インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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第十八話 臨海学校前に

IS学園のグラウンド。総司は一人木刀を振るっていた。時は七月、少しばかり暑さが強くなり始めているが、総司は気にもとめない。心頭滅却すれば火もまた涼し、深い集中の前には多少の暑さなど関係ない。

 

「…………」

 

しかし、その暑さとは違う要素によって、総司の心は淀んでいた。

 

「……また、俺は何も出来なかった……」

 

思い出すのは数日前の学年別タッグマッチ。ラウルのIS――シュヴァルツェア・レーゲンが変質した謎の黒騎士との戦いの中、自分はほとんど何も出来なかった事。

正確に言うならば黒騎士の前に危機に陥っていた壱花を助ける事は出来た。しかし、自分の身を挺して黒騎士と斬りあったシャルロットことシャルルとも違い、罰則を受け戦う事は出来なくてもなお己の知識で壱花の白式にエネルギーをチャージしてサポートを行ったセシルと蓮とも違う。自分は己の得手である剣で黒騎士と斬り合う事すら許されず、ただ不意をついたのみ。侍にあるまじき結果に総司は不満を見せていた。そして同時に、壱花が最後はたった一人で、あの黒騎士を打倒したことを総司は思い出す。

 

「……学年別トーナメントは己の修行の成果を出しあう場。と俺は言った……つまり……」

 

既に自分と壱花とは、それほどまでの差がついているのではないか。総司の心にそんな焦りが生まれる。

 

「よう、総司」

 

「!」

 

するとそこに何者かが声をかけ、総司も驚いたように声の方を向く。

 

「あ、ああ、蓮か。おはよう」

 

そしてその相手――蓮に挨拶を返した。

 

「どうかしたのか? 剣の手が止まってたぜ?」

 

「あ、ああ……いや、少し瞑想をな」

 

「そうか。そりゃ邪魔して悪かったな」

 

スポーツ用のシャツに短パンというジョギングの格好をしている蓮は不思議そうに首を傾げており、総司もまさか正直に言うわけにもいかなかったため瞑想をしていた。と誤魔化す。それを聞いた蓮は瞑想の邪魔をしてしまったと頭をかき、ぺこりと頭を下げる。その時彼が首から下げている真紅のナックルダスター――蓮の専用機である甲龍の待機形態だ――が揺れた。

 

「いや、気にしないでくれ。お前の声に揺らぐ程度の精神集中だったというだけだ」

 

「おう、もっと深く集中しろよな。んじゃな」

 

総司の言葉に蓮もにししっと悪戯っぽく笑いながら返すと、タッタッタッと一定のリズムを刻みながら軽やかな足取りで駆け出していく。

 

(専用機……)

 

蓮がいなくなった後、総司が心中で呟く。自分は学園の練習機を数日毎に貸し出してもらい、訓練をしている。しかし対する壱花達は全員専用機を持ち、毎日自由に訓練している。

 

――自分がこうして足踏みをしている間に、壱花達はもっと先に進んでいく。

――自分も、専用機を持つことが出来ればもっと強くなれるのではないか?

 

そんな囁きが自分の中から広がる。専用機を持つ、それは国からの正式な支援を受けなければ到底成し遂げられないこと。単なる一般人の一生徒に、とてもそんな事は出来ない。

 

「……」

 

総司は携帯電話を取り出す。単なる一般人には専用機を持つ事なんて出来ない……しかし、ここに例外が存在する。総司は一般人ではあるが、ことIS関係においてはこれ以上ない人間とのこれ以上ない繋がりを持つ。

 

――専用機があれば、俺はもっと壱花と一緒にいられるんじゃないか?

 

「……もしもし」

 

自分の中からの囁きに負け、彼はある番号に電話をかける。

 

[やあ、久しぶりですね。あなたからの連絡をずっと待ってましたよ]

 

「……」

 

軽やかな声。無邪気なその声に、総司は一瞬息詰まる。

 

「……兄上」

 

[ええ、用件は分かっています。欲しいんでしょう、君だけのオンリーワン、代用無きもの(オルタナティブ・ゼロ)、総司の専用機が。もちろん用意してありますよ、最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバースペック)。そして白と並びたつもの。その名前は――]

 

赤椿。と名を告げる声は耳元で囁くように、それでいてどこか遥か遠くからのように聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ……また……」

 

[ええ、またいずれ]

 

その言葉と共に通話が切れ、総司は携帯を懐にしまい直す。そして素振りを再開し、木刀を大きく振り上げた。その時だった。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「!?」

 

絹を裂くような女の悲鳴が聞こえてくる。この学園に女性はただ一人、いや厳密に言うなら食堂のおばちゃんや事務員など職員に一部女性は存在する。しかしこんな朝早くから学園、正確に言うなら寮にいる女子はただ一人。織斑壱花だけだ。それを瞬間的に推理した総司は木刀を手にしたまま寮の方へと走り出す。そして途中で合流した蓮と一緒に壱花の部屋の前に走っていった。

 

「「壱花! だいじょう……ぶ……」」

 

総司と蓮の壱花の安否を問う声が重なるが、それは全く同じ調子でしぼんでいく。彼らの目の前には、壱花の部屋の前でおろおろしている壱花と、正座をしているラウル、そしてラウルの目の前で背中に背負うような形で仁王像の幻覚が見えるほどの怒りのオーラを放つ千雪の姿があった。

 

 

 

 

「ふわ~」

 

時間を少々戻そう。壱花は窓から差し込んでくる朝日を受けて目を覚まし、ベッドから起き上がると一つ欠伸を漏らして伸びをする。そしてベッドから降りて洗面所に向かい、軽く顔を洗い櫛で髪をとかして身だしなみを整えると準備していたジョギング用のジャージに着替える。

最近疲れていたため起床時間は普段よりちょっとばかり遅いが、まだジョギングをするには充分すぎる時間帯だ。そう思いながら彼女はドアを開け、一歩踏み出す。

 

むぎゅ。

 

(……?)

 

何か踏んづけた。むぎゅむぎゅ。

 

(……)

 

視点を下ろす。そこにあるのは刺々しい髪質をした銀色の髪と座っているにも関わらず結構なたっぱが分かる長身。正確に言うなら踏んづけているのは背中であり、彼自身は座った格好のまま前に倒れているのだが。

 

「き……」

 

しかしともかく、自分の部屋の前に朝っぱらから何者かがいる事には変わらない。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

それを理解した瞬間、壱花は反射的に悲鳴を上げていた。

 

「はっ!」

 

すると件の不審者ががばっと頭を上げ、辺りをきょろきょろと確認。彼は眼帯をした顔をこちらに向け、眼帯で隠していない右目をキリッとしつつもそれを崩さない程度に緩める。

 

「主よ、おはようございます」

 

「ラ、ラウル君!? なんでここに!?」

 

「主の就寝を守るのは犬として当然の務めです」

 

「犬をやめてって私、言ってるよね!?」

 

キリッとした表情で片膝をつき畏まる形になっているラウル。しかしその口から出るアブノーマルにも聞こえるアホな発言に壱花がツッコミを返していた。ちなみに以前ラウルから渡されたペット用の首輪については必死で説得して装着はさせないようにしており、今も壱花の部屋に保管されている。

 

「って、あ……」

 

が、次の瞬間壱花が絶句する。

 

「主よ、どうなさいましたか?」

 

「ラ、ラウル君……後ろ……」

 

「後ろ?」

 

ラウルの不思議そうな問いかけに壱花がそう促し、ラウルが振り向く。

 

「ラウル・ボーデヴィッヒ……貴様は朝早くから何をしているんだ?……」

 

そこには腕組みをし、背中越しに仁王像が見えるほどの怒りのオーラを放つ千雪の姿があった。

 

 

 

 

 

「まったくもう、朝から姿が見えないと思ったら……朝っぱらから勘弁してよ……」

 

場所が食堂に移り、伸ばしてゆるくウェーブをかけた金髪を後ろの方で丁寧に束ねた、スマートな体型の男子――シャルルが頭を抱えながらそう呟く。シャルロット・デュノアが実は男の子だったという事が判明した後再び男子は部屋割りが組み直され、シャルルはラウルと同室になっていたのだ。

ちなみにシャルルはここ数日やけにお尻に視線を感じているらしいがそれはまた別のお話。シャルル自身も「ラウルが同室でまだよかったよ」と遠い目で呟いていたが、それも放っておくとしよう。

 

「ラウル君、別に見張りとかいらないから。お願いだから自分の部屋で寝て」

 

「主がそう言うのでしたら」

 

壱花も呆れ気味になっており、彼女の言葉にラウルはこくりと頷く。

 

「ま、もういいだろ。とっとと飯にしようぜ」

 

と、蓮がそう言って朝飯の日替わり定食――朝食をいちいち悩むのがめんどくさいと、ぱっと見てピンとくるメニューがない時はこれにしているそうだ――を食べ始める。壱花もこれ以上言っていたら朝食を食べる時間がなくなるため「いただきます」と挨拶をしてから、朝食の煮魚定食にホウレン草のお浸し付きを食べ始める。ちなみに総司は焼き魚定食と納豆。ラウルはパンにコーンスープ、チキンサラダ。シャルルはサンドウィッチとフルーツサラダにココア、ヨーグルトだ。

 

それから少し時間が過ぎ、始業のチャイムが鳴ってSHRが始まる。なお壱花達は全員遅刻せずに席についており、教壇には千雪が立っていた。

 

「今日は通常授業の日だったな。IS学園生とはいえお前達も扱いは高校生だ。赤点など取ってくれるなよ」

 

まずそう話が始まる。IS学園はISの扱いを学ぶ職業高等学校とはいえ彼らも高校生であり、一般教養の授業も当然含まれている。と言っても学ぶメインはISに関する理論・実技のため一般教養はおまけ程度であるのだが。

 

「それと、来週から始まる校外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ。三日間だが学園を離れる事になる。自由時間では羽目を外し過ぎないようにな」

 

(そっか、臨海学校もうすぐだっけ。水着新しいの買わなきゃ)

 

千雪の言葉を受け、壱花は心中で手をポンと打つ。これでも年頃の女子、毎年新しい水着を見て気に入ったものを着たい、お洒落に気を遣うのは当然だ。というよりも去年の水着は胸とかお尻がきつくなっていて入らないからというのが本音である。なお中学時代に蘭の前で似たような事を言ったら血涙を流されながら胸を揉まれまくったのでもう言わないようにしている。

ちなみに臨海学校と聞いてざわついた男子達に千雪が殺気を見せていたのは別のお話。きっと思春期な男子達がよからぬ妄想でもしていたのを察知したのだろう。

 

(……あ、そだ)

 

と、そこで壱花は何か思いついたように心中でぽんと手を打った。

 

 

 

それから週末の日曜日、壱花は一人IS学園から出ているモノレールに乗って街へとくりだしていた。ちなみに服装はこの前買って以来お気に入りの清楚な雰囲気漂う純白のワンピースである。

 

「いっちかー!」

 

待ち合わせ場所である某動物の像の近くで待っていると壱花を呼ぶ声が聞こえ、壱花も顔を上げるとぶんぶんと手を振る。

 

「やっほー蘭ちゃん!」

 

「もう。いきなり“買い物行こう!”ってどうしたのよ?」

 

「あーうん、今度IS学園の臨海学校でさ。行く前に色々買いたかったんだけどほら、IS学園って実質男子校でしょ? 一緒に行けそうな相手がいないから」

 

「なーる。じゃ、行こっか」

 

壱花は臨海学校の準備のために街へとくりだしており、そこで中学時代の友達である五反田蘭と合流。女友達二人でのショッピングにしゃれこんでいた。とりあえず二人は駅前へと向かう。

 

 

 

「……なんだ、蘭と一緒に買い物に行っただけか」

 

丁度良く二人が雑踏に消えたのを見計らったように、像の近くにあった茂みから蓮が顔を出して安心したように呟く。

 

「全く、壱花さんが一人で学校を出ていくから~とついて行くとは……紳士的とは言えないぞ、レン」

 

茂みの近くの木の影からセシルが顔を出し、クイッと眼鏡を直しつつ蓮に注意する。

 

「セシルこそ。プリンセスに何かあってからでは遅いと言っていただろう?」

 

するとやはり近くの自販機に背を預けながら、隠れていたらしい総司がセシルにツッコミを入れた。

 

「皆考える事は同じって事だね」

 

やっぱりついて来ていたシャルルが、近くの路上販売のクレープ店で買ったストロベリークリームのクレープを食べながら、苦笑いを浮かべてそう答える。

 

「……じゃあ、俺は失礼する」

 

すると例によって来ていたラウルがすたすたと壱花達を追うように歩き出した。

 

「っておいおいラウル! お前どうする気だよ!?」

 

その肩を蓮が掴んで止める。なお身長が大分違い、蓮は背伸びをしてなおかつ手を大分伸ばしてどうにか止めていた。

 

「どうするも何も……主の護衛は犬の務めだ。壱花と同行する」

 

「待て待て待て! それだけはマジでやめろ!」

「ああ。壱花も女性の友達と一緒にいられるチャンスは少ないんだ……こういう時ぐらいゆっくりさせてやれ」

 

ラウルは真顔でそう蓮の問いかけに答えており、それを聞いた蓮が血相を変えて叫ぶと総司が壱花の事を思いやってラウルを説得する。

 

「そうか……分かった」

 

二人の説得を聞き、ラウルはこくりと頷いて足を止める。

 

「じゃ、僕達はここで解散なのかな?」

 

にこっ、とシャルルが、心なしか彼らを牽制するように問いかける。

 

「「「「…………」」」」

 

その言葉に蓮が、総司が、セシルが、ラウルも黙った。

 

「せっかく街に来たんだし、僕は観光でもしよっかな。デュノア社にいた頃はろくに外出も出来なかったし」

 

そう言い、シャルルは歩みを進める。壱花達が向かった駅前へと。クレープをぱくぱく食べながら歩くその姿は確かに休日出歩いている若者でしかない。

 

「シャルル。僕もたまには街を散策するのも悪くないと思っている。せっかくだ、一緒に行こうか」

 

「お、お前ら日本に不慣れだろ? ここは俺が日本の流儀ってもんを教えてやるよ!」

 

「日本人を隣にしてよくもそんな事が言えるな。俺も同行しよう」

 

「……ふむ。なら俺も共に行くとするか」

 

そのシャルルの肩を掴んでセシルがそう言い、続けて蓮も同行を決めると総司が続き、流される形でラウルも同行決定。その結果にシャルルはチッと舌打ちを叩きそうながらも、どこか楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「ところで壱花、何買う気なの?」

 

「ん~……新しい水着は買いたいかな」

 

駅前ショッピングモール――レゾナンス。ここにやってきていた蘭は壱花にそう尋ね、壱花は最低限水着は買いたいと答える。と、蘭の目がジト目になった。

 

「……サイズが合わなくなったの?」

 

「ノ、ノーコメントで……」

 

ジト目での蘭の問いかけに壱花はさっと目を逸らし、引きつった笑みでそう答える。その意味を察した蘭は「はぁ」とため息をついた。

 

「まあいいわ。じゃ、売り場を回って探してみましょ」

 

「うん。水着売り場ってあっちだっけ?」

 

蘭の言葉に壱花も頷き、二人は水着売り場へと向かおうとする。

 

「あれ~? そこにいんの織斑じゃね?」

 

そこに突然そんな男子の声が聞こえてきた。

 

「げ、鎌瀬じゃん……」

 

その姿に蘭が嫌そうな声を出し、壱花も珍しく全力で嫌そうな表情を見せる。壱花に呼びかけてすたすたと近づいてきたのはやけにガタイのいい、しかしどこかチャラそうな雰囲気を見せる男だった。その後ろにはまるで取り巻きのように二人ほど男子がついて来ている。

 

「や、鎌瀬君。久しぶり」

 

「ひゅ~♪ 相変わらず冷たいねぇ」

 

めっちゃ平坦な声で鎌瀬なる男子に挨拶する壱花に、しかし鎌瀬は口笛を吹き、後ろの男子二人も変に盛り上がる。

 

「なあ、今暇? 俺達とカラオケ行かねえか?」

 

「ごめん、今日は蘭ちゃんと買い物だから」

「さっさと帰りなさいよ」

 

鎌瀬の言葉に壱花は養豚場の豚を見るような冷たい目で断りを入れ、蘭もしっしっと手を振る。

 

「なんだよ、買い物なんていつでもできるだろ? いいから来いよ」

 

鎌瀬は壱花の豊満な胸に隠そうともせずに視線をやっており、後ろの男子達も「ひゅ~」とか囃し立て、壱花が嫌そうな顔を見せているのに壱花の腕を掴もうとする。

 

「やめろ」

 

その汚らわしい手が壱花を掴む前に、その腕を何者かが掴む。

 

「ソウちゃん!?」

 

その相手――篠ノ之総司は鎌瀬よりも若干高い背をもって、上から鎌瀬を睨み下げていた。

 

「ソウ……テ、テメエ篠ノ之か!?」

 

「いかにも」

 

鎌瀬は壱花の呼び名から、知り合いだったのか総司の名を呼ぶ。それに総司が肯定で返すと鎌瀬はにやりと笑った。

 

「なんだよ、織斑に守られて泣いてた奴が随分と生意気になったじゃねえか? あぁ!? とっとと離してどっか行けよ!!」

 

鎌瀬はそう吼えるが総司はまったくもって動じる様子も見せず、逆に鎌瀬の顔に苛立ちが混じる。

 

「お前がどっか行けっての!!」

 

「あぐっ!?」

 

その鎌瀬に横から別の人間が蹴りを入れる。

 

「れ、蓮君!?」

「蓮!?」

 

「テメエ、チビ蓮!?」

 

壱花と蘭、そして鎌瀬の声が重なる。先ほど蹴りを入れたのはその通り、蓮だった。

 

「おお、久しぶりだな鎌瀬。てめえ相変わらず女と見れば見境なしだな」

 

「あんだと!? テメエ喧嘩なら買うぞ!」

 

やんのかこらやんのかこらと蓮と鎌瀬は互いにメンチを切りあう。しかしただでさえ中国拳法を修めた蓮の威圧感だけでも半端ではなく、しかもその横ではかつて見下していた様子である総司さえもただものではない威圧を放っており、鎌瀬の形勢不利は明らかである。

 

「く、くそっ! 織斑テメエが大人しく来ねえから!!」

 

総司と蓮には敵わないと見た鎌瀬は女である壱花に怒鳴り、殴りかかる。それに壱花が咄嗟に対応しようと構えた瞬間、彼女の目の前に何者かが庇うように立つ。

 

「がぁっ!?」

 

次の瞬間、鎌瀬のガタイのいい身体が宙を舞ったかと思うと地面に叩き付けられる。壱花に殴りかかろうとした腕は完全に取られて関節を決められ、さらに上からマウントを取られており脱出は不可能だった。

 

「ラ、ラウル君!?」

 

「あだだだだだ! くそ、なんなんだよテメエ!? お、おい助けろ!!」

 

壱花のぎょっとした声の横で鎌瀬が苦痛に悲鳴を上げ、取り巻きに助けろと叫んでそっちを見る。

 

「おっと残念、それは無理な相談かな~?」

 

「制圧完了。久々に柔術(バリツ)を使ったな」

 

しかしその視線の先にあったのはコテンパンにのされている取り巻きAと彼の横に立って笑みを浮かべているシャルルと、取り巻きBの腕を片手で取りもう片方の手で首を押さえこんで地面に押さえつけ跪かせるような格好にさせているセシルの姿だった。

 

「セシル君にシャルル君まで……」

 

「あ、この前写真で見たメガネイケメン……」

 

全員集合が明らかになった壱花がついに呆れの姿を見せ、蘭はセシルを見て以前壱花から貰った写真を思い出す。

 

「く、くそがっ! 篠ノ之とチビ蓮はともかく、テメエらなにもんだ!?」

 

ラウルに押さえられている鎌瀬が、しかし自分の知らない壱花の知り合いであるラウル達に何者だと吼える。

 

「俺は、壱花さんの――」

 

それにラウルが、とてもキリッとしたイケメンそのものな表情で口を開く。

 

「――ご主人様の犬だ」

 

ただし口にしたのはやはりというか残念なことこの上ないアブノーマルな言葉だったのだが。その言葉に場の空気が凍り付き、壱花は羞恥に赤く染まった顔を両手で隠す。それから解放された鎌瀬とその取り巻きは壱花に対してどこか怯えた様子を見せながら逃げ出していた。

 

「……ラウル君、犬はやめてって言ったよね?」

 

「し、しかし。私はご主人様に忠誠を誓い――」

「やめてって言ったよね?」

「――も、申し訳ありません……」

 

壱花は羞恥と怒りで真っ赤になった顔で、正座を強要したラウルに説教を開始。その背には「というわけで皆殺しだワン♪」とか言いそうな化け猫が爪を立てて威嚇しているようなオーラが見えた。説教を受けているラウルはしゅんとへこんでおり、その姿はどこか頭の上にぺたりと垂れた犬の耳が見えるような気さえする。その横では壱花を除けば蘭と唯一の知り合いである蓮が総司やセシル、シャルルの紹介と共に互いに挨拶を行っていた。そしてそれぞれの自己紹介が終わった――なおシャルルが蘭を(無自覚に)口説いて蓮にチョップでツッコミを入れられる一幕があったが――辺りで壱花の説教も終了したらしく、壱花は「ところで」と総司達を見る。

 

「皆、何してるの?」

 

もしかしてついて来たんじゃ?とその疑わし気な目は語っており、女の勘の恐ろしさを総司達は認識する。

 

「あー、僕やセシルが散歩がてら観光に来てさ、総司達には案内をお願いしてたんだ。ラウルも軍人だけどこういう平和な街並みとか壱花も見て欲しいでしょ?」

 

「ん~……そうだね」

 

しかしシャルルはにこっと柔和な笑顔を浮かべながらしれっと誤魔化し、壱花もうんうんと納得の様子を見せる。誤魔化せたらしい様子に総司達も人知れずほっと安堵の息をつくが、その時専用機持ちメンバーのプライベート・チャネルに着信がくる。相手は織斑壱花、どうやら一括通信のようだ。

 

[蘭ちゃんの手前だし、そういう事にしといてあげるね?]

 

「「「「!?」」」」

 

にっこり笑顔で通信を送ってくる壱花にセシル達がぎょっとする。ちなみに専用機がない総司は不思議そうな顔を見せていた。

 

「じゃ、皆も楽しんでね。行こう、蘭ちゃん」

 

「あ、うん」

 

壱花はそう言って蘭の手を引いて歩き去っていく。

 

「……何があったんだ?」

 

「一言で言うと……ばれてた」

 

「……流石は壱花だな」

 

それを見送った後、唯一流れに乗れていなかった総司が質問し、それに蓮が返すと総司はため息交じりにそんな事を呟くのであった。

 

「まあ、ばれちゃったらしょうがないよね。これ以上ついて行って壱花の機嫌を損ねるのもいけないし、今日は諦めよっか」

 

シャルルもストーキング――本人は「後方警備だよ~」とでも言い抜けそうだが――を諦めようと言う。

 

「でも、せっかく街に出たんだし。今度こそ普通に観光でもしようか」

 

しかし壱花に誤魔化した言葉通り観光でもしようと提案。彼はにこっと笑みを浮かべてみせていた。




今回は原作で言うシャルロットとのデート編。しかし壱花の水着選びにシャルルソロになったらただでさえラウルがアレだった分総司達ヒーローズからヘイトくらいまくっているシャルルがマジで殺されかねませんので、相手を蘭に変更しました。
っていうか壱花の台詞通りなんですが「女の子が友達の男子を水着選びに誘う」ってのがいまいちイメージ出来ないんですよ。あ、原作のシャルロットは「好きな男子」だからノーカン、「友達の男子」ここ大事。それよりはまだ蘭を誘った方が自然かなぁと。
というわけで、次回はお買い物編です。男子勢にも何か書きたいけど、どうしようかな。
ま、今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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