インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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第二話 授業と紳士と入寮と

「織斑壱花です。皆さん、一年間よろしくお願いします」

 

――見惚れてしまっていた。

 

黒髪をポニーテール風に結った少年――篠ノ之総司は心中でそう呟く。自分が壱花と出会うのは六年ぶり、その間に彼女はすっかり女性らしくなっており、その可愛らしい笑顔を見た時に自分の胸がトクンと高鳴ること、そして顔に熱が集まることを自覚してしまう。

 

「っ」

 

と、そんな事を考えていると突然壱花がこっちを見てきた事に気づき、総司は咄嗟に顔を逸らして窓の方を見る。

 

(こんな赤い顔を見せるわけにはいかない……心頭滅却せねば……)

 

総司はそう考えて目を閉じ心頭滅却。窓の外から聞こえてくる鳥の合唱に耳を傾けて心を落ち着かせ始めた。なおその後の千雪の挨拶を聞き、今度は顔を真っ青に染めていたのは全くの余談である。

 

 

 

 

 

(あーもう辛い、帰りたい)

 

のっけから机に突っ伏しそうになっているのを必死に堪えながら壱花は心の中で弱音を吐く。今彼女を取り囲むように教室中どころか学園中の男子生徒が廊下にまで群がって一定の距離を保っている。何せISを女性が動かしたという事自体史上初、世界的なニュースにまでなってしまったそれに興味を持つなというほうが難しいしIS学園に入る前にISの事前勉強を行う学校は全てが男子校、つまり彼らは女性に免疫のない純粋培養といって差し支えないだろう。「おいお前声かけろよ」「いやいやお前行けよ」「じゃあ俺が」「どうぞどう……とか言わねえぞてめえ抜け駆けすんなよ」。そんな妙な緊張感が教室中に走っていた時だった。

 

「壱花」

 

その緊張感を打ち破り、一人の男子が彼女に声をかけた。その事実に、さらには「壱花」と相手を名前で呼んだことに教室&廊下中からざわめきが走る。

 

「話したいことがある。屋上でいいか?」

 

「あ、うん」

 

壱花に声をかけたのは黒髪ポニーテール風の髪型をした切れ目の正にラストサムライと言った容貌の男子。その相手に壱花もうんと頷いて席を立ち、二人は教室を出ていく。女子&ラストサムライのコンビに他の男子生徒はまるでモーゼの十戒の如く左右に分かれて道を作り、二人は悠々と屋上までたどり着くと壱花が先に屋上へと出、ラストサムライ男子は屋上へと続く階段から階下を確認。こっそりついてきていた男子生徒に視線で牽制を行いつつドアを閉める。

 

「ふ~……す~……っ、あぁぁ~!! すっきりしたぁー!!!」

 

屋上の中心で、体内で淀んでいた空気を吐き出し、新鮮な空気を深く吸い込んだ後、壱花は大きく伸びをして叫ぶ。どうやらあの僅かな時間で大分フラストレーションが溜まっていたらしく、壱花は元気な微笑みを浮かべてラストサムライ男子を見た。

 

「ありがとね、ソウちゃん。助かったよ」

 

「ソ、ソウちゃんはやめてくれないか? 俺ももう高校生なんだ」

 

「ん~。んじゃソウくん?」

 

「総司で頼む……」

 

にぱっという擬音がつきそうなほどに元気な微笑みを見たソウちゃんと呼ばれたラストサムライ男子は照れたように頬をかいてその呼び方を拒否すると、壱花は別の呼び方を提案。だがラストサムライ男子――篠ノ之総司は本名で呼んでくれと訂正した。

 

「はいはい。全くちょっと大きくなったらすぐ粋がっちゃって。分かったよソウちゃん」

 

「絶対分かってないだろ」

 

はいはいと言いつつしれっとソウちゃん呼びは直しておらず総司はツッコミを入れた。

 

「ま、そこはそれ。置いといて」

 

置いとくなとツッコミを入れようとする総司だが、その言葉は彼女のにこっという、先ほどの挨拶の時よりずっと愛らしい笑みで呑み込まされてしまう。

 

「久しぶり、ソウちゃん。六年ぶりだね」

 

「あ、ああ……」

 

その笑顔を見た総司の心臓がまだドキリと跳ね上がり、彼は赤らめた頬を隠すように指でかきながら目を逸らし、頷く。すると壱花はくすくすと笑った。

 

「にしてもさ、大分イメチェンしたよね? 昔は泣き虫だったのに」

 

「う、うるさい! お、俺だってその、男なんだし……強くならなきゃって思ったんだよ」

 

くすくす笑いでからかうように言ってくる壱花に総司は苦虫を噛み潰したような表情で答える。

 

「それで、強くなった結果が剣道の全国大会優勝なんだよね? おめでとう」

 

「し、知っていたのか?……」

 

「うん、新聞に載ってたよ。それに写真ですぐに分かった」

 

突如壱花に思いもよらぬ事でお祝いの言葉を述べられ、驚いた総司が思わずそう聞き返すと、壱花はにこっと微笑んだままそう返す。それを聞いた総司は六年間離れてもう会えないかもしれなかった幼馴染が自分の名前を憶えていてくれたこと、自分を気にしてくれていたこと、大きくなり大分変わったと自負する自分をすぐに分かってくれたこと、そして自分の優勝を祝ってくれたことに嬉しくなり、だが同時に気恥ずかしくなる。

 

「その、あ、ありがとう……」

 

「どういたしまして。でもやっぱ男の子だね、もう背が私よりずっと高いし、ずっとかっこよくなったね。これはもう共学に行ってたら肉食女子共が放ってはおきませんなぁ」

 

かっこよくなった。という言葉にドキン、とまた総司の心臓が跳ね上がる。にしし、と悪戯っぽい小悪魔の微笑みで褒めてくる壱花に総司もどきまぎしていた。

 

「あ、あ、ああ、そ、その、あのっ……」

 

ドキドキと高鳴る鼓動を必死に抑え、総司は舞い上がったまま、先ほどから成長した壱花から受ける印象を伝えようとする。

 

「い、壱花もきれ――」

 

だが、その言葉が終わる前にキーンコーンカーンコーン、と次の授業が五分後に始まるという予鈴が無常にも響き渡った。

 

「あ、やば。ソウちゃん、早く戻ろう。気分転換させてくれてありがとね」

 

そして壱花はすたすたと歩き出し、がちゃっとドアを開けると屋上を出ていき、ばたんとドアがひとりでに閉まる。

 

「……無念」

 

一撃必殺の斬撃を幾度となく一方的にくらわされ、対してこちらは一太刀浴びせるどころか刀を抜く事すら出来なかった。その結果に一人残されたラストサムライは膝を地面に屈し、両手を地面に着けて見るからに落ち込んでます的なポーズでうなだれたのであった。

 

 

 

「ふひ~……」

 

また次の休み時間へと移る。IS学園は入学初日から普通に授業があり、その中のIS基礎理論の授業が終了した壱花は頭から湯気が出そうな状態になっていた。参考書は入学前に家まで届けられており、春休み全てを潰す覚悟で電話帳並みの厚さを持つ参考書(必読)を読破していたため、辛うじて授業の内容が全く分からないということはない。だがついていくのが精一杯という感じである。

 

「ソウちゃんに後で教えてもらおっかな……」

 

IS学園はここだけだが、その前のスタートダッシュとしてIS関連の事前学習を授業に取り入れている男子校は数多い。というかここの授業は事前学習を行っている事が前提となっており、壱花はその事前学習を受けているはずの総司に幼馴染のよしみで家庭教師でも依頼しようかと考え、総司の席を見る。

 

(あらま、お取り込み中みたい)

 

だがその総司は席を別の男子生徒に取り囲まれて何か雑談をしている様子だった。

 

(まーでも。ソウちゃんにお友達が出来るのはいいことだよね、うん)

 

昔は気弱で泣き虫だった総司にお友達が出来たことを、まるで姉のように喜ぶ壱花。ちなみに総司は「テメエ織斑さんと二人っきりでなにしてたんだよ」「お前なんで抜け駆けしたんだよ」「ってか壱花~とか呼び捨てとかどういう事だよ」みたいな先ほどの休み時間についての追及をくらいまくっており、彼が視線で必死に壱花に助けを求めていたことに彼女は気づいていなかった。

 

「少し、時間構わないだろうか?」

 

「は、はい?」

 

そこに突然声をかけられ、壱花は声の方を向く。そこに立っていたのはショートの金髪碧眼にメガネをかけた、スリムで背の高い少年だった。その顔立ちはイッケメーンという擬音が背後につきそうなほどにイケメンで、相手を安心させるためなのだろうか優し気な微笑みは、普通の女性だったら一発で恋に落ちそうな王子様スマイルである。

 

「あーはい。えーっと、何かご用ですかしら? えーっと……」

 

だがあいにく王子様スマイルで恋に落ちなかった壱花は、初対面の相手に首を傾げながら尋ね返す。

 

「ああ、失礼。僕はセシル・オルコット。イチカ・オリムラさん、お話は伺ってます」

 

王子少年――セシルは柔らかな笑みを浮かべてそう名乗った後、少し不安気な様子を見せる。

 

「すまない。僕の日本語、上手く通じているだろうか? イントネーションは大丈夫か?」

 

「え? あ、ああはい。大丈夫です、問題ありません」

 

「ありがとう。家庭教師からもオーケーは貰っていたのだが、やはり日本に来ると不安だったので」

 

セシルは苦笑しながらそう返し、コホンと一つ席をする。

 

「先ほどの授業、あれは僕達のように中学から勉強している者でないと分からないところもあると思うんですが、あなたは大丈夫かと思ったんだ」

 

「ああ、まあ一応春休みに参考書を読んだので……まあ、まだ分からないところも多いんですが」

 

「ふーむ。日本人は流石勤勉だ。見習いたいところだ……なら、僕がレッスンをしようか?」

 

セシルは春休みという短期休暇中に三年間事前学習を詰んだ自分達に匹敵する知識を身に着けたに等しいらしい壱花を賞賛。彼女の「まだ分からないところがある」という言葉に対して家庭教師をしようかと申し出た。

 

「え、でも……」

 

「気にしなくていい。僕は英国紳士、これは持つ者の義務(ノブレス・オブリージュ)というものだ……どうしても気になるというのなら、君は僕に日本語のレッスンをしてくれればそれでいいよ」

 

セシルはイギリス人らしく軽快なジョークを交え、やはり王子様な雰囲気のウインクを見せる。するとその時次の授業の予鈴が鳴る。

 

「次の休み時間に答えを聞かせてくれ。では失礼」

 

セシルはそう言い、一礼して席へと戻っていく。英国紳士を自称するだけあってその一連の動作に淀みがなく優雅さを振りまいていた。

 

「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

授業開始のチャイムが鳴ると同時に教壇に千雪が立つ。余程重要な事なのだろう。兎佐もノート片手に真剣な様子を見せていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければならないな」

 

だがふと思い出したようにそう続けた。クラス代表者、まあ一言で言えば学級委員のようなものだろう。先ほど言ったクラス対抗戦への出場の他、会議や委員会への出席などの雑務を行うということだ。

 

「自薦他薦は問わん。立候補、推薦はないか?」

 

ざわ、ざわ、ざわと教室中が騒ぎ出す。

 

(……ま、私には関係ないよね)

 

そんな中壱花は心の中でそう呟いていた。何も面倒という訳ではない。いや面倒ではあるのだが、ただでさえ男性ばかりの学校で色々心労が溜まるというのにこれ以上心労の種を自ら背負い込むなんて苦行にわざわざ飛び込もうとするほど彼女は愚かではない。

 

「はい」

 

「ふむ、相川。立候補か?」

 

ただし、

 

「いえ。俺は織斑さんを推薦します!」

 

「へ!?」

 

その苦行へと突き落とされる可能性を考えていなかった。

 

「ふむ、候補者その1、織斑壱花。他にいるか?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ千雪お兄ちゃん!? え、私やんないよ!?」

 

「残念ながら、他に候補者がいないならば無投票当選だ」

 

先程までのシスコンはどこへやら、きっちり仕事とプライベートを分けるといわんばかりの容赦なさに壱花は彼を説得するのは無駄だと直感、クラス中へと振り返る。

 

「あ、あの、わ、私でいいの!? 私超素人なんだけど!? なんならソウちゃ……篠ノ之君の方が確実に動けるよ!?」

 

だがそこで本人に許可を取らず篠ノ之総司を推薦して彼を巻き込もうとしない辺り良い子である。

 

「あー。確かにそうかもだけどさー、ISに乗った事ないってのは皆一緒じゃん? だったら誰が代表になっても変わらないし」

「そうそう。それなら織斑さんが代表になるのはいいと思うぜ」

「あー分かる分かる。やっぱ女子だし、華があるっていうかさ」

 

どうせ誰がなっても一緒、なら唯一の女子である壱花を持ち上げる形で代表にしよう。という魂胆が見え、壱花が嫌そうな表情になる。

 

「納得がいかん!!!」

 

だがそのざわめきをかき消す怒号が響き渡った。同時にバンッと何かを叩く音が聞こえる。

 

「先ほどから黙って聞いていれば貴様ら、女性を代表にするなど恥ずかしいと思わないのかっ!!」

 

何か――机を叩いて立ち上がったのは金髪ショートのメガネ長身男子――セシル・オルコットだった。彼は眉間にしわを寄せて怒っていますという雰囲気を見せて声を荒げている。

 

「この英国紳士にしてイギリス代表候補生、セシル・オルコットを差し置いて女性が代表になるなど我慢できん!」

 

イギリス人のためか大仰な身振り手振りを加えながら彼は主張を開始する。

 

「お前達はさっき、ISに乗った事がないなどという甘い事を言っていたが僕は違う! 既に専用機を持ち、厳しい訓練を潜り抜けている! そしてこのIS学園入学試験にて唯一、唯一試験官を倒し、主席入学を果たしている! その実績を踏まえれば経験のない女性ではなくこの僕がクラス代表になるべきではないか!?」

 

セシルは理路整然としつつ熱く語る。

 

「それをお前達はただ珍しいというだけで女性を代表にしようなどと、そのような恥ずかしい理由での推薦など僕は認めない!!」

 

「女性が代表になるのが恥ずかしいっていうの?」

 

セシルの言葉に引っかかったのか、壱花が目を研ぎ澄ませながらセシルに問うように言葉を投げかける。

 

「いや、そういう意味ではないがこういう場では女性ではなく男性が代表になるべきで――」

「男女平等の世の中で随分ご勝手な物言いですね? セシル・オルコットさん」

「――ん? え?」

 

セシルは壱花の言葉に気圧されたかきょとんとした表情になる。その間に壱花は前を向き直した。

 

「織斑先生、オルコットさんが立候補だそうです」

 

「ふむ、そうだな。だが残念ながら他薦されたものに拒否権はない」

 

「ええ。さっきまでは降りようかと思ってましたけど、さっきの演説聞いていて気が変わりました」

 

壱花はそう言い、再び振り返ってセシルの方を向く。

 

「セシル・オルコットさん。先ほどの休み時間で提案された家庭教師の件、お断りします」

 

「あ、ああ? ん? なんで今その話が?」

 

セシルはいきなりの話題転換についていけないのか頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「その代わり、私はあなたに決闘を申し込みます。投げつける手袋はありませんが」

 

「え、決闘? いや、僕に受ける理由が……」

 

「おや? イギリスの騎士(ナイト)様は日本の武士(もののふ)の挑戦から逃げると?」

 

壱花から唐突に申し込まれた決闘にセシルは困惑の色を深めるが、彼女からの挑発的な言動を受けると再び熱くなったか目が鋭くなる。

 

「騎士として、どんな挑戦からも逃げるつもりはない!」

 

「では決定ですね。クラス代表はこの決闘の結果で決める。それが一番早いかと」

 

「そうだな。では一週間後の月曜日、第三アリーナで勝負を行う。オルコットと織斑は準備をしておくように。では授業を始める!」

 

千雪がまとめ、壱花とセシルは席につく。だがぷんぷんと怒気をまき散らせている壱花と対照的にセシルは困惑気な表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「では、今日の授業はここまでとする。初日だからと気を抜かず、とっとと帰るように」

 

時間は放課後へと移り、千雪の言葉を受けた生徒達が「ありがとうございました」と礼をする。そして千雪が教壇から降り、教室から出ていった瞬間壱花も立ち上がった。

 

「ソウちゃん、来て」

 

「え? うわっ!?」

 

教室の一番窓際の席に座っている総司の腕を掴み、有無を言わさずに引っ張り出す。まさかの展開に男子達は呆然としてそれを見送るしか出来なかった。

そして場所は屋上へと移る。

 

「お願いソウちゃん! ISについて教えて!!」

 

「……いきなりどうした?」

 

頭を四五度下げる所謂最敬礼を行いながら総司にお願いする壱花。いきなりのそれに総司もぽかんとした様子で返す。

 

「ソウちゃんも聞いたでしょ、セシル・オルコットとの決闘! でも私はISについてほとんど知らないし、ソウちゃんは一応事前学習受けてるんでしょ?」

 

「あ、ああ。もちろん……」

 

「だから教えて! セシル・オルコット、あんな男尊女卑の権化みたいな男に負けるわけにはいかない!」

 

「う、う~ん……明日からなら別にいいけど……今日は俺も寮に戻っての荷解きとかやりたいし」

 

「あ、うん。そこは無茶言わないよ」

 

めらめらと燃える壱花に総司は押され気味になりつつ家庭教師の件を了承。しかし明日からという事には壱花も了解した。

 

(だけどセシルって男の言い方……何か気になるんだよなあ……)

 

そんな中総司はセシルの言い方に何か違和感を覚えつつ、壱花と共に屋上を出ていくのであった。

 

[一年一組、織斑壱花さん。至急職員室まで来てください。繰り返します、一年一組、織斑壱花さん。至急職員室まで来てください]

 

ぴんぽんぱんぽーん、という音が聞こえた後、そんな放送が流れ、再びぴんぽんぱんぽーん、という音が聞こえて放送が終わる。

 

「あ、ごめん。私職員室行くね?」

 

「ああ。俺は寮に向かう……」

 

放送を聞いた壱花が言い、総司はそう返して別れようとした時、何かに気づいて鞄の中からノートを取り出すと一ページ破り、そこに取り出したシャーペンでさらさらと何かを書き込んで壱花に渡す。

 

「俺の携帯電話の番号とメールアドレスだ。家庭教師の件も含め、何かあったらここにかけてくれ」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

そう言って総司はその場を立ち去り、壱花はお礼を言って総司から貰った、携帯のアドレスが書かれているノートの切れ端を鞄の中に入れてから職員室へと向かっていった。

 

「一年一組の織斑壱花です。失礼します」

 

ノック、学年とクラスと名前を言ってから失礼しますと一声かけて入室。その声を聞いて職員室の男性陣――なんと全員男性だった――が壱花に注目し、「おぉ~」と歓声を漏らしてから仕事に戻る。

 

「ああ、織斑さん。よかったぁ、教室にいないからもう帰っちゃったのかと思いました」

 

「いえ。わざわざすみません……それで、ご用件は?」

 

ほっと安堵の息を吐く兎佐に壱花はお手数かけましたと謝罪してから用件を尋ねる。それに兎佐も「はい」と返した。

 

「えっとですね、織斑さんの寮の部屋が決定しました」

 

そう言い、兎佐は部屋番号を書いた紙と部屋のキーを壱花へ渡す。

 

「……えっと、私はまだ部屋が決まってなくって一週間は家から通うって聞いてたんですが……」

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです」

 

壱花が不思議そうな顔をして質問すると兎佐はそう返す。なんと言っても女性がISを使うというのは前代未聞。特に女性という事で変なトラブルに巻き込まれてしまうと大変な事になる。と強硬に主張した職員がおり、壱花を寮に押し込んだそうだ。

 

「はぁ、なるほど……」

 

「荷物の方も最低限の着替え等の生活必需品くらいは織斑先生が送っているそうなので、もうそのまま部屋に向かってくださっていいですよ。あ、そうそう。夕食は六時から七時までの間に寮の一年生用食堂で取ってください。それと、お年頃の女性に対して申し訳ないんですが、お風呂は大浴場があるんですけど問題が起きてもいけないので織斑さんは使えません。部屋にシャワーが設置されているので、しばらくはそれで我慢してもらいたいです」

 

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 

ぺこり、と丁寧に頭を下げてお礼を言い、職員室に入り口まで向かうと職員室内へ振り返り、「失礼しました」とまた一礼してから職員室を出ていった。

 

「……あ~。あれが織斑壱花ちゃんかぁ」

 

その瞬間、やけに静まり返っていた職員室内で一人の男性職員が声を発する。

 

「いや~やっぱり現役女子高生は可愛いですね。それに今時の若者にしては礼儀正しい!」

 

「手を出さないで下さいよ~先輩、世界的に大問題になりかねませんからね」

 

続いてやや年を取ったベテランという雰囲気の日本人男性職員が言うとまだ若手らしい職員が釘を刺す。なんだかんだ言って男子校に等しいIS学園に女子が入ってきた、という事は職員も嬉しいらしい。

 

「ふふ……」

 

兎佐はつい笑い声を零しながら仕事に戻ろうとする。

 

(……そういえば、何か言い忘れてたような……)

 

だが彼は何か忘れているような気がする、と思い返す。だが「気のせいだよね」と片づけると仕事に戻った。

 

 

 

 

 

(ん~と……1025室。うん、この部屋だね)

 

一方寮へと向かった壱花は兎佐に渡された部屋番号を念入りに確認、確かにこの部屋で間違いないと確信を得てからドアに鍵を差し込んでガチャリを開け、中に入る。

そこにあるのはビジネスホテルより遥かに高級そうな羽毛布団を敷いた高級そうなベッドが二つに最新式のパソコン二台、さらに本棚やクローゼットなどの家具も完備している。それを見まわして確認しながら壱花は部屋へと入った。

 

(……ん? 二つ?)

 

だがそこで違和感に気づく。ベッドもパソコンも二つずつ、本棚などの家具も二人以上の複数人が使用する事が前提のような数になっていた。

 

「誰かいるのか?」

 

と、背後からそんな声が聞こえる。入り口すぐ横に曇りガラスをはめ込んだガラス戸で遮られた何か部屋があるらしい。その中からざぁーっという何か水が流れるような音が聞こえ、きゅっと何かを締める音と共に流水音が止まる。

 

「ああ、同室になった者か。これから一年よろしく頼む」

 

そこから声が聞こえる。そしてガラス戸が開き、

 

「このような格好ですまない。シャワーを浴びていた」

 

中からパンツ一丁にタオルを首にかけた少年が出てきた。

 

「俺は篠ノ之総司……」

 

少年――篠ノ之総司は己の名前を名乗りつつ、同室である織斑壱花の姿を見ると固まった。

 

「「……」」

 

それは壱花も同じ。だが彼女は目の前で総司が上半身裸になり、鍛えているのか割れた腹筋や引き締まった身体を見て顔を真っ赤にしていく。

 

「う、うわああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

だが彼女が悲鳴を上げるより早く、総司が悲鳴を上げて再びガラス戸の奥――シャワールームへと飛び込んでいった。完全にタイミングを逃され、壱花は逆に冷静になったのか目をぱちくりとさせる。

 

「どうした!? 何があった!? おのれ篠ノ之総司、壱花に手を出したら許さんぞ!!」

 

「千雪お兄ちゃん!?」

 

直後ドガァンとドアをまるで爆破したかのような轟音が響き、千雪が目を血走らせて部屋に飛び込んできた。なおドアは爆破ではなく蹴破っている。なおドアの鍵はちゃんと開いていた。

 

 

 

 

 

「ふむ、なるほど。つまり篠ノ之は壱花が部屋にいてついびっくりしてしまっただけだと」

 

「はい!」

 

テーブルに向かい合って座り、完全に取り調べをしている刑事と犯人のような格好になっている二人。千雪の質問に総司は己に後ろ暗いことはないというように力強く頷く。なお総司はシャツにジーパンというラフな格好ながらちゃんとした服に着替えている。

 

「お兄ちゃん、ソウちゃん。お茶淹れたよ。部屋に備え付けのインスタントで悪いけど」

 

「ああ、いただこう」

「ありがとう」

 

そこに壱花が登場、部屋に備え付けのカップに備え付けのお茶を淹れて二人に渡し、自分の分をテーブルの上に置くと部屋の隅からもう一つ椅子を引っ張り出し、座る。

 

「それでお兄ちゃん、どういうことなのか説明してもらっていい?」

 

「ん? 佐藤先生から説明を受けていないのか?」

 

「ソウちゃんが一緒の部屋とまでは聞いてないです」

 

「そうか……すまん、抜かりがあった。本来なら壱花、お前用に新しく個室を用意する予定だったのだがお前の入学までに工事が間に合わなくてな、男子との相部屋を余儀なくされてしまったんだ。せめて幼馴染である篠ノ之となら少しはマシだろうと思ったのだが……」

 

千雪はそこまで言うと「ふむ」と考える様子を見せる。

 

「お前が男子と相部屋になるのが嫌ならば個室が完成するまでの間、今から俺と一緒に寮長室に住む。という選択肢もある……先生方はうるさいだろうが、まあなんとかしよう」

 

さらっと千雪はそう答え、壱花はこっちも少し考える様子を見せた。

 

「ううん、私はソウちゃんと一緒で大丈夫。お兄ちゃんに迷惑かけてもいられないし」

 

「そうか……分かった」

 

千雪は静かに返した後、総司の方を向く。

 

「篠ノ之、そういう事だ。君にしばらく壱花を任せる。妹が世話をかける事になるが、よろしく頼む」

 

「あ、いえ。こちらこそ!」

 

そう言ってぺこりと頭を下げる千雪。それに総司も慌てて頭を下げるが、二人が同時に頭を上げた時、千雪はギロリと総司を睨みつけていた。

 

「だが、もしも壱花に手を出してみろ。その時は――」

「分かってます壱花には指一本触れません!!」

 

千雪の殺気を間近で受けた総司は即椅子の上で土下座という器用な体勢に移行した。

 

「個室は来月までには完成するはずだ。完成次第引っ越すように、それについてはまた俺か佐藤先生から知らせよう」

 

「うん、分かった。あ、それとお兄ちゃん。今度挨拶ついでに部屋の様子見に行くからね、散らかってたら掃除もするからそのつもりで」

 

「わ、分かった……」

 

部屋から出て行きざまに千雪は最後の報告を済ませ、壱花はその報告を了解した後、腰に手を当てて注意するように兄へと言う。妹からのその注意に千雪はたじたじになりながらこくこくと頷き、部屋を出ていくのであった。

 

「あー……まあなんていうか。ソウちゃん、これからよろしくね」

 

「あ、ああ。こちらこそ……」

 

一騒ぎを終えて改めて二人は挨拶を行い、壱花は「ふぅ」と息を吐いた。

 

「まあ、話は早いよね」

 

「何がだ?」

 

「家庭教師の件。同室だったら互いの予定とかのすり合わせの話もしやすいでしょ?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

そこで壱花は最初総司に依頼していた家庭教師の話に戻り、総司も頷いた。

 

「基本的な理論も大事だが、模擬戦となると実際の動きを覚える事も大事になる。習うより慣れよ、だ」

 

「うんうん」

 

「だが、ISの貸出申請はこの時期一年生では難しいだろう」

 

「となると、やっぱり座学?」

 

壱花と総司はそう話し合う。

 

「いや……壱花」

 

「ん?」

 

総司は少し考える様子を見せた後、壱花を呼ぶ。

 

「お前は、まだ剣道を続けているか?」

 

そして彼は真剣な顔でそう尋ねたのであった。




幼馴染系イケメンと屋上二人きりで再会を喜び合い、王子様系イケメンから家庭教師を申し出られる。書きながら「これなんて乙女ゲー」って呟いてた。いや俺乙女ゲー知らない(つかギャルゲーもまともに知らない)けど、こんなもんなんでしょ?
さて今回登場総司くんとセシルくん、言うまでもなく箒とセシリアの性転換キャラです。総司は箒にラストサムライ、セシルはセシリアにちょっとずれた英国紳士というキャラ付けを付加して生まれました。
さあここからどうしようか。模擬戦の締めに関してはオリジナルを思いついてるんだけど、そこまでの過程でもオリジナリティを出したいところです。無論特訓フェイズに関しても。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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