私はソーマのパートナー 作:サンリアフレ
「こちらセナ。無事任務完了ー」
『今日も何も出来なかった……。相変わらずの頼もしさですね。お疲れ様です』
私の足元に転がっているスサノオ二匹を見下ろしながらヒバリに報告する。
毎日発注される特務をこなしたところだ。
特務。
カッコいい名称の任務だが、言ってしまえば支部長のおつかいである。
そのため難易度も支部長のご機嫌次第で上がったり下がったりする。
基本アラガミの中でも討伐困難と言われているアラガミの討伐がメインで、稀に大量発生した小型アラガミの一掃、極々稀に細胞片の納品だったりする。
ひとまずオラクルリソースの回収が目的のようで、コアの摘出には細心の注意を払うように支部長から厳命されている。
何でも少しでも傷が付くとクオリティが激減してしまうからなんだだとか。
私が言うのもアレなんだけど、そんなにオラクルリソースを集めてどうするつもりなんだろう……。
特務を受けてから二年間、相当な数のアラガミ、それも超弩級と言われているアラガミのコアをかき集めてきた。
リンドウの集めてきたものも含めるとちょっとした大富豪になれるくらいだ。
にも関わらず、支部長は貪欲にオラクルリソースを欲する。
むしろノルマを達成すればするほどノルマの上限が上がってる気がする。
欲しいのではなく、足りないとでも言うように。
まぁ、ノルマの釣り上げは支部長の直属部隊に入らないための条件として私が言ったんだけどね?
そこについては文句ないよ。
でもスサノオ二体同時討伐って普通頼まないよねぇ。
スサノオって言えば《ゴッドイーターキラー》の
その凶暴な戦闘力もさることながら、神機を好んで食べる偏食傾向があるからベテランのゴッドイーターですら接触禁止にされてるのに、どうして二体狩って来いとか言えるのかな?
頭パーンしてるでしょ絶対。
というか、何で第一種接触禁忌種に指定されてるアラガミが同じ作戦エリアに二体生息してんの。
どんだけこの地域でゴッドイーターたちが死んじゃったの。
あー、でもここ《鎮魂の廃院》とか言われてるんだっけ。
いかにもたくさん殉職者が出ましたよーって名前をしている。
実際はアラガミを神と見立てたカルト宗教が巣食ってたところアラガミに食われたとか、胸糞悪い歴史があったとかなかったとか。
とにかく、曰く付きの場所だったのなら仕方ない。
さっさとコアを回収して退散するに限る。
それに年中雪が降ってるせいで寒い。
神機にスサノオをガブガブさせて間もなく二つのコアを回収。
しっかり柄に装着されているコア収納機に黄色い二個の珠が入ったことを確認し、核を失ったスサノオたちが地面に吸い込まれるようにして瓦解したのを見届ける。
「任務完了! これより帰投準備に──」
『っ!? 作戦エリア内に想定外のアラガミ反応を確認! 偏食場パルスのデータを照合……。えっ、該当無し!? これは──!?』
「え、なに、どうしたの?」
『セナ、聞こえるか、私だ。今お前のいる作戦エリアに正体不明のアラガミが確認された』
びんと響くようなこの声はツバキだ。
いつも泰然と構えるツバキらしからぬ焦った声に眉を顰める。
それに指導官のツバキが出張ってくるというのは余程の事態なのか、緩みかけていた緊張が張り巡らされる。
「ツバキさん? ということは新種のアラガミですか?」
『そのようだ。それもスサノオに負けず劣らずの強い反応を示している。アラガミの現在地を送る、くれぐれも遭遇しないよう──』
『待ちたまえツバキ君。その指示は早計だ』
ツバキの指示に被せるように回線へ割り込んできたのは特務のクライアント、ヨハネス支部長だ。
任務中のゴッドイーターの無線に割って入ってくることは無理のはずだが、支部長の権限で何とかしたのだろうか。
突然の介入にツバキが態度を崩して声を荒げた。
『支部長!? いえ、セナは激務を達成した直後の身です。万全の状態とは言えません。ここは一旦体勢を立て直すのが先決かと』
『未知のアラガミを見て見ぬフリをするのは愚策だ。せめて姿かたちは把握しておくべきだ。それに、彼女は疲労などしていない。そうだろう? セナ君』
「え、えぇ、まぁ」
『くっ』
なんか当事者の私を差し置いて話が進んでるような……。
しばらくツバキと支部長の言い争いが続いたが、結局ツバキが職権行使に屈し、私に偵察の任務を言い渡す。
『可能であれば討伐、コアの回収もよろしく頼むよ』
言うだけ言って無線を切った支部長。直後に盛大に毒づいたツバキ。
私は支部長の言う通りまだ余力はぜんぜんあるから平気なんだけど、あのツバキの怒りを間近で感じてるヒバリが一番可哀想だ。
任務が終わったら何か奢ってあげよう。
『すまないなセナ……。任務の後で辛いだろうが、よろしく頼む。偵察だけでいい、戦闘は控えろ。いいな』
「了解でーす。任務開始しますー」
手元の端末に乱入してきたアラガミの現在地のデータが入る。
確認してみると……どうやら廃院の中にいるらしい。
緊急事態ということでヒバリは外されツバキがオペレーションに入る。
さっくり終わらせて、帰ってソーマで癒されるとしますかねー。
◆◆◆
いた。
何か白くて細長い尻尾が見える。
四つん這いだ。
首も長くて角が二本生えてる。
胸に赤熱した塊のようなものが点滅していて、おそらくコアかと思われる。
特徴的なのは左手と背中。
左手には銀色の
今まで見たこと無い骨格だ……間違いなく新種だね。
廃院の隅に寄せられていた遺骨に顔を突っ込んで咀嚼している。
人間の骨がお好みらしい。
木材とかだったらまだ良かったんだけどなぁ……。
何がともあれ姿を写真に収めなくては任務達成にはならない。
万能端末を取り出してっと……。
はいチーズ! カシャッ!
……ん? カシャ?
手の中にある端末をまじまじと見つめた後に顔を上げると、そこには長い首をもたげて私をばっちり凝視してる新種君。
それからゆっくりと大きい身体をこちらに向けて、遠くにいてもなおうるさく聞こえる咆哮をあげた。
おっと、これはもしかしなくとも──
「やば、ばれた」
『バッ、馬鹿者!? さっさと離脱しろ!!』
そんな怒られたって私のせいじゃないでしょ!?
まさか任務に携帯することが義務付けられてる端末にサウンドが付いてるなんて思わないじゃん!!
誰だよこれ開発した奴!
何でカメラ機能に音付けようなんて思ったの!?
ええい、帰ったら文句付けてやる。
と思ったらいつの間に目の前まで距離を詰められてる!?
すでに左腕を振り上げてらっしゃる。
「あっぶな!!」
間一髪、身を大きく振って左右のパンチを避ける。
すたこらさっさと離れて神機を構えると、そこにいたはずの白いアラガミが姿を消している。
どこへ、という言葉が脳裏に過ぎった瞬間、背筋にゾクリと悪寒が走った。
その感覚に押されて無我夢中に前方へ身を放り投げると、背後からとんでもない熱量と衝撃が撒き散らされた。
慌てて起き上がって振り返れば、数瞬前まで自分が立っていたところに
そしてさも当然のように炎の剣を持っている白いアラガミ。
仕留め損なったのが気に食わなかったのかひとつ歯を噛み合わせて見せると、炎の剣を突き刺したまま後方へ大きくバックジャンプ。
直後炎の剣は内側から膨らみ爆散。
離れている私の頬にピリピリと熱を運ぶ。
めちゃくちゃだ。
炎が実体を持つってのも結構ぶっ飛んでるけど、何より奴自身が速すぎて目が追いつかない。
今まで戦ってきたアラガミが止まって見えるほど速くて、攻撃の予備動作なんて私じゃなきゃ見逃しちゃうね。
『どうしたセナ!? 状況を報告しろ!!』
「ちょーっとそんな余裕ないかな! 倒したら報告する!」
『なっ!? おいセ──!!』
ぶちっ。
よし、無線は切ったから集中できるね。
というか集中しないと普通に殺されそうだ。
久々だね、こんな死が隣り合わせの戦いは。
ゴッドイーターになる前、アラガミたちから無防備で逃げてた頃を思い出す。
やせ我慢の笑みを浮かべてやると、白いアラガミは左手から激しい紫色の炎を噴出し天へ向けて咆哮を上げる。
生身の私じゃ奴の神速についていけない。
勝手知ってるアラガミならいくら速くなろうが問題ないけど、初見であの速さを相手するのは骨が折れすぎて死んじゃう。
あんまり使いたくなかったんだけどなぁ……。
リッカの悲鳴に近い怒鳴り声が耳に蘇る。
はは、また怒られちゃうなぁ。
でも怒られるだけならまだ良いさ。ここで死んで泣かれるよりはマシだ。
目を瞑って深く深呼吸。
この間にも奴は神速で迫ってきている。
でも焦るな。
少しでも乱れたら私の身体は
神機の中にある無数に存在するオラクル細胞一つ一つを燃焼させるイメージ。
一つに火が灯り、隣接する細胞に燃え移る連鎖が起こる。
そこにスサノオから奪ったオラクル塊を放り込む。
沸々と神機から手を伝って熱が押し寄せる。
さぁ力を貸してくれ、神機!
──《
全身に目に見えない羽衣が覆う感覚を覚え、開眼する。
神機と私の全身に黄金色の陽炎のようなものが立ち昇るのが見える。
無事に成功したようだ。
そして正面を見据えれば両腕を広げゆっくりと突進してくる白い影。
見える、さっきはぜんぜん見えなかったけど今なら見える。
あまりの遅さに欠伸が出ちゃいそうだ。
地面を軽く蹴り離すと、地面に小さなクレーターが生じ礫と雪が舞う。
私が空中に飛び上がっても白いアラガミは未だ一歩を踏み出そうとしている所だ。
私が目の前から消えたことにすら気づいていない。
圧倒的運動性能の差。
今私が生きている世界とキミが生きている世界は別次元だ。
それを思い知らせてやる。
空中で体勢を整え、神機を真下に突き刺すように構える。
それから黄金に燃えるオラクルに更に働きかければ、神機から濃紺と漆黒が入り混じったようなオーラが吹き荒れる。
ビキリとこめかみ辺りに激痛が走るが、そんなものは無視だ。
──あと少しだけ持ってくれよ、私の身体……! ──
そして、
見据える剣先以外のすべての景色が放射状に歪み、猛烈な空気摩擦を頬に感じる。
偏差射撃のように、私の落下とアラガミの通過が重なることを予見する。
直後に手に重厚な手ごたえを感じ、両足に凄まじい衝撃を覚え急停止。
一拍遅れて轟音が廃院を揺さぶった。
視界が回復すれば、私の足元には白いアラガミだったものがぶちまけられていた。
原型を留められるはずがない。
最初に背中の突起部に衝突、一瞬で結合崩壊を起こす。
突起部が崩壊すると同時に紫炎の円環が展開されるも、何事かが起きる前に背中を貫通。
胸部にうっすら映っていたコアを粉砕。
アラガミの突進の慣性を潰す勢いで地面と縫いとめた。
こんな滅茶苦茶なことをしても私の身体は無傷だ。
衝撃による負傷は皆無。
なぜなら、今私は限定的なアラガミ化を起こしているからだ。
ソーマの比じゃない勢いで神機を媒体に身体を無理やり強化した状態は、紛れもなくアラガミ化である。
「解除……ッヴ、ゲホッ、ゲホッ」
その反動は甚大だ。
空気を蹴るなんてムーブ、本来の身体じゃ到底行えない芸当だ。
それを無理やり成し遂げれば身体の内部にダメージを負うのは必然。
あの超高速機動をするアラガミを軽く超越するスピードで動けば、やはり反動を受ける。
視力や聴力、嗅覚の強化も副次的に行われるから脳にも負荷が掛かる。
つまり諸刃の剣である。
次々と込みあがってくる血を吐き出し続ける。
十回ほど咳き込んだところでようやく副作用が収まる。
全身が鉛になったように重いし、散々だ。
無線に電源を入れてコールする。
「あ-、ツバギざん"?」
『セナ!? その声はどうした!? 逃げている最中か!?』
「ゲホッ、おェ……いえ、血が喉に絡まっただけです。無事討伐しました」
余計な心配掛けちゃったよ。神機を杖代わりに何とか立ち上がると、ツバキが疑念の色を示す声を出した。
『何? 討伐しただと? 確かなのか?』
「? えぇ、確かです」
『それは妙だな……。ッ!? セナ、一刻も早くそこから離脱しろ!!』
「ま、また乱入してきたんですか……」
『
え、と振り返ると、そこには背中から紫炎の円環を翼状に展開し宙に浮ぶ白いアラガミがいた。
確かにコアを潰し殺したはずのソイツが。
「……うそでしょ」
未曾有の脅威が再び襲い掛かる。