私はソーマのパートナー 作:サンリアフレ
アラガミはオラクル細胞が集まって出来た細胞群だ。
細胞核となる物が存在しないと形を保てない。
それが俗に言うコアと呼ばれるものであり、これを失ったアラガミは例外なく消滅する。
厳密には目に見えない微粒子となって大気中に霧散するだけなのだが、確かに眼前の脅威を退けることは出来る。
だと言うのに、目の前に佇む未知のアラガミはコアを粉々にされても生きている。
潰れたはずのコアは元通り胸に埋め込まれており、突起部があった背中からは紫炎が溢れ出ている。
ありえない。信じたくない。
その光景に私は驚愕のあまり敵前で呆然としてしまう。
『セナ!!』
ツバキの叫びでようやく我に戻った私は咄嗟に盾を展開。
直後に凄まじい衝撃が盾を貫き、後方へ軽々と吹き飛ばす。
背後にあった壁に
次の瞬間には炎の剣を片手に猛然と飛び掛ってきた。
がむしゃらに身を投げ出し紙一重で回避すれば、アラガミは背中に展開している炎の円環を眩く輝かせ始めた。
しかしこちらに振り向くことすらなく、わずかに身体を宙に浮かせて全身を
今しか言う暇がない!
「ツバキさん、戦線を離脱します! 回収班を回してください!!」
『解った! ……死ぬなよ!』
早口で伝えれば四の五の言わずに無線を切ってくれた。
さすがツバキさん、現場を知ってるだけあって対応も迅速だ。
殺しても死なない敵。
未曾有のアラガミ。
さすがに私一人でどうこうできると思い上がっていない。
さっさと逃げて榊博士に対策を仰ぐのがベストだ。
だから私の身体! もう少しだけ私の無理に耐えてくれ……!
「
神機が唸りを上げて内包するアラガミの力を放出する。
先ほどの
鈍器で殴られたような頭痛が走り、私の身体が悲鳴を上げる。
アラガミはようやく振り向いた。そしてそれが奴の攻撃の瞬間だった。
炎の渦が撒き散らされる。
それも一本ではない。
奴を中心に何十本もの天に届くのではと思えるほど巨大な渦が全方位に迸る。
放たれた渦は一直線ではなく、湾曲しながら猛進する。
進行上に存在するあらゆる物質を瞬く間に融解し、なお暴れまわる。
今の私には渦がスローに見えるが、生身の私には到底見えるようなスピードではないだろう。
もし他のゴッドイーターたちがコイツと遭遇していたらと思うとゾっとする。
渦が展開される中縫うように安全地帯へ移動し、今もなお炎の渦を撒き散らす化け物に着実に接近する。
後は奴が放出し終わり隙を晒したところでコアを奪い取ってやれば良い。
復活するとは言えタイムラグがあるのは間違いない。
その間に速攻で離脱する。
そんな私の企みは簡単に阻止される。
渦の放出をやめた瞬間に殺せる間合いへ入った私を視認した奴は、ひときわ大きな渦を放出した直後に素早く両の掌からそれぞれ剣の形を模した炎を生み出した。
飛び掛ってくるのか。
そう思ったとき、アラガミは宙に浮いていた両足を地に着け、
今までに見せなかったそれ。
四つん這いに適した骨格からは考えられない姿勢。
加え両手に絶大な威力を誇る炎の剣。
それが今、私の目の前に
私が一方的に殺せるはずだった間合いが、アラガミが私を斬殺できる間合いに変貌した。
後退は許されない。
アラガミの制御から外れた炎の渦が今もなお背後で暴れ狂っている。
残された逃げ道は……──真正面のみ。
「はあああああ!!」
無意識に雄叫びを上げ、神機に必殺のオーラを纏わせる。
威力の向上を促すためではない。耐久を上げるためだ。
刹那。
互いの一撃が交わされる。
腕から足に衝撃が流れ、私の立つ地面に無数の亀裂が走る。
腕が砕けるかと思うほどの膂力。
間近で放出し続けられる炎熱で頬がチリチリと炙られる。
盾で防ごうなんて消極的な考えに逃げなくて良かった。
圧倒的な膂力か炎熱か、そのどちらかで装甲が破壊され私は殺されていただろう。
二合、三合と神速で重なっていく。
《チャージクラッシュ》を限定的に発動することで何とか相殺できるくらいの破壊力。
神機が壊れるが早いか私の身体が壊れるのが早いか。
実際の時間にしては三秒にも満たない剣戟の応酬だったのだろうが、私にとっては永遠にも似た長い時間だった。
そして、
両の剣をクロスさせ斬り払うところを渾身の《チャージクラッシュ》が叩き付けられ、実体を持っていた炎に
力のあらん限りを込めて振り抜くと同時に奴の剣がバラバラに砕け散った。
突破した。
その事実からくる安堵に張り詰めていた緊張に
僅かな緩みに付け込むように、今まで置き去りにしてきた疲労やダメージが一気に押し寄せる。
腕が付いているのか不思議に思うほど両手の感覚がない。
足が鉛のように重い。オーラを纏っていた神機は点滅を繰り返す。
敵は弱点の胸元を曝け出しているというのに、そのまま視界が暗転しかける。
「ぅ、動けぇぇええええ!!」
私の絶叫に応じ、刀身の根本から先端までを飲み込むように巨大な顎のような身体が現れる。
後先考えずにアラガミの胸元に飛び込み、捕食形態になった神機を点滅するコアに突き立てる。
食らい付いた神機は独りでに
肉を噛み切り骨を噛み砕く。
あっという間にコアを守っていた肉体を食らい尽くすと、無防備になったコアを飲み込んだ。
力任せに神機を引き抜き、崩壊し始めるアラガミの体を足場に飛びずさる。
そのまま見向きもせず、一目散に離脱する。
端末に送られていた回収班が待機する座標へ、
ついに身体に限界が訪れ、身体に纏っていた力から解放された。
常人からかけ離れた速度で走っている最中に疲労困憊の身体で投げ出されたために、ろくな受身も取れずすっ転ぶ。
いつしか積もっていた雪の足場が荒野に変わっており、心臓が早鐘のように鳴り続ける。
鼓動に応じて喉に血が競り上がってくる。
気持ち悪いほど全身の感覚がない。
派手に転んだはずなのに痛みはおろか、地に横たわってるとすら思えないほど神経が麻痺している。
唯一感じるのは神機を握る右手の違和感だけだ。
それを確認するだけの気力も体力も残っていない。
動きたくとも身動き一つ取れないのだ。
もしかしたら、死ぬのかな……。
被弾は一回もしてないけど、
視界もおぼろげで、耳はぐわんぐわんと訳の解らない音を拾うだけ。
周りに誰もいない、一人ぼっち。急に感じる
ゴッドイーターになる前、目的もなく放浪していた日々を思い出す。
いつものように出撃して特務をこなしていただけなのに、どうして今はこんなに頭がぐちゃぐちゃになってるのか。
志半ばに倒れたゴッドイーターたちもこんな感覚に襲われていたのだろうか。
いわゆる走馬灯というやつなのか。
ただ漠然とした意識の中、これが最期になるのなら出撃する前にソーマの顔を見たかったなぁと思う。
特務を受けてることを知ったら心配掛けちゃうと思ってバレないように深夜帯に出かけてるのがここで仇になるとは。
『セナ!! セナぁっ!!』
幻聴まで聞こえるようになっちゃったよ。
いよいよダメっぽい雰囲気になってきた。
私がいなくなってもソーマは上手くやっていけるかなぁ……。
私以外の人には無愛想だから心配だなぁ……。
だんだんぼやけていた視界に影が差し始めた。
恋しかった人肌に触れた感覚を最後に、私の意識は暗闇に落ちた。