インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~ 作:カイナ
「すぅ……くぅ……」
「うううぅぅぅぅ……」
IS学園の学生寮、1025号室。この学園で唯一の男女共用部屋(まあ女子は一人しかおらず彼女の個室がまだ用意できていないための暫定処置なのだが)で、一人はぐっすり眠り込み、一人は頭を抱えていた。その方も目はぎゅっと閉じているが、閉じているだけで眠っていないのは力んでいるため眉間に刻まれた深い皺とぶるぶると震える瞼が証明している。
(ね……ねむれない……)
その眠れていない方――篠ノ之総司は心の中でそう呟く。異性、それも昔から想いを寄せていた相手が同じ屋根の下どころか同じ部屋で無防備に眠っている。そんな状況に彼は緊張、すっかり眠気が吹き飛んでしまっていた。いや、眠気はある。だが緊張のせいで眠れないという最悪の状況である。
「ふにゃふにゃ……」
壱花の口がもごもごと動き、何か寝言を漏らす。総司はただそれだけのことにびくりと反応し、壱花の方を向く。そこには綺麗な顔であどけない寝顔を見せる壱花の姿があった。完全に熟睡しており、緊張など微塵も見えない。
(……仮にも、俺だって男なんだけどなぁ……)
総司がそう呟く。いくら気心知れた幼馴染とはいえ六年間も離れていて今日再会した相手と、それもお年頃の男子と一緒の部屋で初日から無防備に眠っている辺り、壱花も相当いい度胸をしている。
(信頼されているって言えば聞こえはいいけど……男として意識されてないんだろうか)
心中ではぁとため息をつき、またちらりと壱花を見る。丁度壱花はころりと寝返りを打って総司に背中を向ける格好になる。
「!?」
だがその時に布団がめくれる。彼女の寝巻はショートパンツのため、総司の目に彼女の健康的なすらりとしたカモシカのような足と安産型というのだろうか形のいいお尻が映し出される。
(煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散!!!)
その瞬間総司は布団を被り、必死で理性を総動員。頭を抱えて煩悩退散に四苦八苦し始める。完全に生殺し、お年頃の思春期少年にとっては何よりも辛い拷問にも等しい状態だった。
それから時間は翌日七時過ぎ、場所は寮の一年生用食堂へと移る。
「いただきます」
「いた、だきます……」
両手を合わせ、朝食の和食セットを前に食事の挨拶を行う壱花。その隣で総司もややのろのろとした動作で続く。
「それにしてもソウちゃん、朝早いんだね。私もジョギングとかで結構朝早い方なんだけど……」
「あ、ああ……まあな…(…一睡も出来なかった……)」
壱花の感心したような言葉に総司も頭を上下に揺らして頷く。彼は結局寝付く事が出来ず、煩悩退散のためにランニング&素振りの朝練を普段よりずっと早くスタート。程よい疲れで煩悩が吹き飛んだと思えた時には朝日が昇り始めていたのだ。なお、その時に壱花が本人曰く「健康のための朝ジョギング」をしているところに合流。汚れのない真っ白なシャツは一部がお年頃の女の子が恨めしく思うほどにでんと盛り上がって存在を主張し、ショートパンツからは眩しいほどに白い生足が隠れることなく露出。さらに総司と出会うまでにしばらく走っていたのか汗がキラキラと流れて頬がいい具合に上気、はぁ、はふぅ、とやや激しい吐息という連続コンボに総司は再び煩悩との戦いをし始めたのは全く別のお話である。
「さ、早くご飯食べよう。あー美味しそー」
壱花はぺろりと舌なめずりをして箸を手に朝食を食べ始める。総司もやや遅れてそれに続いた。
(俺、大丈夫かなぁ……)
こんな事が続いたら近い内に睡眠不足でぶっ倒れるんじゃないだろうか。そう考え、総司は弱気を覗かせるのであった。
(あ~う~……)
学校が始まり二時間目の休み時間に入った辺りで壱花がまたグロッキー状態になる。まあ外見は普段通りぴしっと背筋を伸ばしたいかにも真面目な学生ですモードになっているため誰にも気づかれていないのだが。相変わらず教室や廊下からは壱花に興味を持った見物客がたむろしており、しかも彼らの会話から勝手に耳に入ってくるものを抜粋すると「来週月曜日」「代表候補生」「クラス代表決定戦」という単語が多く耳に入る。昨日のセシルとの決闘騒ぎが既に学校中に広まっている事がうかがえ、セシルは噂の的になるのが嫌なのか教室から姿を消していた。なお総司は完全に机に突っ伏して倒れており、辛うじて意識は保っているようだが噂話どころか普通の会話すらままならない状況である。
「いち……織斑」
「なに、おにい……もとい。なんですか、織斑先生?」
そこに授業が始まるよりも随分早くやってきた千雪が壱花に声をかけ、壱花もいつものように返そうとするが、相手がわざわざ名前を名字に言い換えた、つまり教師と生徒としての話と考えてこっちも先生呼びに変更する。
「お前のISだが、準備までに時間がかかる」
「え?」
「予備機がない。よって、学園のほうで専用機を用意するそうだ」
「せ、専用機……一年の、しかもこの時期に!?」
「それって政府からの支援が出てるって事じゃあ……」
「いや……すげえなあ、俺も早く専用機欲しいなぁ」
その言葉に教室中、いや廊下までもざわつき始める。
「専用機……」
「知らないのか? なら教科書六ページを音読しろ」
「覚えてます。“現在、幅広く国家・企業などに技術提供が行なわれているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており。各国家・企業・組織・機関では、それぞれに割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引する事はアラスカ条約第七項に抵触し、すべての条件化で禁止されています”でしたっけ?」
千雪の言葉に対し壱花はすらすらと千雪に言われたページの該当箇所を音読どころか暗唱。淀みなく紡ぎ出された声にまた男子がざわつく。
「それにしても、まだ入学二日目の素人に専用機なんて……」
「ああ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意される事となった。理解できたか?」
「ん、了解しました」
千雪の説明で壱花は納得したのかこくりと頷く。その時丁度チャイムが鳴り、セシルも戻ってきて教室内のざわめきにきょとんとする。
「では授業を始める。佐藤先生、号令」
「は、はいっ!」
こちらも丁度やってきた兎佐が千雪から指示され、声を裏返して号令をかけていた。
それからまた次の休み時間に入った時、壱花に一人の少年が歩き寄る。
「えーと、ミス・オリムラ……」
セシルだ。だが彼の挨拶に対し壱花はギロリと目を鋭く研ぎ澄ませて睨みつけるのを返答の代わりとする。綺麗な女性のすごみはやけに迫力があり、元々どこか及び腰になっていたセシルはさらに怯む結果になる。
「話は聞かせてもらった。専用機が来るそうだな」
「ええ。これで状況は
「あ、いや。だが専用機同士といえど経験の部分では僕の方に分がある。ここは……」
セシルのどこかおろおろとした言葉は壱花の二度目の睨みで遮られ、彼はこれ以上は無駄なのかと判断したか席に戻っていく。
「…………」
その様子を、休み時間中に少しずつ仮眠を取って多少調子を取り戻してきたらしい総司が静かに眺めていた。
それから時間は昼休みに移り、生徒達は昼食を取りに食堂へと向かう。なお壱花は総司を引っ張って食堂へとやってきており、そのまま日替わり定食(今日のメニューは鯖の塩焼き定食)を二人分買って空いてる席についていた。
「それでソウちゃん。昨日の話の続きなんだけど……ごめんね、剣道辞めちゃってて……」
「ああ。いや、そこを責める気はない……やっぱり壱花も女性だからな。剣道なんて汗臭い競技は嫌になるだろう」
「ち、違う違う! 剣道自体は好きだよ!……だけどその、中学に入ってからバイト始めてて……」
「バイト?」
壱花は昨日の夜ちらっと話していた剣道の話の続きを行う。といっても彼女は中学に入ってから剣道を辞めており、もう竹刀は月に数回、ちょっと運動で素振りをする以外では握る事がなかったということ。それに対し総司が年頃の女の子が汗臭くなる競技は嫌になるだろうと納得しようとするが、壱花はすぐにその誤解を解くように説明。総司がその理由に呆けた声を出した。確かに中学生でバイトというのも変な話である。
「あーうん。蘭ちゃん……って言っても分かんないか。中学で知り合った友達の実家が定食屋でね、働かせてくださいってお願いして、アルバイトさせてもらってたの。まあ先生には“お友達の家のお手伝いです!”って言い張ったけどね。お小遣いとご飯付きの」
「ははは……」
ふふん、とどや顔で説明する壱花に総司も苦笑を漏らした。
(あー、蘭ちゃんのとこだけじゃないけど……ま、いっか。結果としては同じことだし)
壱花は説明に不足があった事を思い出すが、結果としては友達の実家でお手伝いという名のバイトをしてお小遣いという名のバイト代と賄いという名の食事をもらっていた。ということは変わらないため別にいいか。と説明をやめる。
「お兄ちゃんを少しでも助けたいからってアルバイト始めたのに、お兄ちゃんってば“余計な心配するな、いらん。お前の好きに使え”だよ。酷いよね~」
「千雪さんらしいな」
だが壱花は続けてぶすくれ、総司も微笑ましく笑う。
「なあ、君、噂の子だろう?」
そんな時、そんな声が聞こえてきた。いつの間にか壱花の後ろ、というか正確には斜め後ろに男子が一人立っていた。染めているのが分かる金髪をだらしなく伸ばし、耳にはピアスという所謂チャラ男な外見をしており、つけているネクタイは赤色というところから三年生だと予想できる。ちなみに二年は黄色、一年は青色で、壱花だけはネクタイの代わりにリボンを巻いている。
「どの噂か知りませんけど、多分そうでしょうね」
世界初の女性でISを動かした子、来週月曜日に第三アリーナでイギリス代表候補生と決闘を行う子、と壱花を中心とした噂話は彼女が知っているだけでも既に二つ存在している。壱花はその噂がどれを指しているのか分からない、とそっけなく答えて味噌汁をすする。
正直無礼な行動であると自覚はあるが、相手はニヤニヤとした見ていて気持ちの悪い笑みを浮かべているし相手にしたくないためこの行動で拒否を示す。問答無用で睨みつけないだけ自重している。と自分を正当化していた。
「代表候補生と勝負をするって聞いたんだけどさ、ホント?」
しかしチャラ男はそのそっけない態度に気づかないのか、逆にそそられたのか彼女の隣に座って話しかけ続ける。うぜえ、と壱花の頭の中にさらなるチャラ男への嫌悪感が走った。
「ええ」
切り捨てるように答えて再び味噌汁を口につける。チャラ男は「へ~」と言いながらチラリチラリと彼女の胸元へと視線を向け、壱花はさらにイライラ感が募る。別に中学時代にも同じことはあり、親友である蘭に「ちょっと分けてよ~」とからかい交じりで言われる事もあった。だがここまであからさまな視線は織斑壱花人生史上一番異性からの視線に晒されているIS学園に入学してからでもない。
「でも、君、素人だろう? IS起動時間いくつよ?」
「入学試験の時だけだから、二十分あればいい方でしょうかね」
その言葉を受け、チャラ男はニヤリと笑う。
「それじゃあ無理だね、ISってのは起動時間がものをいうんだ。代表候補生ぐらいなら300時間は乗ってるだろうな。だからさ――」
そう言い、チャラ男は壱花へと身体を寄せる。
「――俺がISについて教えてやろうか? こう、手取り足取りさぁ」
ぞくっ、と壱花の背筋に怖気が走る。見なくても分かる程にチャラ男からは下心が溢れ出ており、もう睨みつけて力ずくで追い払おうか、と彼女は本気で考える。
「心配は無用です、先輩。彼女には俺が教える事になっています」
だがそれを行う前に総司が静かに言い放った。するとチャラ男は今までずっと黙っていた相手が突如口を挟んだことに腹を立てたのか総司を睨みつける。
「あん? なんだとお前、新入生のくせに、三年の俺のほうが上手く教えられるに決まってるだろう」
「……俺は、篠ノ之束の弟です」
チャラ男の言葉に対し、総司は静かにそう返す。篠ノ之束、それはこの学校で訓練するISの開発者の名前。それにチャラ男は「篠ノ之っ……」と言葉を失う。だがチャラ男を怯ませたのは兄のネームバリューだけではない。チャラ男が睨むのに対抗して総司も相手を睨んでいるが、その威圧感は歴然。それもそうだろう。片やただ年上だからと年下に対し威圧的に振る舞っているだけの小者、対して総司は中学時代に剣道という一つの武道で全国一に輝いた実績を持つ。武の道を歩む猛者の中で中学生の頂点へと立った人間の威圧感にただの小者が勝負になるはずもないのは道理である。
「ですので、結構です」
「く……くそっ!」
総司の力強い拒否を受けたチャラ男は吐き捨てるように舌打ちをすると席を立ち、その場を逃げるように去る。
「……ふぃ~。ありがとね、ソウちゃん」
「いや、気にしなくていい……ところで壱花」
自分が睨みつけていたら余計な禍根を残していたかもしれない、と壱花は総司に追い払ってくれたことにお礼を言い、それに総司は気にするなと返した後話を戻す。
「特訓の件だが、放課後に剣道場に来てくれ。たまに竹刀を振っていた、ということだが一度腕が鈍っていないか見ておきたい」
「あ、うん、いいけど……ISの勉強はしないの?」
「いや、ISといえど使うのは人間だ。だから実際の壱花の動きをまずは見ておきたい」
「分かった。放課後ね」
総司なりに特訓に関しては考えがあるらしく、壱花はこくりと頷いて了承の意を示すのであった。
それから時間が過ぎて放課後。壱花は総司に連れられて剣道場へとやってきていた。
「おう! 新入生!! 女子を連れてデートか? いい身分だな!」
剣道場に礼をして入ったと同時に聞こえてくる威勢のいい声と「はっはっはぁ!」という豪快な笑い声。だがその言葉は冗談交じりのような声質であり、ただからかっているだけだと分かった壱花は苦笑を漏らす。
「しゅ、主将! べ、別に俺と壱花はそんなんじゃあ……」
しかし冗談が通じなかったのか総司は顔を赤くしてわたわたと慌てていた。
「お前が織斑壱花か。話は篠ノ之から聞いている、俺はこの剣道部の主将をやっている
「よろしくお願いします」
主将――卓は壱花の前に立ってそう言い、握手を求めるように右手を差し出す。やや紫がかった黒髪はだいぶ短く切られ、先ほどの豪快な笑い声がよく似合う巨大な体躯に胴着の上からでも分かるよく鍛え上げられた肉体、笑み一つとっても分かる器の大きさ。同じ三年でも昼休みのチャラ男とは大違いだな、と考えながら右手を差し出して握手を行う。
「俺は馬鹿だからISについての理論を上手く教えるなんざ出来ん。だが剣ならば教える自信はあるからな、篠ノ之に不満があればいつでも聞いてきてくれ」
「主将といえど壱花の師の座を譲る気はありません」
卓の言葉に総司は冷静にだが熱く言い放ち、卓はまた目を細めてというか元々細目なのだろう目の目尻を緩ませながら再び「はっはっはぁ!」と豪快に笑う。
「よしよし。じゃあ胴着に着替えるといい……おっと、織斑は胴着を持っているか?」
「いえ、ですがジャージを持ってきたのでとりあえずそれで」
「うむ、分かった」
卓は話の後更衣室を指差し、たった一つしかない更衣室をまず総司が入って着替え、総司の着替えが終わった後に壱花が入り、覗きをする不届き者が出ないように総司が入り口で睨みを利かせている間にジャージに着替える。ちなみに総司が先に着替えに入った理由の一つとしてもしや隠しカメラでも仕掛けている馬鹿はいないだろうかという確認があったのだがそれは隠しておくとしよう。
なおジャージ姿になった壱花の胸はやはり存在を主張しており、それを目の当たりにした、青春を武道とISに捧げようとしている青少年達がいい加減少しは慣れたらしい総司や特に意識する様子のない卓などの一部を除いて目のやりどころに困っていたのは別のお話。
「よし、じゃあ練習を始めるか。織斑もいる事だし、まずは軽く素振り百本といくか!」
女の子いるのに軽くじゃなくね、というツッコミが剣道部員の心中で響く。
「壱花は俺の前で向かい合う形で頼む。フォームの確認をしたい」
「オッケー」
だが総司と壱花は疑問を持っていないのか淡々と総司が指示、壱花はそれに従っていた。
それから素振り百本が終了し、新入部員は始まって早々疲労から息を荒くしている。
「ほぉ、小学校は少し齧っていた程度、中学時代三年間のブランクがあるにも関わらずこの振りは素晴らしいな。どうだ、剣道部に入部しないか?」
「主将、イギリスの代表候補生との模擬戦前の身体作りですよ? 無茶は言えませんって」
「だけど基礎は出来ているみたいだよな。基本を繰り返して土台をしっかり作っておくか、あるいはIS戦にも応用できる接近戦用の技を教えるべきか……一週間は短いぞ」
一方ある程度鍛えている二年生三年生はむしろ壱花の実力に舌を巻き、指導を考え始める。疲れている新入生は総司を除いて置いてけぼりになっている。だが残り六日、壱花の初IS対戦で彼女がどこまで戦えるかは総司の、さらには剣道部の尽力にかかっている。
「むむ……」
時間が過ぎて夜、男性寮。セシルは難しい顔をしながら廊下を闊歩していた。
「見つけたぞ、オルコット」
そこにかつん、と足音が聞こえたと思うとそんな呼び声が聞こえ、セシルは前から聞こえてきたその声に反応する。
「君は……確かミスター・シノノノ」
その声の相手――総司にセシルが返すが、その発音は若干怪しく、例えるなら「しののの」が正しいはずが「の」が若干「にょ」の発音に近くなっていた。
「呼び辛いなら“ソウジ”や“ソウ”辺りで構わない」
「お気遣いありがとうございます……ところでソウ、何の用事だ?」
自分の名字が外国人からは呼び辛いと察したのか愛称での呼称を提案した総司にセシルは礼を言ってから用件を尋ねる。
「いや、なんというかな……今回の模擬戦に至る経緯の確認をしたいんだ」
「ああ、それは僕からも聞きたかった。何故、ミス・オリムラはあんなに怒ったんだ?」
総司の言葉にセシルも頷く。その顔は本気で困っており、自分の言動で壱花が怒った理由を本気で理解していない様子だった。
「……まず、なんだが。オルコット、お前は何故クラス代表に立候補したんだ?」
「何故も何も、このセシル・オルコットはイギリスの代表候補生にして入学主席だ。僕がクラス代表になるのは当然、それを物珍しく、目立つという理由で女性を代表にするなど許せるはずがない」
「その許せるはずがない、という理由を詳しく聞きたいんだ」
「詳しく聞きたいも何も……」
セシルは総司からの言葉を受け、「何を馬鹿な事を言っているんだ」と言いたげに首を傾げる。
「紳士として、女性を危険な場に立たせるわけにはいかないだろう?」
「……ああ、分かった。壱花は恐らく勘違いしているんだ」
セシルの言葉を聞き、総司は得心がいったように頷くとそう口にする。その言葉にセシルが「
「ああ、お前は日本語がまだやや不自由だと聞くが、そのせいで上手く壱花にその“紳士として女性を危険な場に立たせるわけにはいかない”という部分が伝わっていなかったんだ。実際俺もお前の台詞を聞いて“弱い女性が代表になるなど僕にとっての侮辱だ”という意味かと勘違いしかけたからな」
「なっ!? それこそ僕に対しての侮辱だ! 守るべき女性を侮辱するなど紳士の風上にもおけん!」
総司の言葉にセシルはかっとなるが、直後自分がそう取られてもおかしくない言い回しを壱花にしていたのだという考えに至る。
「これは……すぐミス・オリムラに誤解の説明と、謝らないと……」
「あーいや、多分謝っても無駄だ……」
おろおろとし始めるセシルに総司は呆れたため息をつく。
「壱花はな、言い出したら聞かないんだ。今更お前が謝ったところで“それはそれとして勝負!”と熱くなるのがオチだな」
「
「それもお前の言い方に問題がある。お前は“女性は守られるべきだ”と言っているが……それこそあいつの逆鱗に触れる。何故なら、壱花は“女性だから守られろ”、その決めつけられ方が一番嫌いだからだ」
総司は幼馴染として壱花を理解しているように話す。
「弱いなら弱い、自分はまだ未熟だから負けた。それなら理解もするだろう……だからこそお前に一つアドバイスをする……今回の件で悪いと思っているにしろ、守るべき女性に手を出すのは紳士としてどうかとか、そういうのはひとまず置いておけ。そんな理由でわざと負けたらあいつは間違いなく本気で怒る。謝りたいのならまずはあいつと本気でぶつかってからだ」
「……」
総司は静かにだが力強くそう言いきる。そのアドバイスをセシルは静かに受け止めるように聞き、やがて感謝するように頭を下げた。
「アドバイスありがとう、ソウ。クラス代表決定戦。このセシル・オルコット、イギリス代表候補生として、英国紳士としてミス・オリムラと全力でぶつかり合う事を誓う」
「ああ。あいつには俺の秘剣を授ける予定だ……
セシルの誓いを聞いた総司はこくりと頷いて返し、不敵な笑みを浮かべて返す。その言葉にセシルはかけているメガネを右手でくいっと押し上げながらこちらも不敵な笑みで返す。
「楽しみにしている」
その言葉を最後に会話は終了。セシルは総司を追い越すように歩き出すとそのまま歩き去っていく。それを見送ってから総司も部屋に戻っていったのであった。
今回はクラス代表決定戦前の特訓フェイズです。総司君をおちょくるのが楽しくなってきました。(愉悦)
なお今回登場した剣道部主将こと真黒卓氏。名ありキャラとしての登場ですが別にこの先登場予定はありません。いやまあ、総司の剣道部での部活視点での登場の可能性は無きにしも非ずですが、少なくともストーリーに絡む予定はありません。ただ単に、彼あるゲームのキャラクターを外見やおおまかな特徴のモチーフにしたんですが、その名前を一部抜き出して並べ替えたら「あれ、これ日本人の名前っぽくならねえ?」と思ったのでついでに名前付けただけだったりします。(笑)
でもって総司とセシルの本作逆ハーレム要員の話し合いによる誤解解除フェイズ。誰も気にしてる人いないと思いますけど、セシルは言葉足らずのせいで壱花怒らせてしまっただけだったりします。というか女性は大事に、なイギリス紳士というキャラを付加したせいでこうでもしないとクラス代表戦に持っていけないんだよね。壱花も割と過激だけどそこまで意味なく喧嘩っ早いわけじゃないんだし……ないんですよ?
さて次回はクラス代表決定戦を予定しています。一応締めはオリジナルを思いついてるんだけど、そこまでどういう展開で持っていこう。ずっと原作をなぞるわけにもいかないし過程でもオリジナリティを出していかないと。
ま、そこはまた後で考えよう。では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。