インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

13 / 31
第十三話 ガール・オア・ボーイ?

「ええとね、壱花がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだと思う」

 

「そ、そうなの? 一応分かってるつもりだったんだけど……」

 

土曜日の午後、第三アリーナ。壱花は普段のメンバー+シャルロットで実習に励んでいた。

現在はシャルロットが説明を行っており、その言葉に壱花が困ったように首を傾げる。

 

「私の見たところだと、知識として分かってるって感じかな。間合いの詰め方が甘いっていうか」

 

シャルロットがそう説明を続け、「壱花のような近接格闘機体だとより深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ」とアドバイス。「特に壱花の瞬時加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃう」と続けた後、「でも瞬時加速中はあんまり無理に軌道を変えたりしない方がいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折とかしたりするからね」と忠告で締めた。

 

「そう言えば、壱花の“白式”って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

「うん。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域(バススロット)が空いてないみたい。だから量子変換(インストール)は無理だって」

 

続けてシャルロットは白式の武装について確認。それに壱花は首肯で返した。

 

「それについては恐らくだが、単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)に容量を裂いているのが原因じゃないだろうか」

 

「ああ、やっぱり」

 

すると一緒に訓練をしていたセシルがそう仮説を立て、シャルロットもそれに同意するように頷く。

 

「単一使用能力って、ISと操縦者、両方の状態が最高の相性を引き出せた時にのみ自然発動する能力のこと。で合ってたっけ?」

 

「そうそう。そして、普通なら第二形態(セカンド・フォーム)から発現するのが殆どなの。しかも、それでも発動しない機体の方が圧倒的に多い」

 

「だからそれ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型兵器。僕のブルー・ティアーズやレンの衝撃砲がそれに当たる」

 

壱花が確認を取るように聞くとシャルロットが補足、セシルがそう締める。

 

「という事は、私の単一使用能力って――」

「零落白夜。当然だろ?」

 

壱花が再び確認を取るように言おうとする言葉を遮り、蓮が彼女の単一使用能力の名を唱えた後、両手を頭の後ろに回すようなポーズを取る。

 

「にしてもチートだよなぁ、第一形態で単一使用能力持ちとかさ。んな前例あったっけ?」

 

「いや、俺の知る限りではない。しかもその能力は千雪さん……織斑先生が使っていたISと同じはずだ」

 

織斑千雪、初代“アーサー王”と名高い世界最強のIS使い。その単一使用能力と同じ能力を壱花が開花させた。その事実に総司が何か考え込む様子を見せる。

 

「でも、私とお兄ちゃんって兄妹だし。そういう事もあるんじゃないの?」

 

「いや、ありえないよ……ああいや、もちろん根拠なく否定できるわけじゃないけどね。ISと操縦者の相性が重要だから。いくら再現しようとしても意図的にできるものじゃないの。だから兄妹だからっていうのは理由としては弱いかな」

 

「なるほどね……ま、今は考えててもしょうがないんだし。それは置いておこうか」

 

「あ、うん。そうだね。じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか。はい、これ」

 

「え? 他の人の装備って使えないんじゃないの?」

 

「普通はね。でも所有者が使用許諾(アンロック)すれば登録している人全員が使えるの。今一夏と白式に使用許諾を発行したから、試しに撃ってみて」

 

「う、うん」

 

そう言い、シャルロットは五五口径アサルトライフル《ヴェント》を壱花に渡すと、恐る恐る構える彼女の後ろに回って構えをアシストし始める。それからしばらくシャルロットにアシストしてもらいながらの射撃練習が始まる。

 

 

 

 

 

「そういえば、シャルロットのISってリヴァイヴなんだよね? 佐藤先生が使ってたやつと大分違うように見えるんだけど……本当に同じ機体なの?」

 

「うん、私のは専用機だからね。かなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前はラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ。基本装備(プリセット)をいくつか外して、その上で拡張領域(パススロット)を倍にしてあるんだ」

 

「倍……そりゃまた随分な拡張だね……ちょっと分けて欲しいくらいだよ」

 

ヴェントが弾切れになるまで射撃練習を続け、それが一段落して小休憩を取っている時。突然壱花がそう質問するとシャルロットは自分のISを見ながらそう説明した。それを聞いた壱花が唇を尖らせるとシャルロットもあははと苦笑を漏らした。

 

「あはは。あげられたらいいんだけどね。そんなカスタム機だから今量子変換(インストール)してある装備だけでも二十くらいあるよ」

 

「うーん、ちょっとした火薬庫見たいだね」

 

シャルロットの言葉に壱花は腕を組みながらそう声を漏らす、その時だった。

 

「ん?」

 

突然、アリーナが騒めき出す。

 

「おい、ちょっとあれ」

「嘘だろ、ドイツの第三世代だ」

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

アリーナ内の男子達がざわめき出し、壱花を始めとしたメンバーはざわめきの強い方を向く。そこにいたのは黒いISを身に纏ったラウルの姿。

 

「おい」

 

ラウルは冷たい、見下すような瞳で壱花を呼ぶ。正確には名前を読んでいないものの壱花を見据えている事から壱花を呼んでいるという表現で間違いはないだろう。

 

「なに?」

 

それに壱花も相手を睨み、どこか不機嫌そうに返す。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。なら話が早い。俺と戦え」

 

「いやだ。理由がない」

 

「貴様にはなくとも、俺にはある」

 

「あっそう」

 

ラウルの言葉を壱花は一蹴。しかしラウラは殺気を放ちながら声を上げ、それに壱花は苦虫を噛み潰したような表情で声を漏らした。彼の殺気、その理由。それは壱花には痛いほど分かる。ドイツ、千雪、そして壱花。その密接な関係。

始まりは第二回『モンド・グロッソ』の決勝戦。たまたま用事があって帰るのが遅れてしまい、夕暮れ時に一人で下校していた壱花は何者かに誘拐された。その彼女を救出したのは千雪だったのだがそれが原因でその決勝戦は棄権せざるを得ず、結果大会の二連覇を果たすことはならなかった。

と、ここまでだとドイツは関係ない様に思えるがこの時に誘拐された壱花の監禁場所など、事件の全容を独自の情報網により大体把握していたドイツ軍が千雪にその情報を渡しており、その借りによって彼は一年ちょっとドイツ軍IS部隊の教官をしていたというわけである。

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえたことだろうことは容易に想像できる。だから、俺は貴様を……貴様の存在を認めない!」

 

「……」

 

ラウルの殺気塗れの言葉に壱花は黙り込んでしまう。千雪のISの腕は間違いなく世界一、兄妹の欲目もあるが世界最高の兄が大会二連覇を果たすのは間違いない。と彼女も確信していた。だからこそ、自分を恨むラウルの気持ちもよく分かる。そして同時に、千雪の教え子ということ以上に、彼を慕ってくれていることは心から嬉しく思う。

 

(お兄ちゃん、結構気難しいからあんま人に好かれないからなぁ……)

 

壱花はそう回想。そんな彼をここまで慕うのは多分自分や総司を除けば彼が初めてではないだろうか、とも思う。

 

「……また今度ね」

 

だけど、だからこそ戦いたくはない。ラウルの気持ちはよく分かるけれども、それはそれこれはこれ。というように壱花はラウルに返答した。

 

「ふん、ならば――」

 

その返答が気に入らなかったのか、ラウルは鼻を鳴らすとISを戦闘状態に移行。右肩のレールガンを構える。

 

「――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

その言葉と共に放たれる弾丸、壱花もまさかいきなり撃って来るとは思わなかったため、反応が遅れる。そもそも今は武器は全て収納(クローズ)状態。もう展開(オープン)も間に合わない。

だが突然壱花の前にオレンジ色の物体が割り込み、ゴガギンッという音が続く。

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて。ドイツの人は随分と沸点が低いのね、ビールだけでなく頭もホットなのかしら?」

 

飄々とした笑みを浮かべながら、シャルロットが左手に一瞬で展開した実弾シールドで弾丸を防ぎ、直後一瞬で展開した六一口径アサルトカノン《ガルム》でラウルを狙いつつ皮肉を言い放っていた。

 

「フランスの第二世代型(アンティーク)ごときで、私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代型(ルーキー)よりは動けるだろうね」

 

シャルロットとラウルが互いに皮肉を言い放つ。いや、それだけではない。

 

「壱花に手を出すならば許さん!」

(プリンセス)に手を出す事、万死に値する!」

「……ぶっ飛ばす」

 

打鉄に乗った総司、ブルー・ティアーズを駆るセシル、甲龍を纏う蓮もシャルロットの横に並び立ち参戦。それぞれ総司はIS用近接ブレード、セシルはスターライトMkⅢ、蓮は拳を構えて互いに目から火花をバチバチと飛ばしながら一触即発の空気を漂わせていた。

 

「ふん、ならば貴様らもろとも――」

[そこの生徒! 何をやっている!? 学年とクラス、出席番号を言え!]

 

ラウルが全員相手しようと構えるが、そこに放送で教師が呼びかけ、ラウルはちっと舌打ちしそうな表情を見せた。

 

「――ふん。今日は引こう」

 

二度の横槍に興を削がれたか、ラウルはあっさりそう言うと戦闘体勢を解除し、アリーナゲートへと戻っていく。

 

「……壱花、大丈夫?」

 

「うん、ありがとう……皆もありがとね」

 

シャルロットは先ほどラウルと対峙していた時の皮肉めいた笑みと鋭い眼差しを消し、普段の人懐こい微笑みと柔らかい眼差しを見せながら壱花に大丈夫かと尋ね、壱花も微笑んでお礼を言った後、総司達にもお礼を返した。それに対し総司達は頬を赤らめて照れた様子を見せながらもこくんと頷く。

それからもうアリーナの閉館時間も近いため全員退出。着替えが終わった後に、壱花は兎佐に連れられて職員室へと向かう。なんでも彼女の専用機、白式の登録に関する書類があるとのことで、枚数が多いため時間がかかるらしので壱花はシャルロットに「今日は先にシャワーを浴びてて」と言い残していた。ちなみにその時一緒に聞いたのだが、今月下旬から女子も大浴場を使えるようになるらしい。

 

「……たくさんあるんですね」

 

職員室に連れられた壱花が見たのは高く積まれた書類の山。兎佐はあはは、と苦笑した。

 

「ええ、まあ……とりあえずお願いしますね? これが終われば正式に織斑さんが専用機の所有者となりますので。まあ、形式的なことなので特に何かが変わるというわけではないんですが……」

 

「はーい」

 

いくら口を動かしても書類の山が消えるわけではない。とっとと終わらせよう、と壱花はペンを片手に書類の山へと向き合うのであった。

 

 

 

 

 

「はふぅ、終わった終わった……」

 

それからしばらく時間が経ち、壱花は寮の廊下を歩いていた。書類は枚数自体は多かったもののする事といえば名前の記入くらい。思っていたよりも時間が取られることはなく、せいぜい「名前を書きすぎて手が疲れたなぁ」程度だった。

 

「ただいまー。ってあれ? シャルロットがいない……」

 

壱花がきょろきょろ部屋の中を見回しながら呟くが、浴室からの水音を聞いてまだお風呂に入っているのだと納得。そこで思い出したようにクローゼットに向かうと少し調べるように中を見回してからボディソープを取り出した。

 

「昨日ボディソープが切れたって言ってたし、シャルロットが補充した形跡もないから持ってってあげよ」

 

昨日言われた時点では壱花は次、先に入る時に補充すればいいやと考えていたためそのまま放置していたが、結局予想外の事で今回はシャルロットが先にお風呂に入っている。かといってシャルロットが予備のボディソープを補充した形跡もなく、きっとシャルロットは困ってるだろうなと思い、壱花はボディソープを手に浴室へのドアへと向かう。

 

「シャルロット、入るね」

 

そう言い、返答も聞かずに洗面所のドアをガチャリと開ける。とそれと重なるようにガチャリという音が聞こえた。この部屋は、メインで使う居間から洗面所を経由し、もう一つドアを隔てて浴室になっている。きっと自分が洗面所のドアを開けた時に同時にシャルロットも浴室のドアを開けたのだ、と納得した壱花は湯気の漂う浴室の方を見る。

 

「シャルロット、ちょうどよかった。これ予備の――」

「い、いち、か?」

「――へ?」

 

壱花の名を呼ぶ震える声に、壱花はきょとんとした顔を見せながらシャルロットを見る。たった数日とはいえ共同生活、実技授業の前には着替えを共にしているにも関わらず一度たりとも見たことのなかったシャルロットの素肌が露わになっていた。

綺麗な肌には傷一つもなく、自分の胸とは対照的に平坦な胸はしかし女性のものとは思えない筋肉がついており、よく見れば腹筋も僅かに割れている。どうにも女性らしい外観に見えない。

 

「……」

 

そして明らかに女子としてはありえないものがある。具体的に言えば股間の突起、まるで象のようなシルエットの物体。小学生の頃に、総司と遊んだ時に泥だらけになって、怒られて一緒にお風呂場に放り込まれた時にたまに見ていたもの。しかしそれとは圧倒的にサイズが違い、壱花は硬直してしまう。

 

「っー!」

 

と、そこで固まっていたシャルロットが覚醒。咄嗟に壱花の手からボディソープのボトルを奪い取るとすぐさま浴室へと引っ込む。

 

「……」

 

全く訳が分からず混乱真っただ中の壱花も、しかしボディソープを渡すという目的は達成できたためくるりと振り返り、ゆっくり洗面所を出ていくとドアを閉めたのであった。

 

「…………」

 

それから壱花はベッドの腰かけ、混乱を抑えようとどうにか精神を集中する。しかしその集中はどうしようにもかき乱されていた。するとガチャ、という気持ち控えめな、しかし精神がやけに高ぶっている壱花にはとても大きく聞こえる音が聞こえてきた。

 

「あ、上がった……よ……」

 

そしてゆっくりと、()()が洗面所から姿を現した。

 

 

 

 

 

「「……」」

 

それからかれこれ一時間は経っただろうか。壱花と男子――恐らくシャルロットだろう――は互いのベッドで向かい合い、壱花は困ったように頭をかいていた。

 

「えーっと……とりあえず、お茶でも淹れるね」

 

「は、はい……」

 

沈黙に耐えられなくなった壱花がそう言ってポットの方に歩いていき、シャルロットはこくんと頷く。

 

「「…………」」

 

茶を淹れるまでの間、また無言が続く。そして壱花はお茶をまず二人分淹れると男子のベッドの横に置き、自分も元の場所に戻ると茶で少し口周りを湿らせてから口を開いた。

 

「ところで……あなたは私達が知ってるシャルロット・デュノア本人でいいんだよね? まさかシャルロットのお兄さんか弟さんがこっそりやってきて無断でシャワーを浴びてました~なんてシチュエーションはないだろうし……」

 

「は、はい……」

 

その言葉に男子――シャルロットは少し顔を上げてから、観念したようにこくんと頷く。

 

「なんで女の子のフリなんかしてたの?」

 

「それは、その、実家の方からそうしろって言われて……」

 

最初から一気に確信を突く壱花。その質問に対し、シャルロットは再びうつむいてから答え、壱花がその返答に首を傾げる。

 

「うん? 実家って言うと、デュノア社の――」

「そう。私……ボクの父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」

 

恐らく「ボク」が本来の一人称なのだろう。もはや正体を隠すことなくそう語るシャルロットの顔は確実に曇っていた。

 

「ちょっと待ってよ、デュノア社の社長はシャルロットの父親なんでしょ? なんで親がそんな事――」

「ボクはね、壱花。愛人の子なんだよ」

「――っ」

 

壱花の言葉を遮ってシャルロットがそう言い、それを聞いた壱花が言葉を失う。少々鈍いところはあるものの壱花だって少しは世間を知る十五歳。愛人の子、それが何を意味するか分からないほど無知ではなかった。

 

「改めて名乗るね。ボクは“シャルル”。フランスの片田舎でお母さんと二人暮らししてたんだけどね、お母さんが病気で亡くなったんだ。それからデュノア家に引き取られたのが丁度二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査する過程でIS適性が高いことがわかって、非公式ではあったけどデュノア社のテストパイロットをやることになったんだ……父に会ったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしてるんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あの時はひどかったなぁ、本妻の人に殴られたよ。『泥棒猫の息子がっ!』てね。参ったよね。お母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」

 

シャルロットことシャルルは全く抑揚のない平坦な声で語り、あはは、と愛想笑いを繋げる。しかしその声は乾いていてちっとも笑ってはおらず、壱花は怒りを堪えるように拳をぎゅっと握り締めた。

 

「それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったんだ」

 

「え? だってデュノア社は量産機ISのシェアが世界第三位なんでしょ?」

 

「そうなんだけど、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ。ISの開発っていうのはものすごくお金がかかるんだ。ほとんどの企業は国からの支援があってやっと成り立っているところばかりだよ。それで、フランスは欧州連合の投合防衛計画、『イグニッション・プラン』から除名されているからね。第三世代型の開発は急務なの。国防のためもあるけど、資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨な事になるんだよ」

 

そこまで聞き、壱花は以前セシルが「欧州連合は現在、第三次イグニッション・プランの次期主力選定中、今のところ候補に挙がっているのはドイツのレーゲン型、イタリアのテンペストⅡ型、そして僕の使っているティアーズ型。実用化ではイギリスがリードしているがまだ難しい状況で、実稼働データを取るために、ブルー・ティアーズの適性が最も高い僕がIS学園に送られたんだ」と語った事を思い出す。ちなみに蓮が「多分ラウルの奴がドイツから編入してきたのも、その辺が関わってんだろうな」と予想していたことを追記しておこう。

 

「話を戻すね。それでデュノア社でも第三世代型を開発してたんだけど、元々遅れに遅れての第二世代型最後発だからね。圧倒的にデータも時間も不足していて、なかなか形にならなかったんだ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされた。そして、次のトライアルで選ばれなかった場合は援助を全面カット、その上でIS開発許可も剥奪するって流れになったんだ」

 

「……話は分かったけど、それと女装がどう繋がるの?」

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。それに――」

 

壱花の疑問の声に対し、シャルルは自嘲したような様子でそこまで言うと苛立ちを含んだような声で続けた。

 

「同じ女子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータを取れるだろう……ってね」

 

「それって、つまり――」

「そう。白式のデータを盗んでこいって言われているんだよ。ボクは、あの人にね」

 

シャルルの言葉を受け、言葉を失う壱花に対し、シャルルは己の目的をさらけ出した後、再び乾いた笑みを浮かべる。

 

「最悪の場合、特異ケースを力ずくでものにしてこい。なんて馬鹿らしい指令もあったんだけどね……」

 

「力ずく、って……」

 

「……分かってるの? 壱花。ボクは本当は男で、君は女の子なんだ……それも、とっても魅力的な」

 

「!?」

 

乾いた笑みでのシャルルの言葉を受け、その意味を察したのか壱花の顔がぼふんっと赤くなり、彼女はさっと布団で身を隠す。

 

「シャ、シャルルのえっち……」

 

「いっ! いやいやいやしないよ! 流石にそんな事しないよ!?」

 

赤い顔にやや涙目で責めるような視線で睨みつける壱花にシャルルも冗談だったのか大慌てで説得に入る。そんな突然のぐだぐだが挟まったが、シャルルはまた自嘲するような笑みを顔に張り付けた。

 

「とまあ、そんなところかな。でも壱花にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ……潰れるか他の企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

 

「……」

 

「ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう、それと、今までウソをついていてごめんなさい」

 

無言の壱花に構わずシャルルはぺらぺらとしゃべり続けた後、深く頭を下げる。と壱花が彼の両肩を掴んで頭を上げさせていた。

 

「……いいの? それで」

 

「え?……」

 

「それでいいの? いいはずないでしょ?……親がなんだっていうの? どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利があるの? おかしいでしょ、そんなの!」

 

「い、壱花?」

 

「親がいなけりゃ子供は生まれない、それはそうでしょ。でもだからって、親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことがあるはずない! 生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはず。それを、親なんかに邪魔されるいわれなんてないはずだよ!」

 

「ど、どうしたの、壱花? なんか変だよ?……」

 

壱花は感情的に言葉を投げかけており、シャルルはそう声を漏らす。と壱花はシャルルの両肩から手を離し、はぁと息を吐く。

 

「……ごめんね。つい熱くなっちゃって……」

 

「いいけど……本当にどうしたの?」

 

「私は……私と千雪お兄ちゃんは両親に捨てられたから」

 

「あ……その、ごめん……」

 

壱花の言葉を聞いたシャルルは顔を伏せて謝る、が壱花は小さく首を横に振った。

 

「気にしなくていい。私の家族は千雪お兄ちゃんだけだから、別に親なんて今更会いたいとも思わない……それより、シャルルはこれからどうするの?」

 

「どうって……時間の問題じゃないかな? フランス政府も事の真相を知ったら黙っていないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋じゃないかな?」

 

「それでいいの!?」

 

「良いも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないから、仕方ないよ」

 

壱花の言葉にシャルルがどこか他人事のように返す。その言葉に壱花が再び声を上げるが、それにシャルルは絶望をも超えた諦観の笑みを見せる。それを受けた壱花は静かに目を閉じ、やがて何か思いついたように目を開けた。

 

「だったら、ここにいればいい」

 

「……へ?」

 

その言葉にシャルルが呆けた声を出した。

 

「特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

壱花がすらすらと唱えたその言葉に、シャルルが息を飲む。

 

「つまり、この学園に在学する三年間。私達生徒はこのIS学園という国に住む国民と言ってもいい。ここにいれば三年間は安全、その間になんとかする方法を探せばいい」

 

「壱花……」

 

「大丈夫。私は協力するから」

 

「いち、か……」

 

にこっ、と慈愛に溢れる笑みを壱花は浮かべ、その微笑みを見たシャルルの頬を一筋の涙が流れる。すると我慢できなくなったように彼の目から次々と涙が零れ落ちる。母親が亡くなり、父に利用され始めてから空虚になろうと空っぽにしていた心、それによく分からない何かが注がれて一気に溢れ出したように。被っていた仮面が涙で破れてしまったように、彼は涙を流し続ける。

 

「大丈夫だよ、シャルル……今まであなたに味方はいなかったかもしれない。でも、私があなたの味方になるから……」

 

泣きじゃくるシャルルを壱花は優しく抱きしめ、よしよしと頭を撫でる。それはまるで小さな子供をあやす母親のようで、シャルルはただ彼女に抱きしめられ、何も考えず、ただ感情のまま泣き続けた。

 

「ひぐ、ぅ……」

 

泣き続けた彼はやがて泣き疲れたのか壱花の胸の中で眠りにつく。その寝顔はとてもあどけなく、どこか幼さが残っている。

 

「……おやすみなさい、シャルル」

 

そう呟き、壱花は白式を部分展開。シャルルを抱え上げると彼のベッドに寝かせてあげる。そして布団をそっとかけた時、突然インターフォンが鳴り、応対へと走る。

 

「あ、セシル君。うん、夕食ね。今から行こうと思ってたの、ただシャル……シャルロットが疲れて眠っちゃったからちょっと静かにお願い……」

 

来客であるセシルに、シャルロットが眠ってしまったから静かに待っててとお願いし、壱花は外食用にさっと上着を羽織り、財布や携帯といった小物を持つとシャルルを起こさないよう静かに部屋を出ていくのであった。

その日、シャルルはぐっすりと眠る。母親が亡くなってから二年間気を張り続けたことの反動か、壱花が戻ってきてからはもちろん、朝まで一切目を覚ますことはなかったのであった。




今回はラウルとのフラグを立てつつシャルロット男子バレ編です。流石に原作シャルロット名乗り部分をこっちに持ってくるわけにはいかないのでシャルルの真名バレをオリジナルで出しておきます。(汗)
そして性別逆転に加えて悪ノリで書いている事によって着々と築かれていくシャルルの全てが終わった後の死亡フラグ……やっべえ、本当にこれどう収拾つければいいんだろう……ラウルのオチは思いついてるけど、こっちはガチでシャルルの命が危ない……。(汗)
とりあえず、次回は流れだけは思いついています。もっとも流れの中がつぎはぎで、それをどう繋ぎ合わせるかで難儀しそうな気がしていますので。また気長にお待ちください。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。