インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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第十五話 学年別タッグマッチ

やってきた六月の最終週。IS学園は月曜から学年別トーナメント一色へと染まり、全生徒が一回戦開始の時間直前まで雑務に会場の整理、来賓の誘導へと走り回っていた。

そして今はそれが終わり、全員大急ぎで試合の準備のため更衣室で着替えている。ちなみに壱花とシャルロットは女子という事(実際は一人女装男子なのだが)で広い更衣室を二人で貸し切っている。他の更衣室はむさい男子で一杯になっていると思うと想像はやめておいた方が賢明だろう。

 

「それにしても……凄いね」

 

壱花は更衣室のモニターから観客席を確認する。世界各国の政府関係者に研究所員や企業エージェント。世界のお偉いさんが勢揃いしていた。

 

「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来てるからね。一年には今のところは関係ないけれど、それでもトーナメント上位入賞者には将来有望としてさっそくチェックが入ると思うよ」

 

「ふーん。大変なんだね」

 

シャルロットの説明に壱花はそう返しながらISスーツのジッパーを上げる。

 

「よし、オッケー。シャルロット、そっちは?」

 

「うん、大丈夫……うぅ」

 

ISスーツを着終えた壱花が振り返ると同時に着替え終わったシャルロットも振り返るが、直後壱花のぼんっと膨らんだ胸を見て顔を赤くすると目を逸らし、壱花も苦笑しながらジャンパーを羽織った。

 

「さてと……」

 

壱花はすぅ、と息を吸うとふぅ、と息を吐いて精神を集中する。

 

「……壱花は、ラウルとの試合を望んでるんだよね?」

 

「ん、まあね。仮にもセシル君と蓮君の仇みたいなもんだし」

 

シャルロットの言葉に壱花がそう返し、その言葉にシャルロットが「二人とも死んでないんだけど……」と引きつった笑みで言うと壱花は「ものの例えよ」とすぱっと返す。

 

「あの二人が何を言われて怒ったのか……分かんない。うん、分かんないけど。それでもあそこまで痛めつける必要なんてないはずだよ。絶対に許さない」

 

「ふふ……壱花は優しいね」

 

壱花は何故二人が怒ったのか分からない、と何故かわざとらしく強調し、しかしながらラウルが二人をトーナメントに出られない結果になるまで痛めつけた事は許せないと言うと、シャルロットは何かを見抜いたように壱花を優しいと評する。それに壱花の頬がかぁっと赤くなった。

 

「さ、さーってと。そろそろ対戦表が決まるはずだよね!」

 

(壱花って、結構分かりやすいね)

 

そしてやっぱりわざとらしく話を逸らし、シャルロットはくすくすと笑いながら、素直に「きっと自分の事を馬鹿にされたんだからセシルと蓮は怒ったんだと思う。だから今度は自分が二人のために怒る」とでも言えばいいのに、と心の中で思う。

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

と、壱花の声が聞こえ、シャルロットも顔を上げるとモニターを見る。二人の順番はAブロック一回戦一組目、要するに一番最初ということだ。どこかに噂の史上初の女性操縦者コンビの戦いを少しでも早く見たいという思惑が見え隠れしなくもないが、壱花達は気にしない事にしている。

 

「「――え?」」

 

モニターに表示された名前を見て、壱花とシャルロットは同時に呆けた声を出す。織斑壱花&シャルロット・デュノア、その対戦相手として表示されたのはラウル・ボーデヴィッヒ、そして篠ノ之総司の名前だった。

 

 

 

 

 

――初期設定完了

 

そんな文字の書かれた画面ウインドウが操縦者の目の前に現れ、それを確認した操縦者は慣れた手つきで各種コネクトを開始、完了後、今回使用する打鉄(うちがね)三号機に装備する武器――今回は近接ブレードを予備含めて三本と実体シールドを一つ――選び、パススロットを設定、完了。そんな画面ウィンドウを慣れたように見つめる。

 

「待たせたな。ラウル・ボーデヴィッヒ」

 

操縦者――篠ノ之総司は設定の完了後、既にピット・ゲートで待っていた今回の相方――ラウル・ボーデヴィッヒに声をかける。だが彼は一瞥すら総司にやらなかった。

 

(俺のことなど眼中にない、ということか……)

 

たかが汎用機、それも学校貸し出しのため常に初期設定にされるものを操る一般生徒などに興味もないのか、と総司は歯噛みする。

ラウル・ボーデヴィッヒ。ドイツの誇る最新機であるシュヴァルツェア・レーゲンを専用機としたドイツの代表候補生。二対一にも関わらずセシルと蓮を一蹴した。正に優勝を目指すならばこれ以上ない戦力と言える。

 

「打鉄使い」

 

しかし、戦力になる事が即ちパートナーとしても最優とは限らない。

 

「勝ちたければ何もせずにいろ。俺が一人で全て倒す。貴様は邪魔をしなければそれでいい」

 

総司の方を向きもせず彼を名前でさえ呼ばず、挙句には邪魔をするな黙っていろ、ときたものだ。完全にパートナーの事を度外視している。セシルと蓮という同じ専用機持ちの代表候補生が不参加の今、IS学園の一年生の中でラウルは戦力では間違いなくトップ。しかし今回のタッグトーナメントにおいて、連携という点では間違いなくワーストワンだ。

 

(いや、今は考えるな……)

 

今は目の前の試合に集中しなければならない。そうしなければ、壱花と戦う事は出来ない。総司はそう自分に言い聞かせ、改めて集中を深めた。

 

 

 

 

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けた」

 

「それはどうも。こっちも同じ気持ちよ」

 

アリーナに立ったラウルと壱花がそう言葉を交わす。同時に壱花の目の前に、いや、今回の試合に出る四人全員の目の前に画面ウィンドウが表示される。四角形のウィンドウの上部に表示された文字は「COUNTDOWN START」。その下には目立つように大きく数字が表示され、十秒からコンマ一秒単位でカウントダウンされていく。

試合開始まであと五秒。四、三、二、一――開始!

 

「「叩きのめす!」」

 

画面ウィンドウは「PLAY THE GAME!」と大きく表示した次の瞬間自動消滅。しかし壱花はその消滅よりも早く、まるで画面ウィンドウを押し破るような速さでラウル目掛けて飛び出した。瞬時加速(イグニッション・ブースト)による先制攻撃。それが今回立てた作戦の一つだ。

 

「やああぁぁぁっ!」

「ふん……」

 

雄叫びと同時に突進し、剣を振りかぶる壱花に対し、ラウルは鼻で笑いながら右手を突き出した。

――来る。壱花がそう直感した瞬間、彼女の脳裏に対ラウラ戦術を立てる時に聞いたセシルと蓮の言葉がよみがえる。

 

 

 

 

 

「AIC?」

 

「シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代兵器だよ。(アクティブ)(イナーシャル)(キャンセラー)の略、慣性停止能力だ」

 

「前提となるので念のため確認を取りますが。壱花さん、PICはご存知ですよね?」

 

壱花がきょとんとした顔で問うと蓮が説明、セシルが前提を知らなければ説明が難しくなるため確認を取ると壱花はこくんと頷いた。

 

「もちろん。(パッシブ)(イナーシャル)(キャンセラー)。全てのISはこれを使って浮遊・停止・加速を行っている。あってるでしょ?」

 

「ええ。失礼いたしました」

 

壱花の淀みない説明を聞き、安心したのかセシルは頷くと同時に軽く謝罪し、その後に苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

 

「しかし、僕も実物を見るのは初めてだが、あそこまでの完成度を誇っているとは……思ってもみなかった」

 

「あー、それは俺も同意見。あそこまで衝撃砲との相性が悪いとはな……」

 

実際にAICの恐ろしさを体感したセシルと蓮はうんうんと頷きあう。と壱花が口を開いた。

 

「ところで、理屈としては衝撃砲と同じなの? エネルギーで空間に作用を与えるっていう」

 

「あー、うん。そうだな。だいたい同じだと思う。もちろん厳密には違うだろうけど、空間圧作用兵器と似たようなエネルギーで制御してるはずだ」

 

「っていうことは、零落白夜なら切り裂けるわけ?」

 

「……恐らく、ですが。理論上は切り裂けるはずです」

 

壱花の疑問に蓮とセシルが同時に答える。

 

「でも、真正面から行ったら壱花は何も出来ずに嬲り殺しにされると思うぜ」

 

だが、壱花の考えた突破口を蓮が冷静に指摘した。

 

「俺も、壱花とのクラス対抗戦に当たって可能な限り調べさせてもらった。結局のところ、零落白夜ってのは壱花の剣のエネルギー刃自体ってみなしていい……逆に言えばそこ以外は零落白夜ではない。要するに――」

「剣そのものではなく、例えば剣を握っている右腕の動きを封じてしまえば……零落白夜を封じる事になる?」

 

蓮の言葉を聞き、セシルが気づいたようにそう答えた。

 

「そう。どうにか勘でかわしてたけど、あんにゃろ何度か俺の槍をフェイントに使った体術にAICを合わせてきやがった。言っちゃなんだが、それに比べりゃ壱花の右腕を封じるくらいわけないと思うぜ?」

 

勘で不可視のAICを回避する蓮も蓮だが、彼の素早い体術にAICを合わせて彼の動きを止めようとするラウルの練度にも驚くしかない。

 

「まあ俺の体術の速さと壱花の剣の速さなんて比べたってどうしようもないけどな。結局、腕って線の動きだろ? こう、縦か横かにラインが動くわけだから――」

「交差するようにAICのエネルギー波を同じく線で投げれば、簡単に引っ掛けられるという事か」

 

蓮は怪我をしているためゆっくりだが腕を縦や横に動かし、その姿を見たセシルが結論を出す。

 

「なるほどねー」

 

蓮の身体を張った実演を見ながら、壱花はふむふむと頷いていた。

 

 

 

 

 

そして試合の日まで壱花、シャルロット、セシル、蓮の四人で作戦会議は続いたが、確実にAICを破る手段は結局考案されないまま試合当日を迎えてしまった。

 

(だったら方法は一つ! AICを使われる前に片をつける!!)

 

猟師に網を投げられ捕まってしまえば、華麗に海中を泳ぐ魚も、自在に宙を舞う鳥も動けなくなってしまう。ならば話は簡単だ。猟師が網を投げる前に猟師を殺してしまえばいい。とにかく、試合開始後の先制攻撃一撃必殺だ。

 

「くっ……」

 

しかしその程度の作戦は読んでいたのか、接近戦を仕掛ける前にラウラのAICに一夏の身体は絡め取られてしまう。

 

「開戦直後の先制攻撃か。わかりやすいな」

 

「それはどうも。以心伝心で何より」

 

「ならば次に俺がどうするかはわかるだろう?」

 

ラウルの言葉と共にガキン! と巨大なリボルバーの回転音が轟き、同時にハイパーセンサーからもシュヴァルツェア・レーゲンの大型レールカノンの安全装置解除、初弾装填、ロックオンの三つの警告が同時に飛ぶ。

 

「させないよ!」

 

しかしそこにシャルロットが壱花の後ろから現れ、アサルトライフル《ガルム》による爆破(バースト)弾の射撃を浴びせる。

 

「ちぃっ!」

 

射撃により照準をずらされ、砲弾は壱花の身体を外して空を切る。さらにシャルロットの猛攻が続き、ラウルは間合いを取って後退、それと共に壱花の身体に自由が戻る。

 

「逃がさない!」

 

急後退したラウルをシャルロットは右手のガルムをそのまま前に突き出して突撃体勢を取り、さらに左手にもう一丁アサルトライフルを展開(オープン)し、後を追おうとする。

 

「秘剣――」

 

「っ! シャルロット、下がって!!」

「!?」

 

そこに閃きがシャルロットを襲い、咄嗟に壱花がシャルロットを庇うように前に出て右手のカリバーンでその閃きを受け止める。

 

「ぐっ!」

 

しかしその閃きは左からも襲い掛かり、壱花はシャルロットの前に出た時左手に展開した盾で受け止める。

 

「――燕返し!!!」

 

「づあっ!?」

 

だが、その剣の閃きは一呼吸の内に三本の太刀を重ねるもの。剣で一本、盾で一本を防いでも残る一本の剣閃は防げなかった。

 

「総司君!」

 

「俺を忘れてもらっては困る……私欲とはいえこの戦い、負けるわけにはいかない……」

 

胴を斬られた壱花をかばい、アサルトライフルを連射するシャルロット。しかし総司はそれを展開した実体シールドで防ぎつつ、台詞を決める。まあ要するに「壱花とのデート権を他の連中にかっさらわれるわけにはいかない」という事だ。本来自分だけの約束でもあるし、他の人が優勝してそれを明かされたら流石に壱花も気づいてしまう。という二重の意味で。

 

「篠ノ之総司、参る!」

 

実体シールドは収納し、刀を両手で握り締め、侍らしく名乗りを上げ斬りかかる総司。それに対し彼の狙っていたシャルロットは宙返りし、さらにシャルロットがさっきまでいた地点の後ろから壱花が飛び出して斬りかかる。

 

「やああぁぁぁっ!!」

 

「せやああああっ!!」

 

カリバーンと近接ブレードがぶつかり合い。互角、いや、やや壱花が押している。

 

「……強くなったな、壱花」

 

「お互いにね!」

 

総司と壱花は互いに互いの成長を認め、壱花が燕返しの構えを取ると同時に総司も燕返しの構えを取る。

 

「今だよ、シャルロット!」

 

「うん!」

 

しかし、壱花のそれはブラフ。総司なら必ず打ち合いに応じるという彼の性格を利用し、さらに燕返しはその特性上両手が塞がってしまう、すなわち盾を構える事が出来なくなる事を利用した二重の罠。

 

「しまっ――」

 

まんまと乗せられてしまった総司の顔が青くなる。だが、シャルロットは既に六二口径連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》を両手に構えていた。面制圧力に特化したこの武装、至近距離なら外すことはない。

 

「――うわっ!?」

 

だが次の瞬間、短い悲鳴と同時に総司の姿が消え、ショットガンの弾丸はむなしく空を切る。

 

「邪魔だ」

 

総司と入れ替わるようにラウルが突撃してくる。その武装であるワイヤーブレードの一つが総司の足元まで伸びており、彼をアリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばす。だが乱暴にアリーナ床に叩きつけるような投げ飛ばしは危機に陥ったパートナーを助けたというよりも歩いている時に邪魔な石ころを蹴っ飛ばしたように見える。

それが真実なのだろう。ラウルはパートナーである総司の安否も気にせずに両手のプラズマ手刀を展開、壱花へと左右から斬りかかる。

 

「数の差で俺が有利だな」

 

「たかが二倍でしょ!」

 

ラウルの言葉に壱花もそう返すが、実際に手数で壱花は押されており、シャルロットが援護に入ろうにもラウルはワイヤーブレードを巧みに操ってシャルロットを牽制、援護を封じると共に上手く壱花から引き離していた。

 

[シャルロット、大丈夫?]

 

[壱花こそ。すぐにサポートに入るからね?]

 

[ううん、大丈夫。このまま例の作戦でいこう]

 

[オッケー]

 

二人はプライベート・チャンルで会話を交わすと今回の作戦へと移る。それはすなわちパートナー、今回で言うなら総司から先に倒そう作戦。シャルロットは反転しワイヤーブレードの攻撃範囲から離脱すると総司へと突進、接近戦に特化している総司に対し、中距離からの射撃を挨拶に攻撃を開始する。

 

「先に片方を潰す戦法か。無意味だな」

 

ラウルはその光景を見て鼻で笑う。

 

「元より一対二! そちらから一対一に持ち込んでくれるのは好都合!!」

 

叫び、六本のワイヤーブレードをフル活用し、プラズマ手刀も含めて八つの刃で四方八方から攻め立てるラウラ。対する壱花はカリバーンを右手一本で振るい、左手に握った円形盾でプラズマ手刀を防ぎ受け流し、さらに両足でワイヤーブレードを蹴り弾く。両手両足フル稼働の状態でなお防戦一方だった。

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

ガギィンッ! と音を立てて総司が両手に握る刀とシャルロットが右手に握る近接ブレード《ブレッド・スライサー》がぶつかり合い、しかし間髪入れずに左手に握る《レイン・オブ・サタディ》が火を噴くと総司はギリギリで弾丸を回避し、体勢を立て直すために後退する。

 

「逃がさないよ!」

 

「くそ!」

 

しかしシャルロットは一気に前進、左手に展開したアサルトライフル《ガルム》で牽制射撃をしながら突進、相手に体勢を立て直す暇を与えない連続攻撃を行う。

 

「ならば望み通り!」

 

だが相手が接近戦を挑むなら好都合、と総司も刀を構え直し突撃。しかしその振るった刀は空を切り、今度はシャルロットが距離を取りながら射撃で攻撃を仕掛けていた。押しても引いても一定の距離と攻撃リズムを保ち、攻防ともに高いレベルで安定しているその戦法。これこそがシャルロットの得意戦術[砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)]。曰く「求めるほど遠く、諦めるには近く、その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、緩やかなる褐色の死へと進む」という謳い文句のつく戦術だ。

 

 

 

 

 

「……そろそろ終わらせるか」

 

一方壱花VSラウル。零距離での高速格闘戦の中、ラウルがプラズマ手刀を解除。壱花がまずいと思うのも束の間、彼女は身体が凍り付いてしまったかのように動きを止めてしまう。シュヴァルツェア・レーゲンの右手から放たれた光――AICに拘束されてしまったのだ。

 

「しまった……」

 

「残念だったな。では、消えろ」

 

「きゃあああぁぁぁぁっ!!!」

 

その叫び声と共に壱花は六本のワイヤーブレードに斬り裂かれ、さらに二本のワイヤーブレードで左腕を取られるとねじ切るように回転を加えられながら地面に叩きつけられた。

 

「がはっ……」

 

地面に叩きつけられた衝撃に彼女は苦しそうな息を吐く。

 

「とどめだ」

 

そこに容赦なくレールガンを放つラウル。放たれたのは対ISアーマー用特殊徹甲弾、当たり所が悪ければ一発で勝負が尽きかねない代物。壱花もかわせないと判断したか左手の円形盾で防ごうとするが、彼女の左腕にはそれを予測し妨害するためだろうか一本残ったワイヤーブレードがあり、左腕の動きを封じていた。もう、右手のカリバーンで斬ろうにも間に合わない。万事休すだ。

 

「お待たせっ!」

 

しかしそこに総司の戦闘不能アナウンスが聞こえ、直後シャルロットが壱花に合流、レールガンの弾丸を盾で弾くとそのままワイヤーをブレードで切断。壱花を連れてその場を離脱した。総司は戦闘不能、アリーナの地面に下りて悔しそうに壱花達を睨んでいた。

 

「ここからが本番だね」

 

「ああ。見せてあげよう、私達のコンビネーションを!」

 

シャルロットはアサルトライフルを投げ捨ててショットガンとマシンガンを展開しながらそう言い、壱花もカリバーンを構えなおしながら返すと二人揃って飛び立った。

 

 

 

 

 

「はー……凄いですねぇ。二週間ちょっとの訓練であそこまでの連携が取れるなんて」

 

観察室。教師だけが入る事を許されたこの部屋で、兎佐はモニターに映し出される戦闘映像を眺め感心したように呟いていた。

 

「やっぱり織斑さん、才能ありますね」

 

「ふん。あれはデュノアが合わせているから成り立っているだけだ。壱花自身は大して連携の役には立っていない」

 

「ま、まあそうですけど……でも、そうだとしても他人がそこまで合わせてくれる織斑さん自身が凄いんですよ。だって、魅力のない人間には誰も力を貸したくなくなるものじゃないですか」

 

「まあ、それはそうだな……」

 

こういう場において公私混同はしない千雪の態度だが、やはり妹が褒められるのは嬉しいのかやや頬が緩んでおり、それに気づいた兎佐はくすくすと笑いながら「妹さん思いだなぁ」と感想を心の中で述べる。もしも口に出せば拳骨か両こめかみを挟み込んでの万力じみたぐりぐり攻撃待ったなしである。

 

「それにしても、学年別トーナメントのいきなりの形式変更は、やっぱり先月の事件のせいですか?」

 

兎佐がそう千雪が尋ねる。先月の事件――謎の無人IS襲撃事件、表向きは反政府組織の仕業ということで済ませたその事件を思い出しながら千雪はこくりと頷いた。

 

「詳しくは聞いていないが、恐らくそうだろう。より実践的な戦闘経験を積ませる目的でツーマンセルになったんだろうな。特に今年の新入生には第三世代型兵器のテストモデルも多い。不意の襲撃にも対応できるよう、より実践的な戦闘経験を積ませるのも目的だろう」

 

そう、上の方から指示された内容の真意について千雪は語り、兎佐は「ははぁ、なるほどなるほど」と頷いた。

 

[シールド残量ゼロ。篠ノ之総司、戦闘不能]

 

「あ、篠ノ之君、負けてしまいましたね」

 

「専用機がなければあんなものだろう。特に篠ノ之はデュノアと相性が悪い」

 

アナウンスを聞き、兎佐が呟くと千雪は冷静にそう断ずる。剣術による接近戦においては一年生の中でもトップに位置する総司――本人が中学の時に剣道日本一に輝いたため基礎の面で飛びぬけているのは当然ではあるが――だが、対するシャルロットが得意とするのは一定の距離を保っての中距離戦。届かない位置を常に取られてしまえば刀で銃に勝てないのは当然の理であり、本人達の性格も手伝ってその有利不利が広がってしまう。

千雪は「例えるならじゃんけんのようなものだ」と最後に付け足し、モニターに目を向ける。そこには一対二にも関わらず壱花とシャルロットのコンビと同等以上に渡り合っているラウルの姿が映し出されていた。

 

「強いですねぇ、ボーデヴィッヒ君」

 

「ふん……変わらんな。強さを攻撃力と同一と考えている。だがそれでは――」

 

壱花に勝つ事はできないだろう。と最後の言葉だけは心中で思うだけに留める。口にすればまた兎佐に何を言われるか分からないからだ。

 

「あ、織斑さんが零落白夜を出しました! 一気に勝負をかけるつもりなんでしょうか?」

 

「ふ……さあ、どうかな? どう転がるか、ここからが見物だぞ」

 

カリバーンが変形し、純白のエネルギー刃が展開される。それを見た兎佐がはしゃぎ、千雪は腕組みをして頬の端を吊り上げて笑みを見せる。

 

 

 

 

 

「これで決める!」

 

壱花は零落白夜を発動、一気に勝負をつけるべくラウルへ突進し斬りかかる。

 

「触れれば一撃でシールドエネルギーを消し去ると聞いているが……それなら当たらなければいい」

 

ラウルはそれに対しAICを連続で発動、しかし壱花は右手、左手、目の動き、それらで読んで急停止・急加速・急旋回で何とか回避し続けている。

 

「ちょろちょろと目障りな……」

 

その回避に対し、ラウルは舌打ちを叩くとワイヤーブレードも攻撃に加える。

 

「壱花、前方二時!」

 

「オッケー!」

 

しかし壱花は一人ではない。後方からの援護の声に壱花はそっちの方に突破しろという意図を読み取り、言葉通りそっちに突っ込む。

 

「ちっ……小癪な!」

 

前方にあるのは二本のワイヤーブレード、しかしシャルロットの放ったマシンガンの弾丸がワイヤーブレードを弾き、壱花はその一瞬の隙を逃さずにワイヤーブレードの隙間を突っ込んで潜り抜け、ラウルを射程圏内に収めた。

 

「無駄だ、貴様の攻撃は読めている」

 

「普通に斬りかかれば、ね。それなら!」

 

壱花はそう言うと一瞬だけシャルロットに視線を向け、その後剣先をラウルに向ける。

 

「これでどうだあああぁぁぁぁっ!!!」

 

そしてそのまま突っ込む。斬りではなく突き、線ではなく点の動きだ。その方が捕まえにくいであろう。という壱花の咄嗟の判断。

 

「腕にこだわる必要はない」

 

しかしラウルにもう少しで届こうという位置でAICが壱花を捕らえる。

 

「ようはお前の動きを止められれば――」

「私は動けない、でもあなたは私だけに意識を集中しなければならなくなる。それがAICの弱点なんだよね?……忘れてるの? 私は、()()()()()()()()()()?」

「――!?」

 

ラウルの言葉を遮って壱花はそう言い、それにラウルは驚いたような表情を見せ、慌てて視線を動かす。

 

「ここだっ!」

 

しかしもう遅い。そこに零距離まで接近したシャルロットがショットガンの六連射を叩き込み、それが大口径レールガンを爆散させる。

 

「壱花!」

 

「うん! これで、終わりだあああぁぁぁぁ!!」

 

レールガンの爆散がラウルの集中を逸らし、壱花を自由にさせる。そしてシャルロットの掛け声と共に壱花が零落白夜を発動、白い光のエネルギー刃を纏うカリバーンを振り下ろす……瞬間、キュウウゥゥゥンという音と共にエネルギー刃が消え去った。

 

「そんなっ!? ここにきてエネルギー切れ!?」

 

壱花の声もそこに響き渡った。

 

「残念だったな」

 

ラウルの声が響く。壱花が驚愕に固まった一瞬を逃さず、彼は両手にプラズマ手刀を構えて壱花の懐へと飛び込んでいた。

 

「限界までエネルギーシールドを消耗してはもう戦えまい! あと一撃でも入れば俺の勝ちだ!!」

 

獲物を捉えた猟犬の如く口元から牙を覗かせ、ラウルは吼えてプラズマ手刀を振るう。その一撃一撃が壱花の急所を捉えようと狙っており、壱花は円形盾を展開する余裕もなくカリバーン一本でその猛攻をしのいでいた。

 

「やらせないよ!」

 

「邪魔だ!」

 

さらに壱花の援護に入ろうとするシャルロットをラウルはワイヤーブレードで牽制。近距離戦と中距離戦、この二つをラウルは正確に行っている。改めて知る敵の実力、というやつだ。

 

「貴様を倒せば教官は俺の方を向いてくれる! 偉大な教官をこんなくだらない場所から離し、ドイツへと連れ戻せる!」

 

「――っ!」

 

ラウルの言葉を受けた壱花の口元が引きつり、直後彼女はギリッと歯を噛みしめる。

 

「ふざけるな!! 千雪お兄ちゃんの犬がっ!!!」

 

「なっ!?」

 

力強いカリバーンの一閃がプラズマ手刀を弾き、その力にラウルが一瞬怯む。

 

「ううん、うちのラムレイとドゥ・スタリオンの方が何倍も利口だよ! 千雪お兄ちゃん千雪お兄ちゃん馬鹿みたいに! ただ飼い主に尻尾振るしか出来ない犬みたいだよ!」

 

「犬、だと……馬鹿にしたな! 偉大な教官を尊敬する事を、馬鹿にしたか!?」

 

「確かに私も千雪お兄ちゃんは尊敬してるよ! でも、そこまで盲目になった覚えはない!! お兄ちゃんは家事も掃除も出来ない私生活ヘボだから! 私がどうにかしてあげなきゃ絶対あの人生きてけないもん!!」

 

「教官が……教官が、そんなはずがない! 完璧な教官を馬鹿にするな!!」

 

「完璧な人間なんていない! ただ犬のように妄信してその人を見ない事の方がお兄ちゃんを馬鹿にしてる!!」

 

壱花の語る千雪にラウルが激昂、再びプラズマ手刀で斬りかかる。なお公衆の面前で自らの私生活を暴露された千雪は観察室で「私生活ヘボ」、「どうにかしてあげなきゃ生きてけない」と大きく書かれた矢印を背中に突き刺して体育座りをしている。「俺、壱花が来るまではどうにかなってたもん……」と涙目で呟いており、兎佐は頬を引きつかせて彼から目を逸らしながら「何度か大掃除に駆り出されましたけどね」と心中で呟く。

 

「落ちろぉ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

激昂したラウルと壱花の激闘もラウルの勝利で終わり、壱花にプラズマ手刀の強烈な一撃が突き刺さる。同時にそれを受けた壱花、そして白式から力がなくなり、彼女は静かに床へと落ちた。

 

「は、ははっ――俺の勝ちだ!!」

 

その光景を見たラウルが己の勝利を確信し、大きく笑い出す。

 

「まだ終わってない!」

 

「!?」

 

しかし、そこに勝利の確信で動きの鈍ったワイヤーブレードをかわしきったシャルロットが超高速でラウルへと迫る。

 

「な、瞬時加速(イグニッション・ブースト)だと!?」

 

その光景にラウルは狼狽を隠せなかった。事前のデータに存在しなかったシャルロットの使用可能技術。なにせ、作戦を立てるためにお互いの情報を全て出し合ったパートナーの壱花でさえ、シャルロットが瞬時加速を使える事は知らなかったのだ。

 

「今、初めて使ったからね」

 

「な、なに……まさか、この戦いで覚えたというのか!?」

 

シャルロットのニヤリとしたしたり顔にラウルはさらに驚きを見せる。壱花が訓練を繰り返し、使用可能になった高速移動技術、瞬時加速。それをシャルロットは実戦の中で覚え、ぶっつけ本番で成功させてみせたのだ。シャルロットのこの器用さはもはや一種の才能であり、単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)と言っても過言ではない。

 

「っ――だが、俺の停止結界の前では無力!!

 

しかしすぐさま冷静さを取り戻し、右手を前に突き出してAIC発動体勢へと移るラウル。

 

「がうっ!?」

 

直後、ラウルの背中に弾丸が着弾。ラウルの意識が逸れてAICが不発に終わる。

 

「な、なにが――」

 

咄嗟にハイパーセンサーで背後を確認する。その時ラウルが見たのは五五口径アサルトライフル《ヴェント》を構える壱花の姿だった。ヴェントは数日前の訓練時に使用許可が下りた銃。シャルルは総司とのタイマン時に使用していたこの銃を壱花を助けた後、さりげない銃火器交換に見せかけて残弾ありの状態で捨てていたのだ。そしてそれに気づいた壱花はラウルの攻撃に耐え、ギリギリシールドが残っている状態でわざと墜落、ラウルの注意が自分から逸れたのを見計らってからこっそりとそれを拾い、今回の不意打ちでの射撃に繋げたわけである。

 

「これならAICは使えない!」

 

「――こ、のっ! 死にぞこないがぁっ!!」

 

吼えるラウルだが冷静さは失っていないのか、ワイヤーブレードでは間に合わずレールカノンを失っている今、距離のある上に射撃は素人の壱花は放置して近いシャルロットを相手する事に決め、再びAICの矛先をシャルロットに向ける。

 

「でも、間合いに入る事は出来た」

 

だが、その時には既にシャルロットはラウルの懐に潜り込んでいた。

 

「それがどうした!? 第二世代の攻撃力ではシュヴァルツェア・レーゲンを堕とすことなど――」

「この距離なら外さない!!!」

 

ラウルの自信満々の声をシャルロットが凛々しい声で吹き飛ばし、瞬間、シャルロットの左腕に装備されていた盾がの装甲がパァンッと音を立てて弾け飛ぶ。そこには巨大な杭があった。それもリボルバーと連結している所謂パイルバンカー。その姿を見た瞬間、ラウルの表情が初めて驚愕の色に変わる。

 

「――盾殺し(シールド・ピアース)!……」

 

「標的確認、方位角固定!――」

 

必死の形相に変わり、咄嗟にAICを発動するラウル。しかし驚愕によってその網にずれが走ったのかシャルロットの左腕は止まらず、ラウルの腹に杭が突き刺さる。

 

「――灰色の鱗殻(グレー・スケール)起動!! 吹き飛べぇ!!!」

 

「が、ふぅっ!!」

 

シャルロットの叫びと同時に盾殺しの一撃が炸裂。その威力にラウラは吹き飛ばされ、アリーナの壁に叩きつけられる。一気にシールドエネルギーが減っていくがシャルロットは追撃をかけて壁にラウルを押し付け、さらに盾殺しのリボルバー機構を動かし、次弾炸薬を装填する。一撃目は吹き飛んだせいで純粋な威力こそ減衰したが、壁に押し付けられた今衝撃を逃がすものは何もない。

 

――ズガンッ

 

二撃目がラウルの腹に突き刺さり、絶対防御を作動させて防ぐがそのためにシールドエネルギーを大幅に持っていかれる。

 

――ズガンッ

 

三撃目が同じく絶対防御を発動させ、しかし貫通した痛みがラウルの表情を苦悶に歪めさせる。

 

――ズガンッ

 

四撃目を受け、ラウルの身体が大きく傾く。そのISにも紫電が走り、IS強制解除の兆候を見せ始めた。

異変が起きたのは、その次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

(こんな……こんな所で負けるのか……俺は……)

 

確かに相手の力量を見誤った。それは間違えないようのミスだ。しかし――

 

(俺は負けない……負けられないっ!)

 

遺伝子強化試験体C-0037。それが、人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた自分につけられた最初の識別番号(名前)

ただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。格闘を覚え、銃を習い、各種兵器の操縦法を体得した。いかにして人体を攻撃するかの知識を学び、どうすれば敵軍に打撃を与えられるかの戦略を覚える。

 

(その全てにおいて俺は優秀だった。性能面において、俺は最高レベルを記録し続けた)

 

それがある時、世界最強の兵器――ISが現れた事により、世界は一変した。それとの適合性向上のために行われた肉眼へのナノマシン移植処置――ヴェーダン・オージュによって異変が生まれた。疑似ハイパーセンサーとでも呼ぶべきそれは脳への視覚信号の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における胴体反射の強化を可能とする。

理論上は危険性は全くない。不適合も起きない……はずだった

 

(……しかし、その処置によって俺の左目は金色に変質、常に稼働状態のままカットできない制御不能へと陥った)

 

その事故から自分はIS訓練において後れを取る事になり、いつしかトップの座から転落した自分を待ち受けていた嘲笑と侮蔑、『出来そこない』の烙印。その屈辱を思い出し、金色に光る左目を抉りだしたい衝動に駆られる。

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが……なに、心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位に戻れるだろう。なにせ俺が教えるんだからな」

 

暗い暗い闇の中、出会った光。それが教官――織斑千雪との出会いだった。

その言葉に偽りなどなかった。特段特別な訓練を組まれたわけでもなく、彼の教えを忠実に実行するだけで自分は最強の座を取り戻すことが出来た。

 

(そして俺は――あの人に憧れた)

 

強さと凛々しさ、自らを信じるその気高き王の姿に。

だから、訊いた。どうしてそこまで強いのか、どうすれば強くなれるのか。と。

 

「……俺には妹がいる」

 

その問いかけに対し、千雪は鬼のような厳しさではなく、僅かな微笑みを浮かべて返した。

 

「妹……ですか?」

 

「ああ……秘密だぞ?」

 

悪戯っぽく笑ってそう言い、千雪は懐からペンダントを取り出すと、そのペンダントトップをカチリと押して開く。どうやら中にはデジタルの写真データが入っていたようだ。そこには自分より少し年下だろう女の子が二匹の白と黒の犬と一緒に遊んでいる姿が映っている。

 

「あぁ、言っておくが妹はお前と同い年だ。これは昔の写真だな……最近のデータはこれには入っていないからな」

 

ピッピッピッとペンダントトップのボタンを操作し、写真データを次々と変える千雪。しかし確かにそこに映っているのは最初の犬と一緒に遊んでいるのと同年代か少し年下程度のものばかりだった。そして最初に見た二匹の犬と遊んでいる写真に戻ると、千雪はペンダントトップを閉じ、ペンダントをしまう。

 

「……あいつを見ていると、強さが何か分かる時がある」

 

「……よく分かりません」

 

「今はそれでいい。いつか日本に来ることがあればあってみるといい」

 

千雪はそう言い、微笑む。

 

「だが、一つ忠告しておくぞ……あいつに――」

 

優しい笑み、しかしどこか気恥ずかしそうな顔。そんな中心なしか鋭い目つきで千雪は忠告を放つ。

 

(違う)

 

そんな顔はあなたではない。強く、凛々しい王の姿。堂々としているのがあなたなのに。

 

(許せない、認めない。教官にそんな表情をさせる存在が――)

 

 

 

――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

――降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 

声が聞こえてきた。荘厳で優雅で、なおかつ力強い声。

 

 

――閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

――繰り返すつどに五度。

――ただ、満たされる刻を破却する。

 

――告げる。

――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

――聖杯の寄るべに従い、この意、この(ことわり)に従うならば応えよ。

――誓いを此処に。

 

――我は常世総ての善と成る者。

――我は常世総ての悪を敷く者。

 

 

言葉の意味は分からない。だが、唐突に理解する。これは自分に力を与えるものだと。

 

 

――されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

――汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者。

 

 

頭の中に紫電が走る。バチバチ、と頭が痛みを訴える。そんなもの知らない。紫電が走り、理性が奪われていく。だが構わない。自分に――俺に必要なのは憎い相手を破壊するための力、それを考えた瞬間快楽に包まれ、頬が裂けるようなにやけが走る。

 

 

――汝三大の言霊を纏う七天。

――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。

 

 

どこからともなく聞こえてくる声が終わった。そう思った瞬間、ラウルの前に一枚のカードが出現する。描かれているのは獣人のような存在が巨大な鉈のような剣を持っている絵。それが何を意味するか分からず、しかし薄れていく意識の中でラウルはそれを掴み取る。同時に、彼の頭の中に一節の呪文が流れ込んでくる。

 

夢幻召喚(インストール)

 

それが意味する事を考える間もなく、ラウルはその呪文を口にする。同時に彼の意識は急激に遠のいていった。

 

 

 

 

 

「あああああああああっ!!!」

 

「っ!?」

 

突然、ラウルが身を裂かんばかりの絶叫を発する。同時に彼のISから紫電が走り、シャルロットを吹き飛ばす。

 

「つあっ、い、一体何が!?」

 

シャルロットは紫電による衝撃と痺れに耐え、もしやシュヴァルツェア・レーゲンの緊急用の隠し武装ではないかと警戒心を隠さずにラウルの方を見る。

 

「っ!?」

 

だが、次の瞬間シャルロットは己が目を疑う。その後ろでは壱花も口に手を当てて驚愕に沈黙していた。

 

シュヴァルツェア・レーゲンが変形していた。いや、変形などという生易しいものではない。そのISからまるで真っ黒な泥のようなものが浮き出、零れ、溢れていく。最後にはIS全体がラウルごと泥に包まれていた。

 

「な、なに……あれ?……」

 

壱花が呆然と呟く。あれはダメだ、あの泥はいけないものだ、そう直感する。逃げ出したい衝動に駆られる、しかし動くことが出来ない。そして泥が蠢く、その中に新たな魂を宿したように。

泥が新たな姿を形作る。真っ黒な鎧に全身を包み、無手の両手は新たな武器を探すように蠢く。

 

「Arrrrrrrrrr」

 

まるで西洋の騎士のようなその姿に、兜の目線部分に横一文字に空かれた隙間から真っ赤な光が走り、それは敵を探すようにギギギ、と顔を動かす。光が、壱花を捉えた。光が、一際強くなる。

 

「Arrrrrrrrrrthurrrrrrrrrr!!!」

 

最狂の騎士が、その産声をあげるように咆哮した。




いやー書けた書けた。今回ラストだけは思いついてたんですけどね、うん。ラストだけ……そこまでが長いっ!!!
とにかく壱花VS総司、シャルロットVS総司、壱花VSラウル、シャルロットVSラウルを少しずつでも全部書いてたら長くなっちゃいました。あと千雪のギャグシーン。(おい)
で、原作でいうVTシステム起動にて次回に続くっと……さて、ここからどうしよう。一応多少暴れさせる予定ではあるけど、流石にここまで長く引っ張っといて零落白夜一撃必殺ってわけにもいかないしなぁ……。(相変わらず行き当たりばったり)
まあそこはまた後で考えるとしましょう。では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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