インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~   作:カイナ

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真夏の夜のひと騒ぎ

 夕暮れ時。しゃなり、しゃなりと少々揺れながらも気品を漂わせる様子で一人の少女が歩いていた。青色の浴衣を纏い、赤い鼻緒の草履を履いた少女の見目麗しい姿に通行人の男性が目を引かれ、女性の連れがいる者は女性にわき腹や頬をつねられる羽目になる。

 だがしかし目を引かれた男性達は女性の連れがいなくともすぐさま目を逸らす。何故か、話は簡単。

 その大和撫子を思わせる美少女の後ろでは、金髪眼鏡の王子様系少年、小柄ながらまるで野生の猛犬を思わせるやんちゃ系少年、金髪にやわらかいウェーブをかけた貴公子系少年、銀髪の刺々しい髪質に眼帯に長身の軍人系少年という四人が周囲に睨みを利かせているからである。

 もし少女をナンパしようとするなら即座に追い払われるのは想像に難くない。というかむしろ目を合わせただけで喧嘩を売られそうで、堅気の者達は美少女に目を奪われた後四人の少年に気づいて目を合わせないようにするばかりか、美少女から半径数メートルから完全に人が消えていた。

 

「はぁ……もう、皆大袈裟だなぁ」

 

 するとそんな四人の睨みに気づいていたのか、美少女がため息交じりにそう四人に漏らす。それに反応したのは貴公子系少年だった。

 

「なに言ってるのさ壱花! そんなまるで天使のような可愛い格好! 世の男共が放っておくはずがないよ!」

 

「大袈裟だってば。これサイズを合わせた以外は中学にも着てたやつだよ? でもナンパなんてされたことないのに」

 

「俺や弾が毎回陰でどれだけ苦労したと思ってんだよ……」

 

「え? 何か言った?」

 

 貴公子系少年――シャルルの言葉に美少女――壱花が大袈裟だと返すが、それを聞いたやんちゃ系少年――蓮が呆れたようなため息交じりにそう漏らす。その言葉が聞こえていなかったらしい壱花が蓮に問い返すが、蓮は「別にー」とそっけなく返すだけだった。

 

「主よ、ご安心ください。要人警護はドイツにいた頃にも経験済み。周囲の警戒から毒見までお任せください」

 

「しなくていいから」

 

 軍人系少年——ラウルのガチ警護にも壱花は呆れた目でツッコミを入れる。そして再び「はぁ~」と大きくため息をついた。

 

「とにかく、これ以上そんなに周囲にガン飛ばすんなら皆帰ってもらうからね? ソウちゃんの迷惑にもなるし」

 

「わ、分かりました……」

 

 びしっと四人に指を突きつけながらの言葉に王子様系少年――セシルが了解の言葉を出し、残る三人も渋々頷く。

 

「それならよし。じゃ、楽しみましょ」

 

 四人からの了解を取った壱花は満面の笑顔でうんうんと頷き、くるっと振り返ると歩き出す。

 夕暮れ時に映える色とりどりの照明——提灯に照らし出されるのはたくさんの出店が並ぶ神社の境内。今日は壱花達の地元にある神社にして篠ノ之総司の実家――篠ノ之神社で行われる夏祭りだ。

 

 

 

 

 

「……な、何をしているんだ?」

 

 袴姿になってお守り販売の手伝いに入っていた総司が頬を引きつかせる。

 

「遊びに来たよ」

 

 それに対し、まるで友達の家に約束無しで遊びに来たかのように壱花はにこっと微笑んで返す。

 まあ篠ノ之神社は総司の実家のためそこまで間違った表現でもない。むしろ形だけ抜き出せば別に夏祭りに遊びに行くことを総司に話しているわけでもなし、まさしくその表現の通りともいえる。

 

「そうか……まあ、ゆっくりしていくといい」

 

 壱花の言葉に妙に歯切れ悪く総司は返す。

 そのまま壱花達はついでにお守りを買ってその場を後にし、夏祭りの縁日に繰り出す。総司はそれを無言で眺めているのだった。

 

「あら、今のって壱花ちゃん?」

 

「うわ!?」

 

 そこに総司の背後からひょこっと顔を出して聞いてきたのは総司の叔母であり今は篠ノ之神社の管理をしている女性――雪子。突然出てきた相手に総司が悲鳴を上げてそっちを見た。

 

「一緒にいるのは……お友達かしら?」

 

「え、ええ。学園の友人で……」

 

「へー。随分と国際色豊かなお友達なのね」

 

 雪子の質問に総司が答え、それを聞いた雪子がによっと笑う。その笑みを見た総司の頭の中に「嫌な予感」という文字がよぎるのであった。

 

 

 

 

 

「ぶえっくし!」

 

「どうしたの蓮君、風邪?」

 

「あーいや、誰か噂でもしてるだけじゃね?」

 

 突然くしゃみをした蓮に壱花が心配したように声をかけるが、蓮は鼻の下をこすりながらそう返すだけ。別に体調不良という様子ではなさそうだった。

 

「壱花」

 

「え? この声……」

 

 突然聞こえてきた男性の声に壱花がそっちを向くと、そこには浴衣を着た総司が彼女の元に歩き寄ってくる姿があった。

 

「ソウちゃん、お手伝いはいいの?」

 

「あ、ああ。せっかく友達が来たのなら遊んでこいと雪子叔母さんがな……」

 

 壱花の質問に総司は頭をかいてそう返し、どこか照れたようにはにかむ。それに対して壱花は嬉しそうに微笑んだ。

 

「そっか、ソウちゃんがいないと寂しいって思ってたんだ。よかった」

 

「あ、ああ……」

 

 にひ~と愛らしく笑う壱花に総司は頬を赤く染めて誤魔化すように頬をかきながらこくりと頷く。

 

「へいへい。んじゃ行こうぜ~」

 

「むぎゅ」

 

 その壱花の首根っこを掴んで蓮が歩きだし、壱花も変な声を上げて引きずられていく。総司たちも慌ててその後を追いかけた。

 

 それから壱花達はお祭りに出店している縁日の屋台を見て回り、壱花はたこ焼き、総司はフランクフルト、セシルは焼きそば、蓮は焼きトウモロコシ、シャルルはクレープ、ラウルはわたあめを食べながら歩いていく。

 

「壱花、このクレープ美味しいよ。よかったら一口どうぞ」

 

「いいのシャルル君、ありがと」

 

 シャルルが自然に壱花に自分が食べていたクレープを差し出し、壱花も可愛らしくはむっと一口齧る。

 

「うん、美味しい。じゃあお礼にたこ焼き一個どうぞ」

 

「ありがと」

 

 そしてお礼にとたこ焼きを一個差し出し、しかもあ~んで食べさせる。シャルルもぱくりと食べてほふほふと口を中で熱さと共に味わいつつ、総司達に向けてニヤリと挑発的に微笑む。総司と蓮がビキリと額に青筋を立てた。

 

「ん?」

 

「どうした、ラウル?」

 

 が、ラウルが彼らとは別の方を向いて声を漏らし、それに気づいたセシルが問いかける。

 

「いや、あれは主のご友人ではなかったか?」

 

「え?」

 

 ラウルの言葉に壱花が、ラウルが指している方を向く。

 

「ねぇ弾、もうやめときなさいよ。小遣い失くすわよ……」

 

「いーや、ここまで来て諦めたら男が廃る! おっちゃん、もう一回だ!」

 

 そこには射的に夢中になっている弾とその隣で呆れている蘭の姿があった。

 

「蘭ちゃん! 弾君!」

 

「あ、壱花」

「い、壱花さんっ!? あっ」

 

 その姿を見た壱花がつい駆け寄りながら声をかけ、蘭が気づくと弾も狼狽したように声を上げ、同時につい引き金を引いてしまってコルク弾が飛び出る。慌てた様子で狙いも定まっていなかったため弾は何に当たる事もなく屋台の壁に当たって落っこちた。

 

「あ、ごめん弾君。邪魔しちゃったね」

 

「い、いえいえそんな、あはははは」

 

 自分がいきなり声をかけたせいでコルク弾を一発無駄にしてしまったと気づいた壱花が謝ると、弾は照れ笑いをしながら誤魔化すように笑う。その隣で蘭がため息をついて親指で弾を指差した。

 

「壱花、あんたからも言ってやってよ。こいつ超貴重なエロゲーが景品に出てるからって小遣い全部使い切りそうなのよ」

 

「エロゲーじゃねえよギャルゲーだよ! 超人気の品薄でここを逃したらいつ手に入るか……あっ」

 

 エロゲーを手に入れようと小遣い使い切りそうな男子中学生という不名誉な称号を否定するために蘭の言葉に言い返す弾だが、結局エロゲーからギャルゲーに変わっただけで割と女子高生相手に対してはあまり変わらない結果であり、弾は口が滑ったと沈黙する。

 

「よく分かんないけど、欲しいゲームがあったの?」

 

「あ、はい、まあそんなとこで……」

 

 しかしゲームのジャンルに疎いらしい壱花はよく分からなかったらしく、首を傾げてそう聞き返すのみ。弾はそこ深く掘り下げられたくないため曖昧に頷いて場を流す。

 

「じゃあ私も手伝ってあげるよ」

 

「え……」

 

 流すどころか壱花の方から乗っかってきていた。弾が0点のテストが親に見つかったかのように顔を青くし、壱花の後ろで蓮とシャルルがぶふっと吹き出す。

 

「大丈夫。これでも射撃訓練受けてるんだから! 私の専用機に射撃武器はないんだけどね」

 

「あ、いや、別に壱花さんに手伝ってもらうまでもないっていうか、俺ももうやめようかなって……」

 

「あれ~? ここまで来て諦めるのは男が廃るんじゃなかったっけぇ?」

 

「姉貴テメエ!?」

 

 どこも安心できない要素で手伝おうとする壱花に違う意味で恥をかきたくない弾が誤魔化そうとするが、ついさきほど言った言葉を蘭がにやつきながら反芻、さっきまでやめさせようとしていたとは思えない台詞に弾が悲鳴を上げる。後ろでは蓮とシャルルが片手で口を押さえもう片方の手で膝を叩いて必死で笑いを堪えていた。

 

 

 

「生き恥だ……」

 

 弾が絶望顔で体育座りをする。結局射撃が得意なセシルとラウル、そして頬を膨らませて涙目でプルプルと身体を震わせ時々我慢できないようにぶふっと吹き出しているシャルルも巻き込んでの射的対決が開かれる事になっていた。

 

「で、弾が欲しがってるのはアレよ」

 

 絶望している弾の代わりに蘭が目的のブツを示す。

 インフィニット・フォーチュン、通称IF。女性にしか動かせないパワードスーツIFを世界で唯一動かしてしまった男子が、生徒職員が自分以外ほぼ全員女性であるIF学園に入学することになり、そこで出会ったヒロイン達とラブコメを繰り広げるという。どこかで聞いたことのあるストーリーだ。

 この説明の間にも「あ、あれはIF!」「こんなところで見つかるなんて!」と言って怖いもの知らずの男子が果敢に挑戦するが、誰一人落とせずに撤退していく。射的屋のおっちゃんがクックックッと悪い笑みを浮かべていた。

 

 ここの射的は銃から発射されたコルク弾が当たって商品が落ちればその商品を貰える形式だが、コルク弾が当たった時や商品が落ちた時に商品が破損することやそれによるクレームを避けるためなのだろう、商品名と番号を書いた札を代わりに狙う形式になっている。

 難易度が低いものは段ボールを切ったような安っぽい札から始まり、難易度が高くなれば百均で売っているようなプラスチック製の札、最難関らしいIFに至っては水入りのペットボトルが札になっていた。

 それ以外のルールは案外テキトーで、大雑把にいえば「札に直接触れないよう、銃や手を規定以上に近づけない限りは何をしてもいい。銃でコルク弾を撃って札に当てて落とせばその商品をプレゼント」という感じの祭りの出店らしいおおらかなルールになっている。

 

 蘭からの射的のルール説明を受けたセシル達がおっちゃんにお金を払い、銃とコルク弾を受け取る。壱花は弾が戦線復帰不可能になったため、彼の銃とコルク弾を受け継ぐ形になった。

 

「それっ!」

「「「……」」」

 

 早速パンッと軽快にコルク弾を発射する(なお外していた)壱花に対し、ジッと標的を見据えるセシル達三人。狙撃手、軍人、射撃武器使いとしてのプライドが見え隠れするその光景に周りがごくりと息を飲む。

 そして狙いを定めて引き金を引き、発射されたコルク弾がセシルはど真ん中、ラウルは人の頭部を狙ったように上部、シャルルは中央からやや右に逸れて命中。しかしペットボトルは微動だにしなかった。

 

(ふっふっふ、当然よ。どうにか手に入れた目玉商品IFの札に使っているペットボトルには水だけではなく重しを仕込んでいる。コルク弾一発で落ちるはずがない!)

 

 射的屋のおっちゃんが悪だくみの内容を心中で解説。どうやら知り合いらしい外国人三人が相談している――そして紅一点が諦めずに弾を撃っている――光景を見て新しいカモがきたとほくそえんでいた。

 

「よし、これでいくぞ」

「ああ」

「うん」

 

「任せろ」

「おう」

「はい」

 

 さらに三名――内一名はさっきまで弟らしい少年をやめさせようとしていた姉らしい少女―—が加わり、さらに三人分の銃とコルク弾が追加。相談が終わったらしいが人数を増やして何をしたって無駄だとほくそえむおっちゃんに対してセシル達三人が再びペットボトルに銃を向ける。残る三人――総司、蓮、蘭は後ろで待機している。

 

(何をする気だ?)

 

「「「せーの!」」」

 

 おっちゃんがいぶかし気になると、セシル、シャルル、ラウルが声を重ねて合図。同時に引き金を引き、発射されたコルク弾が同時にペットボトルの上部へと激突してペットボトルが僅かに揺れる。

 

(なに!? 同時に当てるなんて……だけどたった一発、いや三発で――)

 

「「「次!」」」

 

「「「はい!」」」

 

(―—なにぃっ!?)

 

 おっちゃんが驚きつつもたった三発で水&重石入りのペットボトルが倒れるはずがないと持ち直す。しかしセシル達が合図すると後ろの三人が銃を渡し、代わりにセシル達から銃を受け取ってコルク弾を詰め直す。

 

「「「せーの!」」」

 

 その間にセシル達がまたも息ピッタリにコルク弾を発射、さっきと同じようにペットボトルの上部に当たってペットボトルを揺らす。そして総司達からコルク弾を詰め直した銃を受け取ってまた撃つ、その間に総司達がコルク弾を詰め直す。

 

(ま、まさかこんな手が!?)

 

 それはまさしく連射の効かない火縄銃で、戦国時代に猛威を振るったとされる武田騎馬隊を倒したという、長篠の戦いで織田信長が考案した三段撃ちの如く。

 セシル達射撃武器を得意としている三人がペットボトルの一点を狙って撃つことでコルク弾の威力を一点に集中、その間に後ろで総司達三人が弾込めをすることでペットボトルの揺れが収まらないよう連射を可能としていた。

 

(しかも、ただやみくもに撃っているわけじゃない……こいつら、揺れを増幅させているだと!?)

 

 ただ撃っているだけでは揺れが前に来たタイミングでコルク弾をぶつければ逆にその威力で揺れが収まる可能性がある。しかしセシル達はペットボトルが後ろに揺れたタイミングでコルク弾をぶつけるように調整していた。

 まさしく子供がブランコで遊ぶ時に前に揺らす時には前に勢いを、後ろに揺らす時には後ろに勢いをつけて揺れを大きくするかのように。

 

 コルク弾は一人一回五発、それが六人分で三十発、最初に三人が一発ずつ消費しているから実際は二十七発、そして撃つのは三人同時のため射撃のチャンスは実質九回。それでペットボトルを倒せれば彼らの勝利、倒せずに揺れが収まればおっちゃんの勝利だ。

 今まで撃っていて結局一発も当たらずに弾切れになった壱花もセシル達の作戦に気づいて銃を下ろし、観客も、射的屋のおっちゃんも固唾を飲んで見守っていた。

 

「「「せーの!」」」

 

 最後のコルク弾が放たれ、やはりペットボトルの上部へと当たる。ぐらんぐらんと揺れるペットボトルがついにバランスを崩し、台から落下した。

 

「なん……だと……」

 

『よっしゃー!』

「わー!」

 

 おっちゃんが驚き、セシル達がガッツポーズ。壱花が隣で拍手を送り、同時に観客からも歓声と拍手が沸き起こった。

 

「……く~! 負けだ負け! ほら持ってけ!」

 

 ここで多人数での同時射撃はルール違反だと難癖をつけたら大ヒンシュクだろうと、おっちゃんは男らしく目玉商品を諦めてチームの代表っぽいセシルに渡す。セシルはそれを微笑みと共に受け取った後、壱花の前に歩き寄ってそれを差し出した。

 

「壱花さん、どうぞ。僕達全員で勝ち取った証です」

 

「ありがと、セシル君……結局私、何も出来なかったね?」

 

「いえ、壱花さんがいたからこそ僕達もこれに挑戦したのです」

 

 セシルは壱花の言葉にそう返して微笑む。ぶっちゃけお祭りの射的という遊びの場で取るような手ではないガチ戦術。しかしセシルは壱花に喜んでもらいたいからこそ、自分達はこの作戦を使ったのだと告白した。

 

「……うん、ありがとう」

 

 壱花は嬉しそうに微笑んでもう一度お礼を返すと、ずっと射的屋の横で体育座りをしている弾に駆け寄った。

 

「弾君」

 

「……あっはい」

 

 ずっと絶望していたため喧騒に気づかなかったらしい弾は壱花の呼びかけでようやく我に返り、彼女に向き直って立ち上がる。

 

「はい、これ」

 

「えっ……こ、これ、インフィニット・フォーチュン!?」

 

「プレゼント。私達全員で勝ち取ったんだよ。まあ私は何も出来なかったんだけど……」

 

 ふふんとどや顔、その後若干困り顔でインフィニット・フォーチュンを弾に渡す壱花。弾は意中の相手からギャルゲーを手渡されるというなんとも言えないシチュエーションに気づかず、ただ意中の相手からのプレゼントだと脳内にインプットして感激したようにインフィニット・フォーチュンを受け取った。

 

「あ、ありがとうございます! 大事にします!」

 

「うん、頑張ってね。でもゲームばっかりじゃなくって勉強もするんだよ?」

 

 ぺこぺこと頭を下げてお礼を言う弾に、壱花は妙にオカンみたいな注意をする。弾も苦笑いして「ハイ」と頷いた後、そこでようやく周囲の状況に気づく。

 そこにはニヤニヤ顔の蘭や笑いを堪えるように震えている蓮とシャルル、よく分かってない様子のラウル達、そしてその光景をずっと見守っている観客達の姿があった。

 そして客観的な自分の状況をようやく理解した弾の顔が真っ青に染まっていく。

 

「い……生き恥だァ~!!!」

 

 そして彼の叫びが射的屋周辺に響き渡るのであった。

 

 

 

「弾君、どうしたんだろうね?」

 

「そっとしといてやれ」

 

 結局あの後泣いてその場を走り去っていった弾とそれを追いかけて去っていった蘭を思い出しながら首を傾げる壱花に、蓮が武士の情けといわんばかりに首を横に振って諭す。壱花は「そんなもんかな?」と呟いてすぐそこの出店で買ったたい焼きを齧った。

 

「あ、いた! 総司君!」

 

「ん、この声……」

 

 突然そんな慌てた声が聞こえ、総司は声の聞こえた方を向く。その方向から慌てた声と同じように慌てた様子の男性が駆け寄ってきた。

 

「あれってたしか、このお祭りの運営をお手伝いしてる人だよね?」

 

「ああ、そうだ。どうしたんですか?」

 

「あ~いやそれが……こんなところじゃ話せないんだ。ちょっと来てくれないか?」

 

 顔見知りなのか総司に確認する壱花に首肯してから、駆け寄ってきた男性にどうかしたのかと問いかける。しかし男性は周りの人気を気にして用事を話せないらしく、総司の手を掴むと走り出す。壱花達も驚いたようにその後を追いかけた。

 

 

 

「雪子叔母さん、どうしたんですか!?」

 

 連れてこられたのは篠ノ之神社の名物である神楽舞が行われるステージの待機場とでもいうべき場所。そこには雪子が足首に包帯を巻いている姿があった。

 

「それが、本番前に最後の練習をしていたらうっかり足を捻っちゃって……このままじゃ神楽舞は中止にするしか……」

 

 神楽舞を踊れるのは今この場ではこの神社の巫女役をしている雪子のみ。その雪子が足を捻って舞が出来ないのでは神楽舞は中止にするしかない。

 

「あの……私が踊ります!」

 

 しかしそこに壱花が名乗りを上げた。

 

「私も昔、おばさ……ソウちゃんのお母さんに神楽舞を習ったことがあるし、まだ覚えてます。だから……出来ます!」

 

 実際には習ったというか真似っこなのだが、切羽詰まったような、しかし自信満々に答える壱花に雪子がふっと微笑んだ。

 

「じゃあ、一度見させてもらいます。それから考えましょう」

 

「はい!」

 

 雪子の言葉に壱花がこくりと頷く。

 

 それから部外者だからとセシル達や何故か神社関係者の総司までも追い出され、彼らは神楽舞がそろそろ始まる時間帯になって、神楽舞を一目見ようと集まってくる観光客達に紛れて客席にやってきていた。

 

「なあ、総司。その神楽舞? ってやつはそんな簡単なものなのか?」

 

「まさか! 壱花だって小学校、俺が転校する前までしか見た事ないはずだ。今から練習したって間に合うはずが……」

 

 蓮の質問に総司が首を横に振り、心配そうなそわそわとした様子で呟く。

 

 すると壇上に一人の少女が現れる。純白の衣と紅色の袴という舞装束に身を包み、普段はポニーテールに結っている髪を下ろしたその頭に金の飾りを装っている、その少女は壱花だ。雪子が化粧を施したのだろう、唇にも紅を塗っているその顔は普段よりも大人びて見える。

 いつもと違う女性が壇上に上がった事に常連らしい年配の人達がざわつき始めるが、壇上の中央へと立った壱花が左手に扇を握り、それを開いて揺らす。左右両端一対につけられた鈴がシャン、と厳かに音色を奏でると不思議と場が静まり返った。

 

 そして、壱花が舞い始める。右手には篠ノ之神社に伝わる宝刀を、左手には左右に鈴をつけた扇を握り、まさしく剣の巫女と言い表せられる厳格さと静寂を併せ持つ少女の舞に観客は息を飲み、目を奪われる。

 その動きには一瞬の迷いもなく、何も知らない人ならば普段舞う役の人にアクシデントが起き、直前で代役を買って出たなんて言われても信じられないだろう。それだけの風格が存在していた。

 

「壱花……すごい……」

 

 総司もまさか小学生以来でこれだけの舞を踊れるとは思わなかったのか、壱花の舞に目を奪われながらそうとだけ漏らす。

 

「ふふ、そうでしょう? 最初に見せてもらった時からもう型はほとんど完璧。ちょっと動きに迷いがあったからそれを指摘して直してあげただけでこれだもの。貴重な逸材ね」

 

「雪子叔母さん」

 

 その総司の隣にいつの間にか立った雪子が、壱花の舞の才能をそう高く評価。総司も叔母に声をかけた後、何かに気づいたように彼女の足元を見る。

 

「……足を捻ったんじゃなかったんですか?」

 

「あ、あら? いたたたた」

 

 足を捻ったにも関わらず杖をつく様子もなく平気で立っている姿に総司がジト目を見せ、雪子はわざとらしく捻ったという足を押さえる。

 

「あんたまさか……」

 

「うふふ……まずは外堀から埋めてみようかと思って♪」

 

 全て演技だったんじゃないだろうなと睨む総司に、雪子はうふふと微笑んでそう返す。

 その言葉の意味を捉えられないのか怪訝な目を見せる総司だが、その意味を直後聞こえてくる観客の声が否応なく彼に教えてきた。

 

「あんな子、この辺にいたか?」

「ってかあれ、もしかして織斑さん?」

「ん、織斑さんとこの壱花ちゃんかい?」

「そういえば篠ノ之さんとこの総司君も今年帰ってきたって噂だったな」

「え? まさか壱花ちゃん、篠ノ之さんとこに嫁入りするのか?」

 

 ざわざわと観客の一部が騒がしくなる。

 神楽舞に集中している壱花は喧騒に気づかない様子で舞っているが、対して総司は顔を青く染め始めた。

 

「ゆ、雪子叔母さん!? なんか大事になりそうなんですけど!?」

 

「大丈夫大丈夫、私が怪我をしたから、総司君とデートしてた壱花ちゃんに代役を頼んだだけ。ってお祭りが終わった後で噂流しとくから」

 

「いや余計に誤解招きそうなんですけども!?」

 

 マジで外堀を埋めにかかろうとしている雪子に総司はツッコミを入れる。

 壱花と結ばれるのは彼女に恋する男として望むところだが、こんな搦め手を使って壱花を束縛するのは彼の望むところではなく、必死の説得の末にどうにか誤解を招かないように真実を伝えるという事を確約させる総司。

 しかしそのせいで彼女の舞を後半完全に見逃してしまう羽目になるのであった。




 皆様お久しぶりです。リアルの方で色々と立て込んでいてネタが纏まらず執筆の時間も取れず、ようやく特別編の投稿が出来ました。
 今回は「真夏の夜の夢」を元にしたストーリーです。原作に登場しなかった総司以外のヒーローズも加えた日常ものを目指しました。あとちょっとラブコメ。

 射的で登場「インフィニット・フォーチュン」。ISアンソロジーコミック「あいえすっ!」に登場した、一夏達の世界が男女逆転した世界という設定の乙女ゲー。本作では品薄で手に入りづらい激レアギャルゲーという立ち位置です。設定的に普通に千雪辺りから訴えられても文句言えませんからね……ってかあいえすっ!でも学園から訴えられたオチだし。
 実は本作というか一夏達ISメンバーのTSものを書こうと思ったきっかけで、元々これを参考にFate要素を放り込んで出来たのがインフィニット・フェイトなので、ある意味もう一つの原作です。
 もっとも本作では「いちか」が女性のため、主人公の男性が女性しか動かせない~という、むしろ原作IS世界線に近いというあべこべ状態です。(笑)
 多分弾は帰ってから「いちか」が巨乳ポニテ侍や金髪縦ロールお嬢様やツインテ中華娘等の各種ヒロインズとラブコメするのを楽しむことでしょう。

 締めは壱花の神楽舞。実は総司に「八幡祈願・大妖射貫(なむはちまんだいぼさつ・このやにかごを)」を使った弓系の儀式をさせるかで最後まで迷ってたんですが、上手く書けそうになかったので壱花に原作箒ポジションで神楽舞を舞ってもらいました。
 そして雪子叔母さんが暗躍(総司をからかう)というオチをつけました。(笑)


 最後に、今まで応援ありがとうございました。本作はこれで終幕を予定しております……ホントにネタが尽きました。学園祭とかアニメ第二期時間軸はホントマジでめんどくさくなりそうで……アニメ第二期第一話のプールネタに関しては、これ男性陣による壱花の取り合いとか誰得だろうな~って思って……。

 一応、今はサービス終了したアーキタイプ・ブレイカーと世界線をクロスさせた小説の方を構想してはいます。やるならインフィニット・フェイトメンバーがアーキタイプ・ブレイカー世界線になんらかの力で転送される系になるけど。流石にアキブレヒロインズまでTSさせる余力はないし、それならいっそこいつらをアキブレ世界にぶっ飛ばした方が早い。(汗)
 ちなみにその場合、壱花と総司をくっつけさせてセシル以下のヒーローズはアキブレヒロインズとラブコメってもらう事も予定の一つに入っています!……まあ実際のとこは総司が壱花とのラブレースは一歩前に出てるけど、まだ恋愛関係には程遠い友達関係状態での「壱花←セシル以下ヒーローズ←各アキブレヒロインズ」ってのが精一杯だろうけど。セシル達もアキブレヒロインズとなんやかんやフラグを立てつつ、自分の想いとしては壱花の方に向いているというか。

 そしてもう一つ新しいIS小説の構想が浮かんでる……一夏は大体そのままに、箒が相棒枠、セシリアが初期の壁兼コーチ枠、鈴がオカン枠、シャルロットが男装継続による友人枠、ラウラが護衛兼新ライバル枠って感じ。
 ラブコメ色を弱くして、なんというか少年漫画的な青春学園ものっぽくなりそう。まあキャラの構想が浮かんだだけで、それによるストーリーの差異やオリジナル展開がさっぱりなので実際の執筆に関しては絶望的ですが。

 まあそれはさておき。これにて彼女らの物語は一度終幕、今までの応援に心から感謝いたします。
 もし次回作があればその時はまたよろしくお願いします。それでは。
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