インフィニット・ストラトス~IF(インフィニット・フェイト)~ 作:カイナ
「もしもし!? 織斑さん、聞いてますか!? 凰さんも、聞こえてますー!?」
管制室。兎佐はプライベート・チャネルを使って壱花と蓮に連絡を取ろうとしていた。いや、取っているのだが壱花と蓮は二人とも「「私(俺)達でこいつ止めるから」」の一言だけ言って通信を切り、兎佐は必死に呼びかけているのが現状である。なおISのプライベート・チャネルは別に声を出す必要はないのだが、それを失念してしまうほど彼は慌てている。
「……本人たちがやると言っているんだから、やらせてみてもいいだろう」
それに対し千雪は冷静に呟く。しかし壱花のように付き合いの長い間柄でなければ気づかれない程に僅かだが声が震えていた。
「お、お、織斑先生! 何をのんきなことを言っているんですか!?」
「落ち着け。コーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」
千雪の言葉に兎佐がじたばたとしながら声を上げると千雪は冷静にそう言いながら紙コップにサーバーからコーヒーを注ぎ、横に置いていた容器から白い小さな粉状の調味料をコーヒーに入れる。
「……あの、先生……それ、塩ですけど」
その時兎佐が指摘し、千雪の動きがぴたりと止まる。「何故ここに塩がある」「知りませんけど、大きく塩って書いてます」とやり取りが行われた。
「…………」
「…………」
それから何やら嫌な沈黙が辺りを支配する。
「……あ、あのっ、そのっ……や、やっぱり織斑先生も妹さんの事が心配なんですよね! だから柄でもなくそんなミスを――」
「佐藤先生、コーヒーをどうぞ?」
話を逸らそうとする兎佐だがそれは愚策。千雪は怪しい笑みを浮かべながらやけに重い威圧感を背負って兎佐に先ほど入れた塩コーヒーを持って迫る。
「え、あ、あの……織斑先生、それ、お塩が……」
「どうぞ。熱いので一気にどうぞ」
パワハラだ、これ絶対パワハラだ。兎佐はそう確信するが口に出すことは出来ず涙目になり、コーヒーを淹れた紙コップを受け取る。
するとその時管制室のドアが開き、二人の少年が管制室へと入ってきた。兎佐はその相手にびっくりした後、コーヒーから話をそらすために二人に話しかける。
「篠ノ之君、オルコット君、何をしているんですか? すぐに避難を――」
「織斑先生! 僕にISの使用許可を! すぐに出撃できます!」
「そうしたいところだが、これを見ろ」
しかし兎佐の言葉をセシルは無視して千雪に直談判。だが千雪はセシルの言葉にそう返しながら電子パネルを数回叩く。表示された画面にはどれも同じような数字が並んでいた。
「遮断シールドレベル4に設定……しかも、扉もすべてロックされて……あのISの仕業ですか!?」
「そのようだ。これでは避難することも救助に向かうことも出来ないな」
表面上は平静を保っているが内心は焦れているのだろう、千雪はせわしなく電子パネルを何度も叩いている。
「でしたら、緊急事態として政府への助勢を――」
「やっている。現在も三年の精鋭部隊がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除出来ればすぐにでも部隊を突入させる」
「……つまり、今俺達は待っていることしかできない……という事か……」
続いてのセシルの言葉にも千雪はすぐに反論。今アリーナに入る事は出来ず、謎のIS相手に戦えるのは壱花と蓮のみ。システムクラックが完了しなければこちらからアプローチする事は不可能。その状況を理解した総司はそう呟き、モニターで今もなお激戦を繰り広げている壱花達を見る。
(壱花……頼む、無事でいてくれ……)
そして総司は神に願うように目を閉じる。己の無力感を噛みしめ、歯を強くきしませながら。
「ヤァァ……」
「つっ!」
きしむような機械音がまるで声のように聞こえ、謎のISは
「がああぁぁぁっ!!??」
「蓮君!?」
しかしその瞬間戦槌から電撃が走り、蓮の身体を電流が走り麻痺した瞬間振り切った戦槌が蓮を弾き飛ばし地面へと叩き落とす。
(
だがその間に壱花は謎のISの背後に回り込んでおり、不意をつくように一気に加速。カリバーンを振り上げた。
「このっ!」
「ウゥゥ……」
壱花は加速の勢いをつけてカリバーンを振り下ろすが、謎のISは振り向きざまに戦槌を無茶苦茶に振るい、壱花を牽制。さらに次の瞬間相手の手の甲につけられたビーム砲口が光り、白式からも警告が飛ぶ。
「くっ!」
咄嗟に身を翻してその場を離脱、同時に謎のISの腕から放たれたビームが虚空を焼き、壱花を狙って連射される。
「龍砲! くらいやがれっ!!」
しかし地面に落ちていた蓮は声を上げて衝撃砲を連射。射撃は苦手と公言している通り狙いは大雑把だが足を止めている謎のISのいる辺りを大雑把に狙うだけで牽制には充分。謎のISが蓮に気を取られた隙に壱花はビームの弾幕から離れ体勢を立て直し、蓮もひゅんと空を飛ぶと壱花と合流。謎のISは距離を取った状態で沈黙した。
「あんにゃろ、あの戦槌を防いでも電流で追加攻撃とか、防御も碌に出来やしねえ」
「瞬時加速にも反応してくるし、下手に近づいたらビームのカウンターが飛んでくるし……私達と相性最悪だね」
接近戦用の武器では防御をしても電流が流れてくる、さらに強力なビーム砲による迎撃は接近戦を主体とする二人にとって相性が最悪である。先ほどから攻撃を仕掛けているものの、どちらかの攻撃が迎撃され、もう片方がその隙をついて追撃してもその攻撃を回避または防御してからビームの連射で距離を取る事を余儀なくされる。それが既に七回ほど繰り返されていた。
「……ねえ、蓮君」
「ん?」
そこで壱花は何か考える様子で蓮に声をかけ、蓮もどうかしたか、と壱花に顔を向ける。
「あいつ、何か機械染みてない?」
「はぁ? ISは機械だよ?」
「ううん、そうじゃなくって……あれ、本当に人が乗ってるのかな?」
「乗ってるに決まってるだろ? 人が乗らなきゃISは動かな……」
壱花の疑問の声に返す蓮。しかしその言葉は途中で止まり、彼も謎のISを見る。
「……そういえばあれ、さっきから俺達が話してる時も、あまり攻撃してこないな。まるで興味があるみたいに聞いてるような……」
蓮はそこまで呟いて、「いやでも!」と言って首を横に振った。
「ありえないよ! ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものなんだから!」
「確かに私もそう習った……だけど、例えばどこかの国が無人で動かせるISの開発に成功。利権を得るためにそれを黙っているって可能性だってある」
蓮の主張に対し壱花はそう反論。蓮はしばらく黙った後に「はぁ」とため息をついて降参を示すように両手を挙げた。
「分かった、了解。そんな議論をここでしても無駄さ……んじゃ仮に、無人機だとしたらどうなの?」
「簡単な事よ」
蓮の言葉に、壱花はニヤァと笑みを見せる。
「機械相手なら、容赦なく叩き潰せる」
「は、ははは……」
壱花に恋い焦がれる男子がこの場にいなくってよかったよ、と蓮は心中で考えるのであった。
「ううぅぅぅ~……クラックはまだ終わらないんですか!?」
「騒ぐな! それより避難完了の報告は!?」
「は、はい! アリーナからは全員退場を確認! 避難集合先であるグラウンドへの全員集合の報告はまだ来ていませんが、今のところ集合している生徒達に怪我はないそうです!」
一方管制室、兎佐は生徒が大ピンチなのに自分達からは何も出来ない状況にうろたえ始め、しかし千雪がそれを一喝。総司はモニターを心配そうな顔で凝視し、セシルも祈るように両手を顔の前で握り合わせながらベンチに座り込んでいる。
「……ん?」
だがその時、セシルはプライベート・チャネルへ通信が入った事に気づき、その僅かな通信内容を聞くと静かに頷き、誰にも気づかれぬように管制室を出ていくのであった。
「はぁ~……なるほどね。そりゃ……予想外だわ」
「ふっふっふ。まだまだ孔明を名乗るには早いようだね、蓮君」
「いや、名乗った覚えねーし」
一方アリーナ。蓮が壱花の策を聞いて呆けた声を出すと壱花は得意気な顔になり、しかしその台詞に蓮はツッコミを入れた。
「そういうわけで、頼むよ蓮君!」
「了解!」
蓮が壱花に言われた通り衝撃砲を構え、最大出力を放つために補佐の力上展開翼が広がる。その蓮の前に壱花が彼に背中を向ける形で立ち塞がった。
(瞬時加速の原理は後部スラスター翼からエネルギーを放出、それを内部に一度取り込み圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して爆発的に加速する。つまり、外部からのエネルギーでもいいってこと!――)
「龍砲、最大出力!! ぶっちかませー!!!」
(――そして、瞬時加速の速度は使用するエネルギー量に比例する!!!)
蓮の放った衝撃砲のエネルギーを得て壱花は一気に加速。それは正に白き流星の如く。
「零落白夜、最大出力!!!」
壱花が叫ぶと共にカリバーンを純白の光が覆い尽くす。流星のような突進に今までの幾度も壱花の奇襲を退けていた謎のISも反応できず、戦槌を構える隙さえ与えずに、カリバーンが謎のISの心臓部分を貫き、背中から刃が突き出る。
「いいぃぃぃっ、けえええぇぇぇぇっ!!!」
そして零落白夜の純白の光が奔流、その切っ先より先にあるものを貫かんばかりに一直線に放出された。
「やったか!?」
蓮が叫ぶ。敵の心臓部分を貫いた突き、人ならば間違いなく命はない。仮に壱花の予想通り無人機なのだとしてもシールドエネルギーを無視して貫かれれば内部は無事では済まないはず。
[ナアアアアアアアアアアアアアアアア―――――オゥッ!!]
だがその時、まるで地獄の亡者の如き狂った雄叫びのような音が謎のISから発され、ガクガクと震えながら、謎のISの右腕が、その手に握る戦槌を持ち上げて振り上がる。
[ワ……シ、ト……ショ……イ……]
「壱花! 逃げて!!」
謎のISから、間違いなく機械音ではなく、人の話す声のような音が聞こえる。しかしそれは近くにいる壱花にしか聞こえず、蓮は声を張り上げて壱花に逃げるよう叫んで突撃。しかし距離が遠すぎて間に合うか分からない。
[ブ……テッ……]
紫電を放出しながら、戦槌が展開する。
「狙いは?」
しかし、壱花は静かに微笑み、そう呟く。
[ツ、リ――]
「完璧だ!!!」
そしてその戦槌が振り下ろされる寸前、客席からのブルー・ティアーズビット四機同時狙撃が謎のISを貫いた。そう、先ほどの一撃。それは謎のISへの攻撃はもちろん、零落白夜によってアリーナのシールドを破壊する事が目的。アリーナと外部を遮断する要素の一つであるシールドを破壊すれば最悪逃げる事も出来るし、出口が出来るという事は入り口が出来るに等しい。セシルを援軍として呼び寄せることだって可能という訳だ。
零落白夜の一撃によってシールドエネルギーがない状態でブルー・ティアーズの連続射撃を浴びればひとたまりもないのか、謎のISは戦槌を取り落とすと動かなくなり、壱花がカリバーンを
「……よし、もう動かないよな」
「制圧完了」
警戒しながら謎のISの確認をしていた蓮はようやく微動だにしなくなったのを確認して頷き、セシルはスターライトMkⅢを構えながら静かに呟く。
「ふぅ……」
それから壱花はようやく息を吐いて、額の汗を拭う。謎のISの正体はなんなのか、どうしてここに現れたのか、目的は何か。その理由は分からないが、とりあえずIS学園を襲ってきた脅威の撃破に成功したようである。
「いーたーいーよー! 背中痛いよー!!」
「自業自得だ馬鹿者!!!」
そして保健室。背中全体に湿布を貼りうつ伏せになっている壱花が悶えながら叫ぶとベッド脇に用意した椅子に座りながら千雪が叱る。その額には複数個の怒りマークが浮かんでいた。
瞬時加速に使用するためとはいえ、壱花は衝撃砲の最大出力を背中で受けていた。その衝撃はシールドエネルギーを突破する程の威力を持ち、本体にダメージを貫通させた。要するに強すぎる衝撃砲の一撃が壱花の背中に打撲の後遺症を残していたのだ。
「体に致命的な損傷はない。酷いのは背中の打撲くらいというところだ。数日は地獄だろうが……まあ慣れろ。では俺は忙しいからもう行く。お前も少し休んだら部屋に戻っていいぞ」
「お兄ちゃんのひとでなしー!」
「好きに吼えていろ。それだけの元気があるなら俺も安心だ」
壱花に必要以上にかまうことなく、千雪はすたすたと迷いのない足取りで保健室を出ていくのであった。
「織斑先生」
保健室を出て少し歩き、人気のない廊下に差し掛かった時、丁度千雪の目的の方から兎佐が何かの資料を手にやってきた。
「あのISの解析の結果が出ました」
そして辺りに人気がない事を用心深く確認してからそう口にする。壱花、セシル、蓮のコンビネーションによって機能停止したIS。それはすぐ重要物隔離エリアへと運ばれ、解析を開始されていたのだ。
「あれは……無人機でした」
「やはりか」
兎佐の報告を千雪はその返答を予想していたように返す。
「ですが、どのような方法で動いていたのかは不明です。織斑さん達の攻撃で機能中枢が焼き切れていました……修復も、恐らく不可能かと」
「コアはどうだった?」
「それが、登録されていないコアでした」
「そうか、やはりな」
兎佐の報告を受け、千雪はどこか確信じみた言葉を紡ぐ。そんな彼に兎佐は怪訝な表情を見せた。
「何か心当たりがあるんですか?」
「いや、ない……今はまだ――な」
兎佐の問いかけに千雪はそう答える。その表情はひどく冷たいものだった。
「織斑壱花、完全復活!!」
謎のIS襲撃事件から数日後の休日。やっと打撲の痛みから解放された壱花はテンション高くそう叫ぶ。同室の総司もパチパチパチと気のない拍手を返していた。なおクラス対抗戦は中止され、再試合のめどは立っていないそうだ。
「織斑さん、篠ノ之君、いますか~?」
するとそんな気の抜けたノック音と優し気な声がドアの向こうから聞こえてきた。
「あ、はーい」
ドアに近い、というか立っていた壱花が応対のためドアに向かう。少し遅れて総司も後に続いた。
「あ、二人ともいますね。じゃあお引越しです」
「……はい?」
「佐藤先生、主語をつけてもう一度お願いします」
兎佐の言葉に壱花が呆けた声を出すと総司がやや睨むような目で兎佐に告げる。
「す、すいませんすいません! えっと、先月織斑先生からお話があったと思うんですが……織斑さんの専用個室が完成しましたので、移動をお願いします。篠ノ之君にはしばらくこの部屋で一人になってもらいますが、しばらくしたらまた部屋の整理をつけて移動、または他の生徒が移動してくることになると思いますのでよろしくお願いします」
「「はい、分かりました」」
兎佐は総司の威圧に負けて謝った後、詳細な説明を開始。二人はこくりと頷くと壱花はてきぱきと荷物をまとめていく。
「じゃあ、ソウちゃん。またね」
「ああ、また明日」
壱花と総司は同居人としての最後の挨拶を行ってから、壱花は部屋を出ていく。それから兎佐の先導で向かう部屋は真新しい頑丈そうなドアと、その横にカードリーダーやガラスで守られた数字入力式のパスワードキーが設置されている。なおパスワードキーとは反対側のドアの横にはインターフォンやカメラが設置されていた。
「えーと、工事が遅れた最大の理由がこのセキュリティなんですけど……まず、このカードキーをこのパスワードキーの横にこうやって通してください」
そう言い、兎佐は取り出したカードキーをパスワードキーの横のカードリーダーに上から下へと通す。するとピッと音がしてガラス戸が開き、パスワードを押せるようになる。
「それからパスワードを入力します。今は仮に設定してますけど、あとで織斑さんが設定し直してください」
兎佐はそう説明しながら「9999」と入力。するとぴぴっと音がしてドアの方からカシャッと音がした。
「次に指紋の認証です。織斑さん、パスワードキー上部のパネルに指を置いてください」
「あ、はい」
しかし続く兎佐の指示を受けて壱花がパネルに人差し指を置く。それから少し間を置いてぴぴっと音がして再びドアからカシャンという音が聞こえた。
「あ、これで入れるんですか?」
壱花はそう早合点してドアノブに手をかけ、ドアを開けようとする。しかしガチャガチャという音がするのみでドアは開かない。それを見ながら兎佐は苦笑した。
「いえ、これで最後なんですが……ここまで来て、やっとドアの鍵のアナログ錠のシャッターが開いたんです」
苦笑しながら兎佐はそう言い、ドアの鍵をアナログ錠で開けてドアを開く。なお鍵はそう簡単に複製できない特別品らしい。
「げ、厳重すぎるでしょ……」
引きつった笑みを浮かべる壱花。確かに彼女は世界で唯一ISを動かせる女性という重要人物だ。だがそれにしてもたった一つの部屋に使うセキュリティが厳重すぎる。
「本当はパスワードキーとアナログ錠だけの予定だったんですが……織斑先生が“この程度のセキュリティで壱花の安全を保障できるか!”と、パスワードキーを守る硬質ガラスとそれを開くためのカードリーダーと指紋認証装置とその他今回のセキュリティ設定に使用する各種装置を実費で揃えまして……ちなみにさっき説明した手順通りに操作をせず無理にドアを開けようとすると寮長室、つまり織斑先生の所でアラームが鳴る設定になっています」
「お兄ちゃん……」
呆れを隠さない兎佐を見た壱花も兄に呆れ果てる。大事にしてくれるのはいいのだが、相変わらずシスコン兄貴だった。
「まあいいや。中は……基本さっきの部屋と変わんないんですね」
「あ、はい。家具に関しては全て共通のものになっています。ただ、織斑さんはお料理も出来るということですので、簡易キッチンを用意しておきました。それとお年頃の女性がシャワーだけというのは不満だと思いますからお風呂と、一応トイレも設置しています」
「既に部屋の中である程度生活可能な部屋として機能してますね」
キッチン、浴槽、トイレ完備。まだちゃんと確認していないが来客対応用のインターフォンとカメラ。既に他の男子部屋と違う待遇に壱花は苦笑した。至れり尽くせりとはこのことである。しかも元々二人組でのルームシェアの形で使用することを想定していた部屋をそのまま一人のために使用。キッチンなどのスペースがあるとはいえそれでも一人暮らしには充分すぎる広さだった。多分総司を一緒にこの部屋に呼んでも生活するには不便はないだろうな、と壱花は思う。
「あ、部屋はオートロックがかかるようになってますから、鍵を忘れないように気をつけてください。何かあったら寮長室に。織斑先生が予備のキーを厳重に保管していますので」
「あ、はい」
千雪なら安心だ。壱花は自分の兄である欲目を差し引いてもそう頭の片隅で考えながら、「では失礼します」と挨拶する兎佐に「ありがとうございました」とお礼を返した。
「さてと……荷解きしよっかな」
ドアが閉まり、オートロックがかかったのを確認した後、壱花はさっきまとめた荷物の荷解きにかかるのであった。
「へっくし……誰か噂しているな…………」
一方寮長室。千雪は一つくしゃみをした後、シリアスな表情を浮かべて携帯電話のあるアドレスへかけ、通話口で相手の接続を待つ電子音を聞いていた。なお超シリアスだが散らかりきった部屋によってそのシリアスさが相当打ち消されていることを本人は知らない。
[はい、もしもし~]
「久しぶりだな……」
[ええ、久しぶりですね]
電話口から聞こえてきたのはともすれば能天気にも聞こえる明るい男性の声。それに対する千雪の声はかなり重い。
「数日前、IS学園に謎のISが襲撃を仕掛けてきた」
[わお。無人機の襲撃とは、IS学園も物騒になってきたものです]
「……俺は無人機、など一言も言ってないぞ?」
[おや、そうでしたか? 勘違いしてしまいました]
まるで相手を切り裂く刃のように鋭く、敵を貫く弾丸のように重い言葉の千雪に対し、電話の相手はへらへら笑っているような明るい軽い声で返す。
「単刀直入に聞く……何が目的だ?」
[ねえ……フランケンシュタイン、って知っていますか?]
千雪の問いかけを無視しているかのように、電話の相手はそう尋ねる。
「質問に質問で返すな。お前の目的――」
[フランケンシュタイン、って知っていますか?]
まるで録音した音声を再生したかのように、先ほどと全く同じ音量、調子、イントネーションで続けられた質問に千雪は舌打ちを叩く。
「伝説の醜い怪物の事だろう? 質問には答えた、今度はお前が俺の――」
[残念でした♪ フランケンシュタインというのはその怪物を生み出しちゃった科学者、ヴィクター・フランケンシュタインの事言うのですよ♪]
千雪の言葉を遮る電話相手の言葉。それについに千雪の頭に怒りマークが浮かんだ。
「お前いい加減にしろよ!? いきなり電話をかけた俺が悪いが、お前は人の話を聞く気が――」
[フランケンシュタインは曲がりなりにも一つの命を人工的に生み出した……これは正に魔法のようなものですよね?」
「――お前何を!?」
千雪の話を遮り、電話相手はそんな事を言う。
[命を生み出したという事は、魂を生み出すという事……その魂は人が死んだ後、どこに行くのでしょうね……特に強い魂……例えば、英雄の魂なんて]
「おい……お前は一体何を言っているんだ?……」
[あはは、独り言ですよ。では]
「っ!? お、おい待てっ!!!」
電話相手の変化に気づいた千雪が声を上げるが、その耳に聞こえてきたのはブツッという電話が切れた音と、それを示すツー、ツー、という寂しい電子音。千雪は舌打ちを叩くと電話を切り、先ほどのアドレスをもう一度表示する。
「……くそっ!」
しかしあの様子では何度電話をかけても無駄。その相手との長い付き合いの中で覚えた経験から、千雪は電話を諦めて、苛立ちを何かにぶつけるように携帯をベッドの枕向けて投げつけるのであった。
今回のメインはゴーレム戦。ある程度は原作準拠ですが、戦い方はなるべくオリジナル準拠にした上でほんの少しですけどゴーレムにもクロスオーバー元を再現させたつもりです。
そして壱花のお引越しと今回のオチは千雪が担当。今回のゴーレムの関係者(敢えて名前は言わない)との話で終わらせました。まあ会話になってなかったけど。(笑)
次回は日常編を予定しております。では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。