fate/Love story 作:厨二
夢の様なひと時と言っても過言ではなかった。
俺の頭は丁度彼女の胸部あたりで抱きかかえられている。豊満とはいかなくとも、彼女の体形に合った適度な大きさと質感のある女房が俺の顔面を包み込む。
息苦しくて俺が頭を動かすと、くすぐったいのか彼女はくぐもった声で喘ぐ。ちょっと調子に乗って同じこと続けていると、
「……だめ」
と恥じらうように囁いて、抱き着ける力を強める。お陰で更に息継ぎが難しくなったが、その代わりに何とも言い難いやわらかい感触も強くなる。
改めて文字にすると凄い状況だな、これ。
そんなこんなで、時間にしてもう十数分ほど経過したような気がした。全くもって不可解な状況だが、彼女は俺を離そうとしないのでどうしようもないし、俺もどうする気もなかった。
寧ろこのままでいい。
「……マスター」
「ん?」
彼女がとても困ったような声音で俺を呼ぶ。それがまた途方もなく愛おしく感じられ、先程まで拒絶しようとした思いなど地平線の彼方まで消えていた。
現金な奴だなぁと思いつつも、彼女の魅力に当てられてしまったのだから仕方がないと言い訳をしておく。それだけ彼女は魅力的で、かわいい女の子なのだ。
「……私、その、幸せ過ぎて。どうすれば、いいのか、分からなくて、その……」
うーわ、これはヤバいな。
ジャーナリストという職業柄、俺は様々な人間を見てきた。例を挙げると、俺のお財布事情に目を付けた金の亡者や、或いは金を落としていけとせがんでくる売春婦などだ。生きるのに必死とはいえ、碌なのいねぇな。
さて、そういった人間に共通しているのは、もの凄くあざといという事だ。自分の容姿を最大限引き出すような化粧、もう少し練度が高い人間になると立ち振る舞いなども洗練されてくる。
彼女もどちらかというと色欲を刺激してくる暗殺者であるため、そういった
しかし、この時ばかりは違った。
色っぽい計算など億尾も見られず、しかしこちらの理性を的確に削ってくるような言葉を無意識でチョイスしてくる。声が煽情的なのも相まって、気を少しでも緩めてしまえば俺は彼女を押し倒してしまうだろう。だからヤバいのだ、主に俺が。
まぁ要するに、この子マジでかわいいってことだ。
「じゃあ、一緒に外に出ないか?」
「……え?」
俺の提案に彼女はか細い声を発した。
今彼女がどんな顔をしているのか見たくてたまらない。無論、胸に顔をうずめているのも(強制的にではあるのだが)物理的にも精神的にも最高に良い。
だが、戸惑っているであろう彼女の表情を見てしまったものなら、俺はきっと彼女をもっと好きになれる。その確信がある。
「肌を露出しないような服を着てさ、それで街中を特に目的もなくウロウロしようぜ。何の意味もないかもしれないけど、それはきっとすごく楽しいと思うんだ」
贖罪の意味を兼ねて、とこれは心の中で呟く。
俺は彼女に対して酷い事を言ってしまった。そして、それは謝罪して済むようなことではない。ちょっといい雰囲気になって誤魔化すような形になっているが、俺はそのことを決して忘れてはならない。
「……で、ですが」
「だめか?」
彼女がここまで戸惑っている理由は分かっている、分からない筈がない。
街中で誰かとぶつかってしまえば、たとえ厚着であったとしてもその誰かが死ぬかもしれない。そして彼女は理由のない殺害を嫌う。外を出歩くのを忌避するのは当然の事だ。
それに今は聖杯戦争の最中でもある。昼間とはいえ敵の襲撃がないとも言い切れないし、自身の工房で籠城しながら夜を待つのが上策であるのは間違いない。
しかし、それでも俺は彼女とデートしたい、超したい。対策もしっかり考えてある。
俺をその気にさせた責任はきっちり取ってもらう。
「嫌だったら仕方ないね。でも俺はアサシンとデートしたかったなー、絶対楽しいだろうになー」
そんな風に露骨に煽ると、彼女の抱き寄せる力が弱くなる。
俺は一旦離れて、すぐさま彼女の両肩に手を置いて真っ直ぐ見つめる。すると想像通り彼女は茹で蛸の様に頬を朱色に染めており、ぷいっと顔を背けた。
心の中で被虐心が顔をのぞかせてきたがすぐに引っ込める。流石に今の彼女もそこまで心の余裕がないだろう。その証拠に彼女の身体は硬直していて、瞳も忙しなくこちらを見ては反らしている。
それでも負けじと見つめ続けていると、しばらくして彼女の視線は地に落ちた。何ならぷしゅーっていう効果音もついたくらいだ。
「……マスターは、ずるい、です」
耳までも真っ赤にしてそんな抗議の声を漏らす。もじもじと体を揺らすその姿は、文句の付けどころのないくらい純粋な少女である。
正直ここまで初心な反応をするとは思わなかった。これは誤算だが、どちらかと言うと嬉しい。
最終的にデートでリード、つまりエスコートするのはいつだって男だ。俺はどこまでも情けない奴だが、それでも少しくらい男らしくはありたい。
「それは肯定と受け取っていいのかな?」
少しキザっぽく告げたが、彼女はやはり真っ赤にしながらコクコクと首を縦に振る。
何この子、純情過ぎてかわいい。
「大丈夫だ。しっかりアサシンの身体の対策は考えてるから」
うわ、文字にするとかなり卑猥だな。そんな風に考えてしまうのは俺が変態だからか。
とはいえ、当然のことながら彼女は俺の様に心は汚れていない。故に俺の言葉をその意味通りに受け取り、顔をぱぁっと明るくさせてははにかむ様に微笑んだ。
「……その、では、よろしく、お願い……します」
うーわ、これはヤバいな。何がやばいって、かわいすぎるのが何よりもやばい。
俺のボキャブラリーのなさに絶望する。語り手が違ったらもっと詳細に彼女のかわいさを表現できるというのに。俺じゃあただ彼女をかわいいとしか言えない。
☆
「……その、マスター。これは、一体……」
「ん?」
ここはとある街中。都心と比べたら些か見劣りするものの、それでも人はかなりいる。とはいえ、俺は人の少ない時間帯を狙ってこの街中にきているため、それなりには落ち着いている筈だ。
照りつける太陽は鬱陶しく、人が多くいる事もあって軽いヒートアイランド現象が起きているのではないかと錯覚する。要するに春であるというのに暑いという事だ。
さてそんな中、街中でもひと際人目を引いている一組の男女がいる。というか俺とアサシンである。
いや、注目を集めているのは正確にはアサシンの方である。
「やっぱり、うん。すっっごく似合ってるぞ」
そう、実はついさっき彼女をファッションコーディネートしたのである。因みにコーディネートしたのは俺ではなく、ちょっとした高級服屋の店員さんである。
服装は上から順に黒のハイネックに薄い紫のミニスカート、そしてパンストにヒールと言った具合である。
流石はプロだ。俺達の『肌を極力露出しない』という要望に応えつつも、彼女の魅力をしっかり際立たせている。因みに俺が一番のポイントだと思ったのは、ハイネックの袖が少し長くて若干萌え袖気味になっているという事だ。
「……え、あ、いえその、ありがとう、ござます……」
やばいわー。
この子ごっつ愛らしいわー。
最初は彼女は私服に(何故か持っていた)白いワンピースを着ていた。それもものすごく彼女に似合っていたが、現代色に染まった今のファッションも滅茶苦茶素敵だ。
しかも最後の方は言葉がたどたどしくなって上手く喋れてない。やばいわー。
「やっぱりアサシンはかわいいね」
俺がそう言うと、彼女は顔をほんのり紅く染める。何とか無表情を貫こうとしているのだろうが、対人スキルが高いと自負している俺にははっきりと羞恥を抑えようとしているのが分かる。
「さて、アサシン、次はどこに行きたい? 腹は……サーヴァントだから空くわけがないか、うーん」
エスコートすると言ってこの様だよ。
俺が結構真面目に悩んでいると、彼女は俺に近寄って手を握ってきた。それもただの手繋ぎではない。恋人同士がするような指を絡めるアレである。
「……私の事は、ジールと、そうお呼びください」
相当恥ずかしいのか、真っ直ぐこちらを見ずに俺のいない方の斜め前を見ながら告げてくる。しかし、俺の反応も気になっているようで、チラッチラと彼女の瞳は時折こちらを見てくる。
「それは君の本当の名前?」
「……はい、祖国では『影』という意味も、ありますが」
成程、どういう意味で彼女に名付けたのかは知らないが、確かに彼女の雰囲気に似合った名前だ。
「そうか、なら俺が拒む理由もないよな。ジール?」
「……」
やだ、かわいい……
ぷしゅぅーと音を立てて、彼女は無言で完全に地面に俯いてしまった。いや、実際にはそんな音など流れてないのだが効果音は大事である。
「大丈夫かジール? いや、やっぱりアサシンって呼んだ方がいいのか?」
「……それには、及びません。引き続き、そのままで、お願いします」
そして立ち直りも早いと見せかけて、まだ恥じらっていると来た。しかも手だけはしっかりにぎにぎしてくるし。
これはもういじめてくださいと言わんばかりだな、おい。俺はそんな事はしないけどね、自他ともに認める最低な男だけど。少なくとも今の内はしない。
「ん、分かった。で、ジールは何処に行きたい?」
「……っ」
わーお。
名前を呼ぶだけでここまで反応がするのか。その内慣れてしまうだろうから、今の内に彼女の恥ずかしがる姿をしっかり目に焼き付けよう。後でからかうネタにもなりそうだし。
いじめないといったな、アレは嘘だ。
「ジール? どうした、まさか具合が悪いのか? 大丈夫か、ジール?」
「~~~~~~っ!」
彼女が羞恥で震えているという事を敢えて知らないふりをして、ちょっと露骨なくらい名前を連呼する。彼女はどうも暗殺者とは思えないくらい初心なきらいがあるから、こういう攻めはめっぽう弱い。
前にしてきたキスやハグなどの行為は迷わず出来るというのに、手をつないだり名前を読んだりするとこうやって恥じらう。成程、これがジャパニーズギャップ萌えというやつか。
この言葉を考えた日本人は最高にクレイジーだが、ソレ以上に最高にジーニアスだぜ。
「……マスター、やっぱり、その少し……」
「だーめ、ジールがそう呼んでって言ったんだから。自分の言葉にはしっかり責任を持たないとね?」
我ながら意地悪だなーと思いつつも、彼女の手を強く握り返す。すると彼女は「……あ」と消え入るような、そんなか弱い音を漏らす。
さっきからどうも被虐心を刺激するようなことばっかりするな、この子は。しかも無自覚。そこが愛らしくてかわいくて、どうにかなっちゃいそうだ。
ああ、そう言えば彼女が好みそうなアレが沢山ある所がここらにはあったな。
「それで、ジールはどこか行きたいところでもある? もしないなら一つ、ジールに連れていきたいところがあるんだが。どうするジール?」
相変わらず俺がジールと連呼しながら問いかけると、彼女はこちらには振り向かず「……お任せします」とどこかつんとした雰囲気で呟いた。
長年ジャーナリストに身を置いていたから分かる。かなり分かり難いが、彼女は怒っている。いや、というよりも拗ねているのか? 頬もよく見ないと分からない位膨らみを帯びている。
何にせよ、その心当たりがありまくるから何も言えない。これからは少し自重しようと心に決めて、彼女の手を引いた。
公共の乗り物を使うのは
「っと、その前に、あったあった。ちょっとここで待っててくれないか? 少し飲み物を買ってくる」
「……え? あ、はい」
俺は彼女の返事を半ば待たずに、急いで大通りから離れて自販機に向かう。後ろを振り向いて、彼女が空を手をかざしながら見ているのを確認する。
「……
魔力が体に浸透してくるのを感じる。魔力に方向性を持たせ、特に右手に貯める。
「我が祖にはスパマルズ、穿て、『フィンの一撃』よ」
手で銃の形を作り、銃口にあたる人差し指を俺たちを
「BANG」
音速を持って病の槍が鳩を貫く。重力に従って、絶命した鳩は地面に落下したのを確認した。
距離にして約1キロ。千里眼がなければ見えないであろう距離だ。
「……全く、無粋な奴だ」
今のは間違いなく他の陣営のマスターの使い魔である。聖杯戦争の最中であるのだから、当然といえば当然である。何故監視されていたのに気づいたのかと言うのは、説明が長くなるので省かせてもらう。
ただ少なくとも今言えるのは、今彼女には自身がサーヴァントであるという事を忘れる位楽しんでもらいたいという事だ。
自販機でコーラ二本を買い、また彼女の下に戻る。
「おう、待たせたな」
デートは、まだまだこれからである。
頑張った、頑張ったぞ俺はっ!
色々おかしな点はあるかと思いますが、その時は誤字報告をお願いします。
そして出来れば感想もくださると、やる気が出ると思います(感想乞食