インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~ 作:カイナ
時間が過ぎて夕食。壱花達は大宴会場へとやってきて食事をしていた。ちなみにこの旅館の決まりらしく全員浴衣姿である。
「うん、美味しい! 昼も夜も刺身が出るなんて豪勢だよね」
「そうだね。ほんと、IS学園って羽振りがいいよ」
壱花の言葉に、その右隣に座っているシャルルが刺身を咀嚼しながらうんうんと頷く。夕食は刺身と小鍋、山菜の和え物が二種類に赤出汁みそ汁とお新香。文字にすれば普通だが刺身は高級魚のカワハギがキモつき。他の料理も食材から高級なものを使っているのが分かる。
「……生の魚というのは慣れないな……」
「やっぱセシル君には抵抗ある?」
シャルルとは逆隣に座っているセシルは刺身を食べづらそうに見ており、それに気づいた壱花が問いかける。
「まあ、イギリスでは生ものを食す習慣がなかったので」
「そこのとこは文化の違いだね。イギリスも日本と同じ島国なのに不思議」
「そうですね。しかしこれも異文化交流、頑張ります」
セシルはそう言うと「常識を捨てろ」「皆食べているではないか」とぶつぶつ唱えながら刺身を口に運んでいく。自分に言い聞かせるという、自分から見たら刺身を食べるのに随分大袈裟な彼に壱花は苦笑した。なおセシルは刺身に忌避感を感じているがシャルルは逆に「結構美味しいね」とあっさり受け入れ、ラウルは「安心してください。サバイバル訓練によって生の食材も食べられるようになっています」と真顔で言っており、壱花に「事情が違うよ」とツッコミを入れられていたことを追記しておこう。
そんなセシルを横目で見ながら壱花は食事を再開する。食事はしっかりと味わい、美味しく作ってくれた料理人の方とその食材となってくれた命に感謝の意を示す。それが食べる者の礼儀である。
「それにしてもほんと豪勢だね、刺身はカワハギだしこのわさび本わさだし」
「本わさ?」
壱花の独り言にシャルルが反応する。
「本物のわさびをおろしたやつのことだよ。食堂で出てくるやつは練りわさび、ワサビダイコンやセイヨウワサビを着色、合成して色や見た目を似せてるの」
シャルルの疑問の声に壱花が説明、彼はふんふんと頷いた。
「へぇ~。じゃあこれが本当のわさびなの?」
「そう。でも練りわさでも最近は美味しいのが多いよ。店によっては本わさと練りわさを混ぜて出したりもするから」
「そうなんだ。はむ」
シャルルの言葉に壱花は頷いてそう答える、とシャルルは何を思ったのかわさびの山をぱくりと一口食べた。
「っ~!?」
その瞬間鼻を押さえ涙目で悶えるシャルル。それを見た壱花が呆れたように苦笑する。
「シャ、シャルル君、いくら美味しいからって、わさび山で食ったらそうなるよ……だ、大丈夫?」
「ら、らいひょうぶ……」
壱花は呆れたようにそう言った後心配そうに問いかける。それにシャルルは大丈夫だと笑みを見せるが涙目で笑みが崩れておりいまいち決まっていない。
「ふ、風味があって、いいね……お、おいしい……よ?」
「どこまで良い子なの……」
シャルルの必死のフォローに壱花は頭を抱えながらそう呟いた。
「ふぅ……」
そして時間は進み、旅館の廊下。総司は温泉を出た後と思われる濡れた髪――風呂上がりのため普段はポニーテール風に結っている髪も下ろしている――に浴衣で歩いていた。
「あれ、総司。何やってんの?」
「ああ、蓮」
すると廊下の曲がり角で蓮に出会い、そう問いかけてくる。が蓮はすぐににしし、と笑った。
「ってまあ、どうせ目的は一緒だよな。壱花んとこだろ?」
「ああ。せっかくだから少し話でもしようかと思ってな」
「俺も俺も。千雪さん、織斑先生がいるからつって皆ビビってるけど」
総司と蓮はそう談笑しながら同じ目的地である壱花の泊まっている教員部屋へと向かう。
「やあ。ソウ、レン」
「「セシルもか」」
「?」
その途中でセシルにも出会い、二人でツッコミを入れつつセシルも同行。さらにその次には「お願い一緒に行かせて部屋に残るの怖い!」と泣きついてきたシャルルと彼が連れていたラウル――シャルル曰く「織斑先生に部屋の移動を直談判する! 総司とセシルとラウルなら安心するから協力して!」らしい――も同行して、彼らは「教員部屋」という張り紙のされた部屋へとやってくる。壱花に教えられた彼女と千雪の宿泊部屋に間違いない。
「壱花、いるか? 遊びにきた――」
「へ?」
から、と玄関の襖を開けながらそう挨拶をする総司だが、直後目の前にいた壱花が呆けた声を出す。
「ふみゃ!?」
「うわ!?」
部屋を出ようとしていたのだろう、勢い余った壱花が総司にぶつかり、小さな悲鳴を上げてずてっとしりもちをつく。
「す、すまん壱花。大丈夫か!?」
総司はすぐ膝を折って壱花に呼びかける。部屋に備え付けられていた小さなタオルや自前だろう入浴用品からして丁度風呂にでも行こうとしていたのだろう。総司は壱花の落としてしまったそれらを拾っていく。
「ん?」
と、総司は何か変なものを拾い上げる。見た事のない形、いや似たような形をしているものは今自分もつけている。
「ってこれ……パン――」
「っ! み、見ないでっ!!」
白でレースのついたパンツ、そう総司が考えた瞬間顔を真っ赤にした壱花がそれを奪取。懐に隠すように持っていく。
「全く、何をしているんだ。お前達は」
すると部屋の奥にある椅子に腰かけリラックス状態の千雪が呆れたように声をかけてきた。
「そら壱花、お前はとっとと風呂に行ってこい」
「う、うん!」
千雪が促し、壱花はまだ赤みを残した顔のままてててっと部屋を出ていく。そして千雪はククク、と悪戯っぽいというか悪だくみをしている悪の組織の首領のような笑みを残された総司達に向ける。
「タイミングが悪かったな、お前達。ま、好きなところに座って、壱花が戻ってくるまでくつろぐがいい」
「「「「「……」」」」」
千雪の言葉通り彼らは部屋に入ると適当なところに座る。しかしそれから彼らは沈黙を保っていた。
「おいおい、葬式か通夜か? いつものバカ騒ぎはどうした?」
「い、いや、その……」
「お、織斑先生とこうして話すのは、ええと……」
「は、初めてですし……」
ククク、と笑みを見せている千雪に萎縮する男子達。それに千雪はまた苦笑を見せた。
「まったく、しょうがないな。俺が飲み物を奢ってやろう」
千雪はそう言って冷蔵庫に向かい、五本の清涼飲料水の缶を取り出して総司達に渡していく。
「ラムネ、オレンジ、スポーツドリンク、コーヒー、紅茶だ。別のがよかったら相談して交換しろよ」
千雪はそういうものの総司、シャルル、蓮、ラウル、セシルの順番で渡されたそれでお互い満足なためか交換会は開かれず、全員缶を開けた。
「「「「「い、いただきます」」」」」
全員が一斉に飲み物を飲んだ瞬間、千雪がにやりと笑う。
「よし、全員飲んだな?」
「は、はい?」
「そ、そりゃ、飲みましたけど……」
「な、何か入っていたんですか!?」
「失礼なことを言うなバカめ。なに、ちょっとした口封じだよ」
千雪の言葉にびくりとなる男子達に対し、変わらずくっくっと悪巧みをしているような顔で笑う千雪は冷蔵庫からさらに一本の飲み物を取り出す。それは星のマークが光る缶ビールだ。千雪は缶を開けるとプシュッという音と共に中から出てきた飛沫と泡を口で受け取ってごくごくと喉を鳴らす。
「んっ、んっ、んっ……くーっ。本当なら壱花につまみの一つも作らせるところなんだが……それは我慢するか」
総司達の前のイスにどっかりと腰を下ろして美味しそうにビールを飲み、上機嫌に笑う千雪。その光景を見た男子達は全員ぽかんとしており、特にラウルは信じられないものを見るような目で何度も目をしばたかせていた。
「おかしな顔をするなよ。俺だって人間だ、酒くらいは飲むさ。それとも、俺は作業オイルを飲む物体に見えるか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「ないですけど……」
「でもその、今は……」
「仕事中なんじゃ……」
ちなみにラウルはぽかんと開いた口から何も言葉が出てきていない。
「堅いことを言うな。それに口止め料ならもう払ったぞ」
彼らの言葉に千雪は笑いながら平然と反論、その口止め料という言葉に全員首を傾げるものの、千雪が彼らの手元を眺め見ると全員が気づいたように手元の飲料水に目をやった。
「「「「「あっ」」」」」
「さて、前座はこれくらいでいいだろう。そろそろ肝心な話をするか」
そして全員が声を漏らす。その後千雪は座りなおして二本目のビールを開けると男子達を見据え、にやぁと頬を吊り上げる。
「お前ら、あいつのどこがいいんだ?」
まさか超剛速球をど真ん中に投げてくるとは思わなかったのだろう。その言葉に全員が絶句する。
「いや、俺はその、幼馴染ってだけだしさ……」
一番に頬をかきながら答えるのは蓮。その言葉に千雪はクククと笑う。まるで真新しいおもちゃを見つけた子供のようにその瞳は輝いていた。
「プロポーズまがいの事を言っておいてか? 随分と軽薄な奴だ」
「だぁっ!? 誰から聞いたんですかそれっ!?」
「蘭からだが?」
「蘭の野郎!?」
千雪の言葉を聞いた途端蓮は顔を赤くして狼狽し、頭を抱えて密告者の名前を叫ぶ。
「僕は紳士として壱花さんを守りたいと思っているだけです。彼女の隣で、彼女に守られつつも」
「紳士として、か……それにしては随分と無茶をしているのが目につくな。お前は」
「そう、でしょうか……」
セシルは千雪の言葉に対しどこか煮え切らない様子で頬をかいていた。
「まあいい。デュノア、お前はどうだ?」
「僕はその……優しいところです。まるでお母さんみたいで……」
「ははは。同い年に母親呼ばわりなど、壱花が傷つくぞ?」
「気をつけます」
シャルルは正直に壱花への好意を吐露。しかしその内容に千雪が笑うとシャルルも苦笑気味に肩をすくめる。
「それに、あいつは誰にでも優しいぞ?」
「そ、そうですね。そこがちょっと悔しいかなぁ……でも、それを除いても壱花はとても魅力的な女性ですよ」
続けての千雪の言葉にシャルルはそう言って照れくさそうに笑った。
「で、ラウル。お前は?」
次に千冬は今まで一言も言葉を発していないラウルに話を振る。
「私はご主人様の犬です。犬として、主に忠誠を誓うのみ」
いつものキリッとした表情でのアホな発言。しかし続けてラウルは「そうですね」と呟き、まだ言葉が続くことを示す。
「主の良いところと言えば……強いところ、でしょうか……」
「いや弱いだろう」
「つ、強いです! 少なくとも、私よりも」
ラウルの言葉を千雪はあっさり切り捨てるがそれに対しラウルは珍しく千雪相手に反論する。
「そうか。お前が強さを攻撃力とみなさないだけ成長していると思ってやろう……さて」
千雪はかつてのドイツでの教え子、ドイツの冷氷がほんの少しでも氷解しているのを嬉しく思ったのか一つ笑った後、最後に残る総司を見る。
「お前はどうだ、総司?」
「壱花は、その……」
総司に話を振り、それに総司は一度びくりとなったが徐々に言葉を紡ぐ。
「壱花は、俺の憧れです。壱花がいたからこそ、俺は強くなれた」
「ほう。あいつがいたからとは、また大きく出たな」
「ええ……だから、俺はもっと強くなりたい。あいつを守るために」
総司は静かにそう告げ、千雪はクククと再び笑う。
「随分と過大評価されているようだな、我が妹は。まあ、あいつは役に立つぞ。家事も料理もなかなかだし、口うるさいがやる時はやる。大和撫子には少々遠いだろうが、いい嫁になるだろう」
そう言い、千雪は立ち上がると男子達を見下ろしてニヤリと笑う。
「というわけで、付きあえる奴は得だな。どうだ、欲しいか?」
その言葉に全員がビクリとなって千雪を見上げる。全員例外なく、大なり小なり期待に目を輝かせている。
「「「「「くれるんですか?」」」」」
全員の声が揃う。千雪はクククと、自分の期待に応えた彼らに笑い声を返した後、ふんっと鼻を鳴らした。
「やるかバカ」
いかにも意地悪な笑みを浮かべて千雪はそう言い、三本目のビールの蓋を開けながら男子達を見た。
「男ならな、壱花を惚れさせて俺から奪うくらいの気持ちで行かなくてどうする。自分を磨けよ、ガキども」
そう言いながら彼はビールをあおる。その顔は意地悪そうな、しかしどこか楽しそうな笑みを浮かべているようだった。
皆さんご読了ありがとうございます。
まず皆様に告知いたします。この作品の読者の一人であり、小説投稿サイト「Arcadia」で活動中のゴリアス先生の作品「<IS>一夏は私の愚兄(おにい)ちゃん」と本作のコラボ企画が持ち上がり、この度ゴリアス先生作でコラボ作品が投稿されましたのでお知らせいたします。
詳しい事は活動報告の方に掲載しておりますので、目を通してくれれば嬉しいです。
さて後書きに入り、今回は少しばかり短いですが修学旅行夜編。本作ヒーローズがヒロイン壱花をどう思っているかを改めて書きました……しまったな。セシルとかもうちょい恋愛フラグを立たせておくべきだった……セシリアからチョロイン属性を除いて鈍感属性を入れてしまった弊害がここで出るとは。ラウルもラウルで「一夏を私の嫁にする」から「俺は壱花さんの犬だ」になってるから壱花への恋愛感情が思い当たらないし……両方とも残念イケメン属性が入ったせいでここで問題が出てきたか。(汗)
さて、次回から急転直下で最終決戦に向かいたいと思っております。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。そしてコラボ作品の方、ぜひお読みいただければ嬉しいです。それでは。