそうだ。

 そういう意味ではセナに感謝しているけど、もう二度とあの多忙な日々に陥れないで欲しいと心から願っている。

 

 これだけ聞くとセナがはた迷惑な客人のように思えるけれど、実際は心優しいお姉さんだ。

 歳の近い女子同士ということもあって友達として付き合ってもらってるし、彼女への講義を通じて良い復習にもなってるし、榊博士にも紹介してもらったりして開発者としての人脈も広げることが出来た。

 悩み事(セナについて)や相談(セナについて)も乗ってくれるので、仕事詰めの私にとって丁度良い息抜きになっている。

 それにちょっとだけ憧れてたガールズトークというやつも頻繁に行えて実に充実した日々を送れている。

 

 さて、一通りセナのことについて語れたところで、現在について話をしよう。

 

「キミねぇ、こうやって呼び出してお説教するの何回目か解ってる?」

「さぁな。いちいち数えてない」

「私だって数えてないよ! それだけ怒られてるって意味だよ全く!」

 

 ぷんすか怒ってるのに聞く耳を持とうとしない問題児ソーマ君。

 彼が着任してから彼の神機の面倒も見てきた私だから解る。

 良い意味でも悪い意味でもセナに影響され過ぎている。

 

 渡された神機は見るからに不自然な傷つき方をしている。

 それはもうどっかの煉瓦色の人のものとそっくりだ。

 一目見てすぐ察した。

 

 新人さんの頃は至って普通の神機使いだったはずなんだけどなぁ……。

 セナにベッタベタなのは知ってたけどまさかこれほどとは……同世代ながら一途な態度は見てて恥ずかしいくらいだ。

 もちろん嫌味じゃなくて、ベタ惚れしてる姿が見てて羨ましいって意味で。

 

「で、何で《チャージクラッシュ》でクアドリガの突進を止めようなんて考えたのかな」

「何でそこまで解るんだよ……」

「何年あの無茶苦茶な人と付き合ってきたと思ってるのさ。大きく刀身が凹んでる時点で相当おかしい状態だけど、神機内のオラクルがキャパシティのオーバーでボロボロになってたら大体想像つくよ。クアドリガ並の巨体を止めようとしない限り、こんな損傷を負うことはないからね」

 

 クアドリガと言えば骨のような形骸と戦車のような装甲を持つ巨大なアラガミだ。

 人間の兵器を模倣した大火力の砲撃を行う一方で、その巨体に似合わない高い機動力を見せる。

 

 当然そんな巨体から繰り出される突進はいくら身体強化されたゴッドイーターと言えど軽くミンチに出来る威力がある。

 予備動作は大きいからすぐさま回避するのがセオリーで、盾を展開してあえて弾き飛ばされるのが及第点だ。

 どういう神経を持てばあの巨体を止められると思えるのか理解に苦しむ。

 

 私の見当は的中したようで、ソーマ君はうぐっと声を詰まらせてフードを深く被る。

 いつも斜に構えた態度を取ってる癖に、こういう時だけは妙に子供っぽい。

 どうせセナはここら辺で「可愛いなーよしよしー」とか言って終わらせちゃうんだろうけど、私は容赦しないからね。

 無言の圧力を掛け続けると観念したのか搾り出すように呟いた。 

 

「……アイツがその方が速く終わらせられるって言うから」

「子供かキミはっ。はぁ……何回も言ってることだけど何度だって言うよ、キミとセナは根本的に違う点が二つあるの。一つは彼女には代わりとなる神機がいくらでもあること、そしてもう一つは他のゴッドイーターとセナには絶望的な壁があること」

「アイツに出来て俺に出来ねぇ訳がねぇだろうが」

「いいや、あるね。現にキミ、右手か左手、はたまた両方か。粉砕骨折してるでしょ」

 

 私には誤魔化せない。

 クアドリガの突進を止めたということは、そのダメージをそのまま神機と自身で受け止めたことに他ならないのだから。

 この世の中はアラガミという理不尽な法則で蹂躙されているけど、物理学が消えたわけじゃない。

 運動エネルギー保存則は学生なら誰もが修めなくてはならない必須分野だ。

 

 指摘されたソーマはポケットに突っ込んでいた両手をピクリと動かした。

 が、すぐに顔を顰めた。何よりの証拠だ。

 

「私に言わせれば、両手の粉砕骨折だけで済んでるキミの体も大概なんだけれど、セナなら無傷でやってみせると思うよ。実際、そうやって神機をボロボロにしてきたからねあの人」

 

 セナの一番おかしなところはそこだ。

 無茶苦茶な芸当を可能にする出鱈目なセンス。

 そこにつきる。

 

 ヴァジュラの体当たりを中途半端に展開した盾で受け止めると聞けば出来そうではあるが、常識的に考えて自身より何倍も大きい物体が高速でぶつかってくるだけで致命傷になりえるのだ。

 それを自身の姿を隠せる程度の大きさの盾で受け流すなんて無謀を超えた無理だ。

 仮に出来たとして両腕が繋がっていれば奇跡という有様だろう。

 

 そう、セナは他のゴッドイーターとは根本からして違う。

 間違っても彼女の真似をしようなんて思ってはいけない。

 あのリンドウさんですら匙を投げた彼女の戦闘スタイルは誰にも真似できない。

 

 否定したくとも彼自身が一番良く解っている理不尽のはずだ。

 悔しさのあまり被っていたフードを取っ払い私に詰め寄った。

 

「お前に俺の何が解る? 余計な指図をするな」

 

 鬼さえ殺せそうな形相で睨んでくるソーマ君。だけど私は臆することなく真正面から言い返す。

 

「知ってるよ。キミの特異な身体のことも、セナに追いつこうと無茶をしていることも、それでも追いつけなくて焦っていることも」

「っ!」

「神機を見れば全部解る。これもいつも言ってることなんだけど、聞いてなかった?」

 

 逆に私から詰め寄ると、ソーマ君は簡単に退く。

 図星なのは火を見るより明らかだ。

 好きな人にいつまでも守られているのは我慢できない、という思いは解らなくもない。

 辛かった環境から救い上げてくれた人ならなおさら思いは強いだろう。

 

 だけど、それで自身を破滅の道に置くのは間違っている。

 それでは誰も幸せにならない。

 

「いいかいソーマ君。何もキミがそれ以上強くなれないだとか、セナを守れないだとか、そういうことを言いたいわけじゃないんだよ。ただ履き違いないで欲しいだけなんだ。セナを想っているのなら、セナ自身の気持ちも考えないとダメだよ」

 

 ソーマ君は知らない。

 キミが大怪我を負って医務室に担ぎ込まれた時、セナがわき目も振らずに大泣きしていたことを。

 あまりの激しさに医者ですら面会拒絶を強行できなかったくらいに。

 キミは親友(セナ)を泣かせているんだ。

 その自覚は持って欲しい。

 こう見えて私は結構根に持つタイプなんだ。

 

「……なら俺はどうすりゃいいんだ……ッ」

「そんなの知らないよ」

「なっ、お前、さっき全部知ってるって……ッ」

「知ってるのはキミの考えてることだけだよ。これからキミがどうするべきかは知ったこっちゃないし、知っていても教えるつもりもないよ。これはキミの問題なんだ、それくらい自分で何とかしなよ」

 

 言いたいことだけ言ってしまい、さっさと神機のメンテナンス室に篭る。

 閉め切ったドアの向こうから盛大な毒が吐かれ、乱暴な足音が遠のいていき、やがて完全な静寂が訪れた。

 

 すこーし冷たい言い方しちゃったけど、これもソーマ君のためを思って言ってるんだからね。

 神機使いを支える整備士として、キミの想い人の親友として。

 お陰で最近は良い感じに会話できてたのに、また最初の頃に戻っちゃいそうだよ。

 セナに冷やしカレードリンク一週間分請求してやる。

 

 密かな決意と共に先ほどのやり取りの疲れによるため息が漏れる。

 さて整備するかといつもの作業台に着くと、コンコンとドアがノックされた。

 私の返事も待たずに勝手に部屋に入ってきたのは、飄々とした苦笑いという器用な笑みを浮かべたリンドウさんだった。

 一応ここ関係者以外立ち入り禁止なんだけどなぁ……。

 

「よう、今日も元気そうだな」

「らしくないことやらかして元気ないですよー」

 

 油で汚れた椅子にグダーっと(もた)れ掛かると、リンドウさんはわざとらしく肩を竦めて、赤い神機を適当な場所に立てかけた。

 

「悪ぃな、ああいうのは俺みたいなおじさんがするもんなんだが」

「聞いてたんですか……。なら代わってくださいよー」

「俺が言って治せるのならとっくにしてるさ」

 

 反抗期のガキはろくに聞く耳持ちやしねぇからな、と壁に背を預けて煙草を取り出す。

 

「ちょっと、ここ禁煙」

「お、そうか。悪い悪い」

 

 そそくさとポケットに仕舞い込み腕を組む。

 

「ソーマは恵まれて良かったなあ。一時期はどうなるかと思ったが、上手く更正してるようで何よりだ。ああいうのは親か同い年の奴に言われねぇと気づけねぇもんだからな」

「ソーマ君の親がもっとしっかり父親をしてくれてたら良かったんですけどねー。むしろソーマ君の複雑な心境の原因になっちゃってますし」

「リッカ、支部長の悪口はそこまでだ。いつどこで聞き耳立ててるか解ったもんじゃないからな」

 

 芝居がかった口調で諌められる。

 あの支部長さん、良い人なのは間違いないんだけどどっかずれてる気がするんだよねぇ。

 あまり好きになれない人だ。

 

「さて、気を取り直してメンテをしようというところなんだけどリンドウさん」

「おう何だ」

「リンドウさんの神機、なーんで刀身と捕食力場解放部の接合部がグチャグチャになるのかなー? よっぽどめちゃくちゃなコアの摘出をしない限り壊れないよう設計してるんだけど?」

「おっと、仕事の邪魔をしちゃ悪いな。これで俺は退散と──」

「そこに正座」

「──はい」

 

 こうしてセナに影響されたバカ二人目を説教することになったのだった。





──説教中─

 リッカ「どうやって捕食したの」
リンドウ「黙秘権を行使する」
 リッカ「あー丁度良いところにサクヤさんが毎晩のお楽しみを赤裸々と語ったものが──」
リンドウ「ちょっと待て、なんでお前さんが持ってる!?」
 リッカ「セナがダビングして女性陣に配布してた」
リンドウ「あの人でなしぃ!」
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