ゼロの魔術師と異邦の旅人   作:ごった煮雑炊

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始まりの白 それは純白だった

ふと、気が付けば意味が分からない空間へ来ていた。身体は正常、五感もしっかりしていた。

しかし、白く果てが無い様な、すぐ近くが壁で有るかの様な、よく分からない感覚が気味が悪く気分的には最悪だった。

「ここは、どこっすか」

思わず呟いてしまった。誰に言うでもなく放った彼の言葉がしん、と広い空間に反響して行く。しかし、その声に帰ってくる言葉は無く、虚しく消えて行くそれに彼は言い様のない不安を駆り立てられた。孤独だ。

「おーい! 誰かいないのかっ!」

叫ぶ様にいるかも分からない空間へ声を張り上げる。だが、依然と自分の声が響くだけだった。

「なんだ、これ。夢? 夢なら早く覚めてくれ」

普段の自分からは考えられないような、弱い姿に内心恥を感じながらも、この不安感から解放されるのなら弱音も気にはならなかった。

 

「聞け、人間よ」

ふとした時、声が聞こえた。ソプラノとアルトが重なって聞こえる不可思議な声だった。その声に彼は喜々として反応した。

「あ、ああ! 聞こえる! 聞こえてるぞっ」

誰かがいた、と言う事実に喜びが隠せない彼に、不可思議な声は平坦な声色のまま言葉を続けた。

「人間よ、命を授ける。疾くとこれをなし、我を楽しませよ」

「は? なにを、言ってるんだ」

声の主は特に感情を見せる事無く、彼の言葉を無視し言葉をさらに繋げた。

「加護を与える。忌憚無く活用せよ、さもなくばお前の生は閉ざされよう」

楽しませろ? 加護を与える? 一体なんの事だ、と彼の脳内は疑問に埋め尽くされていた。

意味が分からない空間に誰とも知らない声の主、そして訳が分からず脈絡も掴めない会話。その全てが理解の範疇を逸脱していた。

有無を言わせない様な、異様な威圧感を孕んだ不可思議な声に、何も言えなくなってしまった彼は押し黙るしかなかった。

(こんなものは唯の夢だ)

内心そう決め付ける。だいたいの話、家で眠ったらよく分からない場所にいました、なんて話は空想の中だけしか聞いた事がない。

しかし、そんな彼の心を察してか不可思議な声は僅かに嘲笑を宿した声色でのたまった。

「逃避か、実に人間らしいな。たが、お前の運命は変わりはしない。予定調和、我が定めた神の理よ」

「か、み?」

掠れた声が口腔から漏れた。

神ーー眉唾ものとされながらも、人間が信じてやまない存在。そんなものと邂逅していると言う状況に彼は少し安堵した。

彼は無神論者だ。神様を信じていない。だからこそ、これは、この空間は、この威圧感は全て夢なのだと思う事が出来た。

いかに声が頭に響いて来ようと、いかに自称神様が威圧して来ようと、例え無限にこの白い世界が続いたとしても、必ず終わりはあるはすだ。朝が訪れれば終わるのだ。母さんが、もしくは妹が自分を起こしてくれるはずなのだ。

耳を塞ぎ、赤子の様に丸まってその時を待つ。彼にできる事はこれしかなかった。

しかし無情にもこの場の主であろう声が彼に言葉を紡いだ。それは、私刑執行の合図であり、物語の開幕を知らせるジングルだった。

「故に、疾くと行け」

 

 

一瞬の浮遊感、後に重力が彼の身体を引きずった。既に不思議な声は聞こえない。気配その物が感じられなかった。

白く虚無が支配していた世界からひと瞬きで、様々な色彩が訪れた。彼はその光景に目を見張った。そこは、果たして異次元空間だった。

赤、青、黄、緑、白黒の歪曲線が下へ、下へと堕ちて行く。その先は、彼が落ち行く先と同じ場所だ。彼は思案する。

あの光の先が朝であってくれ、と。夢よ覚めてくれ、と。

みるみる身体が堕ちて行く。数秒もしないうちに光へとたどり着く。彼は、徐々に眩しくなって行く視界を細めながら光を見据え、声を漏らした。

「夢が、明ける……」

そして、衝撃と轟音。後に身体が前面に冷たい感触を覚えた。息を吸えば仄かな青臭さが鼻を擽る。

少ししばしばする目を身開けば、そこは果たして芝生の上だった。

彼は困惑と悲壮に苛まれた。

夢は終わっていなかったのだ。目の前には制服らしき装束を身にまとい、魔法使い然としたマントを翻し立つ少年少女達が立っていた。

 

そしてそれは彼の知るところであった。彼がかつて読んだことがある書物の登場人物だったのだ。

「ま、じかよ」

喉が乾いて、張り付き上手く声がでなかった。

 

「あんた誰よ」

彼の目の前で仁王立ちする少女が、威圧感を滾らせながら言った。

それは彼に向けられた言葉だ。だが、しかし彼は少女を見上げたまま、微動だにせず口を開いている。その姿を見た少女は、一向に返答を返さない彼に対して苛立ちを募らせた。

「だから! あんたは誰だって聞いてるの」

少女の声色は明らかな怒気を孕んでいた。その言葉に我にかえった彼はボソリと枯れた声を漏らした。

「し、白か……」

彼の目の先に広がっていた光景、それは純白だった。

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