インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~ 作:カイナ
五月の二週目に入った頃、クラス対抗戦試合当日。第二アリーナ第一試合、壱花VS蓮。史上初の女性操縦者VS新星の如く現れた編入生という噂の対戦カードに、アリーナは観客で埋め尽くされていた。
「壱花、楽しく戦おうね!」
「あいにく、喧嘩を楽しむほど私は戦闘狂じゃないつもりなんだけど……」
にしし、と満面の笑みを浮かべて手を振る蓮に対し壱花は呆れ顔で蓮を真っ直ぐに見る。基本的にはこの前のクラス代表決定戦と同じく赤色が基調となったスマートな機体。ナックルダスターやレガースの装備も同じ、しかし一番の違いとしては
(あれがクラス対抗戦の時に制限してた武装かな……あんなんで打撃くらったら一発でノックアウトしそう……気をつけないと)
僅かな時間でも少しでも多くの情報を分析し、予測を行い、対策を練る。セシルから教わった手法を壱花は出来る限り実行していた。
[それでは両者、試合を開始してください]
ビーッと、ブザーが鳴った瞬間に壱花と蓮は動く。壱花は瞬時に純白の両刃片手剣――カリバーンを
「はぁっ!」
続けて左手の手刀で壱花の喉目掛けて突きを放つ。が、壱花はボクシングのスウェーの要領で手刀をかわすとそのままぐるりと蓮の下を潜り抜ける要領で蓮の背後に回ろうと試みた。
「うおっと!?」
しかし咄嗟に蓮も距離を取る。流石に初っ端の高速戦闘でここまで自在な三次元機動を見せてくるとは思わなかったようだ。
「へぇ、初撃のカウンターをかわすなんてやるなぁ」
「特訓は伊達じゃないのよ」
にっと笑みを見せながらの蓮の言葉に壱花も挑発的な笑みを浮かべて返し、カリバーンを構え直す。拳の利点は小回りの良さ、対して欠点はリーチの短さ。インファイトに持ち込まれては危険、徹底して剣の間合いを意識しヒットアンドアウェイで完封する。蓮は割と熱くなりやすい性質だし、我慢できず無理に攻めてくればカウンターの零落白夜で斬り倒す。これが今回の作戦だ。そのためセシルには回避のための三次元機動を教えてもらっているし、総司からも少々専門外ながら体術相手に対する戦い方の指南を受けている。
「せやああぁぁぁっ!!」
「うおおぉぉぉっ!!」
壱花のカリバーンと蓮のナックルダスターがぶつかり合い火花を散らす。しかし壱花は懐に潜り込まれそうな危険があればすぐ回避に徹し、かわしきれなければ盾を突き出して時にはぶん殴ってでも蓮を懐に潜り込ませない。数十分の戦いの末、壱花の残りシールドエネルギーは七割くらいだが蓮は五割を切った。今のところ優勢だ。
「ふひい、剣だけじゃなく気を抜いたら盾で殴ってくるとか……」
「だって防ぐだけじゃもったいないじゃん。漫画やアニメでよく見るよ、盾で殴るっていうの」
「まーそりゃな」
蓮は壱花の荒っぽい戦闘方法に苦言を漏らすが壱花は悪びれもせずにそう答え、蓮は腕組みをしながらうんうんと頷く。
「隙あり!」
思わず取ってしまったのだろうその動作で生じた隙を壱花は容赦なく突き、再び突進、剣の間合いに入った瞬間剣を振り下ろす。
「ま、データ収集はこの辺でいっか」
だがその時彼はそう呟く。
「もう、こっから先はやらせない」
彼が不敵な笑みを浮かべてそう言った瞬間、蓮の肩アーマー――試合開始前に壱花が「殴られたらただじゃ済まない」と評したものだ――がスライドして開き、その中心の球体が光を放つ。
「ごふっ!?」
瞬間、壱花は目に見えない何かに殴り飛ばされたかのように吹き飛んだ。
「けほっ、い、今のは!?」
「あんなの
予想だにしない攻撃に怯んだ壱花。しかしその一瞬の隙を見逃さず蓮は壱花の懐に潜り込む。
「しまっ!?」
「
直後、獣の笑みを浮かべた蓮の
「なんだ……あれは?」
壱花のいたピット――現在は総司とセシルがモニターで観戦している――で総司が驚いたように声を漏らし、セシルが眉をひそめる。
「衝撃砲だ。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す……ブルー・ティアーズと同じ第三世代型兵器……まさか接近戦特化機体に装備されているなんて……」
「だが、そう考えれば蓮の機体にこれほど合う射撃武器は存在しない……」
セシルが計算外だというように総司の質問に答えると総司もそう呟く。蓮の機体は彼の得意とする中国拳法をいかんなく発揮できるようなコンセプトになっている。そう考えれば衝撃砲程その機体に合う射撃武器はない。なにせ砲身が存在せず、さらに圧力によって生じる衝撃が砲弾となる。つまり実弾兵器なら弾丸、光学兵器ならエネルギーポッドの必要もない。結果としてスペースは最小限となり、彼の体術を殺すことはないのだから。
「俺、射撃は苦手なんだよね。点みたいなちっちゃい弾を狙いを定めて遠くの相手にぶち当てるとかめんどくせーじゃん」
蓮はやれやれと肩をすくめながらそう呟く。聞いちゃいねえよと考えながら壱花はすぐに蓮の背後に回り込み、カリバーンを構える。
「だけど――」
「ぐっ!?」
しかしその攻撃は不可視の衝撃によって阻まれてしまう。咄嗟に盾を構えて顔面など急所への直撃は防いだものの、全身を狙うような範囲攻撃は盾で覆えない部分までは防ぎきれず、さらに蓮の追撃を警戒して下がらなければならない。
「――壱花は近づいてきてくれるから。最大飛距離は落ちても散弾モードにして壱花のいる方に点じゃなく面で撃ち込んじゃえば勝手に当たってくれる。楽だよね」
そう言ってにしし、と蓮は笑ってみせる。壱花の武器はカリバーンと
「確かに拳のリーチじゃ剣には届かない……けど、この龍砲は散弾モードにしても剣よりはリーチは長い」
蓮は腕組みをし、不敵な笑みを浮かべる。隙だらけだが先程のように迂闊には攻め込めない。下手に攻め込めばカウンターの不可視の衝撃と間髪入れない中国拳法のコンボが待っている。だが衝撃砲による弾丸はエネルギーによるもの、零落白夜で斬り裂き無効化する事も不可能ではない。
「あ、零落白夜だっけ? エネルギー無効化能力……無駄だよ? それを使うと分かってるなら龍砲を囮にして俺は距離を取っちゃえばいい。後は零落白夜のデメリットでシールドエネルギーが減っていく壱花を見物するだけのお仕事さ?」
「ぐっ……」
しかし蓮は零落白夜の対策も練っており、しかもそれを発動する前に壱花に口先で披露していた。だがこれで壱花は零落白夜もそう簡単に使えなくなる。万事休す、その状態の壱花を見て蓮はまたニヤリと笑った。
「喧嘩っていうのは情報収集も大事なんだよ、壱花……君の剣は封じさせてもらう。俺の策でね」
「中国だからって孔明気取りかこんちくしょー」
ふふん、とどや顔を見せる蓮に対し壱花はぶーぶーとブーイングを放つが蓮はその挑発にも乗らない。
(今思い出した……蓮君って基本考えなしなんだけど戦闘に入っちゃえばめっちゃ冷静なんだった……しかも中国で何を教わったのか知らないけど戦略っていうものを覚えちゃってる……)
壱花は心中で頭を抱える。剣は龍砲で封じられ、零落白夜も先ほど封じる策があると答えられている。下手に接近をしてもタイミングを合わせてのカウンターで返り討ちにあう。今はそういう状況だ。
(でも……負けない!)
それを壱花は冷静に分析するとキッと目を研ぎ澄ませた。歴然とした実力差を埋めるために必要なのは絶対に負けないという『心』、気持ちだけは絶対に負けない。その『意思』が絶望的な戦いにも一筋の光明を見出す。そう信じて、あとは突き進むのみ。
「蓮君」
「何さ?」
「本気でいくよ」
壱花は真剣に、間合いを把握して相手を見つめる。その気概に押されたのか蓮はなんだか曖昧な、しかし間違いなく歓喜の含んだ表情を浮かべる。
「ああ、来なよ壱花! 格の違いってやつを見せてやる!」
壱花が攻める。蓮はそれを迎え撃つ。互いにそれを理解しているのか蓮は生身で言うならば腰を落とし拳を開いて前に出す迎撃の体勢を取り、壱花は剣を構えて半身に取る、燕返しの構えを取って加速体勢に入る。
(
壱花が心中で呟く。千雪が得意としていた技術、初速から一気にトップスピードまで出せるその名の通り瞬間的な加速技。剣のリーチの短さを補うには必須の技術であり、蓮のカウンターがタイミングによるものなのだとすればそのタイミングをずらすための唯一の策だ。秘密で特訓していたためばれてもいないはず。
(でも、チャンスはこの一回のみ)
しかし要するにただの不意打ちだ。ただの高速突進なら二度も通じるほど代表候補生の肩書きを持つ者は間抜けではないだろう。これで仕留めきれなければ龍砲と中国拳法の迎撃コンボを破る策は自分にない、敗北に向けて一直線だ。
「ここが勝負どころ……」
壱花は目を閉じ、気合を入れる。この一刀、それに今までの全てを賭ける。その思いを込めて心身ともに気を練る。
「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
「っ!?」
壱花は心身ともに気を練り、それが最高に高まった瞬間雄叫びを上げながら蓮に突進。その剣――カリバーンが純白の光をまとい零落白夜の発動を示す。その突然の特攻それも急激な加速に蓮は反応できていなかった。
「秘剣――」
そして、燕返し――回避不能の刃の牢獄――が蓮に届く……
と思ったその瞬間、突如ズドオオォォォンという轟音と衝撃波が響き渡った。その轟音に思わず壱花も手を止め、カリバーンは蓮の首皮一枚のといってもいいほどに近い距離でストップする。
「な……何?」
「壱花、試合は中止だ! すぐにピットに戻って!」
状況が分からず混乱する壱花に蓮からの言葉が飛ぶ。その言葉を聞いた瞬間、ISのハイパーセンサーが緊急通告を行った。
――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。
「えぇっ!?」
アリーナの遮断シールドはISと同じものでできている。それを破壊、貫通するだけの威力を持った機体が乱入し、こちらをロック。それはつまり、絶対絶命というやつだ。
「壱花、早く!!」
「蓮君はどうするの!?」
「俺が時間を稼ぐから、その間に逃げるんだ!」
蓮の言葉に壱花が返すと彼は謎のISを隠す煙を見ながら言う。
「そんな、蓮君を置いて逃げるなんて!」
「大丈夫だって! 俺だって最後までやるつもりはない。こんな異常事態、すぐにでも学園の先生たちがやってきて事態を収拾――」
そこで蓮の言葉が止まる。煙の中から一筋の光線が紫電を纏って放たれたのだ。蓮は咄嗟にその光線をかわしながら、壱花に接近すると彼女の手を取って一緒に距離を取らせる。その時、光線の勢いによってか煙が晴れ、謎のISの姿が露になった。
「……なんなの、あれ……」
壱花が怪訝な表情でそう漏らす。煙の中から姿を現したISは、170センチほどの平均的な男性、女性にしては相当な長身に思える高さで、真っ白なまるでウエディングドレスのような装甲で全身を包んだ
さらに頭には金色の角のようなアクセサリーがつけられ、手にはそれでアリーナのシールドを殴り破ったのだろうか、紫電がバチバチと走る
「お前、何者だよ」
「……ウィィ」
「もう一度言うよ、壱花……逃げて」
「うん、それ無理」
「はぁ!? そんな事言ってる場合じゃ――」
「そうじゃない」
蓮の指示を壱花は真っ向から否定、蓮はこの期に及んで我儘言うなと叱ろうとするが壱花は静かに首を横に振って答え、謎のISに注意を向けつつも蓮にピットを見るように促し、蓮も怪訝な表情でピットを見るが、そこでぎょっと目を見開く。ピット・ゲートがいつの間にか閉じていたのだ。もちろんさっきまでは開いていたはずである。
「ウィィ……」
バチバチ、と戦槌から紫電を樹の枝状に走らせながら、謎のISが再び声のような機械音を発する。敵の狙いはアリーナにいる二人組だ。
「しょうがない……壱花、無茶はしないでね」
「その言葉そっくり返すね」
やむを得ない、と蓮は諦めてしかしちゃんと注意を行い、だが壱花は不敵な笑みを浮かべてそう答える。その言葉に互いにふっと笑うのであった。
今回はクラス対抗戦。そして甲龍のとっておき武装、龍砲の登場です。蓮は体術による超接近戦を得意としていることと今回は壱花対策のために最大射程距離を落とす代わりに散弾にして相手の接近を封じ、怯んだところに体術に繋げる迎撃コンボに使用しました。
そしてゴーレムも登場。原作のゴーレムにアレンジを加えました。アレンジ分は見る人が見ればすぐに分かるようなものを。というより、ようやくクロスオーバーが本格的になってくると言いますかねフフフ。
でもって次回はそのゴーレム戦。おおよその流れはもう組み上がってるので割と早く書き上げられそうではあります。
今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。