インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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第十四話 三国代表候補生激突!

(なんでさ)

 

教室の窓際の席で総司が心中で呟く。最近IS学園にはある噂が飛び交っていた。それは『学年別トーナメントの優勝者は織斑壱花とデートが出来る』。言うまでもなく総司が告白した後ヘタレて咄嗟に誤魔化したものがいつの間にか誤解を経て広まってしまったものだ。

現在は上級生が『学年が違う優勝者はどうするのか』、『デートはどこまでなら範囲内なのか』、『織斑先生は容認しているのか』などをクラスの情報通に質問しに来ている始末。今更どうにもできそうにもない。しかも男子達は一致団結してこの噂が壱花に届くことを防ぎ&誤魔化しており、その結果彼女は「なんか最近妙に騒がしいなぁ」くらいにしか思っていない。

 

(もし、この噂が壱花の耳に届いたら……)

 

壱花の事だ。「そんな事私許した覚えないよ!」と激怒し、どこから噂が流れてきたのかを突き止めようとするのは想像に難くない。そして形はどうあれ「優勝者は壱花とデート出来る」という噂の原型を口に出してしまったのは篠ノ之総司。しかもそれは壱花自身が聞いてしまっていること。万が一壱花が「総司がその約束を無差別に広げてしまった」と勘違いしたら間違いなく完全に嫌われてしまう。そう思い、総司は顔を蒼白にして机に突っ伏したのであった。

 

 

 

「ふー。女子トイレって遠いからやだなぁ……」

 

一方、壱花は校舎の端にある女子トイレに行き、その帰り道の廊下を歩いていた。

 

「なぜ、こんなところで教師など!」

 

すると突然、曲がり角の先からそんな声が聞こえてきた。

 

「何度も言わせるな。俺には俺の役目がある。それだけだ」

 

「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」

 

そっと曲がり角から覗き込むと、そこには熱く何かを訴えているラウルとそれをあしらう千雪の姿があった。氷の転校生と揶揄されているラウルの熱くなっている様子に壱花は驚いた様子を見せる。

 

「お願いです、教官。わがドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」

 

「ほう」

 

「だいたい、この学園の生徒など教官が教えるにたる人間ではありません」

 

「なぜだ?」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISをゲームかなにかと勘違いしている。そのような程度の低いものたちに教官が時間を割かれるなど――」

「そこまでにしておけよ、小僧」

「――っ!……」

 

千雪はラウルの訴えを聞くと目を鋭く研ぎ澄ませ、威圧を込めてラウラを睨みつける。

 

「少し見ない間に偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

 

「わ、私は……」

 

少し増長してしまっている元ドイツでの教え子現IS学園での教え子への千雪なりの優しさなのだろうか。しかしラウルは恐怖に声を震わせており、純粋に千雪という圧倒的格上に対する恐怖、そしてわざわざドイツからやってきて、恐らく本人は不本意ながらもIS学園に転入までして連れ戻そうとした相手に嫌われる事を恐れているように見えた。

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

「……」

 

ぱっと威圧を消し声色を戻して、教室に戻るように急かす千雪と黙したまま立ち去るラウル。

 

(なぜ、なぜだ!? 一体なぜ教官はこんなところで燻っている!? こんな極東の島国で教官が燻る理由など何一つない!)

 

教室に戻りながらラウルはそう考える。なぜだと考えるがその理由は明白。織斑壱花。彼が教官と慕い尊敬する千雪の妹、彼女がここにいるのが最大の原因だ。

 

(あのようなボンクラに、教官を邪魔されてたまるものか!)

 

転校当時、教室で一目見た時の腑抜けた顔。威圧をしても何も感じない鈍感さ、あまりに鈍感すぎてはたく気すらなくなってしまった平和ボケた顔。思い出しただけでもイライラし、挙句には何故か胸が痛くなってしまう。

 

「じゃ、じゃあ、俺自分のクラスに戻るから!」

 

「!」

 

教室のドアの前に立った時、突然何者かが教室から飛び出し、自分にぶつかってくる。

 

「っと、悪い。前見てなかっ……」

 

その相手――凰蓮音は素直に謝るが相手がラウルだと知ると途端に表情を険しくする。

 

「……小さすぎて見えなかった」

 

「んだと!?……チッ」

 

ハンッ、と鼻で笑いながら嫌味を発すると蓮はすぐその挑発に乗っかるが、もうすぐ授業が始まるため舌打ちを叩くだけに留めて教室に戻っていく。それを冷めた目で一瞥し、ラウルは教室へと入る。まだなにやらざわついている教室。そこには兵器を操るという自覚が足りず暢気にいる者達。少なくとも軍ではありえない光景にラウルの心が再びイラつく。すると後ろの方から何者かがすたたっと教室に入り、席につく。織斑壱花だ。

 

(織斑壱花……そしてこのような愚鈍な者ども……)

 

ラウルの暗い感情に何かの火がつく。教官がこんな者達のためにここで燻っている。ならば話は簡単だ。

 

(排除する。どのような手段を使っても……)

 

こいつらの無能をしらしめ、教官が指導する価値もない事を見せつければいいだけだ。と、ラウルは人知れず暗い闘志を燃え上がらせるのであった。

 

 

 

「「あ」」

 

放課後、第三アリーナ。ここにやってきた二人は顔を見合わせて声を漏らす。人物は蓮とセシルだった。

 

「偶然だな。俺、月末の学年別トーナメントに向けて訓練しようかと思ってたんだけど」

 

「奇遇だね。僕もそのつもりだ」

 

蓮の言葉にセシルもそう返し、セシルの言葉に蓮はへぇ、と声を漏らす。

 

「あんたも壱花とのデート狙いかよ」

 

「……(プリンセス)をお守りするのは騎士の務め……どこの馬の骨とも分からん輩を、(プリンセス)に近づけるわけにはいきません」

 

「それが本音なのかねぇ……」

 

蓮の言葉に対しセシルはあくまでも騎士として姫を守るスタンスを貫くと説明。しかし蓮はそれが本音なのかと呟いた。

 

「ま、いいや。んじゃ、ちょっとウォーミングアップにやらねえか?」

 

「いいだろう」

 

蓮の誘いにセシルは乗ってスターライトMkⅢを展開。蓮もナックルを構える。

 

「「いざ――!?」」

 

勝負に入ろうとした瞬間、高速の弾丸が飛来。咄嗟に二人がその場を飛び退いて弾丸が飛んで来た方を見る。そこにいたのは先日自分達に喧嘩を売ってきた漆黒の機体――機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』。ドイツの第三世代型ISを駆るその男の名は――

 

「ラウル・ボーデヴィッヒ……」

 

セシルが、その男の名を苦くこわばった顔で唱えた。

 

「なんのつもりだよ? いきなりぶっ放すとか、いい度胸してんじゃんか」

 

蓮も構えを取りながらそう問いかける。肩の衝撃砲も準戦闘状態にシフトされた。

 

「中国の“甲龍”にイギリスの“ブルー・ティアーズ”か……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

「へえ。いきなり喧嘩売ってくるとか、ドイツ野郎は礼儀も知らねえのかねぇ。ジャガイモ掘り過ぎて頭の中までマッシュポテトになっちまってんの?」

 

「レン。いくら礼儀知らずでも相手は代表候補生だ。こちらもそれ相応の礼儀を持たなければ紳士とは言えんぞ……まあ、相手に礼儀を解する程の知性があればの話だが」

 

ラウルの挑発に蓮が皮肉を返すとセシルが慇懃無礼に続く。

 

「はっ。二人がかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬ者が代表候補生とはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と古いだけが取り柄の国はな」

 

しかしその皮肉は何の意味もなく、むしろラウルの続けた挑発を受けた二人の額に青筋が立った。

 

「あぁあぁ分かったよ。つまりスクラップにしてほしいわけだ。おいセシル、俺にやらせろ」

 

「我が祖国を侮辱した罪は重いぞ。レン、ここは譲ってもらう」

 

完全に挑発に乗ってしまった二人は互いに睨み合いながら自分が先にラウルと戦おうとする。

 

「ふん、二人がかりでかまわんぞ。くだらん能無しを取り合うような愚図に俺が負けるはずがない」

 

くだらん能無し。それが指す者はただ一人、そしてそれはこの二人の怒りを頂点へと押し上げた。

 

「テメエ、俺達だけならまだしも壱花まで馬鹿にしやがって!!」

「この場にいない人間の侮辱とは。紳士として、同じ欧州連合の候補生として恥ずかしい限りだ……そのような無礼、二度と出来ないようにしてやる」

 

ラウルの言葉通り二人がかり、もはや容赦はしないという決意を瞳に込めて蓮とセシルはラウルを睨む。

 

「だが、素手でどうにか出来る相手とも限らねえな……こいつでいくか」

 

そう言い、右腕を振るう蓮。すると彼の身の丈以上もある長さのシンプルな槍が展開(オープン)。彼の右手に握られた。

 

「レン、君は槍も使えるのか?」

 

「おう。剣に始まり槍に暗器まで、ある程度は修めてるぜ。ただ体術が一番しっくりくるからメインで使ってるってだけだ」

 

セシルの問いかけに蓮はそう返し、ひゅんひゅんと槍を回転させるとその切っ先をラウルに向ける。

 

「ただ、槍だからと言って弱いわけじゃねえ。そこは安心しな」

 

「……ああ、頼りにさせてもらう」

 

そう話し、互いに頷く。それに対しラウルもニヤリ、と嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「さあ、かかって来い!」

 

「「上等!!」」

 

第三アリーナにて、三人の代表候補生がぶつかり合った。

 

 

 

「壱花、今日も特訓するんだよね?」

 

「うん。えっと、今日使えるのは――」

 

「第三アリーナだ」

 

一方学園の廊下。シャルロット――二人きりでの話し合いの末、人前ではこう呼ぶことに決まった――の言葉に壱花もそう返し、今日使えるアリーナを思い出そうとすると総司がそう答える。

 

「今日は使用人数が少ないそうだ。上手くいけば模擬戦も出来るかもしれない」

 

「そうなんだ」

 

総司がそう説明を続けると、壱花もふんふんと頷く。それから彼女らは雑談をしながら第三アリーナに続く通路を歩いていくが、その途中で曲がり角のある道へ差し掛かった時、曲がり角から急に誰かが飛び出し、壱花にぶつかってしまった。

 

「わっ」

「きゃっ」

 

互いに歩いていた程度の速度だったためちょっと尻もちをついた程度。しかし相手の方は持っていた本や資料らしいプリントが散らばってしまった。

 

「ご、ごめんなさい! 話に夢中で前見てなかった!」

 

壱花は雑談で前方不注意だった自分が悪いと相手に謝罪し、散らばった本やプリントを集め始める。シャルロットと総司もそれを手伝った。

 

「あ、いや、その……」

 

その相手――小柄で華奢な体躯をした、水色髪でメガネをかけた少年――がおどおどとした様子でどうしようかと困りながら、しかし自分も本を集めるためとりあえず手近にあった本――IS開発理論――に手を伸ばした。が、その本に同時に壱花が手を伸ばし、互いの手が触れ合う。

 

「わっ!」

 

「あ、ごめんね」

 

驚いたように手を本から離す少年。壱花は一言謝ってその本を取り、総司とシャルロットが拾った本や資料と共に一纏めにし、少年に手渡す。

 

「はい。本当にごめんね?」

 

「あ、いえ……こちらこそ……」

 

内気なのだろうか、壱花の言葉に少年はうつむきながらそう答え、本を抱えて足早に立ち去っていく。

 

「……なんだったんだろ?」

 

「さあな。だが、先ほどちらりと資料や本を見たが、主にIS開発に関するものだった。あとは整備関連か」

 

「ISの開発や整備に興味があるのかな?」

 

きょとんとしながら首を傾げる壱花に、総司はそう答え、その言葉からシャルロットが予測をする。

 

「ふ~ん……ま、いっか。早く行こう」

 

だが壱花はそう結論を出し、彼女らは再び第三アリーナへと向かって歩みを進めていった。

 

 

 

()()()ッ!」

 

一方第三アリーナ。蓮は果敢に槍を振るって接近戦を挑み、ラウルも両腕に展開したプラズマ手刀で受けて立つ。

 

「そらどうした? その程度かっ!?」

 

「ちぃっ!」

 

プラズマ手刀のリーチは槍よりは短い。しかし両手に展開できる分手数は多く、槍の防御の間を掻い潜って蓮に攻撃を仕掛ける。僅かにシールドエネルギーが削られ、蓮も舌打ちを叩くが同時に槍を振るい、石突きの部分でラウルの横っ面をぶん殴る。

 

「痛くも痒くもない!」

 

しかしラウルは嗜虐的な笑みを消さずにそう吼え、同時に彼の機体の肩と腰辺りに装備された武装から射出された四本のワイヤーブレードが蓮を近距離から包囲、彼を捕らえようと狙う。

 

「舞い踊れっ、ブルー・ティアーズ!!」

 

そこにセシルの号令と共に四つのビットがラウルを包囲し、一斉にレーザーを発射。ラウルはそれをステップを踏んで回避するが、その際にワイヤーブレードへの指令が滞って動きが鈍り、蓮はそこに追い打ちをかけるためにこちらも肩の武装を展開する。

 

「龍砲、くらえっ!」

 

そして放たれるのは不可視の弾丸。壱花を苦しめた龍の咆哮だ。

 

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

 

しかしラウルが右手を前にかざすとその不可視の弾丸がまるで消滅してしまったかのようにその意味をなさなくなってしまう。

 

「くそっ! ここまで相性が悪いとはな……うおっと!?」

 

悪態をつく蓮だが、そこにまたもワイヤーブレードが襲い掛かってくるのを見て回避を始める。しかしさらに二本増えた計六本のワイヤーブレードを回避しきる事は出来ず、右足にワイヤーブレードが巻き付いた。

 

「しまった!?」

 

「させん! ブルー・ティアーズ! 円舞曲(ワルツ)を舞い踊れ!」

 

足を捕らえられた蓮の援護のため、セシルはビットに指示を飛ばす。それは壱花を苦しめた四本のビットによる翻弄の舞。しかしラウルは己の周囲を高速で回転するそれを冷めた目で見ていた。

 

「ここか」

 

「うわぁっ!?」

 

そう呟き、ワイヤーブレードを操作。すると蓮が振り回され、同時にビットから放たれたレーザーが振り回された蓮へと着弾する。

 

「ぐあぁっ!?」

 

「なっ!?」

 

「この程度で死角を狙っているつもりか? 速度、威力、タイミング。見切るには容易い」

 

フレンドリー・ファイアの結果になった攻撃にセシルが絶句するとラウルは静かにそう答える。

 

「そら、お仲間を返してやる」

 

「「がはぁっ!!!」」

 

そう言った瞬間、セシルの真横から何かがぶつかる。先ほどワイヤーブレードで振り回した蓮をさりげなく彼の真横へと振り回し、直撃させたのだ。二人の悲鳴が重なり、ずがぁっと音を立てて地面へと叩きつけられる。

 

「そら、おまけだ」

 

さらにラウルは肩のレールカノンを無慈悲に連射。ドゴンドゴンドゴンッと立て続けに三発撃ち込まれた砲弾により地面に煙が舞う。

 

「つっ……大丈夫か、セシル?……」

 

「辛うじて、な……」

 

そしてその煙が晴れた時、既にシールドエネルギーが限界に近い状態で蓮とセシルは立ち上がった。

 

「ほう、まだ生きていたか。古い事と、数が多いだけが取り柄なだけあって生命力だけは達者のようだ」

 

ラウルは仕留めたと思っていたのだろう。しかしまだ立ち上がれる二人を嘲笑しながらそう評価する。

 

「だが、これ以上は無駄だ。大人しく己の無能を認め、降参しろ」

 

しかしラウルは余裕を見せ、二人に降参を促した。

 

「チッ、好き勝手いいやがって……」

 

「だが、実際に状況は不利だ……壱花さんを侮辱した奴に頭を垂れるなど死んでもしたくはないが、せめて一矢報いなければ我慢がならん」

 

「……なら、方法が一つあるぜ」

 

舌打ちを叩く蓮に対し、セシルは冷静に状況を判断。しかし降参をする気は全くなさそうな彼に対し、蓮は一つ作戦を提案した。

 

「…………ほう」

 

ラウルは不屈を見せる二人の敵に笑みを見せる。無論、賞賛ではない。強いて言うならば猟犬が死にかけの獲物に対しじわじわと息の根を止めようとする一種の遊び心からきたものだ。

 

「いいだろう。もう少しだけ遊んでやる」

 

何か作戦を立てたようだが関係はない、こんな甘い連中に自分が負けるはずがないのだから。ラウルはそう思い、笑う。その口元からまるで猟犬のような鋭い牙が覗いた。

 

「くらえっ!!」

 

セシルが放ったのは腰の砲塔からの二本のミサイル。それらは蓮を追い抜き、両サイドからラウルへと突進する。

 

「停止結界を使うまでもない」

 

ラウルはそう呟き、肩のワイヤーブレードを伸ばしてミサイルを斬ろうとする。

 

「っ!?」

 

だがワイヤーブレードがミサイルへと届く直前。二つの閃光がミサイルを貫くとミサイルは大爆発。ラウルの周囲を煙が覆った。

 

(なるほど、俺の視界を奪う事が目的だったか)

 

ミサイルを爆破させたのは十中八九セシルのブルー・ティアーズ。ミサイルそのものの攻撃ではなく、そのミサイルを先に爆破させて煙を生み出し、ラウルの視界を塞いだのだ。もちろんハイパーセンサーがある以上ただの煙幕にほとんど意味はない。だが、視界が奪われた事はワイヤーブレードの操作性を落とす事に等しい。

 

(奴らの狙いはこの隙にあの小猿が煙に紛れて攻撃を仕掛ける事)

 

ラウルは敵の狙いを看破する。ならば話は簡単だ、ハイパーセンサーがISの熱源を感知した時、そちらにレールカノンの砲撃を叩き込んでやれば済む。

 

(所詮は小細工、お遊びにすぎん)

 

敵の作戦を小細工と断じ、ラウルは余裕の笑みを煙の中で浮かべた。

 

 

 

(ここより己の死は恐れず――)

 

煙の中、蓮は己の作戦を反芻。その両手に余る大きさの短剣を握りしめる。

 

(生も求めず――)

 

何かを蹴り、勢いをつけて宙を舞う。

 

 

 

 

――警告! 熱源物体急接近!!

 

シュヴァルツェア・レーゲンのハイパーセンサーからそんな警告が飛び、ラウルはハイパーセンサーの示す方向を睨みつけるとレールカノンの砲口を向けて発射。瞬間、ドゴァンと音を立てて何か――甲龍に着弾。甲龍の赤い機体がゆっくりと墜落していった。

 

(これで一匹)

 

ラウルは敵を一匹片づけたこと、渾身の作戦が無駄に終わった相手を嘲笑い、残る敵であるセシルを見る。

 

「ば、馬鹿な……」

 

そのセシルは呆然とした表情を隠していなかった。戦場ではありえない明らかな隙にラウルは再び嘲笑、右肩のレールカノンを向けると無慈悲に連射した。

 

「しまっ――」

 

動揺で動けなくなっていたセシルにごががががっ、と着弾する砲弾。それが止んだ時、ブルー・ティアーズは大破。その主であるセシルも静かに倒れ込む。

 

「僕は……()()()()()()()()()()()()()()……レン……」

 

「?……!?」

 

倒れ込みながら呟いたセシルの言葉。そう聞こえた――正確に言うならばハイパーセンサーで見た唇の動きを読唇術で読んだ――その言葉の意味の不可解さにラウルは一瞬眉を顰めるが、直後、360度見渡せるハイパーセンサーで彼は気づく。()()()()()()()()()()()、という事に。

 

不還匕首(ただ、あやめるのみ)!!!)

 

直後、煙の中から生身の蓮が両手いっぱいに短刀を握りしめて飛び出し、ラウルの右目目掛けて振り下ろした。

 

「……一歩……足りなかったか……」

 

しかしその刃はラウルに当たる直前で止まっており、彼の身体は空中で浮かぶように停止していた。

 

「――何故だ?」

 

ラウルが理解できないというようにそう尋ねる。戦場でISを外す、それはほとんど自殺行為に等しい。さらにIS専用の短剣を使っているからと言って人間の手でISにダメージを与える事なんて不可能。蓮の行為は何の意味もなく、ただ自らの命を危険に晒しただけだ。

 

「へっ」

 

しかしその疑問を、蓮は鼻で笑った。

 

「惚れた女を侮辱されて、黙っている男がどこにいる?」

 

「ふん。よく分からんが……貴様の負けだ。己の無力、しかと味わえ」

 

ラウルがそう言った瞬間、蓮の身体は重力に従い真っ逆さまに落ちていく。生身の身体で落ちれば間違いなく大怪我、最悪の場合死に至る。しかし蓮は後悔一つせず、笑みを浮かべて重力に身を任せていた。

 

「おおおぉぉぉぉっ!!!」

 

だが、その瞬間そんな雄叫びが聞こえ、蓮ははっとなると共に浮遊感に包まれる。その浮遊感を与えた存在、それは彼を天国へといざなう天使ではない。

 

「いち……か……」

 

織斑壱花だった。彼女は蓮を横抱きにしたまま地面へと降下、蓮を下ろした後ラウルを見上げる。

 

「なんのつもり?」

 

「なんのつもりとはどういうことだ? 俺はかかる火の粉を払っただけだ」

 

「あ、そう」

 

壱花の問いかけに、ラウルは悪びれもせずにそう答える。その言葉に壱花は言葉少なくそう返した。

 

「ラウル君。私が憎いなら勝手に憎んで、私だってあの頃の弱い私が許せないんだから……でもね――」

 

そこまで言い、壱花はラウルを睨みつけた。

 

「――私の友達に手を出すっていうなら、私は容赦しない!!!」

 

叫び、壱花は右手にカリバーンを展開。ラウルへと突きつけた。その後ろにはラファール・リヴァイヴを装備したシャルロットも銃と盾を構えて立っている。

 

「面白い。ならば貴様も共に叩き潰してやる!!」

 

その言葉に対し、ラウルは高揚の笑みを浮かべて叫び、右手を掲げると大剣を展開(オープン)。両手で握り締めて振り上げると同時に、壱花の得意技瞬時加速(イグニッション・ブースト)で彼女へと突進しようと構える。その時だった。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

突如千雪がアリーナ内に乱入。いや、それだけならまだしも生身のまま、IS装備どころかISスーツすら着ずに構えたIS用近接ブレードでラウルの大剣を止めていた。

 

「千雪お兄ちゃん!?」

 

その姿に壱花が驚いたように声を上げる。

 

「模擬戦をするのは構わん。だが、アリーナのバリアまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「教官が仰るなら」

 

千雪の言葉にラウルは頷いて即座にIS装備を解除。千雪に敬礼を向ける。

 

「織斑、デュノア、お前達もそれでいいな?」

 

「あ、うん……」

 

「教師には『はい』と答えろ、馬鹿者」

 

「は、はい!」

 

「わ、私もそれで構いません」

 

千雪の壱花達への確認の言葉に壱花はつい素で答えてしまうが千雪からの注意を聞くとすぐに言い直し、シャルロットもこくんと頷いた。

 

「よし。では今月末の学年別トーナメントまで一切の私闘を禁ずる。解散!」

 

千雪は拡声器も使わずにアリーナ中に響く声を出し、行動開始を示すかのようにパンッと千雪の叩いた両手の音がアリーナ中に響いた。

 

 

 

それから場所は保健室に移動。セシルと蓮は治療を受けていた。特にセシルはISのダメージが酷くシールドで攻撃が防ぎきれなかったため、身体中に包帯を巻いている。

 

「……悪い、助かった」

「感謝します」

 

どこか居心地の悪い様子でお礼を言う蓮とセシル。それに壱花が「もう」と呟いて腰の手を当てる。

 

「ところで二人とも、一体どうして――」

 

まず戦いになった理由を聞こうとしたその時、ドドドドドと地響きのような音が聞こえ突如保健室のドアが吹き飛ぶ。そしてあっという間に壱花とシャルロットを男子が取り囲んだ。

 

「な、なに!?」

「ど、どうしたの皆!?」

 

『これ!!!』

 

女子二人の言葉に対し男子達が一斉に取り出したのは学年別トーナメントのお知らせ。それを壱花が眺め、読み上げる。

 

「えーっと、『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。尚、ペアが出来なかったものは、抽選で選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」

 

「あぁっ、そこまででいいから!」

 

その言葉を男子の一人が遮り、直後男子達は一斉に二人に手を伸ばす。

 

「俺と組もうぜ? 織斑さん!」

「僕と組んでください! デュノアさん!」

 

それに壱花とシャルロットはうっと声を漏らし、壱花はちらりと困った様子のシャルロットを見ると、ぱんっと両手を合わせた。

 

「ごめんなさい! 私はシャルロットと組むから諦めて!」

 

『えぇ~っ!?』

 

その言葉に男子達――ちなみにセシルと蓮含む――が声を上げる。

 

「……まあ、そういう事なら」

「他の男と組まれるよりはいいか」

「女同士というのも、絵になりますしな」

「デュフフ、これはまたいいネタになりますぞ」

 

しかし直後そういう意見が出て男子達は諦め、ぞろぞろと保健室を出ていく。

 

「な、なあ壱花! 俺と組まないか!?」

「いえ、ここは僕と。先ほどの汚名、ぜひすすぐチャンスを!」

 

だがそこに蓮とセシルがペアを組んでくれと名乗り出た。

 

「ダメだ」

 

しかし、それを威圧的な声が却下する。

 

「お兄ちゃん!」

 

その声の主――織斑千雪は両腕を組み、セシルを見た。

 

「オルコット。お前のISの状態をさっき確認したが、ダメージレベルがCを超えている。当分は修復に専念しないと後々重大な欠陥を生じさせる可能性がある。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できん」

 

「ぐ……りょ、了解いたしました」

 

千雪の鋭い刃のような指摘を受け、セシルは項垂れてトーナメント不参加の命令を受け入れる。次に千雪は蓮を見た。

 

「凰。お前のISは辛うじてダメージレベルBに収まっているが、ギリギリCとも言える。そしてもう一つ、特定高度以上でのISの装備解除という危険行為。その罰則としてお前は今回のトーナメント参加を禁じ、反省文の提出を命ずる」

 

「……わ、分かりました」

 

続けて蓮もトーナメント不参加&反省文提出の命令を下され、彼も反論できないのか項垂れて了承の意思を見せる。その様子に千雪は満足そうに頷いた。

 

「素直に分かってくれて何よりだ。ISに無理をさせるとそのツケはいつか自分が支払うことになる。肝心なところでチャンスを失うのは、とても残念なことだ。お前達にはそうなってほしくはない」

 

「「はい……」」

 

「俺からは以上だ。トーナメントに参加できない分、今の内に身体を休めておけ」

 

伝達を終え、千雪は踵を返してふとシャルロットを見る。

 

「そういえばデュノア。挨拶がまだだったな……妹が世話をかけている」

 

「あ、いえ、そんな!」

 

千雪は兄としてシャルロットに挨拶、シャルロットも慌てて立ち上がると頭を下げた。

 

「ああ。壱花と仲良くしてやってくれ……」

 

そう言い、千雪はさりげなくシャルロットの肩に手を置くと耳元に口を近づける。

 

「だが、壱花に手を出したら許さんぞ。()()()()()()()()

 

「ぴぃっ!!」

 

肩に置いた手に力が籠り、威圧感溢れるその囁きに、シャルロット、いや、シャルルは悲鳴を上げて小さく飛び上がった。そして千雪はすたすたと淀みない足取りで保健室を出ていく。

 

(ば、ばばばばれてる、ばれてる……で、でもなんで? なんで織斑先生、何も言ってこないの?……)

 

シャルルは自分の正体がばれてしまっている事に震えを隠せず、しかし現状デュノア社、さらにはフランス国家のスキャンダルともなりかねない自分の正体が分かっていて何故何も行動しないのか、と考える。

 

 

 

(……壱花も庇っているようだ。壱花の友達が減ったら可哀想だしな、しばらくは釘を刺すだけで様子を見ておくか)

 

廊下を歩きながら、千雪はシャルルの処遇についてそんな事を考えていた。

 

 

 

「ところでさ、二人ともどうしてラウル君と戦う事になっちゃったの?」

 

「あ、それは、その……」

「その、なんつうか……あいつがどうしても我慢できない事言いやがってさ……」

 

壱花は先ほど男子達が入ってくる前に聞こうとしていた質問を改めて行い、それにセシルと蓮は言いよどむ。

 

「……そっか。それでセシル君は大怪我しちゃったんだね。蓮君もあんな無茶を……」

 

皆まで言わずとも、「挑発を受けたから戦った」というところまでは理解したのだろう壱花はうつむきながら呟き、顔を上げる。

 

「ねえ、蓮君。こっち向いて」

 

「ん? なんだ――」

 

パァンッ、と乾いた音が響き、蓮の左頬に赤い紅葉のような跡がつく。それは壱花が蓮に思いっきりビンタをした音とその跡だった。

 

「二度と、あんな無茶しないで」

 

そして壱花は蓮を睨みつけ、震える声で訴えた。その目には涙が溜まっている。

 

「いち、か……」

 

「私達が来た時、蓮君が生身でラウル君に飛びかかってるとこを見て、頭真っ白になっちゃったの。あんな高さから落ちちゃったらもしかしたら死んじゃうかもしれない。そう思ったら夢中で白式を展開して、零落白夜でアリーナのシールドを消滅させて飛び込んでた……でも、もし間に合わなかったら、蓮君は死んじゃってたかもしれない……」

 

「……」

 

「なんでラウル君と戦う事になったか、詳しい事までは聞かないよ。でも……お願いだから無茶しないで……蓮君もセシル君も、皆が怪我しちゃったら私……どうしたらいいのか分かんないよ……」

 

壱花はぼろぼろと涙を流しながら蓮に訴え、蓮も返す言葉がなく沈黙し、うつむく。

 

「……ごめん」

 

ようやく謝罪の言葉を絞り出すのが精一杯。その横のセシルも、はたかれはしなかったものの蓮と同じことを自分も注意されたことは明白。とうつむき、大切な相手に心配をかけたことに対して反省を示していた。




今回はレンセシVSラウル。戦闘シーンは多少オリジナルを加えました、っていうか蓮のあれをやらせたいがためにオリジナルにしたと言いますか……。(汗)
ちなみに壱花が蓮を助けた時、壱花は蓮をお姫様抱っこしています……お姫様抱っこです。(大事なことなので二回言いました)
次回は学年別トーナメントを予定しています。もちろんオリジナル込み、今からどう動かすか楽しみです……さて、本当にあれどう終わらせよう……。(行き当たりばったり)
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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