Blood&Guilty Extra   作:メラニン

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今回は、大人になった古城達がメイン(?)のお話です。あぁ、あとですね。原作最終巻読了後に読んだ方がいいです。まだ、本編の方で出てきてないキャラが出てるので・・・


では、どうぞ!


継承編II

 

 

MAR医療部門のゲストハウス。裏手にある出入り口は、病棟や実験棟などと直結しており、研究者にとっては大変にありがたい施設である。と言っても、ここで働く研究者は大概、この近辺に住んでおり、その為ゲストハウスを利用することは少ない。

 

 

ここを使うのは、変わり者と名高いMAR医療部門の主任研究員くらいであろう――と思われていたのだが、先のこの島の領主である第四真祖の『妃』然り、どうやら彼女の一族は総じてここを利用する様である。

 

 

「はぁ………予想はしてたけど、また派手に散らかして……」

 

 

凪沙は溜息を吐いて、リビング、廊下、洗面所、寝室、応接室の床に散らばった衣類を拾い集める。さらに、キッチンはもっと凄まじい事になっており、ゴミというゴミがうず高く積まれていた。ゲストハウスに移動した初日、まず最初に凪沙がやった事が掃除である。

 

 

現在は3月11日12:36。深森にゲストハウスへの移動を勧められた日の翌日だ。集は今日も今日とて仕事であり、いのりは検診に行っている。故に凪沙は孤軍奮闘するしか無い訳なのだが、今日は何とも頼もしい援軍が来ていた。

 

 

「凪沙ちゃん、来たわよー」

 

 

「お邪魔します」

 

 

「凪沙ちゃん、お久しぶりでした」

 

 

ゲストハウスの玄関口が開く音がして、凪沙はパタパタと玄関へ向かう。

 

 

「雪菜ちゃん、浅葱ちゃん、夏音ちゃん、久しぶり!」

 

 

そう、援軍とは自らの義姉となった女性たちであった。凪沙は事前に、ゲストハウスが下手をすれば使い物にならない様な状況であることを予測し、応援を頼んでいたのだ。それに駆け付けたのが、彼女らである。

 

 

7年前と比べ、少女から成長した彼女らは、美人な『領主の妻』として羨望の眼差しを向けられる存在となっていた。一方の、領主本人の評価は中々に厳しいものがあるのだが……

 

 

彼女たちにも仕事はあるのだが事情を知っていた、かの真祖が手伝いに行ってやってくれと頼んだらしいのだ。『夜の帝国(ドミニオン)』の領主となった現在であっても彼のシスコンは筋金入りという事なのだろう。

 

 

零菜(れいな)ちゃん達の世話もあるのに、ごめんね!」

 

 

「いえ、師家(しけ)様が預かってくれましたので。むしろ、孫と2人で遊ぶのに邪魔だから、お前は出て行けと言われました」

 

 

「あ、あははは………」

 

 

「ふふ、冗談ですよ、凪沙ちゃん」

 

 

既に母となっている彼女らは、それぞれ子供がいる。まだ年長の子でも2歳くらいであり、手が離せないような時期である。だが今回に関して言えば、それぞれ子供を預かってくれているらしく、今日1日は母親業を休みにしたらしい。

 

 

預かった側の、今日くらいは休めという気遣いなのだろう。彼女らも何となくそれは分かっていた。

 

 

「それで、今どんな状況?」

 

 

「あ、うん。床に散らかしてあった衣類関係は片付いたよ。それ以外はまだ全然だけど」

 

 

「深森さんも相変わらずね。ま、いいわ。チャチャっと終わらせて、女子会でも開きましょ?ほら、色々買ってきてるし」

 

 

「あ、それさんせー!さっすが、浅葱ちゃん!」

 

 

浅葱が手から提げている白箱を見て、凪沙は満面の笑みを浮かべる。彼女の好物である『るる屋』の箱であった。テイクアウト用のカップアイスでも買って来たのだろう。凪沙はそれを受け取ると、キッチンのゴミを掻き分けて冷凍庫へと保管する。そして、4人の女性陣は慣れた手つきで掃除を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーストーンゲートの特区警備隊(アイランド・ガード)ブリーフィングルームでは薄暗い室内の中、モニターにはある画像が映し出されていた。室内にいるのはたった3名である。だが、この島において存在が欠かせない3名であった。ただし、内1人はしょっちゅう島を空けているのだが……

 

 

「はい、じゃあ次いくよー。次はコレね」

 

 

「んん?何なんだ、コレ?」

 

 

「今、ミナミにも画像を回して解析してもらってるけど、勝手な私の見解を言わせて貰えば、少なくとも良いものではないわよねぇ。ま、誰が見ても同じ感想だと思うけど」

 

 

そこに映し出されていたのは黒々した影に、血のように赤い点が2つ浮かび上がる画像であった。その赤い点の下は暗くて分かり辛いが、おそらく牙のようなものが覗いているのだろう。その先端は赤黒くなっていた。

 

 

「今日2人を呼んだのは、昨夜コレが撮影されたからなのよ。コレが撮られたのは昨夜02:19。この島の郊外――『咎神の方舟(カインズ・アーク)』東側Y地区の倉庫ブロックでよ」

 

 

咎神の方舟(カインズ・アーク)』――この絃神島が『夜の帝国(ドミニオン)』となった原因と言っても過言ではないだろう。7年前におけるある事件で異界(ノド)より現界した、神代の遺構を積んだ土地である。中心にある絃神島本島の100倍以上という広大な面積を持ち、この『暁の帝国(ライヒ・デア・モルゲンロート)』の国土の大半を占める土地である。

 

 

そして件の倉庫ブロックというのは、最も外部に位置付けられ、7年前の騒動で破壊された兵器の類を格納しているのである。

 

 

「何たって、そんなとこなんだよ?あそこは立入禁止区域に指定してただろ?」

 

 

「けども、警備を置かない訳にもいかないでしょ?だから、MAR経由で協力してもらって警備タイプのオートマトンを配備してたのよ。それも、装備クラスはレベルⅣ。重要拠点防衛並みの装備のものを、二千機ほどね」

 

 

「にせっ――!?………何で予算に空白ができてたのか、ようやく分かった」

 

 

「まぁまぁ、そこは置いときたまえよ、領主様。フフーフ♪」

 

 

プラチナブロンドの女性――ココ・へクマティアルは薄ら笑いを浮かべ、この島の領主たる第四真祖――暁古城を揶揄(からか)う。ココの方は相変わらずといった調子であり、昔と大した変化もしていない。強いて挙げるならば、腰まであった長髪をバッサリ肩のあたりまで短く切っている事だろうか?一方の古城の方は、相変わらず気怠そうな印象は拭い切れてはいない様で、スーツ姿もまだ若干、『スーツを着ている』というよりも、『スーツに着られている』といった方がいいかもしれない。そうは言っても、彼も今はまだ23歳。世間では大学を卒業して、社会人一年目という年齢なのだから仕方ないのかもしれないが。

 

 

古城は面白く無さそうに、苦い顔を浮かべる。

 

 

「はぁ………相変わらずだな、アンタ」

 

 

「そう?これでも大分変わったと思うんだけど?ま、いいわ。話を続けるわね?………取り敢えず、掻い摘んで言うと、昨日一晩で警備のロボット二千機すべてが破壊されたわ。それはもう、完膚なきまでに、ぜ〜んぶスクラップ。結構高かったのに」

 

 

「スクラップ、ねぇ……」

 

 

「ま、貴重な実戦データが取れたって、リディには感謝されたわ」

 

 

「………オートマトンの依頼先、リディアーヌだったのかよ」

 

 

リディアーヌ・ディディエ――『戦車乗り』の異名で呼称された天才ハッカーである。古城は頭を抱え、どこか日本を勘違いしていた、語尾が『ござる』とか『候う』とか『申す』と言っていた小学生当時の姿を思い出す。と言っても、今や彼女も成長して、二十歳少し前くらいにはなっている筈である。暫く会っていないが、少しはマシにはなっただろうと、勝手に思い込む事にしておく。

 

 

「あっちはあっちで、第二真祖のところの王子様と面白いことになってるみたいだけどね」

 

 

「え、ま、待った!第二真祖んとこのって、まさか……イブリスベールとか!!?」

 

 

「ま、付き合ってる付き合ってないってのは分かんないけど、仲は良いわよね。ってか、アサギから聞いてないの?」

 

 

「いやいやいや!初耳だって!」

 

 

「あらら、夫婦仲は平気なのかしらねぇ?」

 

 

「ぬぐっ…………問題はねえよ。今のところはな」

 

 

「ふぅーん………アサギと言えば、今日はMARの方に行ってるんだって?」

 

 

「ん、あ、あぁ。凪沙の奴が1人じゃ大変だろうし。まったく、あの母親は………もうアラフォーなくせに掃除1つまともに出来ないからな」

 

 

「その辺相変わらずねぇ………で、コッチもそういう意味では相変わらず、か」

 

 

ココはそう言って、先ほどからずっと話に参加して来ない男性に視線を投げかける。それに気付くと、彼は何かをしまい込んで、視線を上げる。

 

 

「ん、何かな、ココさん?」

 

 

「…………()、そんなに携帯凝視してたって、何も変わらねえぞ?」

 

 

「…………雪菜さん達の時に、仕事を全部丸投げして、会見をポカした古城にだけは言われたくないよね」

 

 

「……悪かったな」

 

 

「あー、あの時ね。あったあった、そんなの。あの時は、桜満クンの『ハンドスキャナー』で、影武者立ててたのよね。後で聞いて、皆で大爆笑してたわよー。フフーフ♪」

 

 

ココは心底面白そうにその時を思い出して笑う。

 

 

「まぁ、心配なのは分かるけどよ。男は本当に何も出来ねえぞ?第四真祖なんて強大な力を持ってたって、ひたすら苦痛の声を聞くだけだったしな」

 

 

「けど、ずっと傍には居たんだろ?」

 

 

「まぁな。出血するくらい、爪立てられてたが本人は覚えてねえってんだから。ほらな?居たって変わらねえんだよ」

 

 

「………いやー、暁クン。そりゃ、ないわー」

 

 

「………………古城、雪菜さん達に、それは絶対言っちゃダメだよ?ホントにお願いだから」

 

 

集とココは心配そうな顔を、古城へと向ける。とっくに成人したと言っても、この辺は変わらないようだ。集もココもこの島の将来を案じ、釘を刺しておく。こうでもしておかなければ、夫婦喧嘩を始められ、島自体に甚大な被害が及びかねないのである。

 

 

片や魔族の王たる吸血鬼、さらにその中でも頂点に立つ真祖。片や異界の神気を取り込み、天使と人の境界に立ち、戦う獅子王の剣巫(けんなぎ)。もしも、力も成熟した今の彼らが本気でぶつかったらと思うと、寒気すら覚えてしまうレベルである。

 

 

普段、こういった役回りを集だけで演じているのだが、今日はココも居るため、ずっと心強かった。そういった意味でも、集はこの島になくてはならない存在であることは確実である。

 

 

「ま、とにかく!レベルⅣ装備のオートマトン全機がやられたって事は、そんじょそこらの魔族じゃない筈よ。少なくとも、吸血鬼の『長老』クラス以上の実力があると見た方がいいわ」

 

 

「………はぁ、まったく時期が悪いなぁ」

 

 

「あぁ、まったくだ」

 

 

集の嘆息混じりの苦言に、古城は同意する。声を発さないが、ココも同様だろう。

 

 

と言うのも、普段こういった魔族が引き起こした事件を担当するのは、特区警備隊(アイランド・ガード)であるのだが、それは一般的な魔族を相手にする場合である。実力が『長老』以上ともなれば、ただの特区警備隊(アイランド・ガード)の隊員では実力不足は否めず、犠牲者が増えるだけである。

 

 

その為、こういう場合には上位の実力者である攻魔師を派遣するのだが……

 

 

「サヤカは私と入れ替わりで、今はアルディギア。当然、ラ・フォリアも。ユイリーもシーオも本土での魔導災害絡みで出向中。それにドラゴン娘も付いて行っちゃうし。ナツキはナツキで、アスタルテを連れて今は本土の方だしねぇ……」

 

 

「………結構、人足りなくね?」

 

 

「何を今更……」

 

 

「ホントよねぇ………別にこの島の人材不足は今に始まった事じゃないわよ」

 

 

「まぁ、そうなんだけどよ……」

 

 

「ま!居ない事を嘆いても仕方ない!取り敢えず、対応できる人材を列挙しよっか。暁クンと桜満クンはまず確定ね」

 

 

「いや、僕今日もこれから会合――」

 

 

「矢瀬クンに頼んだから問題ないわ」

 

 

集は心の中で、最近ただでさえ心労が絶えない悪友に合掌した。つい先日も、抜けている毛が増えている気がすると相談を受けたばかりなのだ。なので、集はソッと彼のデスクの上に、毛根の再生治療のチラシを置いておいたのである。

 

 

余談であるが、彼が早速インターネットで、それについて調べた事を浅葱経由で集は知っているのだが、彼の名誉の為にも黙っておこうと密約を立てたのが1週間前である。

 

 

「あと、ユッキーと……アサギに頼むと、まーたあの戦車(タンク)、というかロボットで暴れかねないけど……あとは私の私兵くらい――あ、ダメだ。ヨナ達、今は南アジアだった……」

 

 

「あれ?バルメとレームは?昨日居たけど」

 

 

「んー、2人は居るよ。あとついでに、マオとワイリが」

 

 

「「うげ」」

 

 

「ほらねー、そうなるでしょ?」

 

 

古城も集も、表情を浮かべたのには理由がある。名前を列挙された4名の内、バルメはナイフを得意とし、レームは(おおよ)そ何でもこなすタイプなのだが、ワイリとマオに関しては違っていた。

 

 

世界を渡り歩いてきた、ココの私兵である。大抵は何でもこなすのだが、それぞれ得意分野というものがある。ただ、この2人に関しては得意分野が(いささ)か派手な部類に入るのだ。と言うのも、マオは砲兵部隊出身故に、得意なものは『砲撃』であり、もし『咎神の方舟(カインズ・アーク)』に備え付けられている大砲をぶっ放されたら、たまったものではない。

 

 

ワイリに関して言えば、爆弾魔としての一面を持っている。正確に計算高く爆発させる事ができるが、それでも市街地などで爆破などされたくはない。もっと最悪なパターンは前述の『咎神の方舟(カインズ・アーク)』に備え付けられている大砲のジェネレータにでも爆撃が命中した場合である。ただでさえ、強力な威力を持つ遺構なのだ。それが爆発するのであれば、その被害は甚大なものになりかねない。

 

 

と、この様にココの私兵が揃っていない上に、残っている人物の中に居るのが、砲兵と爆弾魔では今回ばかりは話にならないのである。

 

 

「はぁ……まぁ、事情を知ってるだけ、サポートには回ってもらうか」

 

 

「そうなるわね。って事は実質動けるのは……4人か。イノリも居ればもうちょい楽だったかもしれないけど、妊婦動かすわけにいかないしねぇ」

 

 

「そこは当たり前だろ。確か、もうそろそろ出産予定日じゃなかったか?」

 

 

「もう、過ぎてるよ。だから心配なんだ」

 

 

「あーー、そうだったのか…………じゃあ、携帯手放せないわなぁ……」

 

 

古城は自分が失言したと言わんばかりに頬を掻く。古城の方は、何やかんやあったが、出産予定日通りに産まれてきてくれたのだ。自分でさえも当日、仕事をスッぽかす程であったのに、予定日を過ぎたとあっては、その心配は増長の一途だろう。

 

 

「はぁ……いつ着信が来るんじゃないかって、不安で不安で…………心臓に悪い」

 

 

「あぁーー……その気持ちはよく分かる」

 

 

「はぁ………ここのトップ陣の男共は弱っちいわねぇ。あなた達のお相手が、気の強い子達ばかりで良かったわ」

 

 

「「…………返す言葉もないです」」

 

 

相変わらず彼らは、ヘタレである事も変わらないようである。

 

 

 

 






『俺たちのヘタレはこれからだ!』的なノリで、彼らは多分このままでしょうw


まぁ、何やかんや、嫁さんが賢いなら、カカア天下で良いと思います。


さて、いのりの出産も間近!なのに、事件!相変わらずこの島は騒動に事欠きません!w
という事で、頑張れ、古城、集!(当然、いのり達の事も描きますよ?)






ただ、現在問題があります。一つはある意味解決済みです。アヴローラの件ですね。彼女には悪いんですが、もうちょい眠っててもらいましょう。ホントにゴメンよ!!






で、もう一つ。→→→那月どうしよう!!?

という事で、今回の章は多分那月出てきません(泣)


いや、古城もさすがに女教師に手は出さな――ってか、結界から出て来れたのかな?・・・・・・


って言うわけでして、はい・・・



欠員もそれなりに居ますが、それでも楽しんで頂ければ幸いです!(紗矢華とラ・フォリアは出ます。あとで)



ではでは、また次回!

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