fate/Love story   作:厨二

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 舞台や主人公の設定は一応まとめてますけど、基本その設定が出たり活かされたりすることは少ないかと思います。


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 「ん、ぐ、ぐぅぅぅぅ!」

 

 目を見開き、彼女を何とか押し退けようとする。

 

 しかしどうやら彼女は腕を俺の首に回しているようで、まるで蛇の様に絡みついて離れない。それ以前に彼女の力は人を超えた神秘で上塗りされている訳で、もし仮に腕を絡めなくとも俺は彼女を引き離すことは出来なかっただろう。

 

 熱っぽい彼女の舌は俺の口内を貪り、それでもまだ足りないと抱き着ける力を更に強める。当然俺の体は軋みを上げ、口をふさがれているという事もあって呼吸がし辛くなる。

 

 「や、やめ―――っう、れろっっ!!」

 

 彼女は全身が毒である。

 

 それは現在進行形で俺の口内を蹂躙している彼女の柔らかい舌も例外ではない。いくら俺が毒に対して規格外な耐性を保有しているとはいえ、少しずつ、しかし確実に俺を蝕んででいく。

 

 チリチリと、俺の舌が焼けるように蕩けていくような感覚。

 

 このままこの行為を続けていたら、俺の舌は跡形もなく融けてしまうのではないか。そう思えてしまうほどソレは甘味でありながら恐ろしい感覚だった。

 

 あまりに顔が近すぎるため彼女が今どんな表情をしているか分からない。しかし厭らしい水音を立てて、夢中になって俺を貪っているのだという事は分かる。

 

 先程までは彼女を拒絶しようとした決意が揺らぐのを感じる。

 

 たかがキスの一つで、だ。どれだけ自分が安い男なのかを証明されているようで嫌気がさす。

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 どれだけ時間が経過した頃だろうか。

 

 彼女はようやく口を離すと、俺と彼女の口から一筋の液状の橋が作られる。

 

 それがぷつりと千切れたときに彼女は口を開いた。

 

 「……少しは、私の気持ちを分かって頂けましたか?」

 

 「……っ」

 

 唇を蠱惑的に舐めながら、彼女は俺の間近で少し悪戯っぽく微笑む。

 

 初めてそんな表情を見た気がした。

 

 物静かで、まるで人形の様な美しさを兼ね備えたいつもの彼女とは違った側面。笑顔と言う人並みの感情を表に出す事。

 

 分かっていたことだが、やはり彼女だって人間なのだ。しかし分かっていた筈なのに、それがどうしようもなく愛おしく思えてしまった。

 

 「……正直、気持ちが揺れ動いたよ。やっぱりキスは慣れているのか?」

 

 気持ちの整理が全く追いついていない。事実、俺の心はこれ以上ない程傾いている。

 

 だから適当な話題を振って心を落ち着かせることに努めることにした。それがどんなに情けなかろうと、今は心を静めたかった。

 

 だが、もし気持ちの整理ができたとして、果たして俺は彼女をまた拒絶できるのだろうか。

 

 「……いえ。私と口づけをした人は、皆死んでしまいますから」

 

 本当に悲しそうに俯く彼女。

 

 デリカシーのない発言だったことに今更ながら気がつく。しかし、ついさっきまで暴言を吐いて罵倒したのが誰だったのかも今更のように思い出した。

 

 励ましの言葉なんて俺が言えた義理じゃない。そんな事、俺には権利すらありはしないのだ。

 

 そんな風に諦観していると彼女は「……ですが」と気弱に続けた。

 

 「……ここまで長くした(・・)のは初めてです」

 

 『した』の部分を強調しながら、手を後ろで組んで恥ずかしそうにもじもじと彼女は腰をくねらせる。

 

 思わず、鼻血が出そうになった。

 

 「おま、いやその、恥ずかしいんだったら最初からディープキスなんてするなよ……」

 

 「いや、でしたか……?」

 

 ああ、これはヤバい。

 

 目の前で瞳をうるうるさせながら迫ってくる彼女に精神面でも肉体面でも、もはや俺に為す術はない。女の子の涙に弱いというのは、男が持つ特有の性である。

 

 だから仕方なく、両手を上げて降参のポーズを取った。ホントに軽い男だ。

 

 「……嫌なんかじゃないさ。でも、本当にいいのか? 俺は……」

 

 「……それ以上は、ダメです」

 

 彼女は人差し指で軽く俺の唇に触れて、これ以上俺が言葉を紡ぐことを許さなかった。そして、それは奇しくも俺が彼女の言を遮った時と似ている言葉だった。

 

 「……私は、他の誰でもなく、貴方がいい」

 

 そう告白してくる彼女はどうしようもなく美しかった。

 

 「……触れることが出来るからだけでは、ありません」

 

 あまりの眩しさに目を閉じたかった。

 

 いや、目を反らしたかった。

 

 「……気づいたんです、私の本当の願いを」

 

 彼女はゆっくりと俺の手を握る。

 

 初めて知った。

 

 女性の手とはここまで温かく、そして柔らかいのか。

 

 「……私は、私に触れられる人を欲していた」

 

 決意を固めた瞳。

 

 熱のこもった彼女の手が俺の手を更に強く握る。

 

 「……でもそれ以上に、私は、私を愛してくれる誰かを、欲していたのです」

 

 彼女の手を握り返したかった。

 

 だが、俺にその資格がない。

 

 彼女を愛するには、あまりにも俺は悪逆を重ね過ぎた。

 

 「……そんな顔、しないで」

 

 彼女のもう片方の掌が、俺の力の入らない手を優しく撫でるように包み込む。挟まれるような形で手を握られ、彼女の優しい言葉と行為が浸透してくる。

 

 彼女の手から言いようのない幸せが流れてくるようで本当に心地よかった。

 

 その幸福感に身を任せたい衝動を堪え、もう一度彼女に確認を取った。何度目の問いになるか分からないが、それでも確認したかった。

 

 「……いいのか? 本当に俺で」

 

 「貴方が良いんです」

 

 最早合間などなかった。彼女は確かな意思と決意を持って、俺を見つめる。俺の返答をただ静かに、ただ静謐に待っているのだ。

 

 自分を許すことは、恐らく生涯をかけても有り得ないだろう。

 

 

 

 ―――――――だが、少なくとも俺を愛してくれる彼女くらいは、信じてもいいのではないか。

 

 

 

 「……悪いな、面倒くさい男で」

 

 俺は彼女の手を握り返す。

 

 それも強く、ひたすら強く握る。

 

 「……そこも含めて、私は愛してます」

 

 俺が力の限り手を握ったことに驚きつつも、彼女は花が咲いたように微笑んだ。

 

 きっとそれは宝石なんかよりもよほど美しく、そして果てしなく尊い物だと思った。陰りなど一切なく、ただ彼女の心を表すかのように太陽の如く輝く。

 

 全く、困ったことだ。本当に素敵な少女に好かれて、愛してしまったようだ。

 

 だからその前に言っておくことがある。

 

 「じゃあ、これからは自分の事を道具なんて言うなよ? 好きな子がそんなこと言うの、本当は凄く嫌だったんだ」

 

 「……え?」

 

 心底驚いたように彼女は目を見開く。

 

 その姿はさながら小動物の様で愛嬌がある。だが、彼女が驚いたであろう理由は恐らく笑えない。だから俺は懇切丁寧に彼女に説明、というよりも諭すことにした。

 

 

 「君が今まで暗殺教団でどんな扱いを受けていたかは、何となく知っている」

 

 

 夢で、ある少女の過去を見た。

 

 兵器と言う名の『ハサン・サッバーハ』として生きることを、生まれる前から定められた運命。しかし彼女はその運命に逆らわなかった。

 

 いや、逆らえなかったという方がより正確だろう。なんせ、生まれる前から決められていたのだ。生まれていた頃には『毒の娘』として誕生していた。

 

 それからは、文字通り殺した。

 

 暗殺教団の意向の通り、ただ毒殺した。ある時は仮初の衣をまとい、ある時は意味のないそういう関係(・・・・・・)を結び、ある時はその関係を自らの手で終わらせた。

 

 成就しえない幸せを自身の手で築き、自身の手で壊す。

 

 感性が英雄の中でも比較的一般人よりと言える彼女にとって、それがどれだけ惨たらしい事で、どれだけ彼女を蝕んだかは計り知れない。そしてそれを分かってやれるのは彼女自身と、分不相応ながら俺だけなのだ。

 

 「どれだけ周りから道具として扱われてきたとしても、君自身が道具だと宣言するのは間違ってる。俺が言えた義理じゃないのは分かってるし、今更何言ってるんだと怒ってもらっても構わない。だけど……君はもう、一人の人間として幸せを謳歌してもいいんじゃないか?」

 

 本当に俺が言えた義理じゃないなと、心の中で自嘲する。

 

 しかしここで止める訳にもいかなかった。

 

 彼女の言う『道具』というのは、正しくその言葉通りの意味を示す。つまり、彼女は自身の幸せを切に求めながらも、そこに人間としての自己は介入していないのだ。

 

 一方的な愛。

 

 それは時として素晴らしくもあるが、ソレを受ける身としてはもどかしくもある。それが自分も恋している相手ならなおさらだ。

 

 「……俺は見ての通り、クソったれだ。でも、君が幸せになるためだったらこんな俺でも命も張れる気がするんだ。だからもう自分の事を道具だなんて、言わないでくれ」

 

 途中から懇願に変わっていた。

 

 「俺も君にここまで言われてやっと心を固めることが出来た。多分……俺は君の事が好きなんだ」

 

 だが、それでもいい。俺は彼女を人間として好いている。決して、従順で何でも言う事を聞いてしまうような『道具』に恋したわけではない。

 

 「……貴方は……私を?」

 

 ふと、戸惑いと喜びが入り混じった、そんな複雑で上ずった声が聞こえた。

 

 何かやらかしてしまったかと、俺が彼女の方へ顔を向けようとする。すると次の瞬間には、十数分前みたく視界が一面真っ黒に塗り染められた。

 

 ただし、今回はキスではなかった。彼女は何か面積の大きいモノを押し付けてきたのか、俺の顔面全体が程よい大きさの柔らかくてあったかい二つの弾力に包まれ…って。

 

 え?

 

 「え?」

 

 「見ないでっ!」

 

 いや、見ないでも何も、俺全く何も見えないんだが。

 

 というか、もしかしなくともこの弾性力のある二つの物体って……。

 

 嗚呼、やばい、鼻血が出そう。

 

 「……今、この顔を、見らたくありません……っ」

 

 なんてこった。

 

 今まで見たことが無いくらい彼女が焦っているのが分かる。それもかなり可愛い。何も見えないが、声で分かる。

 

 雰囲気が雰囲気なだけにそんな事思っても言えないが、それでも気を緩めると色々口走ってしまいそうなくらい愛らしい。

 

 「……少し、落ち着くまで、こうしててもいいですか?」

 

 俺がどう反応しようかと模索している最中に、彼女は涙ぐんでいるのかやはり上ずった声でそう聞いてくる。しかし今度は戸惑いの色が消えて、驚くくらい歓喜しかない声音だった。

 

 そんな言い方は卑怯だ。

 

 頷くことしか出来ないじゃないか。

 

 




 次回を早く見たいと少しでも思ってくれる物好きな方がいらしたら、ぜひとも感想欄にコメントを書いてみてください。
 もしかしなくとも作者のモチベが上がります。それもかなり。
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