インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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第二十話 臨海学校、浜辺で一日

「海だ! 海が見えたぞぉっ!!」

 

トンネルを抜けたバスの中で男子の一人が声を上げ、バスの中がざわざわと騒がしくなる。窓の外、その一方向には確かに青く煌めく大海原が広がっており、男子達はそれを一目見ようと席を立って窓に顔を寄せていた。

 

「わー。やっぱ海を見るとテンション上がるね」

 

「そうなんだ……僕は海を見たことがないから、よく分からないな」

 

「え、そうなの?」

 

海側の席に座っており、わくわくとした様子の壱花の言葉に、本人曰く公正なじゃんけんの結果により壱花の隣の席を取ったというシャルルが呟くと、壱花が首を傾げながらシャルルを見る。

 

「うん。や、もちろん飛行機で日本に来た時とか、IS学園周辺で海を見たことはあるよ? ただ、お母さんと一緒にいた頃とか、デュノア社に引き取られた頃とか。そういう時にはそんな思い出がないなって。それだけ」

 

「へぇ……じゃあこれがシャルル君の海初体験なんだね。いい思い出になればいいね」

 

シャルルは自分の言い方に語弊があったと言い直し、それを聞いた壱花はシャルルの海初体験がいい思い出になればいいと祈るように言う。それに対してシャルルもまた微笑んだ。

 

「うん。僕にとっては壱花が一緒にいてくれれば、それが一番の思い出になるよ」

 

「あはは、ありがと」

 

微笑んだ状態でさらっとタラシ台詞を言うシャルルだが、壱花はすっかり慣れたのかあるいは気づいていないのか、何の気もなく笑いながらそう返す。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

そして相変わらず騒がしい男子達に一番前の席に座っていた千雪が睨みながらそう言うと、席を立っていた生徒は全員さっと席に座るのであった。

 

それからバスは宿泊する旅館前に到着。生徒達は四台のバスから降りて整列を行った。彼らの前には既に出迎えらしい旅館の従業員が揃っている。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

『よろしくお願いしまーす!』

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

千雪の言葉から生徒達が頭を下げて挨拶、それを旅館の女将さんも笑顔で出迎えた。すると彼女の目が壱花に止まる。

 

「あら、こちらが噂の?……」

 

「ええ、まあ。今年は女子が一人いるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな。いい女の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

「いえ、それほどでも」

 

女将さんの言葉に千雪は表情を外に出さないよう努めているようだが、やはり妹が褒められるのが嬉しいのか、付き合いの長い壱花くらいにしか見分けられない程度にだが頬が緩んでおり、壱花はそれを見てくすっと笑うと、従業員の方を向いて深々と頭を下げた。

 

「初めまして、織斑壱花と申します。ご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

丁寧な壱花の挨拶に女将さん――清州景子も頭を下げて応対する。微笑みを絶やさないその姿は30代だろうと予想できる見た目よりも随分と若々しく見えた。

 

「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に聞いてくださいまし」

 

景子が旅館の玄関を示すように手をやりながらそう言うと、男子達ははーいと返して旅館に入っていく。今日は終日自由時間、食事は旅館の食堂で各自取るように言われている。まずは部屋に入って荷物を置いてから遊びに行こうという事だろう。

 

「ところでおに……織斑先生、私の部屋は?」

 

「こっちだ。ついて来い」

 

男子と女子を同じ部屋で寝泊まりさせるわけにはいかないからと壱花は別室を用意される事になっており、しかし詳しい事を聞いていなかった壱花は千雪に尋ねる。その質問に千雪がそう返して歩き出し、壱花も後を追って走り出した。

歴史ある装飾と最新設備が見事な融合を果たし、なおかつ一学年まるまる収容できる規模の旅館を二人はすたすたと歩いていく。適度に効いているエアコンが快適な空間を作っていた。

 

「ここだ」

 

「え? ここって……」

 

足を止め、千雪が一室を指差す。そのドアには『教員室』と書かれている張り紙が貼られていた。

 

「最初は個室という話だったんだが、それだと確実に就寝時間を無視した男子が押し掛けてくるだろうからな」

 

確かに少なくとも総司、セシル、蓮、シャルル、ラウルは来そうだなぁと壱花は思う。

 

「よって俺と同室になったという事だ。異論はないな?」

 

「うん、大丈夫」

 

そもそもとして年頃の男女(しかも男性側が年上)が同室というだけでも社会的にどうかと思うがこの二人は本来兄妹、学園唯一の女子を風紀的に守るにあたってこれ以上ない人選である。

 

「わー、すごーい」

 

部屋に入って開口一番壱花がそう感想を口にする。二人部屋には充分過ぎる広さで、外側の壁は一面窓になっていて海がばっちり見える。さらにトイレ、バスはセパレート、洗面所まで専用の個室となっていた。しかも専用の浴室はゆったりとしており、壱花はもちろんだが成年男性の千雪でも充分足を伸ばせる広さである。

 

「一応、大浴場も使えるが女のお前は時間交代だ。本来ならば男女別になっているが、何せ一学年全員だからな。お前一人のために残りの全員が窮屈な思いをするのはおかしいだろう。よって、一部の時間のみ使用可だ。深夜、早朝に入りたければ部屋の方を使え」

 

「はーい」

 

わいわいと部屋中を見て回りはしゃいでいる壱花に千雪が説明、壱花は右手を挙げながらそう答える。

 

「さて、今日は一日自由時間だ。荷物を置いたなら好きにしろ」

 

「うん。あ、そうそう。この前蘭ちゃんと買い物に行った時にお兄ちゃんの新しい水着も買ってきたから、使ってね」

 

「俺は遊びに来たわけじゃないんだが……」

 

千雪がそう言うと壱花は荷物から水着などの水泳セットを取り出し、遊びに行こうとする。しかしその直前千雪に伝言を残し、その内容に彼は苦笑を漏らしていた。

それから更衣室のある別館への道の途中で総司と出会い、共に歩いている中二人は珍奇な光景に気づく。道端に金色の鎖が生えているのだ。伸びている数本が根元の方で絡んでいるようになっているそれはご丁寧な事に『引っ張ってください』という張り紙までしてある。

 

「「……」」

 

その珍奇な光景に二人が思わず口をつむぎ、数瞬の後壱花が口を開いた。

 

「ね、ねえ、これって――」

「知らん。俺に訊くな、関係ない」

 

その言葉が終わる前に総司は即否定、それに壱花は困ったように苦笑した。

 

「えーっと、抜くね?」

 

「好きにしろ。俺には関係ない」

 

しかしその言葉にも冷徹な反応を返して総司は歩き去り、壱花は苦笑を浮かべて金色の鎖に近づいてかがみこみ、両手でぐっと鎖を握り締めた。

 

「せーのってわっ!?」

 

そして力いっぱい鎖を引っ張るとそれは抵抗も無く抜け、力いっぱい引っ張った壱花は反動で盛大にすっ転ぶ。鎖は埋まっていた部分地下数センチの部分でぐちゃぐちゃにからまっていたのだ。もはや何故埋まっていたのかが不思議なほどである。

 

「壱花さん? 何を……」

 

そこにたまたま偶然通りがかったセシルは庭でずっこけている壱花を見てきょとんとした顔をした後、顔を赤くする。それに壱花もきょとんとするが、直後彼女の方も気づく。張り紙が邪魔で引き抜きにくいため後ろに回り込み、つまり通路が見える位置で鎖を引き抜いて勢い余ってすっ転びしりもちをついている絵面になる。

 

「っ!!!」

 

要するに、スカートの中が丸見えになっている。それに気づいた壱花は咄嗟に足を閉じてスカートを両手で押さえた。

 

「セ、セシル君のえっち……」

 

「い、いや、僕は何も見てません……」

 

顔を真っ赤にして視線で訴える壱花にセシルは目を逸らして弁明する。

 

「うぅ、おニューのピンクだったのに……」

 

「え、白では?」

 

壱花のうるうる涙目での言葉にセシルが思わずそう返す。次の瞬間セシルがしまったと口を手で押さえるが、既に壱花の顔の赤みがさらに増し、さっきのカマかけの時とは別の意味で目に涙が溜まってセシルを睨みつけていた。

 

「やっぱ見てんじゃん!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

直後壱花の怒号とセシルの謝罪の言葉が重なるのであった。

 

「と、ところで壱花さん、結局何を……」

 

「あ、うん。この鎖がね……」

 

そんなこんなが起きた後セシルが壱花に問い、壱花は互いが互いに絡みついている金色の鎖をセシルに見せる。とその時上空からキィィィィンという音が聞こえ始めた。そしてドガーンという音と共に突如飛来した謎の物体が旅館の渡り廊下のある中庭に突き刺さり、その轟音と衝撃波に怯んだ壱花を守るようにセシルが彼女の前に立つ。

 

「なんだ……槍……いや、鎖?」

 

セシルが呟く。謎の物体が直撃した衝撃で舞い上がった砂埃、その中に見えるのはいっそ神々しいほどに金色の光を放つ巨大な槍だった。いや、違う。よく見れば幾本もの鎖が束ねられて一本の槍のような形になっているようなデザインに見える。その先端は槍の穂先のように尖っており、人が数人は余裕で入れるような大きさだ。そう思うとその穂先がパキンと割れる。

 

「あははは。引っ掛かりましたね、いっちゃん」

 

そして穂先の中から小柄で華奢な体躯をした中性的な少年が姿を現す。

 

「前はミサイルで飛んでたら危なくどこかの偵察機に撃墜されそうになりましたから。僕は学習する生き物なんですよ」

 

「ひ、久しぶりだね。束お兄ちゃん……」

 

くすくすとした笑みを崩さない彼に壱花も引きつった笑みでそう答える。謎の奇行を行った彼の名は篠ノ之束、IS開発者であり世界中から指名手配されている重要人物である。

 

「ええ、本当に久しぶりですね。ところでいっちゃん。総司君はどこですか? さっきまで一緒でしたよね? トイレかな?」

 

「えーと……」

 

そんな下手な犯罪者よりも血眼になって世界各国が探し回っている彼は青いシャツに白のパーカー、膝より少し下が隠れるような迷彩柄のズボンというどこにでもあるような格好をしている。本人が童顔で小柄な体躯も相まって下手をすれば中学生どころか小学生にも見えそうな気がしていた。

 

「ま、いいや」

 

束は壱花の返答を待たずして彼女の持っていた鎖を取って自分の右腕に巻き付ける。すると鎖がぴくぴくと動いてある方向――先ほど総司が去っていった方角を指している。

 

「それじゃあ、いっちゃん。また後で」

 

そう言い、すったったーと人外の速度で総司が消えていった方角に走っていく。

 

「い、壱花さん……今の子は一体?」

 

「束お兄ちゃん。ソウちゃんのお兄ちゃんだよ」

 

「……は? い、今の方が、あの篠ノ之博士なんですか!? 現在、行方不明で各国が探し続けている、あの!?」

 

「そう。その篠ノ之束さん」

 

呆けたセシルにそう説明し、壱花はハァとため息をつく。

 

「まあいいや。ソウちゃんには悪いけど、私は関係なさそうだし……ところでセシル君、私は今から海に行こうと思ってるんだけど。セシル君はどうするの?」

 

「え、ええ。僕も海に行こうかと。よろしければエスコートいたしましょうか? お嬢様」

 

「ふふ、よろしくお願いするわ」

 

(少なくとも壱花は)冗談交じりにそう言い、手を差し伸べてきたセシルの手を取る。二人はそのまま更衣室のある別館へと向かい、そこで別れてそれぞれの更衣室に入っていった。もちろん壱花は覗き防止のため鍵をかける事を忘れない。

 

「ふんっふふんふふ~ん♪」

 

鼻歌を歌いながら制服を脱ぎ、スカートを脱いで下着姿になる。次にブラジャーを外すと拘束のなくなった大きく形の良い胸がぷるんと揺れる。さらにパンツを脱いで生まれた時の姿になった彼女は女性として大きく主張する胸とお尻以外は無駄な脂肪一つついていない裸体を晒しながら、持ってきたおニューの水着を着る。白色を基調に脇から下を黒色に変え、黄色で縁取りしているワンピースタイプの水着は背中が大きく空いており、相変わらず隠れた色気を振りまいているが壱花はそれに気づいていない。

 

「あ、そうそう」

 

最後に壱花は忘れていたと、リボンを外してポニーテールに結っていた髪を下ろす。肩に充分かかるセミロングの黒髪がふわりと揺れた。そして着替えた制服や下着はロッカーに入れ、タオルや日焼け止め他色々を防水用のビニール製のバッグに入れ、靴をビーチサンダルに履き替えると更衣室を出て海へと向かっていった。

 

「あ、織斑さんだ」

「お、おい、あの身体……やっぱ最高だぜ」

「おいバカやめろ、織斑先生に聞かれたら地獄を見るぞ!」

「おりむ~。あとでビーチバレーしよー」

 

「うん、時間があればいいよ」

 

浜辺の辺りで数人の男子と出会い、すぐ近くに日影があったのでそこに入って日焼け止めを全身に満遍なく塗ってから彼女も真夏七月の太陽光線が焼いた砂浜に繰り出す。

 

「まずは準備体操しないとね」

 

泳ぐ前に準備体操、足がつって溺れたりでもしたら大事になる。壱花は手、足、背中を伸ばして念入りに柔軟を行う。

 

「よう、壱花。相変わらず真面目だな」

 

「あ、蓮君。蓮君も準備運動はしなきゃダメだよ?」

 

「いいよめんどくさい、俺溺れたことねーし」

 

声をかけてきた蓮に壱花はそう注意するように言い、それに蓮はめんどくさそうに返すが壱花が責めるような視線を向けると居心地悪そうに目を逸らす。

 

「わ、分かったよ。泳ぐ前にはやるからさ……」

 

視線に負け、蓮はそう約束。壱花は満足そうにうんうんと頷いた後に蓮の格好を見る。

 

「それにしても、蓮君も鍛えてるんだね」

 

「そりゃーな。代表候補生として当然だろ」

 

壱花の言葉に蓮はそう答える。彼の水着は赤色のトランクスタイプ、中国っぽく大極図のワンポイントが刺繍されている。そこ以外は当然ながら全裸であるためしっかり鍛えられた身体が晒されていた。

 

「あぁ、壱花さん。探しました」

 

「あ、セシル君」

 

するとそこにセシルが声をかけてきた。

 

「エスコートをすると約束したのに、気がついたら置いて行かれていたようで。心配しましたよ」

 

「あはは、ごめんごめん。待ちきれなくって」

 

セシルのほっとした顔に壱花も苦笑交じりにそう答える。彼の姿もシンプルな青色トランクス、色白の肌に長身の姿はモデルのようで、なおかつ蓮に比べたら控えめだがこちらもしっかり鍛えられているのが一目で分かる肉体をしていた。しかし壱花の目はそれよりもセシルの顔へと向かう。

 

「セシル君……眼鏡、してないみたいだけど。大丈夫?」

 

「海水浴用にコンタクトレンズを特注しましたので。大丈夫です」

 

そう。セシルは普段かけている眼鏡をかけず裸眼の状態になっていた。その質問に対しセシルはそう返答、曰く使い捨てにはなるが普段コンタクトを使っていなくとも違和感のないよう注文した今回のための特注品(オーダーメイド)らしい。

 

「そうなんだ……なんだか印象変わるね」

 

「ありがとうございます」

 

普段の眼鏡とはまた違う印象を与えるコンタクトレンズ着用状態のセシルに壱花はそう感想を呟き、セシルも嬉しそうに微笑んでお礼を返す。

 

『わあああぁぁぁぁっ!!!』

 

「「「!?」」」

 

すると突然そんな、まるで九回裏ツーアウトからの逆転サヨナラホームランでも目の当たりにしたような歓声が響き渡った。

 

「シャルルたんハァハァ」

「肌が白い、シャツの上からでも分かるくらいに華奢な身体だ……」

「俺、やっぱシャルルならイケる……」

「なあ、そこに岩陰あったよな……」

「男同士なら問題ないよな……」

 

Au secours Ichikaー(壱花助けてー)!!!」

 

あかん方向に覚醒した男子達からの視線から逃げるように、シャルルは涙目になって悲鳴をあげ壱花の胸に飛び込んだ。その顔はガチの恐怖に彩られて真っ青になっており、どさくさ紛れのセクハラを疑うどころではない事は壱花どころか蓮やセシルも一瞬で察する。

 

「こ、更衣室から皆が変なんだ……お願い壱花助けて、一緒にいて……」

 

普段なら冗談交じりな口説き文句や軽口を出す(と壱花には認識されている)口からはマジで恐怖に震えている声が出ており、壱花は本気でガタガタ震えている彼を落ち着かせるために優しく抱き寄せてよしよしと頭を撫でる。

ちなみに彼の格好は少々ゆったりとしたデザインの黄色のトランクス水着に黒い線が斜め方向に入って変則的な縞々模様になっているもの。上半身は日焼け対策なのだろうかTシャツを着用していた。

しかしただでさえ女装して学園に潜入、壱花の起こしたケアレスミスによってばれた以外では他の生徒の誰にもばれなかったという実績を持つシャルル。その上半身が隠れている事がシュレーディンガー的理論によって男子に変な気を呼び起こさせていた。壱花にやったらセクハラで千雪の怒りを買うが同じ男子のシャルルなら問題ないという認識も彼らのリミッターが外れる原因として大きいのではないかと推察される。

 

「どうかなさいましたか、ご主人様」

 

「あ、ラウル君」

 

すると今度はラウルが歩いてきた。長身で威圧感のある風貌に加えてグレーの水着姿の彼は軍属である事がよく分かる程に身体中が鍛えられて筋骨隆々の身体がよく見える。しかも訓練の中で怪我でもした過去があったのだろうか、無数の傷跡が身体には残っていた。

 

「んっと、シャルル君がちょっとクラスメイトに恐怖を感じてて……そうだラウル君、しばらくシャルル君についててあげてくれない?」

 

「シャルルの護衛ですか? 分かりました。主人の犬としてその命令に従います」

 

「犬はやめて。はいシャルル君落ち着いて、ラウル君がついててくれるから」

 

壱花の指示にラウルは護衛という意味で理解しそのお願い(本人的には命令)を受諾、壱花が犬という単語にツッコミを入れた後、シャルルの背をぽんぽんと叩いて彼を落ち着かせ、いい加減引きはがす。

 

「うん。見苦しいところ見せちゃってごめん……それとラウル、よろしくね」

 

「状況はよく分からないが、任せろ。軍時代にも要人警護の任務は幾度となく受けている」

 

生真面目な軍人で信頼のおける友人であるラウルなら安心なのかシャルルはお願いと返す。ラウルもそれに頷いたがそもそも彼は状況を理解しておらず、シャルルは苦笑を漏らした。

 

「まあ、この前街で遊んだように楽しく過ごせればいいからさ。海が初めて同士仲良くやろうよ」

 

「海上訓練も行っているが?」

 

「こうやってプライベートで遊ぶってこと」

 

安心と共に調子が戻ったのか、シャルルはにこっと微笑んで軽口を叩く。

 

「じゃあ壱花、騒がせたお詫びに僕とラウルでジュースでも買ってくるから」

 

そしてそう言い残すとシャルルはラウルを連れてその場を歩き去っていく。

 

「シャルル×ラウル……」

「普段は甘えん坊が二面性で体格のいい男を攻める……」

「いや、やはりラウルが上の方が……」

「シャルル誘い受けはどうだ?」

「いや、シャルル鬼畜攻めラウル天然受けの方が……」

 

なおあかん方向に覚醒した男子(腐男子)がそんな妄想を繰り広げていたのは幸いにも彼女らの耳には届かなかった。

 

「おりむ~。さっきの約束、ビーチバレーしようよー」

 

「うん、いいよ。セシル君と蓮君も一緒にやろう」

 

「ええ」

「おっしゃ!」

 

と、ビーチバレーの約束を取り付けたのほほん君が壱花に声をかける。その横には彼と仲の良い二人の男子――相川君と谷本君が立っており、丁度三対三になるので壱花もセシルと蓮を誘う。二人も二つ返事で快諾した。

それからルールをタッチは三回まで、スパイク連続禁止、キリのいい十点先取で一セット、三セット先取で勝ちと簡単に決めてネットや線の準備をし、丁度ボールを持っていたのほほん君チームから先攻でゲームが開始される。

 

「ふっふっふ、七月のサマーデビルと言われたこの俺の実力を……見よっ!」

 

そう叫び、谷本が綺麗なフォームでジャンピングサーブを行う。バシンッと音を立てて放たれたボールはスピード、角度、双方申し分ない一撃だ。

 

「任せろ!」

 

しかしそれを蓮が飛び込んでレシーブ、その落下点に壱花が回り込んだ。

 

「セシル君、お願い!」

 

そしてネット際目掛けてトス、そこに向かうのはセシルだ。

 

「せあっ!!」

 

元々長身に鍛えられた肉体による跳躍力、そしてスナイパーとして鍛え上げた感覚が防御の隙を見抜く。ズバンッと音を立てて放たれたアタックがのほほん君チームの砂地へと突き刺さった。

 

「こんなものかな」

 

ざっと砂の上に着地するセシルは爽やかな笑みを浮かべてそう呟く。もしもここが関係者以外立ち入り禁止のIS学園臨海学校の場所でなければ女性からの黄色い声援が響いていた事だろう。

 

「セシル君すごーい」

 

ちなみに今この場にいる唯一の女性である織斑壱花は友達に向けるような笑顔でぱちぱちと拍手を送っていた。

 

「くぅ、オルコットめ……」

「次は勝つぞ!」

「お~、がんばろ~」

 

相川と谷本が悔しそうに呟き、のほほん君が頑張ろ~と暢気な声で言う。そして試合は続くが蓮はまるで猫のようなすばしっこさとしなやかさで鉄壁の防御を見せ、セシルが敵の防御の穴を見つけてリアルタイムで指示を出し、さらに女性に耐性のない男達はジャンプやレシーブの時に揺れる壱花の胸に釘付けになっていた。

 

「えいっ!」

 

ちなみにのほほん君はその本人無自覚の魅了攻撃を意にも介さずふらふらとコートを動き回り、テキトーに腕を振り上げたらボールが上手い具合にトスされるというよく分からない防御方法で壱花達と張り合っていた。

 

「エクス……シュートォ!」

 

掛け声と共に壱花の渾身のアタックが放たれ、相手のブロックを潜り抜けて砂地に突き刺さる。これで壱花チームは十点、さらに既に二セット取っていたためこれで三セット。壱花チームの勝利だ。

 

「よっしゃ! 俺達の勝ちだ!」

 

「くっそー、負けたかー!」

 

蓮が右腕を振り上げてガッツポーズを取り、相川が悔しそうに砂の上に寝転がる。

 

「皆お疲れ~。ジュース買ってきたから皆でどうぞ」

 

「水分補給は大事だ」

 

ジュースを買ってくると言って離れていたシャルルが気を配ってのほほん君達の分も買ってきていたらしく、ビーチバレーをしていた人達にラウラと一緒に配っていく。

 

「そろそろ昼食の時間か……そういえば壱花さんは午後からはどうするんですか?」

 

「ん~。せっかく海に来たんだから泳ぎたいけど、ご飯食べてすぐは辛いかもしれないし。少し休んでからまた海に来ようかな」

 

「そっか。んじゃ昼飯食いに行くか!」

 

冷えた紅茶を飲みながらセシルが壱花に尋ねると、壱花はオレンジジュースを飲みながらそう答える。それに蓮がにししと笑って頷き、スポーツドリンクを飲み干す。

 

「そういえば、壱花ってどこの部屋なの?」

 

「それは聞いておきたい。主人を守るのは犬としての責務だ」

「おぉ、それは俺も聞きたいな!」

「ああ。部屋で話とかワクワクするしな」

「うんうん。情報共有は大事だよ~」

 

「犬はやめてってば」

 

シャルルの言葉にラウルが続き、さらに相川、谷本、のほほん君が続くと壱花は呆れ顔で返し、「守ってもらう必要なんてないと思うけど」と前置きする。

 

「お兄ちゃん、織斑先生と同じ部屋になったよ」

 

その言葉を聞いた男子が全員ぴしっと固まった。

 

「だから遊びに来るのはやめた方がいいと思うな」

 

「そ、そうだな。織斑さんとは食事時間に会えるし……」

「あ、ああ。わざわざ鬼の寝床に入る必要なんてないよな……」

 

壱花の忠告に相川と谷本がうんうんと頷いた。

 

「誰が鬼だ、誰が」

 

そこにそんな呆れ声が聞こえ、男子達はびくぅっと小さく跳ね上がってギギギギと軋むような音を立てるようにゆっくりと首を動かして声の方を見る。

 

「お、お、織斑先生……」

 

「おう」

 

生徒の声にそう返す千雪はやはり水着に着替えている。真っ黒なブーメラン型、後ろの中心部分には赤い下矢印のような模様が書かれた水着だ。ぶらっくすいまー、そんな言葉が浮かぶ。彼は無駄一つなく鍛え上げられた身体を惜しげもなく陽光に晒していた。

 

「あ、お兄ちゃ……織斑先生。着てくれたんだ」

 

「せっかくだからな。そら、お前達は食堂に行って昼食でも取ってこい」

 

「先生は?」

 

「俺は僅かばかりの自由時間を満喫するさ」

 

そう言い、千雪はさっさと行ってこいと手を振る。教員の本当に数少ない自由時間を潰すような真似もしたくない壱花もこくんと頷いた。

 

「じゃ、皆。行こっか」

 

「集合時間には遅れるなよ」

 

「はーい」

 

そうとだけ話して壱花は皆を連れて千雪のいる海岸から離れ、男子とも別れると女子更衣室へ向かう。

 

(そういえば、ソウちゃんを見なかったなぁ……)

 

そんな事を心の片隅で思いながら、彼女は女子更衣室へと入っていった。




何故か、一夏を女体化したつまり壱花状態で、箒達ヒロインズはそのまま女の子っていう完全女子校モードのIS二次を思いついた……けどそれだと壱花はその他大勢の女子と全く同じだという事に気づいて話が膨らまないので没になった。やるとしたら一夏ポジションの男オリ主使うのが一番早いけど、それもう何番煎じになるかってレベルだしなぁ……。(汗)
ちなみにぱっと思いついた問題点は「一夏は男だからデータ収集目的で専用機を与えられた=女だったらその大義名分がない(別の理由を考える必要がある)」。「一夏は男だから目立つというノリでクラス代表に選出され、それが原因でセシリアに因縁つけられた=女だったらその前提が崩れる(まあ千冬の妹とか目立つ理由はいくらでもあるけど)」。「鈴は元々IS学園に行く気がなかったが一夏のIS学園入学のニュースを聞いてIS学園に行った=いくら千冬の妹とはいえまさかたかが一女生徒入学のニュースなんて世界的に流れるわけないし鈴がIS学園に行く理由が消えた」。「シャルロットは一夏(世界唯一の男性操縦者)のデータを盗むために男装してIS学園に行った=女だったらその前提が崩れ、シャルロットがIS学園に行く理由そのものがない」でした。箒は元々政府の移行でIS学園に行かされたみたいだし、ラウラは一夏が男だろうと女だろうと「敬愛する教官の経歴に泥を塗った」のが一夏に因縁つけた理由だから問題はない。
まあそもそも一夏は就職率のいい藍越学園志望だったんですけどね……ん?

それはさておき、IS最新刊がまさかの発売だったので読んでたんですが……うっわぁっていうか……やばい、これどう組み合わせようかと頭を抱えています。いや時間軸第一期なんだからフルシカトこいても問題はないんですけども。
っていうかまさかここでシャルロットの親父やセシリアの両親の伏線が回収されるとはなぁ。第二期やるならこの辺オリジナルでやるつもりだったから考え直しが必要になった……まあそもそも第二期やる予定がない&やるならオリジナル前提なんだけど。

さて今回ようやく本格登場束さん。実は全くキャラ付けを考えてなかったので苦労しました。で、今回改めてキャラ付けをした結果口調まで変わってしまったので今までの彼の台詞も修正いたしました。外見特徴だけは前々から決定してたので、それに合わせて正式に台詞のみを変えた形になりますが。

では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。
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