私はソーマのパートナー 作:サンリアフレ
邦枝セナ君は非常に興味深い性質を持つ。
以下私の観察日記の要約。
◆◆◆
・実績面
極東支部コロニーの外、アラガミに呑まれる前の世界では《栃木》と呼ばれていた地域で生活していた。
物心ついた頃には既に肉親を失っており、窃盗を生業とする男に従事することで暫定的な保護者を得ていた。
しかし十五歳の時に何らかの理由で保護者に追い出され二年間放浪。
極東支部に辿り着き、神機との適合性が認められフェンリルの保護下に置かれる。
本人の意志もあり第一世代の神機使いとして極東支部討伐班に着任する。
着任から一日目で神機を操作できるようになる。
これは史上最速の適合速度である。
また、複数の神機との適合性も認められており、同様に操作可能であったことからアーティフィシャルCNSとの親和性が極めて高いことが推測される。
一方、メディカルチェックの結果は中の上程度。
同時期に着任したソーマ・シックザールより下回る結果となる。
診断上では一切の特異性は認められず。
着任から一週間で難易度6に設定された任務に就いており、どの任務評価も最高値を叩き出している。
これも極めて異例の成長速度で、いずれ支部長直属神機使いになることが予想される。
メディカルチェックの誤診と判断し観測を続ける。
同時期、個人的な投資による神機製作を依頼する姿が見受けられるようになる。
また、神機製作に必要なオラクルリソースと資金を集めるという理由で、任務を片っ端から受けて回る奇行が見受けられるようになる。
人間関係は至って良好。
見捨てられた者と見捨てた者という溝が心配されたが、本人は気にした素振りを見せず、班に拘らず広い視野で人脈を広げている。
受注する任務内容も護衛や防衛任務に比重を置いており、持ち前のコミュニケーション能力により民間人とゴッドイーターとの緩衝材としても機能しているため、居住区からの厚い信頼を獲得している。
孤児院へ匿名の寄付もしており人徳の高さが窺える。
極東支部職員内での評判も上々とのこと。
着任から一年目、任務実績の評価から二階級特進により軍曹から准尉へ昇級。
それに伴い自室をベテラン区域に移動する。
ヨハネス・フォン・シックザール支部長による特務を言い渡され承諾するものの、同時に通達された直属部隊に所属することは拒否。
特務のノルマを釣り上げることを条件に支部長はその拒否を承諾。
その後しばらく激務を与えられるものの、これを難なく処理。
逆に私財の枯渇を理由に特務の頻度を要求。
これにより週三のペースで発注されていたが週五に増える。
が、それでも不足を訴えるため毎日発注することになる。
副次的に、同じ特務を受けていた雨宮リンドウ少尉の負担が大幅に軽減。
この頃から孤立していたソーマ・シックザールと関わりを持つ。
軍規・命令違反が多く態度に難ありとされていた彼を瞬く間に懐柔、更正へ導く。
その効果は段々と現れており、集団行動での協調性に意識を向ける様子が見られ、また神機使いとしての腕も上がりつつある。
ソーマ・シックザールと出撃する頻度が急激にあがり、特務以外の任務はほぼ彼と同行するようになる。
指定接触禁忌種の討伐を許される。
極東支部では討伐班第一部隊のみ許されていたが、個人の許可はこれが初となる。
以後、意欲的に指定接触禁忌種の任務に取り組むようになり、現在極東で確認されている全ての指定接触禁忌種を全て単独で討伐する快挙を成し遂げた。
フェンリル本部から表彰される。
しかし実名の公表は拒否する。
それに伴い、様々な意味で極めて価値の高い指定接触禁忌種の細胞片を定期的に採取可能にした。
解析班へ意欲的に無償提供し、アラガミの生態解析の進歩に大きく貢献した。
フェンリル本部から表彰される。
しかし実名の公表ら拒否する。
なお、余ったサンプルは神機開発に私的利用するようになった。
着任して二年目、以上の目覚しい功績を称え再び二階級特進の措置を取られたが、同僚との交流が途絶えることを理由にこれを断固として拒否。
二階級特進は取り下げられた。
衰えぬ活躍に対して何度か昇級を通達するも、やはり拒否。
このことからフェンリル本部は出世意欲は皆無と判断、以後昇級通達を取りやめる。
着任して三年目、討伐スコアが最古参の雨宮リンドウ少尉に迫る。
あと一年もすれば追い抜くだろう。
ゴッドイーターの能力について。
偏食因子との適合性は高いものの、取り上げて評価するほどでもない。
にも関わらず神機との適合性は極めて高く、本部に集計されているデータ内に於いて群を抜いて一位。
先述の通り神機の取り扱いは他を寄せ付けない。
このことからアーティフィシャルCNSとの親和性が極めて高いと推測される。
ただし、新型とは一切適合せず。
原因究明中。
使用する神機は不特定多数。
刀身型銃身型どちらの神機にも適応しているものの刀身型神機、取り分けバスターブレードを好んで使う傾向がある。
ただし討伐目標ごとに使い分けており、どのカテゴリの神機も極めて高次元に使いこなしている。
装甲はバックラーのみを使う。
他のゴッドイーターには見られない固有の能力、《
判明したのは彼女が着任してから一年過ぎたころである。
《
当然神機にそのような機能は備わっておらず、現在この技術を扱えるゴッドイーターは彼女のみ。
技術提供をしてもらったものの、他に使用できるゴッドイーターは未だに現れない。
神機との適合性の高さゆえの技術だと思われる。
ただし、目覚しい身体能力の強化の代償に、身体に多大な負荷を与えるため制限しているとのこと。
《スキル》は解析を続けているものの未だに不明瞭な点が多い能力で、一定条件下における特殊能力の獲得が主だと推測される。
本人曰く「視界の右上に仲間の位置とアラガミの位置がマップに出る」「自分と仲間の体力が赤いバーで表示される」「普段より長く全力疾走できる」と多岐に渡る。
これらは神機を使用している時に現れることから、神機に潜在的に秘められている能力を引き出していると考えられる。
戦闘スタイルは常人と掛け離れており、とにかく攻めるのが特徴的。
しかし防御は必要最低限かつ完璧に行うためほとんどの任務で負傷をせず帰還している。
どんな状況でもまず攻撃することを考えているらしく、「コアの場所さえ解っていればそのまま引っこ抜いた方が早い」「ウロヴォロスは《チャージクラッシュ》の練習台」「スサノオの尻尾攻撃は足元がお留守だから《チャージクラッシュ》撃ち放題」「盾を上手く使えばどの攻撃も無傷で受け流せてカウンターできた」など、常人では想像もつかない行動を平気で行う。
マニュアル化は不可能だろう。
その奇抜さとは反面、チームでの任務では協調性を第一に考えて行動しており、味方の行動を逐一把握しサポートに徹する。
そのため着任してから三年間、同行者の生還率100%という大偉業を果たしており、同行者の負傷率も限りなく低い。
生存戦術として採用されるも、結果は奮わず。
彼女の能力あっての戦術のようだ。
単独の戦闘力は間違いなく世界一。
協調性にも優れており、汎用性と特化力という相反する性能を併せ持つ非常に優秀なゴッドイーター。
十七歳という若さも含めて、今後更なる期待を寄せられるだろう。
◆◆◆
「どうだい?」
「いや、どうだいって言われても……」
そう言って頬を引きつらせるセナ君。
日々目覚しい活躍を見せるセナ君に関する資料が欲しいと本部から要請されたのだ。
その報告書の概要となる私の観察日記をセナ君本人に読んで貰ったのだが、どうやらその顔を見るとお気に召さないらしい。
「これ誰ですか」
「え? 紛れもなくキミだよ」
「いやいやいや、誰ですかこれ。私じゃないですって」
「……?」
「そんな『キミ以外にいるわけないじゃないか』みたいな顔するのやめてください!」
「これでも結構脚色した方なんだよ?」
「そりゃそうですよね!? こんな何でもできる超人みたいなことしてませんよ私!」
「これを直すとすると原稿用紙が十枚ほど増えることになるんだが……」
「削ったって意味の脚色だった!? ほんと冗談キツイですよ榊博士、もっと無難なこと書いてくださいよ。そうじゃないと私本部に強制召喚されるかもしれないじゃないですか」
涙目で懇願してくるセナ君。
むしろ泣きたいのは私の方なんだけどね……。
セナ君は非常に興味深い観察対……じゃなくて非常に重要な戦力だ。
常に人手不足で苦しんでいる最前線たる極東支部から彼女を取り上げられるのは、こちらとしては全くおいしくない話だ。
だから一度彼女の経歴を全部洗い出してみて、後から不自然の無いように削って報告書を提出しようと思ったんだが、まさか不自然な所しかないような経歴だったとは……。
ちょっとだけ優れたゴッドイーターに見えるように削ろうと試みたんだけど、そうすると逆に何もしてない木偶と化すんだよね。
もちろん上記の概要もまだ削り途中だけど、どうすればいいものやら……。
「いくら任務が任意性とは言え、あれほど出撃してるとは思ってなかったよ……。討伐スコアもちょっと信じられないものになってるし……。参考までに見るかい?」
「……いえ、大体心当たりあるんで遠慮しときます」
そうして青い顔をして地面に
バトルジャンキーじゃないってキミ自身は思ってるだろうけど、はたから見たらちょっと人情溢れる真性バトルジャンキーだよキミ。
「ヨハンの特務に就いてたのは知ってたけど、まさか指定接触禁忌種の討伐まで命じられてたなんて知らなかったよ。私のところに顔出すときいつも元気溢れた笑顔を見せてくれるのに、その裏では毎日アラガミを殺戮してるなんて思いもしないよ」
「い、いえ、私だって好きでやってるわけじゃ……」
「それに《
「だって話したら解剖されそうだし……」
「あとアラガミのオラクルリソースのことも聞いたよ。サンプルを提供する代わりに解析班の倉庫間借りしてるんだって? ずいぶんサンプルが豊富だなぁとは思ってたんだ……。キミがオラクルリソースのコレクションをしていただけだったからなんて……」
「いや、あの……」
「一番目を疑ったのはキミの戦闘だよ。私の存在価値ってあるのでしょうかってヒバリ君が泣きそうになりながら言ってたよ……。ヴァジュラの突進を盾で受け流して無傷? クアドリガの突進を強引に止める? 理由は有利に戦闘できるから? 何を言ってるのか良く解らなかったし、解りたくもなかったよ……」
「なんか、ごめんなさい……」
セナ君は蹲った姿勢から綺麗な土下座をする。
リンドウ君も大概なゴッドイーターのはずなんだけど、彼女の正体を知った今だとチャチに思えるのが可哀想だよ。
どうするのこれ、どう報告すれば虚偽なく穏便に済ませられるんだい?
「じゃあ、いっそのこと戦闘の項目は削除しちゃうというのは……」
「……うーん、もうこれ以上考えるのもバカらしくなってきたし、それでいいか。文句付けられたら付けられたで、追って考えればいいし。とにかくこの無理難題からはやく目を逸らしたい」
そうと決まればさっさと終わらせてしまおうとタイピングを始めようとすると、セナ君はあっと小さな声を漏らして顔を上げた。
「そうだ博士、刀身型神機に捕食して手に入れたオラクルを射出するために銃身型神機の一部を接合してみようってリッカと考えてるんだけど──」
「セナ君、ちょっと部屋から出ていって貰っていいかな?」
非常に前衛的な姿勢は好ましいけれど、この場に限って言えば混乱させるだけになるから退出願おう。
私の観察対象はつくづく私の予想を裏切ってくれる。
そんな喜びか呆れか解らない思いにため息を吐きながら、指を動かし始めた。