インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~ 作:カイナ
「では、一年一組代表は織斑壱花さんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」
クラス代表決定戦の翌日、にこにこ笑顔でそう報告する兎佐にクラス全員から拍手が響く。
「あ、あははは……」
対して代表となった壱花は引きつった笑みを漏らす。本人的には売られた喧嘩を買っただけ、その結果結局自分から心労を背負い込む結果になってしまっていた。
「いやあ、これで万事オッケーだな!」
「そうそう。せっかくの女子なんだから、同じクラスになった以上持ち上げないと!」
「僕達は貴重な経験を積める。他のクラスに情報が売れる。一粒で二度おいしいね」
男子達もイェーイと盛り上がる。代表決定戦まで持ち込んでしまったのは自分、勝ってしまったのは自分。自分で自分の首を絞める結果になってしまったが、もはや壱花に何も異存をいうことは出来なかった。
「ミス・オリムラ」
「ん? なに、オルコット君」
その次の休み時間。声をかけてきたセシルに壱花も険悪な顔は見せず、少なくとも表面上は友好的な笑みで返す。
「……I'm very sorry。日本語で言うならば、申し訳ございません、で合っているだろうか?」
「……へ?」
突然頭を下げて謝罪してきたセシルに壱花は呆けた声を漏らす。
「え、えっと……いきなりどうしたの?」
「僕は君と戦い、自分が恥ずかしくなった。淑女を守る、英国紳士として当然の事、その意味が分かっていなかった。紳士としてあるまじき事をしていた、それを謝りたい」
呆然とした後慌てる壱花にセシルは真摯に答える。
「君は強い。女性は守られるべきだ、などという押し付けが間違っている事を教えてくれた。淑女を守る、それはただ人形を愛でるわけではない。相手をリスペクトし、その尊厳を、自由を守る事である。と」
「は、はぁ……」
本当に日本語に不慣れなのかこいつ、とペラペラ並べ立てるセシルに壱花はぽかんとする。とセシルは突如壱花の前に跪いた。
「そして、君との戦いの後、君の顔がどうしても僕の頭の中から離れなかった。その意味を考え、そして分かったんだ」
「……え、ちょ!?」
セシルの言葉に壱花が慌て出す。教室内がざわめき、壱花の顔も流石に真っ赤になった。
「あなたは、僕が守るべき、忠誠を誓うべき
「……ほえ?」
「いえ、あなたを守るなどおこがましい。僕はあなたを守る。ですが、僕もあなたに守られるだろう……そのような対等の関係になれないでしょうか!?」
キリッ、とした表情で、この空気の中これ以上ないくらいに残念な告白をしてくるセシル。それに壱花はちょっとタンマ、と右手を前に出してセシルを制し、左手で頭を抱える。
「えぇっと……要するに、その……お友達になりませんか? っていう意味にとっていいのかな?」
「騎士と姫の忠誠の関係に友という言葉は間違いかもしれませんが……対等という意味なら、それで合っていると」
セシルの告白を必死に現代日本語に訳して確認を取る壱花に、セシルはやはり無駄にキリッとした顔にキラキラオーラを振りまいて頷く。
「ああ~……うん。まあ何かな? お友達なら喜んで……」
笑みを引きつらせながら壱花もこくり、と頷いて返すのであった。
「ありがとうございます。ところで、
「あ、ごめん。壱花にして。むしろ壱花って呼んでお願い」
「では、壱花さん」
堂々と
「本日より、あなたにIS操縦を教えたいと思うのですが、いかがでしょう? 僕はイギリス代表候補生。あなたに教えられることも多いと思い――」
「待て」
跪いたままそう話すセシル。だがそれを別の男が遮った。セシルの前に影を作り、顔を上げたセシルを見下ろすようにして睨む男――総司だ。その肩には木刀が抱えられていた。
「おや、どうかしたのかい、ソウ?」
「お前が壱花の友達になる事は構わない。だが……壱花のISの師はこの俺だ!」
首を傾げるセシルに総司はそう吼え、セシルは「ほう」と面白そうに笑って立ち上がった。総司も背は高い方なのだが、やはり外国人の血かセシルの方がやや背が高い。
「君は専用機を持っていないだろう? 僕が教えた方が効率がいいと思うのだが?」
「確かに俺は専用機を持っていない。だがお前のISは射撃戦、壱花のISは近接戦。得意とする距離が違うし、何より壱花の主用武器である剣の術理は俺の専門だ」
専用機を持つセシルと剣の道を志し中学生の中でその頂へと立った総司。お互い一歩も譲らずに睨み合っていた。なおその光景を見た一部の男子から「キター修羅場キター!!」「織斑さん中心の逆ハーレムキタコレ!!」「夏コミの題材はこれに決定ですな!」「デュフフフ、なんなら一つ捻って性転換のハーレムはどうでござるか?」「バカめ、それでは原作と変わらんだろうが」「原作ってなんだよ原作って」というざわめきが聞こえてくる。
(なんか知らないけどやめろ)
とにかく危機を感じた壱花はしかし口には出せず心中でツッコミを入れるにとどめ、自分の目の前で一触即発状態になっている二人を先に止めなければと顔を上げる。
「授業を始める。席につけ、ガキども」
「「ぎゃふん!!」」
その時授業開始を示すチャイムが鳴り、千雪が出席簿で総司とセシルの頭を殴りながら席につけと注意する。出席簿の打撃を受けた総司とセシルは頭を押さえながらのろのろと席に戻っていき、千雪が教壇に立って授業を開始するのであった。
それから数日が経ち、グラウンドに集合したIS学園一年一組メンバーはどこかそわそわとした浮足立った様子を見せていた。それもそうだろう、今日からISの実機訓練がスタート。今まで理論しか勉強をしておらず、専用機を持たない一般生徒達にとってはIS学園入学試験以来のIS操縦の機会である。楽しみになるのも仕方がない。
と言いたいのだが、彼らのそわそわとした様子はそんな緊張とはどこか違う、思春期の少年的なものがある。
「皆さん、揃ってますか~?……あれ?」
インナースーツを纏った兎佐は生徒達の前に立って遅刻者がいないかを確認。しかし人数がおかしいのか「ひーふーみー」と数え始める。確かに一人まだ来ていない。しかし別に数えずともすぐに分かる。
「す、すみません、遅れました……」
来ていなかったのはこの学園唯一の女子なのだから。
「あ、織斑さ――きゅう」
そっちの方を無防備に見た兎佐が目を回してぶっ倒れる。理由など言うまでもない、兎佐がIS操縦用のインナースーツを着用していることからも分かるようにこの実習では全員インナースーツ着用になっている。なおインナースーツを忘れたものは学園指定の水着、それさえもないのならば下着で行ってもらうという脅すような台詞が千雪から出ていたことを追記しよう。
まあそういうわけで壱花もあのヘソ出しインナースーツを着用しているのだが、それをクラス中のメンバーに見せるとなると流石の壱花も羞恥が勝り、なかなかグラウンドに出られなくなっていたのが遅刻未遂の原因である。なおクラスどころかほぼ全校生徒が見に来ていたらしいクラス代表決定戦が平気だったのはISで隠れている、と思っていたこともあるだろうし、恐らくアドレナリンが放出されていてそんな事気にもしていなかったのだろう。
そして羞恥心で顔が真っ赤になっている壱花は両腕で大きく膨らんでいる胸を隠そうとするが、逆に押さえつけているせいで胸がむにゅりと形を変え逆にエロくなっている。さらに身体を隠すようによじったり内股になったりという一つ一つの挙動がむしろセクシーさを強調している結果になってしまっている。
男子生徒の大部分がおぉ、と声を上げて壱花を見つめ、一部は恥ずかしそうに顔を逸らしながらもチラリチラリと横目で眺め、また一部は「ありがてぇありがてぇ」と拝んでいた。結局のところ男子生徒の注目を一身に浴びている事に変わりはなく、教師の兎佐もセクシーさ三割増し(当社比)の壱花を見て気絶してしまっているため抑止力にならない。
「……は……」
と、壱花の口から震える声が出る。
「恥ずかしいから……あんまり、見ないでよ……」
頬を赤く染めて目に涙を浮かべ、上目遣いになりながら、壱花は頑張って言葉を絞り出す。
『!!!』
すると男子生徒の大半が急に前かがみになってしまう。なお総司は目を閉じて「心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却心頭滅却」と唱え続け、セシルは「紳士たるものハレンチな行為は~、相手は我が騎士の名において忠誠を誓う
「貴様ら……何をしているんだ?」
そこに聞こえてきた声。その地獄の底から聞こえてきそうな低い声に男子生徒はびくりとなり、ギギギ、と油の切れたロボットのようなゆっくりした動作で振り返る。そこに鎮座するのは学園所有のIS、[
「織斑、確かジャージがあったはずだろう? 羽織ってくるといい」
「は、はい」
全てを察しているらしい千雪の指示を受け、壱花はそそくさとグラウンドを出ていく。それを誰かが残念そうに「あぁ」と呟く。
「ほお……どうやら貴様ら、随分と元気が有り余っているようだな? 流石若い青少年。青い性は絶好調と見える」
それが千雪の額に複数の怒りマークを具現化させる呪文だった。
「ならば、俺も手加減はいらないな?」
腕組みをして仁王立ちをしているその姿を、まるで地獄の番犬ケルベロスが一瞬で服従のポーズを取り、地獄の大王閻魔大王さえも即座に号泣しながら許しを乞い土下座をするであろう正に悪鬼羅刹の如き姿を見た男子生徒達の心が一つになる。
すなわち、「終わった」と。
そしてジャージの上着を羽織って――うっかり教室に置きっぱなしにしていたため制服を羽織って教室まで戻り、ジャージを持って更衣室まで戻ってから制服を置きジャージを羽織るという道筋を辿った――戻ってきた壱花はそこに広がる光景を見てこう残したという。
「死屍累々とはこのことを言うんだね……ってか何があったの?」
さてまた日にちは過ぎ、四月下旬。遅咲きの桜の花びらが丁度散り終えた頃。一年一組メンバーは再びグラウンドに集合し、実機訓練を行おうとしていた。
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んでみろ」
千雪の指示に二人が「はい」と答えて生徒達の前に出る。なお壱花はIS展開時以外はジャージを羽織る事を特例で許可されており――そうしないと授業にならないと判断された。なお不満は一切出なかった。何故か、あの日の地獄を思い出そうというバカはいない、ということだ――壱花はISを展開するため羽織っていたジャージを脱ぎ、それを千雪が預かると――なお最初は男子生徒が我こそがと率先して預かろうとしたのだが千雪の睨み一つで彼が預かる事に決定した――セシルは右手の中指に嵌めている青色の宝石が飾られた指輪を見せるように右手を前に出し、壱花は純白の十字架のペンダントを右手に持って盾を構えるように前に突き出して目を閉じ、すうはあと短く呼吸をして精神を集中。カッと目を開く。
「来て、白式!!」
その瞬間十字架が純白の光の粒子となって壱花を包み込み、僅か0.7秒でISが展開、装着される。だがその展開を行うまでに時間がかかっており、横に立っていたセシルはとっくにブルー・ティアーズを展開完了。PICによって宙に浮かび壱花を待っていた。
「展開できたようだな。よし、飛べ」
「では壱花さん。お先に」
千雪の指示を受け、セシルが宙を舞う。流石代表候補生と言うべきか飛行一つとっても優雅さを忘れておらず、無駄のないその動きに壱花は一瞬見惚れるがすぐ我に返ると自分もその後に続く。だがその動きはセシルに比べて大分遅いものだった。
[何をやっている。スペック上の出力では白式の方が上だぞ]
「うへえ」
千雪から飛ぶお叱りの言葉に壱花は声を漏らす。自分でも遅いと分かっている。だがどうにも上手く飛行が出来ない。
「おかしいな? 僕と戦った時のあの素晴らしい飛行技術はどうしたんですか?」
「あの時は正直無我夢中だったっていうか、テンションがおかしかったっていうか……」
スピードを落として問いかけてくるセシルに壱花はがっくりとうなだれながら答える。
「というより、ホントなんでこれ飛んでるの? どうやって浮いてるの?」
「壱花さんが望むなら説明しますが、長くなりますよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になるので」
「うんオッケー説明しなくていいわ」
理解できる気がしない。と壱花は言外に伝える。
「まあ、理屈が分からなくても所詮イメージはイメージ。放課後にでもいくつかコツを教えましょうか?」
「あ、ごめん。今日はソウちゃんと一緒に剣道部に行く事になってるの」
「あ、はい」
セシルからの誘いをさらっとお断りする壱花。セシルもこくんと頷いて返した。特訓の後も壱花はたびたび総司と一緒に剣道部に顔を出しており、入部までしなくていいから好きな時に遊びに来てくれ。という特別部員的な存在になっていた。一度会ったコーチや部長の卓曰く「織斑がいる日は皆張り切るからメニューの組みがいがある」ということだ。やはり年頃の男子として同い年の女子にはいいところを見せたいのだろう。
[織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表10センチだ]
「了解しました。では壱花さん、手本がてら僕が先に行きます」
プライベートチャネル越しの千雪の指示にセシルは了解、壱花にそう言い残すとひゅんと素早く急降下。猛スピードでぐんぐん小さくなっていくが、地表10センチのギリギリで体勢を立て直し完全停止。よどみのない優雅な動きに生徒達から感嘆の声が漏れているのがハイパーセンサーによって聞こえてくる。
「よし……行きます!」
自分を鼓舞するように声を上げ、壱花も急降下を開始。イメージとしては急降下は『背中の翼からロケットファイアーが吹き出るイメージ』。完全停止は『バンジージャンプで落っこちた後にゴム紐に引っ張られて一瞬止まるイメージ』を行う。
「ひぅっ!?」
しかし急降下のスピードが思っていたよりも速い。ぐんぐん近づいてくる地面に壱花は怯み、恐怖からバンジージャンプのイメージによる停止を大分早くに行ってしまう。結果として地上二~三メートルのところで停止してしまった。
「タイミングが早いぞ、織斑。訓練を繰り返す事だ」
千雪から指摘が飛ぶ。実際に今回のミスの最大の原因は恐怖。ISの保護機能により地面に墜落する程度で怪我をするはずもないのだが頭で分かっていてもいきなり地面が近づいてくるのはやはり怖い。これは本当に何回も急降下の練習を行って恐怖に慣れなければどうしようもなさそうである。
(恐怖に慣れる……いっそ防具無し剣道でもやってみれば少しは慣れるかな?)
壱花はISを展開せずとも出来る恐怖耐性訓練を考える。なおこの授業後総司に提案したら怒られる事になったのは余談である。
「ふぃ~。やぁっと着いた、ここがIS学園か~」
夜。IS学園の正面ゲート前に、小柄な体に似合わない大きなボストンバッグを持った少年が立っていた。額の汗を拭う動作をしながら彼がそう呟いた時、四月のまだ暖かい風が彼の茶色い髪を後ろで三つ編みに結ったおさげをゆらゆらと揺らす。
「あーっと、おっさんはまず受付に行けっつってたよな……受付ってどこだ?」
少年はかくんと首を傾げて独り言を呟く。なお、そのおっさんというのは軍部の超お偉いさんである。
「お、そうそう」
と、彼はぽん、と握った右手を開いた左手のひらに落とす。という何かを思い出した時の古めかしいジェスチャーを行ってボストンバッグを地面に直に下ろした。
「えーっとあれでもないこれでもない」
下ろしたボストンバッグの中を両手で探り、右手に掴んだものを見て目的のものでなければぽいっと投げ捨て、左手に掴んだものを見て目的のものでなければぽいっと投げ捨て、右手に掴んだものを見て目的のものでなければやっぱり投げ捨てるのを繰り返す。某猫型ロボットみたいなことをしていた。
「お、あったあった」
見つけたのは一枚の封筒。ぐしゃぐしゃになっておりかなりぞんざいに扱われていたことを身をもって示していた。彼曰くのおっさんが「行先書いておいたから」と手渡してきたものをボストンバッグに放り込んでいたのだ。少年は封筒を開け、中身である一枚の紙を取り出すと中身に目を通す。
「えーと目的地はっと……IS学園の本校舎一階総合事務受付……だからそれはどこなんだっつの!」
パソコンで印字された目的地。だがそれは名称だけでどこにあるのかとか全然書いておらず、少年は思わずその紙を地面に叩き付ける。だがその時彼は「裏に地図が描いてあるアルヨ☆」という文字が書かれていることに気付く。
「お、なんだよ地図描いてんじゃねえか。ったくおっさんも人が悪いね~」
にゃははっと笑いながら彼は紙を裏返す。と、その額に怒りマークが浮かび上がった。確かに地図は描いている。だがそれは日本地図の大体IS学園がある辺りの場所に大きな矢印が刺されているだけのおざなりにも程があるものだった。しかも一緒に書かれていた「自分で探せバーカ」という文字が余計に彼を苛立たせ、彼は激情に任せて紙をビリビリに引きちぎると紙切れをぽいっと投げ捨てた。
「国に戻ったら覚えてやがれあのおっさん……」
ぶつぶつとおっさん――繰り返し言うが軍部の超お偉いさん――への恨み言を呟きながら、少年はさっき放り捨てた荷物を片付け、ボストンバッグを肩に提げて立ち上がる。
「ったく。自力で探しゃいいんだろ探しゃ」
ぶつくさ言いながら彼は足を動かす。考えていてもどうにもならないものはならない、それならとりあえず動いてみる、そうすりゃ案外どうにかなってしまうもの、考えることが必要なら動きながら考えればいい。それが彼のスタンスである。
「っつーかたっくよぉ。出迎えがねえのはしょうがねえんだけど、15歳を異国に一人放り込むってのはどうなんだっての。おっさん達もそこんとこ考えてくんねえのかねー」
心の中で思えばいいような暴言を、周りに誰もいないことをいい事に口に出す。
なお彼は元々IS学園への入学を「めんどくせ」の一言を理由にして希望しておらず、しかしある知り合いがIS学園へ入学すると聞いて一転入学を希望。だがその時には既にIS学園の願書受付どころか入学試験さえも終了してしまっており、軍上層部にIS学園への入学を直訴、最終的には力技(物理)で転入手続きを認めさせたという経緯がある。まあ要するに、出迎えがないのも他の中国人――言い忘れていたが彼は中国人。しかしそれにしては先ほどからの独り言はかなり流暢な日本語である――と一緒に案内付きで学園へ来られなかったのはある意味自業自得の結果であった。
「はー。それにしても広いなー。どっかに教師とか生徒とかいねえかなー?」
自力で探すのもめんどくさくなり、彼は案内してくれそうな教師や生徒がいないかなと辺りを見回す。しかし既に午後八時を回っており、どの校舎も明かりは落ちている。生徒もほとんど寮に戻っていることだろう。
「めんどーだな。いっそ空飛んで探すか?」
呟き、首にチェーンを使ってかけた深紅のナックルダスターを持つ。一瞬「名案!」と思ったが直後、電話帳三冊分もある学園内重要規約書を思い出してげんなりとした顔になる。さらに転入手続きもまだ終わっていないのに学園内でISを起動させたら最悪外交問題に発展しかねない、頼むからそれだけは本当にやめてくれと政府高官に懇願されたことを思い出し、少年はナックルダスターから手を放す。
「ま、あれだね。俺は重要人物だし? 自重はしないとねー?」
やはり誰も聞いていないがそう口に出し、少し気が晴れたのか得意げな顔になる。
「で……だな……」
「!」
そんな時、彼の耳に人の声が聞こえてきた。「ラッキー、案内してもらおっと」と呟いて彼は声の方に走る。見えるのは大きな体育館のような施設、というか多分体育館なのだろう。だってユニフォーム姿の男子が出て行っているんだから。きっと体育会系の部活で居残り練習をしていたのだろう。と少年は当たりをつけ、手近なところに人影を見つけると、あの人達に聞こうと決めて駆け寄る。
「すいませ――!?」
だがその人影の正体が分かると彼は咄嗟に物陰に隠れてしまっていた。
「うん、大分勘も戻ってきた。そろそろ他の人達に試合お願いしてみようかな?」
「そうだな。最近は俺か主将とのマンツーマンばかりだったし、壱花も気分転換になるだろう」
彼が物陰に隠れて見ているのは黒髪を短いポニーテールにした少女と、その隣で談笑をしているこちらも黒髪ポニーテール――だがこっちは背中に届きそうなほどに長く、おしゃれなポニーテールというよりは侍のちょんまげを模しているようにも見える――の男子。
「いち、か……」
女子の方には見覚えがある。いや、見覚えがある程度では済まない。しかしその隣の男子は顔も形も知らない。
「明日、主将に話してみよう」
「お願いね、ソウちゃん」
談笑をしながら二人は体育館を後にする。少年はそれを物陰に隠れて彼らがいなくなるのを待つことしかできなかった。
「だ、誰だよあいつ……」
壱花と男子Aがいなくなった時、なるで喉で詰まっていたかのように少年の口から声が発される。なんなんだ、あの男、なんであんなに壱花と親しそうなんだ? というか壱花はあいつを愛称で呼んでなかったか? しかも男の方は名前で呼んでなかったか? そんな奴中学時代だと俺を除けば後輩の弾くらいしかいなかったぞ。そんなことが声に出ない彼の頭の中でぐるぐると回る。彼女の姿を見た時に心臓が高鳴ったのを彼は感じていた。しかしそれはすっかり鳴りを潜め、逆に彼を冷たい感情と疑問が支配していた。
「ええと、それじゃあ手続きは以上で終わりです。IS学園にようこそ、
それからすぐに総合事務受付は見つかり、愛想のいい事務員の女性――別に事務仕事にISが動かせるかどうかは関係ない。必要な知識は勉強すればいいだけのこと――の言葉に少年――凰蓮音はこくりと無言で頷く。さっきの光景がやはり彼の気にかかっていた。
「あの……織斑壱花って、何組ですか?」
気づけば、そんな問いを口に出していた。
「ああ、織斑さん? 一年一組ですね。あ、鳳さんは二組だからお隣ですね」
マジかよ、クラス違うのか。と蓮は思わず考える。
「あ、そうそう。あの子、一組のクラス代表になったそうですよ。流石、織斑先生の妹さんは違いますね」
織斑千雪、世界最強のIS使いと名高い存在。だがその妹というだけでクラス代表になれるはずがない。壱花はきっと努力してその地位を勝ち取ったのだろう。と蓮は思う。と、そこで彼の頭の中にピーンと天啓が走る。
「あの……二組のクラス代表ってもう決まってるんですか?」
「え? ああ、もちろん」
「名前は?」
「え、ええと……き、聞いて、どうするんでしょう?」
それなりに整った顔の少年に迫られているような絵面――少年が小柄でなければ壁ドンでもすればかなり絵になっていただろう――にも関わらず事務員の女性の笑みは引きつっていた。
「なぁに」
後に、女性はこう語る。
「ちょっと、二組のクラス代表変わってもらいたいだけだよ」
獣の笑みって、こういうのを言うんだろうな。と。
さて、凰鈴音性転換キャラこと、凰蓮音君登場です。ちなみに名前の由来はボーカロイドのレン。相方がリンだったからという安直な理由です。あと中の人繋がり。
でもって日本語に不慣れに加えて実は意外に天然っていう属性を付加した結果、なんかセシルが残念イケメンになりました。天然のキラキラ王子様オーラがいい味出してくれるわこの子。(笑)
次回は多分あの辺を書くことになるかな、だとしたら割と早く書けそうな気がするけどさてどうだろうか。どうオリジナルを盛り込もうかなって今考えているところです。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。