インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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第一話 入学した高校の生徒が私以外男子な件

時は四月。日本の心の花、桜がピンク色の花弁を木の上で揺らし、ものによっては散り始めるという命の儚さと情緒を伝え、人は卒業という別れの儀式を終えて入学という新たな出会いの儀式が行われる月。

 

「全員揃ってるねー。それじゃあ、SHR(ショートホームルーム)を始めるよー」

 

黒板の前、教壇に立ちにこにこと微笑んで青年がそう言う。

 

「まずは自己紹介からかな。僕はこのクラスの副担任、佐藤(さとう)兎沙(とさ)だよ。皆、一年間よろしくね」

 

そう言いながら黒板型ディスプレイに手をかざすとなるほど、「佐藤兎沙」という名前が表示される。にこっ、とやや首を傾げながら自己紹介の見本のように名前を名乗る青年――佐藤兎沙、教職につく年齢の男性にしてはちょっときついものがありそうな所作だが、ともすればまだ高校生どころか中学生に見えそうな体躯に、サイズが合っていないのかだぼだぼのスーツ、そしてやっぱりサイズが合っていないのかややずれている大きなメガネのせいで幼く見え、結果的に可愛らしい動作がやけに似合っていた。

 

『…………』

 

しかし教室内はやけに緊張感に包まれており、佐藤先生の挨拶に返す言葉はどこからも出なかった。

 

 

 

(……どうして、私はここにいるのだろう)

 

少女は自問自答をする。しかし答える声は何もない。別に彼女はテレパシー能力を持っている超能力少女でもなければ幽霊や精霊や神のような人外と会話が出来る魔法少女でもなんでもない。口から声に出さなくては自分の言葉が誰かに伝わるわけがない、当然の話である。少女はそう考えて首を横に振り、同時に彼女の短いポニーテールがひょこひょこと揺れる。

 

「え、えーと、じゃ、じゃあみんなからも自己紹介を始めようか? その、出席番号順で……」

 

(何故、私はこんな事になっているのだろう……)

 

わたわたと両手を動かしながら自己紹介をしようと言う佐藤先生を結果的に無視する事になろうとも、彼女は自問自答を繰り返す。答える声は何もなく、自分でも答えが出せるはずがない。そんな袋小路に閉じこもるために。

そうでもしなければ出席番号の関係上最前列ど真ん中という一番目立つ席に座っている自分の背中を射抜かんばかりの視線に耐えきれそうにない。だから彼女は自問自答という名の現実逃避を繰り返す。この教室の生徒の人数総勢三十人、その中で自分一人だけが女子、残り二十九人は男子だという現実からも逃げ出すために。

 

「……さん? 織斑壱花さん?」

 

「ふひゃいっ!?」

 

しかし目の前から声をかけられたら無視するわけにはいかない、というか目の前に人が来ていたこと自体気づいていなかった少女は驚いたように声を裏返す。

 

「ごっ、ごごご、ごめんなさいっ! で、でもあのその、今、自己紹介中で、次は織斑さんの番なんだ……だ、だからその、ごめんね、自己紹介を……」

 

声をかけてきた青年――佐藤兎沙はぺこぺこと頭を下げて謝りながら少女にお願いするように言う。近くで見たらやはり小さく、今日から女子高生であるこの少女よりさらに背が低い。それに整っているがやはり童顔でかっこいいよりも可愛らしいという方が似合う顔立ち、色白の肌に赤い目はまるで兎を思わせる。しかしその目には涙が浮かんでおり、少女はキュンと母性本能を刺激されてしまう。

 

「だ、大丈夫ですよ? ちょ、ちょっとその、考え事をしてて、ごめんなさい」

 

「ほ、ほんとですか? じゃ、じゃあ自己紹介をお願いしますね」

 

そう言い、佐藤先生はたたたっと教壇に戻っていくと、自前で用意していたらしい踏み台にぴょんっと飛び乗って教壇から顔を出す。やっぱり可愛らしいなぁ、と少女は思いながらくるっと振り返る。

 

(うっ……)

 

そして硬直した。先ほどまで自分の背中を射抜かんばかりに来ていた視線を目の当たりにする羽目になっていた。いや、正確に言うならば射抜かんばかりの視線ではない。だが、わざとらしく視線を落としたり逸らしたりしつつチラチラと見てきている。お年頃の少年ならばしょうがないと言えるかもしれないが、逆にうっとうしいと彼女は感じた。

 

(……とっとと終わらせよう)

 

そんな思考が頭の中をよぎり、彼女はすぅふぅと小さく呼吸をするとにこっと微笑んだ。

 

織斑(おりむら)壱花(いちか)です。皆さん、一年間よろしくお願いします」

 

中学時代バイト先(中学は校則でバイト禁止だったため中学時代同級生の実家の中華料理店&定食屋の手伝い(お小遣い&賄いという名の夕食付き)で押し通した)のホールで老若男女相手に鍛え上げた営業スマイルを駆使した挨拶。それを受けた男子達は顔を赤らめてうつむくが、しかしやはりちらちらとした視線は止まない。まだどこか期待を見せていた。

 

(えぇ~……)

 

困ったように心中で呟くが、ちょっと頬が引きつっただけで営業スマイルは崩さない。しかし自己紹介でどこまで言えばいいのか分からず、彼女は一瞬固まった後、思い出したようにちらりと視線を斜め横に向ける。その先にいる黒髪をポニーテール風に結っている少年と目が合うが、彼はすっと目を逸らした。

 

(ソウちゃんの薄情者ー!)

 

貴様それが六年ぶりに感動の再会を果たした幼馴染への態度かいや入学式では気づかず席順を見て初めて気づいたからまだ話しかけてすらいないんだけどここは男らしく助け船の一つでも出してくれたっていいのではないか。と視線で訴えかけるが彼は窓の外に目を向け、小鳥のピーチクパーチクという合唱を清聴していた。そんな事をしている間にも男子達からの期待のこもった視線が強くなっていく。

 

(うぅぅ~……ほんと、なんで私こんな所にいるんだろう……)

 

心の中で涙目になりながら少女――織斑壱花は再び現実逃避として何故今ここにいるのかを思い返し始めた。

 

 

 

時間は二か月ほどさかのぼることになる。だがその前に、まずは壱花が入る羽目になってしまったこの学園――IS学園の設立意義とそこで学ぶものについて説明をした方がいいだろう。

インフィニット・ストラトス、通称IS。あらゆる環境で動くことが可能なマルチフォーム・スーツ、要するに人間が直接着込む強化武装(パワードスーツ)のようなもの。その攻撃力、防御力、機動力は圧倒的としか言いようがない。なにせ日本に飛来した二千発のミサイル全ての撃墜、平和条約全てを無視してすっ飛んできた世界各国の軍艦や戦闘機の無力化を剣一本のみ使用の上に無傷でやってのけ、挙句の果てには全てのレーダーで捕捉できない完全なる隠蔽(ステルス)機能を見せていたのだ。当時の現行兵器全てを超越したと言っても過言ではない。

そのスペックから『兵器』として運用され、しかしその圧倒的な戦闘力のため現在はISの軍事目的での運用は国際条約で禁止。各国の思惑から現在は『スポーツ運用』という形で落ち着いているが、そのスポーツに使用するのはバットやグローブやボールではなく剣や銃などのそれこそ兵器であり、その運用法を学びIS操縦者を育成することがこのIS学園の設立意義である。

 

(しかも牽制だろうとはいえ普通に国防の要とかの扱いになってる国もあるし、結局のところ軍事運用禁止は建前に過ぎずこのスポーツとやらが戦争代わりになっちゃってるんじゃないのかなぁ。クリーンな戦争ってやつ?……っとと、思考が逸れちゃってた)

 

壱花はいつの間にか自分が何故IS学園に入学する羽目になってしまったかではなくIS学園設立理由からISの運用についての是非を考えてしまっていた。

改めて二か月前、当時中学三年生だった壱花は高校の入試を受けるために入試会場へとやってきたのだが、その受験会場である公共施設で迷子になった挙句に迷い込んだ先がIS学園の入学試験会場。そこに置かれていたISを興味本位で触ってしまうと何故かISが起動。それだけで済んだならまだしもパニックになっていたところを目撃されて天地がひっくり返ったかのような大騒ぎに発展、織斑壱花の名前は、世界中に流れることになったのだ。

 

(世界で唯一、ISが使える女の子として。ね)

 

言い忘れていたがISは男性しか使えない。何故かは不明、開発者は行方不明になっており、ISは大部分がブラックボックス、解析が進んでいないのが現状なのだ。

だから織斑壱花はIS学園へと入学する事になった。世界で唯一ISを使える女子としてデータ解析のため、そして彼女を狙う可能性のある悪意からの保護のために。この男性しかいない学園の中に唯一の女性として。

 

 

 

(結局私、巻き込まれただけだよね……いや、IS触っちゃったのは私の不注意としか言えないけど……)

 

とりあえず、今度束お兄ちゃんに会ったら一発無言の腹パンでも入れよう。そう心に決め、壱花はうんと頷いて、すっかり忘れていた自己紹介の続きを、期待に満ちた視線で見てくる男子達に向けて口から発する。

 

「以上です」

 

がたたんっと数名の男子がずっこける。だが壱花は華麗にスルーして席についた。

 

「アホか」

 

「へみゃっ!?」

 

べしっという音と共に額に走る小さな痛み。突然のそれに壱花は目をバッテンマークにして怯み、元に戻った目で前方を確認。そこにはいつの間にか黒いスーツを着た何者か――佐藤先生ではない。何故ならぶかぶかどころかびしっと着こなしているのが分かるから――が立って自分に右手を開いた状態で向けており、壱花は席に座ったまま顔を持ち上げて相手の顔を確認する。

 

「お前は自己紹介もまともに出来んのか?」

 

「ち、千雪(ちゆき)お兄ちゃん!?」

 

長身に吊り目、黒色の髪はきっちりとした短髪に整えられている。その男性、兄の姿に壱花は驚いたように声を上げる。

 

「馬鹿者。ここでは、織斑先生と呼べ。お兄ちゃんと呼んでいいのは二人きりの時だけだ」

 

「どうしてお兄ちゃんがここに!? 自力で就職を!?」

 

「失礼なことを抜かすな!」

 

「へみゃっ!?」

 

再び仕置きの一撃、デコピンが壱花のおでこに突き刺さる。

 

「織斑先生、会議は終わったんですか?」

 

「ええ。佐藤先生、クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

爽やかな笑顔で謝罪する千雪に兎沙は「これでも副担任ですから、これくらい当然です」と言って自慢げに胸を張る。それを余所に千雪はツカツカと正面の教卓の前へと歩みを進めると真正面からクラスの全体を見渡した。なお兎沙の使っていた踏み台は横によけられている。

 

「諸君、俺が織斑(おりむら)千雪(ちゆき)だ。お前達を一年間で使い物になる操縦者へと育てるものだ。俺の言うことはよく聞き、よく理解し、実践しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。俺の仕事は弱冠十五歳を十六歳までの一年の間に鍛えあげることだ。逆らってもいいが、俺の言うことは聞け。以上だ」

 

圧倒的な暴力宣言。壱花は心の中で「うひゃー」と声を漏らす。

 

「す、すごい重圧だ……これが“アーサー王”、織斑千雪……」

「さ、逆らえない。これがカリスマランクBクラスということか……」

「ま、まて。さっき織斑さんはお兄ちゃんって……つ、つまり……」

 

担任からの挨拶の中でも千雪からは重圧が放たれており、男子達がざわつく。するとその中の一人が何か重要な事に気づいたように声を漏らし、それを聞いたのを合図にしたかのように千雪は再び口を開いた。

 

「ああ、言い忘れていたな。もう分かっていることだが、このクラスには、女子が一人だけいる。それについて一つだけ注意しておこう」

 

その瞬間、千雪の持つオーラが変わる。ただでさえ強かった重圧に威圧感が加わり、さらには殺気が放たれる。ガラスがビリビリと揺れ、小鳥の合唱がストップする。

 

「決して、問題を、起こすな。もし彼女に手を出した場合、社会的な制裁はもちろん――」

 

一言一言を相手に噛みしめさせるように重々しく言い放ち、さらに言葉を続けようとした瞬間、千雪の放つ殺気がさらに大きくなる。ガラスにびしり、とヒビが入った。

 

「――妹を傷つける者は、兄である俺が許さん。肝に銘じておけ」

 

あんた教師じゃねえのか、それ公私混同じゃね。そんなツッコミを入れられる勇者はこの場にはおらず(唯一入れられそうな兎沙は完全に涙目になって教室の隅っこで震えていた)男子生徒達は顔を青くして頭を縦に全力で揺らし、世界最強のお言葉を魂に刻み込む。

 

(……お兄ちゃん、大事にしてくれるのはいいんだけど……やりすぎ……)

 

そして壱花は昔から自分の事になると血の気が多すぎる兄に、冷や汗を流しながら心中でツッコミを入れたのであった。




初めましての方は初めまして、こんにちはの方はこんにちは。カイナと申します。
いやー最近、IS小説で男女逆転や性転換ものとか多すぎませんか?(褒め言葉)
これ、キャラ設定だけは大分前から思いついてはいたものの、ストーリーが思いつかないのに加えて4kibou様連載の「俺の友達が美少女になったから凄くマズい。」のいちかちゃんがいちかわいいすぎてこれ以上可愛いいちかちゃんなんて書く自信がないと諦めてました。けど、他にも色々男女逆転ものや性転換ものを読み進めている内に書きたくなってしまって投稿いたした次第にございます。

ということで諸注意を。僕ぶっちゃけ、一夏と第一期登場ヒロインメンバーの設定しか考えられていない、つまり例えば楯無や簪はキャラ設定すらまだ存在していません。なので多分これ、続いたとしても福音戦までです。アニメでいうと第一期までで終了です。さらに言うと鈴編まではストーリー多分どうにかなるんですが、シャルロット&ラウラが現状問題です。鈴までは男女逆転しててもまだどうにかなるんですよ。でもシャルロットとか女装して学園に潜入して女の子と同居するという変態になっちゃうし、ラウラは女に嫉妬して暴力振るうやばい男になっちゃうし……この二人難産過ぎる……。(汗)

とまあそんな感じでして。投稿ペースは不定期な自分の作品の中でもさらに投稿が遅くなる可能性が高いですが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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