インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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第十七話 黒き猟犬の仲間入り

「だが、一つ忠告しておくぞ……あいつに近づくなら心を強く持て。あいつは誰よりも何よりも可愛い。それでいて心は誰よりも何よりも強い。油断をしていると惚れてしまうぞ?」

 

優しい笑み、しかしどこか気恥ずかしそうな顔。そんな中心なしか鋭い目つきで千雪は忠告を放つ。

 

「だが、そんじょそこらの男に壱花をくれてやるつもりはない」

 

「どういう……意味ですか?……」

 

「なぁに。俺もあいつの友達関係に口を出すつもりはない。ただ……強くなれ、というだけだ」

 

そう言い、千雪は凛々しく優しく笑ってみせた。

 

 

 

 

 

「う……ぁ……」

 

ぼやっとした光を感じ、ラウルはそんな声を漏らして目を覚ます。

 

「気がついたか」

 

聞こえてきた声を聞いた瞬間、ラウルはカッと目を開き、すぐに起き上がろうとする。

 

「あぐっ!?」

 

が、起き上がる事も出来ずに身体中に走る痛みに呻き声を上げる結果に終わった。

 

「全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう、無理をするな」

 

「りょ……了解しました……」

 

声をかけてきた男性――千雪はそうラウルに労いの言葉をかけ、ラウルも頷きながら、しかし尊敬する教官を前に寝転がっているのは非礼と考えたのか、再びゆっくりと起き上がろうとする。身体中に走る痛みはこんな事を引き起こした自らへの罰、と受け止めながら身体に力を込める。だがその時、今度はラウルは眩暈を起こし、再びぱたりと倒れ込んだ。

 

「な、何が……」

 

「負荷がかかったのは肉体だけではない。ということだ。まるで狂戦士(バーサーカー)のような暴れよう、それを可能にする肉体についていく形で神経も酷使されていた」

 

狂戦士(ベルセルク)……一体、何があったのですか?」

 

ラウルは寝転がりながらも、視線だけは真っ直ぐに千雪へと向ける。その視線を受けた千雪は、はぁ、とため息をつく。そう簡単に引き下がる相手ではない、という事は彼も重々承知だ。

 

「一応、重要案件である上に機密事項なのだがな」

 

言外に、この事を漏洩させることは許さん。ここだけの話であると注意を行ってからゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「ベルセルクシステム……それがお前のISに搭載されていた」

 

「ベルセルク……システム……」

 

疲労で頭が働いていないのだろう、ぼんやりとした声で千雪の言葉を反芻しながらラウルは首を傾げた。

 

「ああ。もっとも、あんな不安定なシステムで……何を考えている」

 

千雪がため息交じりに呟き、その言葉にラウルが怪訝な目を向けると千雪は誤魔化すようにごほんと咳払いをした。

 

「ベルセルクシステムとは疑似ハイパーセンサー……つまりお前の左目の越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の機能を強化、視界に入る全ての情報を高度に処理する事によるIS操縦者の判断力、ひいては戦闘力を底上げするための特殊戦闘プログラム。今回は操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意思……いや、願望か。それが揃った時に発動するようになっていたらしい」

 

千雪はそう、まるで今しがた聞いてきたように話す。

 

「学園からドイツ軍に問い合わせたが、研究員独断による秘密裏のシステムテストと操縦者の精神面での問題による暴走、それらが重なって起こった事故だ……と、ドイツ側は主張している」

 

要するに、一部の研究員が勝手にシステムテストを行おうとし、それを使ったラウルに精神的な問題があったから暴走をした、その結果の不慮の事故である。と一部の研究員とラウルに責任を押し付けるつもりらしい。

 

「……」

 

だがラウルにそれに反論する手段はない。研究員が本当に独断でシステムテストをしようとしたのか、それを証明する手立ては自分にはない。そもそもシステムが組み込まれていた事すら知らなかったのだ。証明のしようがない。しかし、そんなシステムがある事は知らなかった。だから自分は悪くない。などと言い逃れできるはずがない。その力を欲し、その結果狂化、暴走をしたのはほかならぬ自分自身なのだから。

研究員の独断については証明できない。操縦者に問題があった、それに対する言い訳は出来ない。つまり軍からの処断を甘んじて受ける。それ以外にラウルに出来ることはない。

 

「……しかし、事はそう簡単に治まるものでもない」

 

そこに、千雪がそう話を続けた。

 

「各国の非難はドイツに集中している。もはや下っ端の研究員や軍人を切り捨ててそれで終わり。などというお約束の手段でどうにかできるほど小さな問題ではない。加えて、学園としても教師が五人も負傷、ISも五体がダメージレベルBを越える損傷を受けている。責任の追及をとことん行う予定だ」

 

そこまで言い、きょとんとしているラウルに向けて、千雪はにやり、と笑った。

 

「要するに、お前だけのせいではない。ということだ」

 

「あ……」

 

千雪の言葉に、ラウルはどこか安心したような表情を浮かべる。

 

「それに、奴らは気になる事を言い残していた……」

 

「え?」

 

だが、千雪の話はそこまで終わらなかった。

 

「先ほど話したベルセルクシステムだが、これはあくまでも操縦者の戦闘力を底上げするための特殊戦闘プログラム。つまりISそのものに干渉するものではなかった……恐らくだが、奴らは失敗する事自体は想定していたのだろうな。視界に入る全ての情報を処理する、と言ったがそんなもの普通の人間に耐えきれるとは到底思えん。脳が情報を処理しきれず暴走を起こすだろう。だが、失敗したとしてもお前が本来のシュヴァルツェア・レーゲンで暴走することしか考えていなかったのだろうな。ISがシュヴァルツェア・レーゲンとは似ても似つかない黒い騎士風の姿に変貌し、完全武装したIS五体を一蹴。挙句の果てに敵ISの武装の所有権を強制的に書き換えて強奪した。という報告を聞いた時の関係者共の狼狽具合は傑作だったぞ」

 

ISは原則として変形をしない。厳密には出来ないと言った方が正しい。形状を変えるのは『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』の時だけ。パッケージによる武装変更によって多少部分変化が起きる事はあるが、基礎の形状が変化することはない。

その()()()()()現象を引き起こし、五体のISを一掃する圧倒的な戦闘力。さらには敵の武装を使用許諾(アンロック)を得ることなく強制的に奪い取るという未知の技術。その報告を受けた時、きっと「暴走は操縦者の問題。責任は操縦者にある」とでも言い逃れようとしていただろうモニターの向こうの研究員のお偉いさんはとんでもなく狼狽、「そんな事は知らない!」と汗をだらだら流しながら叫んでいたことを思い出して千雪はククッと笑いを噛み殺す。

 

「無論、そんな言葉を信じられるはずもない。なにせ、独断だろうとなんだろうとシステムをテストのためISに入れた事、つまりシステムを開発した事自体は認めているんだ。都合の悪いところは知りませんなどと通じるはずがない。しばらくドイツは各国政府からの追及を浴び、政府も責任問題で荒れるだろうな。それこそ下っ端の軍人の処断など考える余裕もないはずだ」

 

「っ……」

 

千雪の言葉にラウルが息を飲む。システムそのものに大きな問題があったとなれば、それはもはやシステムを使っただけであるラウルにのみ責任を押し付けることなど不可能、何故ならラウルは開発には一切関与していないのだから。むしろそうなれば責任はシステムを開発した研究者にある。謎のシステムの問題はなんなのか、その開発責任は誰にあるのか。その大きさの前にはたかだか一軍人の処遇をどうするかなど些事に過ぎない。そんな事を考えている暇があればそれもひっくるめて全ての責任を自分以外の何者かに押し付ける事を考える方が保身に走るお偉いさんにとっては重要だろう。

 

「さらにいえば、お前は既にIS学園の生徒だ。外部からの干渉など俺がはねのけてやる」

 

IS学園に在籍している限り、生徒は本人の同意なくしてありとあらゆる国家・組織・団体からの外的介入は原則として許可されない。ラウルはこの三年間に限って言えば極端な話ラウル自身が望まぬ限り軍からの処刑宣告さえはねのけられることになる。

 

「……教官」

 

「織斑先生、だ」

 

「……織斑先生」

 

「ああ」

 

ラウルはそう、改めて千雪を呼ぶ。

 

「ありがとう……ございます……」

 

「気にするな、生徒を守るのは教師の務めだ。お前は軍だのなんだの忘れて学校に通うガキらしく青春について悩み苦しんでろ」

 

ラウルのお礼に対し、千雪はそう言ってラウルの額を軽く指ではじく。

 

「強くなれよ、ラウル・ボーデヴィッヒ。時間は山ほどある。たっぷり悩み苦しみ、それを乗り越えて強くなれ」

 

ふっとどこか優しく微笑みながら千雪はそう言い残し、部屋を去っていく。それを見送ってからラウルはふぅ、と息を吐いた。

 

ベルセルクシステム、謎のISの変異。その原因は自分の弱さ。まるで真っ黒な泥の中に埋められたかのような気持ち悪さが自分の心を覆う。しかし千雪に言われた通り、ガキらしくないその悩みを一度忘れて頭を真っ白にした。

 

「負けた……な……」

 

その時心に浮かんできた感想を、どこか晴れやかな気持ちで彼は呟く。ベルセルクシステムと謎の変異により、圧倒的な力を得た。一時は憎いと思っていたあいつを追い詰めた。しかし、負けた。無粋な横やりのせいで。

 

(いや……無粋ではないな)

 

あの横やりは崇高なものだ。あの弾丸は壱花を守るために放たれた。誰かに守られる、それは弱いからではない。自分はその者に守られている。だから自分もその者を守る。互いに守り守られるその崇高な関係。自分はその『強さ』の前に敗北した。そしてその強さの中心に壱花は立っている。

 

「俺は……あの人の側にいたい……」

 

彼女の強さを学ぶために、より強くなるために、彼女を守るために。ラウルは壱花の側にいたいと望む。その時、彼の中に一筋の光が走る。思い出した、彼女の側にいる者を。自分よりも強く利口だと彼女が評した存在のことを。

 

「ああ、そうか……ならば、まず彼らの強さから見習おう……」

 

軍の事は忘れて青春について悩み苦しめ。と千雪は命じた。ならそれに従おう。俺は黒き猟犬部隊(シュヴァルツェ・フント)隊長ラウル・ボーデヴィッヒ。その地位をこの一時は忘れ、ラウル・ボーデヴィッヒという一個人になるために。そう思い、彼は何か悟ったように笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

翌朝、壱花は一人教室へとやってきていた。シャルロットは「先に行ってて」と言って食堂で壱花と別れてまだやってきていない、ついでにラウルの姿も見えなかった。

 

「み、みなさん。おはようございます……」

 

SHRの始まりを示すチャイムが鳴ると同時に兎佐と千雪が教室に入ってくる。しかし兎佐は朝っぱらから敵襲に対応したかのようにふらふらとしており、千雪もどうしたものかと何か悩んでいるように腕組みをしていた。そして兎佐は教壇の前に立つと、はぁぁ~、と大きなため息をついてから声を発した。

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介はすんでいるといいますか、ええと……」

 

「……転校生?」

 

兎佐の言葉は淀んでおりよく分からないが、壱花が転校生という言葉に反応すると教室内も一斉に騒がしくなる。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

千雪から合図が飛び、その言葉と共に入ってきたのは伸ばした金髪を後ろの方で丁寧に束ねた、スマートな体型の男子。男子制服に身を包んだシャルロットの姿だった。その姿に壱花含む教室内の全員が唖然としていると、シャルロットは悠然と教室の前に立つとくるりんと教室の生徒達の方を見る。

 

「シャルル・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

「……え?」

 

男子――シャルルのぺこりと頭を下げながらの丁寧な挨拶にこれはどうもご丁寧にと教室内の生徒が頭を下げる。そして頭を上げた壱花が混乱しているように声を漏らした。

 

「ええと、デュノアさんはデュノア君でした。ということです。はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立て直す作業が始まります……」

 

そして兎佐がため息をついてそう呟いた。

 

「え? デュノアさんって男?……」

「つ、つまり美少女じゃなくて美少年だったということでござるか!?」

「いや待て、俺……デュノアならイケるかも……」

「って、織斑さん……同室だから知らないってことは――」

 

一部不穏な発言が混じるが、教室内の男子が騒めき始める。が、シャルルはその喧騒を気にも留めずに壱花の方に歩き寄った。

 

「壱花」

 

「あ、シャルロット……じゃなくってシャルル君……女装、やめたの?」

 

「うん。壱花に抱きしめてもらって、勇気を貰って……ようやく決心がついたよ。僕はここにいる、ここに僕の居場所が出来たから」

 

そう言い終えると同時に、シャルルはどこから取り出したのか、赤い薔薇の花束を壱花の前に出した。

 

「まずはお礼を言わせてほしい。ありがとう、壱花」

 

「え、ど、どういたしまして……」

 

朝の教室で、自分が原因の喧騒の中、赤い薔薇の花束を渡しながらお礼を言うというとんでもなくシュールなシチュエーションに壱花はぽかんとしながらどういたしましてと返して花束を受け取る。

 

「壱花。お母さんがいなくなってから闇の中にいた僕にとって、君は闇の中に射す光だ。僕は君の事が――」

「「!!!」」

 

ぽかーんとしている壱花がついていけてない間にシャルルはそう言葉を続けようとし、だが喧騒の中で総司とセシルがシャルルの気持ちに気づいて席を立つ。だがシャルルを止めようにももう間に合わない。

 

「シャルロット、じゃない! シャルル・デュノアー!!!」

 

が、ドガァンと扉を蹴破る音がシャルルの告白を未然に防いだ。そして乱入者――鳳蓮音はギロリッと目を三角にしてシャルルを睨みつけた。

 

「テメエ実は男だったんだってな!? よくも壱花を騙してくれてたじゃねえか!! 今、ここで、落とし前をつけさせてもらう!!!」

 

叫び、真紅のナックルダスターを振り上げてISを展開。どうやらもう直ったらしく、壱花は「あ、よかった」と何かずれた事を考える。

 

「ふ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ぬって言葉を知らないのかな?」

 

対するシャルルはどこか余裕綽々な笑みを浮かべ、手を肩の高さまで持ち上げてやれやれと首を横に振る。

 

「恋路の邪魔? 何のことだ? 俺はただ日課にしている素振りに妙に納得がいかなくてな。これから続きをしようと思っているのだが、その先に偶然にも貴様がいるだけだ」

(プリンセス)に近づくならば、その騎士たる僕を倒してからにしてもらおうか」

 

そこに木刀を構えた総司とブルー・ティアーズを展開したセシルも参戦を決める。

 

「面白い。だったらここで決着をつけてあげようか! 僕のこの燃え上がる恋の炎、消せるものなら――」

 

シャルルの口上が終わる前に、プチンッと何かが切れる音がしたかと思うとシャルルの首元からオレンジのペンダントトップ――シャルルの専用機の待機形態だ――の姿がペンダントごと消える。

 

「――あ、あれ!? 僕のISが消えた!?」

 

ちなみにシャルルの背後には千雪が立っており、一瞬彼の右手がぶれたのは多分きっと恐らくメイビー無関係だろう。そしてシャルルは専用機を展開したセシルと蓮、木刀を構えた総司に囲まれる。

 

「あ、いや、ちょ、ちょっと待って……ぼ、暴力はよくないと僕は思うんだけどね?……」

 

頬を引きつかせながら慌てて説得に入るシャルル。だがその程度でこの三人は止まらない。一体何が原因で彼らが喧嘩しそうになっているかはよく分からない壱花だが、とりあえずこのままではまずいという事だけは判断できた。

 

「お、お兄ちゃん! 止めて! 止めて!!」

 

「……あーそうだ。職員室に忘れ物をしてきてしまった」

 

慌ててこのクラスの担任である千雪に止めるよう進言するが、その千雪は棒読みでそんな事を言い始めた。

 

「佐藤先生、忘れ物を探すのを手伝ってもらえないでしょうか? いやーうっかりしたなー。これでは十分は戻ってこれそうにないなー。その間教室内で何か起きても俺は関知できないなー」

 

「え、あ、あの、織斑先生?」

 

「お兄ちゃん待って忘れ物なんて嘘でしょ!? 本当だったとしてもこの状況なんとかしてから取りに行ってー!」

 

そう言い、兎佐を引っ張って教室を出ていくこのクラスの担任である千雪と、なすすべなく引っ張られていく副担任の兎佐、千雪を止めようと彼の腕を引っ張るが逆に引きずっていかれる壱花。この三人が教室を出ていってしまった。

 

「あ、あははははは……」

 

孤立無援を悟ったシャルルは頬を引きつかせて笑い始める。

 

「「「覚悟ォ!!!」」」

 

そして三人の雄叫びと同時に、教室が激震に揺れたのであった。

 

 

 

 

 

「ひどい、ひどいよ皆。よってたかって……」

 

「よしよしシャルル君。もう皆も、暴力はよくないよ?」

 

時間が過ぎて昼休み。屋上でお弁当を食べる事にした壱花は軽く半泣きになっているシャルルを膝枕(シャルルはうつ伏せスタイル)しながら彼の頭を撫で、シャルルに攻撃を仕掛けていた総司、セシル、蓮に注意を行う。その光景はどこか息子に甘いお母さんのように彼らの目には見えた。

なおシャルロットの専用機の待機形態であるペンダントトップは彼の胸で光っていた。千雪が「お前が職員室から出ていった時に落としていてな。SHRに持っていこうと机の上に置いていたのを忘れていたんだ……そう。忘れていたんだ」とシャルルに渡す時に軽く威圧していたことを追記しておこう。ついでに薔薇の花束は学業に関係ないため没収。放課後職員室まで取りに来いという至極まっとうな結論がついていた。

 

「つーか壱花。いきなり屋上集合って言われてもさ、俺まだ昼飯買ってきてないんだけど」

 

と、蓮が地べたに胡坐をかいて座り込み頬杖をつきながらそう問いかける。せめて購買でパンでも買ってきたいとでも言っているようだが、それに対して壱花はふっふっと笑った。

 

「ご心配なく蓮君。ほら、これどうぞ!」

 

そう言い、壱花は持ってきていた手提げ袋から数個の箱を取り出した。それを見て蓮は合点がいったように頷く。

 

「あ、これもしかして俺達に?」

 

「うん。ソウちゃんが学年別トーナメントで優勝したら打ち上げに行こうって言ったんだけど、中止になったでしょ? だからまあ残念会っていうか。皆でプチ打ち上げみたいな」

 

その言葉を聞いた瞬間セシルと蓮は「学年別トーナメントで優勝したら壱花とデートできる」という噂の真相を察して総司にジト目を向け、総司もハハハと愛想笑いをしながら目を逸らす。

ちなみにトーナメント自体は事故のせいで中止になったものの、今後の個人データ指標と関係するためすべての一回戦は行う事になっているようだ。なお、壱花・シャルルペアと総司・ラウルペアも試合は途中中止扱いにされたため、総司の使用する予定の打鉄含めた全てのISの修理とメンテナンスが完了した後にもう一度戦うことになる。

 

「ソウちゃんには和食、蓮君には中華ね。でも私イギリス料理とフランス料理はよく分かんなかったから……セシル君とシャルル君は両方とも洋食くくりになっちゃったけどごめんね?」

 

「いえ、そんな。光栄です!」

「うん。その気持ちが一番嬉しいよ。ありがとね、壱花」

 

総司と蓮には母国の味なのにセシルとシャルルは洋食でひとまとめにしたのが申し訳ないのか謝ってくる壱花にセシルとシャルルがその気持ちが嬉しいとお礼を返し、彼らは壱花に配られた弁当箱を開ける。総司のものは白米に卵焼き、唐揚げと言った和食もの。蓮は酢豚をメインにした中華。セシルとシャルルはサンドウィッチメインの洋食弁当だ。ちなみに壱花はそれ全部が少しずつ入った所謂多国籍バイキングのようなものになっている。

 

「……壱花、なんだその多国籍バイキング……」

 

「皆の分作ってたら時間がなくなっちゃって。残り物詰め込んだの」

 

蓮が呆れ気味にツッコミを入れるが壱花は構わずぱくぱくと食べ進める。ちなみに同じものをもう一つ千雪に押し付けており、それを見た兎佐も「多国籍バイキング?」とツッコミを入れていたことを追記しておこう。

 

「あ、そうそう。昼休みにお兄ちゃんとこに行った時に伝言頼まれたんだけど。今日の放課後、あの黒いのとの勝手な戦闘行動及びその教唆について厳重注意があるから全員職員室に来いってさ」

 

「「「「えー……」」」」

 

壱花の言葉に残る四人が嫌そうな声を漏らす。しかしやってしまった事は仕方がないと受け止め、彼らも昼食を食べ始めた。

 

「……!」

 

が、その途中で総司が何か気配に気づき、顔を上げると他のメンバーも気配に気づいたのか、屋上の出入り口に目を向ける。

 

「ラウル・ボーデヴィッヒ……」

 

セシルの苦虫を噛み潰したような顔での声が響く。屋上の出入り口に立っていたラウルを視認したと同時、一瞬で緊張が彼らの中に走る。つい昨日、謎のIS暴走によって壱花と戦い、メンバー全員のサポートによってどうにか倒した強敵を前に、特に二対一でぼこぼこにされたセシルと蓮は確執がまだ残っているのか強い警戒の視線を彼に向けていた。が、ラウルはその視線に気づいていないのか気づいていて敢えて無視しているのか、無造作に彼らの元に歩み寄る。

 

「そう警戒するな。お前達に危害を加えるつもりはない」

 

「信じられるか! 再戦ってんなら受けて立つぞ!!」

 

「セシル・オルコット。鳳蓮音」

 

どうやら後者だったらしくそう声をかけるが、蓮は八重歯を牙のように見せて威嚇するように吼える。だがそれを気にも留めず、ラウルはセシルと蓮の名を呼んだ。それは一言一言を噛みしめるように重く、真剣さをはらんでおり、思わずセシルと蓮もそれに反応する。

 

「これまでの非礼を謝罪する」

 

そしてラウルは深々と頭を下げ、セシルと蓮に謝罪を行った。

 

「……どういうつもりか、聞いても?」

 

セシルが問いかける。昨日までこっちを完全に見下していたというのに突然ここまで態度を180度転換されれば何かあると疑ってもおかしくはない。そんな警戒心満々のセシルに対し、ラウルは自覚していないのか素がこれなのか表情一つ変えない鉄面皮で目を閉じる。

 

「昨日の敗北を契機に、俺は自らの未熟さを痛感した……それだけだ」

 

「つまり、壱花さんへの無礼はそちらに非があった。そう認めるわけか?」

 

「その通りだ。そしてまずは侮辱した結果怒ったお前達に謝罪をする。すまなかった」

 

「……ま、謝るってんなら別にいいけどさ」

 

ラウルの言葉を受け、蓮が頭をかきながらそう答える。

 

「けどなんかすっきりしねえ……今度は俺が挑戦する、今度模擬戦付き合えよ。それでケジメって事にしてやる。言っとくけど手加減なんかすんなよ」

 

「了解した」

 

口での謝罪を受けただけでは納得できないのか。あるいは戦って敗北して、だけど相手が謝ったからそれで終わりと出来ないのか。拳を振り下ろす先として怨恨での戦いではなく後腐れをなくすためタイマンを提案。ラウルもそれを了承した。

 

「うんうん、拳で語り合うってやつだね。じゃあラウル君、お近づきの印に一緒にご飯食べない? ちょっと食べきれそうにないの」

 

壱花も自分なりに蓮のケジメの付け方に納得。その後ラウルを食事に誘う。

 

「いや。織斑壱花、まだお前に話がある」

 

「ん? 今度は私? なになに?」

 

だがラウルは今度は壱花に話がある、と続けた。

 

「まずはお前に対する無礼への謝罪、そして助けてもらったお礼をさせてもらう。すまなかった、そして感謝する」

 

「あはは、そんな堅苦しい。別にいいってば」

 

ぺこり、と最敬礼のお辞儀を見せながら堅苦しくお礼を言うラウルに対し、壱花は苦笑。

 

「あの後に考えた。何故お前は強いのか、と……それはお前を守るものがあり、お前もまた、それを守るために強くあるからだと。俺は気づいた」

 

「そう……かな?」

 

「俺もお前を守るために側にいたい……そう思った中思い出した。昔、教官の見せてくれた写真の中、お前の側で守っていた勇敢な戦士を。お前が利口だと評していた勇士を」

 

「ん?」

 

なんか変な方向に話が捻じ曲がっているような気がする。と壱花は変な違和感を覚える。昔の写真というのがいつの時代かは分からないが、当時近くにいたとしたら恐らく総司か蓮辺り。だが、そこで壱花はラウルに対して「お利口」などと言った相手を思い出す。

 

「織斑壱花、これを……」

 

そう言い、ラウルは壱花の目の前で跪くと彼女に両手を差し伸べる。その両手の上に置かれ、壱花へと差し出されたもの。それはペット用の首輪だった。

 

「……へ?」

 

いきなり何を渡されたのかと戸惑う壱花とフリーズする周囲。そしてラウルはこれ以上ないレベルのキリッとした無駄にイケメンな表情で壱花を見た。

 

「俺を……いえ、私をあなたの犬にしてください。御主人様」

 

空気が凍る。特に壱花は引きつった笑みのままフリーズする。そんな中ラウルはこれ以上ないレベルに無駄にイケメンな表情でどや顔を見せている。

 

「「「「……はああああぁぁぁぁぁっ!!??」」」」

 

そして男子勢の驚愕の声が屋上に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 

「あーあー……ひまーひまーひまー」

 

奇妙な部屋に、奇妙な男がいた。大樹のように用途不明の機械が立ち並び、床を根のように這うのはその機械同士を結び付けるケーブル。機械仕掛けの大樹海の中、椅子の上に座りつつ、男がぼんやりとそんな言葉を紡ぐ。

成人にしては少々小柄で華奢な体躯に中性的で可愛らしい顔立ちはどこかの童話のような儚さを思わせるが、垂れた目の下に大きく出来たクマがその印象を一発で覆させ、さらに彼が座っている椅子の周りに所狭しと散らかりまくったなんらかの機材が完全に童話の印象を打ち崩す。

なおこれらの機材は出すところに出せば人類史を一気に何世紀か進歩させかねないものであるが、それらのオーパーツは、最初こそ興味から作った彼が完成したその瞬間興味を失くして乱雑に放り捨てたせいでひび割れ歪み、さらにその上からジュースやジャンクフードの食べかすをぽろぽろべたべたと零したりしているためすっかり汚れてしまい今やただのガラクタと化している。

 

ぱらりろぱらりらぺろ~♪

 

「こ、この着信音はぁ!」

 

暇そうかつ眠たげに垂れ下がった半目が、その着信音を聞いた瞬間見開かれ、彼は床に放置していた携帯電話にダイブ。勢い余ってぶつかった装置がまた別の装置とぶつかって完全に壊れてしまうが、そんな事気にもとめずに彼は携帯電話を耳に押し当てる。

 

「も、もすもす? 終日(ひねもす)?」

 

瞬間、通話相手の指が通話終了のボタンへと伸びる。

 

「わー、待って待ってぇ!」

 

無論、そんなものがこちらから見えるはずがない。見えていないが分かる。そう言っているように男性は慌てた声を出していた。そして電話先の相手が呆れたようにため息をついたのを聞いて、男性はにぱっと笑う。童顔なためとても似合う愛嬌があった。

 

「あはは、冗談ですよ。束君の篠ノ之ジョークですよ、ちぃくん」

 

[その名で呼ぶな]

 

「ええ、ちぃくん」

 

朗らかな笑い声を交えた声に対し、受話器越しに聞こえるため息。男性は――篠ノ之束はその反応に楽しそうな笑みを浮かべる。インフィニット・ストラトス、ISの開発者にして世紀の大天才。そして世界的指名手配犯である彼、ここはその秘密ラボであった。

 

「それで。珍しく電話をしてきてくれたご用事はなんでしょうか?」

 

[ああ。一つ聞きたいことがあってな――]

 

ふふ、と上機嫌を隠さずに笑いながら束はそう問う。その質問に対し、電話の相手はそう話を切り出す。だがその次の瞬間、彼の声質ががらりと変わる。

 

[――何故、あのシステムを解放させた?]

 

世界最強――織斑千雪の威圧の声。大抵の人間、いや、肉体的にならば人間を凌駕する猛獣でさえも恐怖におののくようなその声に、束は目を閉じる。怒られた時に恐怖心からつい目を閉じてしまう。誰でも心当たりはあるだろう。

 

「ええ。ま、ちょっと。解放プログラムを仕込んだシステムを渡しただけなんですけど。あれをどう使うのかってのが気になったんですよ。ほら、猿も高いところにあるバナナを、踏み台と棒を使って取るでしょう? ああいう感じで、準備された小道具で何をしてくれるのかな、と」

 

しかし違う。束は千雪の威圧の声に対して頭をかきながら平然と返し、しかしそこで大きなため息をついた。

 

「しかしありゃダメダメですね、知能テストのつもりで表面に置いといた強化システムにしか目がいってなかったみたいです。しかもシステムを変な感じにいじくっちゃったせいで解放プログラムまでおかしくなっちゃってたみたいですしね。武装の展開が出来なくなってたし、本来の彼はあんな狂戦士(バーサーカー)じゃなく剣士(セイバー)で呼ばれるのが相応しいのに。ま、あいつらはそんなの知らずにベルセルクシステムなんて名付けちゃってたようですが。はは、偶然とは面白い。雑種にしては楽しませてくれましたよ」

 

まるで相手を軽蔑したような平坦な声で束は語り、最後には嘲笑の笑い声が加わる。それを千雪は耳にしつつ、しかし会話を終わらせる事なく次の言葉を口にする。

 

[この前のフランケンシュタインといい……お前、一体何を考えているんだ?……]

 

「ふふ、知りたいですか? ですが、内緒です」

 

束の目的を問う千雪。しかし束は無邪気に笑いながら内緒、と答える。

 

[……チッ。邪魔したな]

 

それを聞き、これ以上は時間の無駄だと思ったのか、千雪は舌打ち交じりに短く言い電話を切る。ツー、ツー、という虚しい電子音だけが束の耳に届く。そんな中、束はただただ微笑んでいた。




これにてシャルロット&ラウル編閉幕です。シャルルに関しては原作一夏のノリでヒーローメンバーからフルボッコオチに、ラウルは流石に口づけして嫁宣言なんてしたら千雪からあの世への片道切符をプレゼントされかねませんので、代わりにペット扱いに甘んじさせます。え、余計酷い? まあね!(開き直り)
次回は原作でいうシャルロットのデートイベントの予定だけど……大丈夫かな?シャルル完全に他のヒーローメンバー敵に回してるし。(汗)
ま、そこはまた後で考えるといたしましょう。一応最悪の場合は考えられてるし。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。



以下私信になります。
ゴリアス先生。コラボの方は許可します、一期時間軸における主要キャラも勢揃いしましたし、よろしければ壱花だけでなく総司達も使ってもらえれば嬉しいです。
アドバイスですが、こちらの方にユーザー登録をしていただければメッセージ機能が使えます。それを使えば打ち合わせとか相談にも乗れますし、そちらがよろしければコラボ作品完成後に送ってもらえればこちらのキャラの口調などの添削も行います。特にラウルは次回予定している日常編からキャラがぶっ飛ぶ予定ですし……よろしければご検討ください。
壱花は私のお義姉ちゃん(仮題)、心から楽しみにしています。頑張ってください。
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