インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~ 作:カイナ
教室の入り口に立ち、にひひっと笑みを浮かべて挨拶する茶髪三つ編みの少年。蓮と名乗る彼は壱花と知り合いという雰囲気を見せていた。
「一年ぶりくらいだっけ。久しぶり、元気だった?」
蓮はそう声をかけながら壱花に近寄る。
「待て」
だがその前に総司が立ちはだかり、蓮の足を止めさせる。
「なんだよ?」
「お前何者だ? 壱花とどういう関係だ?」
「幼馴染だよ、おーさーなーなーじーみー」
「嘘をつくな。俺は壱花の幼馴染だがお前のような奴は知らん」
「お前こそ嘘つくんじゃねえよ。お前なんて俺は知らねえぞ」
バチバチッと総司と蓮の目から火花が散る。いつもの男子達は「しゅ、修羅場第二弾キター!?」「本当にこの学園はネタの宝庫でござるなぁ!」「壱花姫に感謝せねば!」という声が聞こえてくる。誰が姫だ誰が、と壱花が睨むが熱中していて気づいておらず、壱花は一瞥しただけで諦めるととにかく総司と蓮を止めようと睨み合う二人を見る。
「おい」
「「なんだ!?」」
そこに聞こえてきたドスの効いた男性の声に総司と蓮が睨み合った顔のまま声の方を向く。男子達が「あっ」と呟いた後不自然なほどに静まった。
「もうSHRの時間だ。席と教室にもどれ」
「「ぎゃふんっ!?」」
その言葉と共に二人の頭に放たれる出席簿。一年一組担任の千雪がやってきていたのだ。
「「ち、千雪さん……」」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ」
「「す、すみません」」
総司と蓮は千雪が来た瞬間戦意喪失。千雪の威圧を受けすぐにそそくさと総司は席に戻り、蓮は教室の入り口までやってくると振り返る。
「壱花、今日の昼食、食堂で一緒に食べようね!」
「さっさと戻れっ!!」
「はいっ!!」
蓮が壱花と昼食の約束をし、千雪が怒鳴るとまたびくっと怯えたような反応をしてすったかたーと一組を出ていく。
「ではSHRを始める」
そして何事もなかったかのように千雪は教壇に立つとそう宣言するのであった。
それから時間は昼休みへと移る。なお総司はさっきの蓮との言い合いもあって授業に身が入っていなかったのか佐藤先生から三回注意を受け、千雪から二回の指導をくらっていた。
「壱花、あの蓮というやつは一体――」
「あーごめんごめん。後で説明するから」
総司の質問に壱花は携帯をいじりながらそう返答。しかし先程の休み時間からずっとその一言だけ、いい加減総司も我慢できなくなってきたが壱花は席を立つ。
「じゃ、食堂に行こうか。蓮君が席を取って待ってくれてるんだってさ」
そういうメールでも来ていたのだろう。携帯をポケットにしまいながら壱花はそう言い、総司も渋々頷くと、壱花、総司、セシルのいつものトリオ――一組曰く「姫とその護衛の武士と騎士」――は教室を出て行き、食堂へと向かう。
「いっちかー! こっちこっちー!!」
多人数用のテーブルを一人で占拠し、ぶんぶんと大きく手を振る蓮――そのテーブルにはラーメンが置かれている――。壱花も了解の意を示すために小さく手を振って答えると食券を買い、料理を受け取る。今日の昼食は壱花はきつねうどん、総司は日替わり定食、セシルは洋食ランチだ。それぞれ料理を受け取ると先ほど蓮が取っていた席に座る。壱花が奥の席で総司がその隣、蓮が壱花の向かい、セシルがその隣というポジションだ。食券を買っている時にセシルがこっそり壱花に提案したもので、曰く「ソウとあの少年を隣同士にしたら何かの拍子で殴り合いになりかねない。向かい合わせも危険ですし、斜めにすれば僕が間に入って対応もできるし少しはマシでしょう」ということ。壱花も朝の一触即発の空気を思い出すとその提案を採用。二人で協力し、さりげなくそういうポジショニングを取らせていた。
「それで壱花、そろそろ聞かせてくれるか? この少年は何者なんだ? お前の幼馴染なんて嘘をついて近づこうとするなど」
「こっちの台詞だよ! 壱花、こいつなんなのさ? 俺こんな奴知らないよ!?」
総司と蓮は互いを指差しながら壱花に問いかける。壱花は気疲れしたように一つため息をつくと口を開く。
「二人とも嘘はついてない。二人とも、私の幼馴染よ。間違いないわ」
毅然とした態度で諭すように言う壱花。そのオーラに思わず二人は押されて黙り込んでしまう。
「まず、ソウちゃんが引っ越したのが小四の終わり頃でしょ? 蓮君が転校してきたのは小五の頭だったのよ」
「They just missed each other……えーと、入れ違いというやつか」
「
第三者故か壱花の説明を冷静に聞けたセシルが納得したように言い、少しどもって日本語に訂正すると壱花がそれを肯定する。幼馴染だと主張している二人に互いに面識はない。それはそうだ、片方がいなくなってしまった直後にもう片方が来たのだから。面識なんてあるはずがない。
「それで中二の終わりごろに蓮君が国に帰ったから、こうして会うのは一年ぶりってとこかな?」
壱花はそう説明を続け、「つまり」と締めの言葉を続ける。
「ソウちゃんは私のファースト幼馴染、蓮君はセカンド幼馴染ってこと。分かった?」
「あ、ああ、なるほど」
「なるほどね。うん、分かった」
壱花の締めの言葉を聞き、総司と蓮は納得したように頷いた。
「だが壱花、そういうことならもっと早くに言えば……」
「どうせ蓮君にも同じ説明しなきゃいけないんでしょ? だったらお昼一緒って約束してるんだしここで一気に説明した方が二度手間にならないわ」
総司が困ったように壱花に言うが、壱花は悪びれる様子もなくそう答える。
「で、彼がソウちゃんもとい総司君。ほら前に話したでしょ? 小学校からの幼馴染で、私の通ってた剣術道場の息子さん」
「へー、そうなんだ……」
壱花の言葉に蓮はそう呟くと改めて総司を見、にこりと微笑む。
「初めまして。これからよろしく」
「ああ。こちらこそ」
一見すれば和気藹々とした様子の挨拶、しかしその目からは火花が飛び散っているように見える。
「ところで、中国代表候補生と言っていたな。それなら僕も黙っているわけにはいかない」
すると次にセシルが口を開く。相手は中国代表候補生、ならばイギリス代表候補生であるセシルも関係がある。というように彼は蓮を見る。
「……誰?」
だがその蓮は目を細めて首を傾げながら呟き、そのあっさりとした返答に蓮以外の三人がずっこける。
「な、ぼ、僕はイギリス代表候補生、セシル・オルコットだ! まさか知らないのか!?」
「ああ。俺他の国とか興味ねーもん」
血相を変えたセシルに対して、話が終わったと思ったのかラーメンをすすりながら答える蓮。イギリス代表候補生という立場にプライドを持つセシルはだからこそか顔を真っ赤にする。
「ぼ、僕は君のような奴には負けん!」
「あっそ。でも戦ったら俺が勝つよ。悪いけど強いから」
「い、言ってくれるな……」
本人にそのつもりはないんだろうがセシルを挑発しているようにも見える蓮。しかし蓮は気にすることなくラーメンを食べる手を少し休めると壱花に「なあ」と声をかける。
「ところで、壱花ってクラス代表なんだっけ?」
「あ、うん。まあね」
「そっか! クラス対抗戦、楽しみにしてるな! お互い頑張ろうぜ!」
蓮は嬉しそうに微笑みながらそう答える。
「いや、待て。凰。お前クラス代表が決定した頃にはまだ来ていなかったんじゃないのか?」
「あー、蓮でいいよめんどっちい。ああ、だからクラス代表の奴に“クラス代表代わって”ってお願いしたんだけど断られちまった」
「それはそうだろうな……」
総司の言葉に蓮はそう答えた後、はぁとため息をつくとセシルが呆れた顔を見せる。何故転校してきた相手にいきなりクラス代表を代われと言われて代わらなければならないのだ。いや、クラス代表を押し付けられて面倒な相手ならいいかもしれないが、どうやら二組のクラス代表は自ら望んでその立場を勝ち取った者らしい。
「んで、丁度二組のクラス代表が今日の放課後にIS使って訓練するみたいだったからそこに俺との模擬戦をねじ込んだんだ。勝った方がクラス代表って、なおかつ俺が負けたらなんでも言う事聞いてやるって」
「「「はぁ!!??」」」
蓮のあまりにもあっさりとした言葉に壱花、総司、セシルの呆けた声が重なる。
「あ、どうせなら見に来てよ。壱花。第二アリーナだから」
しかも別クラスの代表、本来敵となるはずの壱花を誘ってきた。
「す、すまん。あまりにエキセントリック過ぎて理解が追いつかない……」
「蓮君相っ変わらず考えなしだね!?」
「中国は一体どうなっているんだ……こんな男を代表候補生などと……」
総司が頭を抱え、壱花が叫び、セシルがこめかみに指を当てて頭痛を堪えるような顔を見せる。三人は完全に蓮に振り回されていた。
それから放課後、壱花は「蓮君に誘われたんだし折角だから」と、総司も「強者の戦い方を見るのも修練の一つ」と、セシルは「どちらにせよクラス代表の戦いが見られるんだ。データ収集になる」と第二アリーナへとやってきていた。なおセシルと同じ考えの者は多いのか別クラスの人間が数名いる。と言っても流石に史上初のIS操縦女子である壱花のデビュー戦でもあるVSセシルの時ほど人数は多くない。
「ティノー! 頑張れー!!」
「中国代表候補生だとか知らんが、お前なら勝てるっ!!」
「勝って今日はあいつの奢りで食堂大パーティーだー!!」
すると二組からの声援が聞こえ、壱花達はアリーナを見る。そこには学園所有IS――ラファール・リヴァイブを纏う金髪の男性の姿があった。
「彼が現二組代表のティノ・ハミルトンだ。打鉄ではなくラファール・リヴァイブを使っているところから見るに、比較的射撃戦の方が得意なようだな」
セシルは既に情報収集をしていたのか、そう述べる。ラファール・リヴァイブ、IS学園が所有するもう一種類のISで、防御や接近戦を得意とする打鉄に比べると安定した性能や高い汎用性が持ち味、学園では打鉄との差別化のため機動性や射撃戦を重視したメンテナンスになっている。すると今度は二組の方からブーブーとブーイングが飛ぶ。どうやら彼らにとって身勝手な挑戦者――凰蓮音が入場したらしい。
「蓮君頑張れー!」
とりあえず幼馴染として応援するだけ応援しよう。壱花の声援を聞いたのか蓮はひらひらと手を振って応えると、首にチェーンでかけていた真紅のナックルダスターを右手に握り、開いた左手にバンッと叩きつけた後思いっきり右手を振り上げる。
「来い、
声を張り上げると共に彼を赤い光が包み込み、龍の咆哮のような轟音と共に彼の身体にISが装着される。ブルー・ティアーズのビットやミサイルが装着されているセシルのブルー・ティアーズと比べると随分とスマートな形状で、武装は両手に着けられたIS用ナックルダスターやIS用レガース程度しか見受けられない。
「と言っても、
しかし白式のカリバーンもセシルのスターライトMkⅢもIS展開時には持っておらず、個別展開を行って呼び出している。蓮の甲龍のメイン武装も今はまだしまっているだけかもしれない。
「! 壱花、セシル、あれを見ろ!」
すると総司が血相を変えて声を上げ、アリーナの巨大モニターを指差す。そこには蓮とティノの顔写真、現在のシールドエネルギー等の情報が映されている。
「えっ……」
「馬鹿な……蓮の方は既にシールドエネルギーが半分だと!?」
そう。蓮は最初からシールドエネルギーが半分になっていた。
[それでは、これよりクラス代表決定戦第二弾を行います。確認事項ですが、ハンディキャップとして凰蓮音君はシールドエネルギーの半減、及び武装制限。よろしいですね?]
「オッケーだよ! この拳と蹴りで充分さ!」
担当教員の確認を蓮はオープンチャネルで観客にも宣言するように了解する。それに壱花達三人はざわついた。専用機同士に壱花は零落白夜という一撃必殺の隠し技があったという違いこそあれど初心者の壱花でさえセシルに喰らいつけた。もはや奇跡だったと思うとはいえ、武装制限にシールドエネルギー半減のハンデが蓮に課せられているのは相当やばいのではないか、と壱花は思う。
「あいつはバカじゃないのか? この学園のラファール・リヴァイブが得意とするのは総じて射撃戦、拳など距離を取られてしまえば剣以上に当たるものではないぞ……代表候補生の名誉を汚す事だけはやめてくれ……」
セシルが呆然とする。シールドエネルギー半減というハンデだけならともかくさらに武装制限、しかも蓮は腕をぐるぐる回しながら拳と蹴りだけで大丈夫と宣言した。ブラフかもしれないがそれでもわざわざナックルダスターやレガースが装備されているという事は接近戦主体である事は間違いない。距離を取られて射撃戦に持ち込まれたら下手すれば何の抵抗も出来ずに倒されてしまう可能性さえある。既に同じことになっている自分の言えた義理ではないがせめて一般生徒に対して無様な敗北を喫し、代表候補生の株を下げる事だけはしないでくれとセシルは願う。
[それでは、模擬戦――開始っ!!!]
しかし彼女らがショックから立ち直るよりも早く、試合開始が宣言された。
「マシンガン展開!!」
試合開始と同時にティノが両手を前に突き出しながら叫び、それと共に光が奔流するとマシンガンが両手に展開され、ティノが引き金を引くと弾丸の雨が蓮目掛けて降り注ぐ。
「よっと!」
しかし蓮はにひっと笑うと跳躍。宙返りで弾幕の上へと飛ぶとそのままPICで高速移動、ティノの張る弾幕を中距離でかわしていく。しかも不規則に動きを変えて的を絞らせない。
「くそ、ちょこまかと!」
動き回る蓮目掛けてマシンガンを乱射するティノ。蓮は近づく隙が見つからずに中距離で動き回るのみ。このままでは蓮はいずれ弾幕に捕まってしまう、と壱花の心に不安がよぎる。
「……あいつ、考えなしに見えて策略家じゃないか」
「え?」
だがその瞬間、総司がそんな事を呟く。直後戦況が動いた。
「な、しまっ!?」
マシンガンから弾幕が途切れる。弾切れを起こしたのだ。ティノはそれに焦り、マシンガンに目を向けてしまう。
「もらった!」
その一瞬の隙を突き、蓮は急降下してティノへと向かう。ティノも弾切れになったマシンガンを投げ捨てた。
「マ、マシンガン――いやブレード展開!」
光の奔流が僅かにぶれ、先ほどのマシンガンよりも数秒遅くティノの右手にIS用近接ブレードが握られる。
「遅いっ!!」
だが蓮の飛び後ろ回し蹴りがIS用近接ブレードを握った右手を蹴り飛ばし、ブレードを叩き飛ばすとそのままの勢いで蓮は懐に潜り込む。
「懐に潜り込んじゃえばこっちのもんさ!」
「がっ!?」
ダンッと地面を勢いよく踏みしめ、力を込めた右拳の打撃がティノの腹へと突き刺さり吹き飛ばす。単純な殴打ではとても生み出せない威力だ。
「け……拳法?」
セシルがようやく呟く。蓮の武器、それは剣でも銃でもない、拳法。すなわち己の肉体を武器へと昇華させていた。
「ぐ、ブ、ごふっ、ブレード展開!」
吹き飛ばされたティノは威力を殺しきれずに尻もちをついた格好になり、咳き込みながらも右手に予備のIS用近接ブレードを展開すると猛スピードで突進してくる蓮目掛けて突き出す。
「せめて口に出さずに
「なっ!?」
しかし蓮はスピードが乗っている状態からくるりと宙返り、ブレードの刃先へと乗っていた。別にPICがあるためバランス調整は生身に比べて簡単なもの。しかし蓮は猛スピードでの突進の勢いを殺して宙返りし、ブレードの刃先に乗る。繊細な操縦技術を見せていた。
「あ、それとも拳法でもやる? 展開するまでもないよ、何せ生まれ持っての肉体が武器なんだし」
「ふ、ふざっけるなぁっ!!!」
蓮の勧誘のような挑発(多分蓮は逆に挑発のような勧誘、もちろん蓮本人は挑発なんてしていないつもり)にティノは声を荒げてブレードを振るい蓮を空中へと追いやると、さっきの話の間に無言で展開できたのか左手に握ったマシンガンの銃口を、空中へと逃げた蓮へ向ける。
「二度三度も同じ手は通用しないってーの」
「な、え?」
しかしその時には既に蓮はティノの懐に潜り込んでいた。
「縮地!?」
「シュ、シュクチ? なんだそれは!?」
総司が驚いたように叫ぶとセシルが呆けた声を出す。
「簡単に言えば、相手に悟られず、瞬時に間合いを詰めるための特殊な体捌きだ……それをISに応用している」
総司はぞくり、と身を震わせる。生身の身体であれば己も可能な技術。しかしISでその技術を行えと言われれば難しいと言わざるを得ない。蓮はそれをやってのけたのだ。つまりISの操縦技術は彼の方が上ということである。
「
もはや試合は一方的なものだった。右手の拳が顔面を捉えたかと思うと次の左手の掌底が腹を打ち、次の右手の手刀が首筋を刈り取らんばかりに放たれる。ティノはマシンガンの狙いを定める事もままならず、破れかぶれに振るったブレードは左手で逸らされた挙句に脇に挟むようにしてから身体を逸らす変形の白刃取りで右手から奪われてしまう。
「ヒュゥッ!」
蓮は息を吐き、丹田に力を込めて足を踏み込む。踏み込んだ足から得た力を背筋を通して両腕へと伝える。生身ではこのようなイメージで行う技術をISへと応用。
「発剄!――」
狙うは敵の心臓、そこに目掛けて両手を突き込む。
「――双掌打!!」
「がふっ……」
全身の動きが一致し、全く無駄のない力が相手へと伝わる。その一撃が決まった瞬間、ビーッとブザーが鳴り響く。
――試合終了。勝者、凰蓮音
そして機械的なアナウンスが今回の勝者の名を宣言するのであった。最終的に蓮のダメージは最初のマシンガンの弾幕で少しよけきれずに受けてしまった数発と接近戦時の悪あがき程度。一割削れているかも怪しいレベルだった。
時間が過ぎて夕方。セシルは1025室へとやってきていた。今回の模擬戦のデータを分析し、その結果を壱花に伝えようとしているのだ。
「あれ、あんたイギリス代表候補生じゃん」
すると1025室の前で蓮にばったりと出会う。
「レン……何をしている?」
「いや、壱花の部屋がここだって教えてもらったから遊びに来た」
セシルの問いかけに蓮はそうとだけ答えると躊躇うことなく部屋のドアを開ける。鍵はかかっていなかった。
「お、おい!……壱花さん、ソウ。入るぞ」
「んえ?」
セシルは礼儀正しくこの部屋の住人二人に声をかけてから部屋に足を踏み入れる。
「「!?」」
すると二人の目が見開かれた。部屋の住人の一人――総司が床に倒れていたのだ。しかもうつ伏せに倒れている顔から僅かだが血らしきものが見える。
「ソウ! どうしたんだ!?」
「お、おいお前、何があった!?」
咄嗟に飛び込む二人。もしや世界唯一の女性操縦者織斑壱花を狙った襲来者が総司をも襲ったのか、と二人は最悪の想像をしてしまう。
「セ、セシル……俺はもうダメだ……壱花には、俺は勇敢に戦ったと伝えてくれ……」
「な、なにがあったんだ!?」
鼻から出血しながらの総司の言葉にセシルが血相を変えて叫ぶ。
「ん?」
と、蓮は室内の違和感に気づく。いや、違和感というか。
「く~……す~……」
壱花がベッドでぐっすり眠っている光景である。
「……そういう事か」
しかし同時に蓮は全てを理解する。まあ、壱花は上はブラジャーオンリー、下はパンツオンリーで眠っていればそうなるのも無理はない。蓮も羞恥に顔を逸らしていた。
「最近は気が抜けてきたのか、室内だと下着姿でも平気でうろうろし始めるんだ……俺も男なんだぞ、あんなの我慢し続けられるか……」
「総司……お前はよく頑張ったよ。この俺が保証する……お前の精神の強固さは俺以上だ」
ぼんきゅっぼんの性犯罪誘発ボディが目の前を下着姿でうろちょろしているのに平常心を保たなければならない苦行を乗り越えている総司を蓮は心から称える。
「ふわ~……なぁにぃ騒がしいなぁ……」
すると壱花が目を覚まし、同時に蓮がギンッと三白眼で壱花を睨む。
「お前はとっとと服を着ろおおおぉぉぉぉっ!!!」
そして蓮の怒号が響き渡るのであった。
「……うん、そうだよね。ソウちゃんがいるのにはしたないよね、うん。ごめん……ソウちゃんと一緒にいた頃のノリだった……」
壱花は頭の上にたんこぶを作りながら、手近にあったタンクトップにショートパンツ姿になってベッドの上に正座する。なお総司と一緒にいた頃のノリというのは言わずもがな小学校低学年である。
「お前なぁ、蘭に知られたらまたお説教だぞ?」
「うあ、それは勘弁……」
蓮の言葉に壱花は嫌そうな声を漏らし、蓮は呆れたようにため息をついてからふと総司を見る。なお壱花が着替えている間に総司が気を紛らわせるのも兼ねて飲み物を淹れており、総司と蓮は緑茶、セシルは紅茶を飲んでいた。
「ってか、総司。ここ壱花の部屋なんだろ? なんでお前までここにいるんだ?」
「ああ、俺もこの部屋に住んでるんだ」
「はぁ!?」
「話せば長くなるんだが……」
蓮の質問に総司が正直に答え、それに蓮が驚愕の声を上げると総司は説明を行った。
「は~なるほど、千雪さんがね。ならしゃあねえか。他の野郎が壱花と同室になってたら今頃どうなってるか分かったもんじゃねえ」
「ああ。俺も千雪さんから一時的にとはいえ壱花を預かった以上、不動の心を持って壱花を守ると決めている」
蓮は千雪から指示を受けて総司が同室になっていることを聞き、納得する。いくら幼馴染相手だとはいえ異性がいる中で自分の成長を考慮せず昔のノリでいれば、知らない男が相手ではどうなる事か分かったものではない。今まで問題が起きなかったのはひとえに総司の鉄の意思と鋼の強さの賜物だろう。蓮自身もそんな状態になったら自分を抑えきれるか自信がない、と自己分析する。
「あ、ところでセシル君。例の蓮君の試合データなんだけど」
「い、壱花さん!? レンがいる前でそれは!?」
「ああ、別にそんぐらいどうでもいいよ。あの程度から分かる研究で攻略される程俺弱くねーもん」
「ぐぬ……だが実際、データとしてまともなものは少ない。せいぜい中国拳法を応用しISに取り入れた近接用ISというくらい……しかも武装データはほぼ未知数……」
蓮の自信満々な言葉にセシルは苦虫を噛み潰したような顔をしながら壱花に報告、蓮をギロリと睨んだ。
「お前、まさかここまで計算して武装制限のハンディを……」
「さて、どうだろうねぇ?」
セシルの言葉に蓮はにししと笑ってみせる。
「ってか蓮君、中国拳法なんてやってたんだ。私の知ってる限りじゃ喧嘩拳法って感じだったのに」
「ああ、そりゃそうだよ。中国に帰ってから始めたんだもん。手近な道場で鍛えてたらいつの間にか大きな道場に移されてさ、そこでまた鍛えてたらIS操縦者にならないかってスカウト来ちゃったんだ。新入りへの歓迎とかなんとかの百人組手で全員ぶっ飛ばしただけだってのに、天才とかなんとか言われちゃってさ」
蓮はそう言い、ひょいっと肩をすくめる。だがセシルはその台詞を聞いて戦慄する。自分もイギリスの代表候補生となるために厳しい訓練を潜り抜けている。その中でも専用機ブルー・ティアーズを得たのは自分にその適正が一番あったという、もちろん実力もあるのだが悪い言い方をするなら運の要素が強い。しかし蓮は己の武術の腕だけ、それもたった一年鍛えただけで代表候補生となり、先ほどクラス代表となった相手を圧倒する実力まで身に着けている。武術の才に関して言えば確かに天才と言っても過言ではなかった。
「でさ、壱花。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
すると蓮は笑顔で彼女に話しかけた。
「聞きたいこと?……ってそういえば。私も聞きたいことがあったんだっけ。蓮君、約束って覚えてる?」
「えっ!? や、約束って……」
「もう、忘れちゃったの? 自分から言い出しといて」
質問で質問に返す壱花。しかしその言葉に蓮は不意を突かれたように言葉を失い、その意味を誤解した壱花が呆れた顔を見せる。自分には関係ないらしいと判断した総司とセシルは自分の茶を飲んだ。
「ほら、“大きくなったら、俺に毎日酢豚を作ってください”ってやつ」
「「ぶっふうううぅぅぅぅっ!!!」」
直後壱花の口から出た大胆な告白に二人は飲んでいたお茶を勢いよく噴き出したのであった。
「え、どうしたの、ソウちゃんにセシル君……」
いきなりの二人の奇行にドン引きする壱花。
「え、っと……も、もしかして……本当に、作ってくれるの?」
「当たり前でしょ」
しかし蓮が驚いたように問いかけ、それに対し壱花はにこっと微笑んで頷く。
「そんなに私の酢豚が気に入ったんでしょ? 作る側としてはこれほど光栄な事はないわ」
ふふん、と嬉しそうなどや顔を見せながら答える壱花。その瞬間蓮はがくんと倒れ込んで床に膝をついて両手を床につける。
「蓮……気を落とすな。壱花は俺の知る限りずっとこうだった……」
「レン……お前はよく頑張った。お前のその勇気を俺は尊敬する」
そして総司とセシルが彼の肩にぽんと手を置き、不憫そうな表情で蓮を慰める。
「?」
もちろん壱花は何故蓮がショックを受け、総司とセシルが慰めているのか分からず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら小首を傾げるのであった。
蓮の機体、
そして色々思いついたギャグシーン。原作の鈴の告白もギャグ交じりにして早々に処理しておきました。(外道)
次回はクラス対抗戦。原作のゴーレム戦もオリジナル展開を考えております。
今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。