pixivに続きを載せていますが、ヒロインは大人女性ですので,複数親父、髭、仮面と関わっていきます。(フォール・イン・ラブ)
荷物は最低限、少ないほうがいい。カート付きのスーツケースに、着替えなどの必需品の方に、筆記具と手帳やスケッチブックなどをたくさん用意するようになったのは年の功ってやつかもしれない。
ノートパソコンや電気の必要なものは重いし、荷物になるだけだから、旅行に行くときも、イベントに参加するときもだ。
自分が行くのは東京の筈だったけど、新幹線に乗って
ところが、新幹線に乗って、中で居眠りをして、ふと目を覚ますとぎらぎらと太陽の照りつける世界にいた。
しかも、外、何故か、傍らにはスーツケースがあることに疑問を抱いたが、それは些細なことだった。
周りは見たことのない場所、世界だったのだ
(ここは日本じゃない、外国、いや、マンガに出てくる花咲ける少○のようなアジア、ペルシャを彷彿させるような)
「そなた、何者じゃ」
振り返ると一人の女性が立っていた、頭から黒いベールを被っている。
美人だ、いや、映画に出てくる外国人の女優と比べても、いや、それ以上に綺麗な女性だった、女の自分でも見ほれてしまうほどの。
タハミーネ、それが美女の名前らしかった。
どこかで聞いたことがある、最近、読んだ小説を思い出したのは偶然だろうか。
「美夜のいた国には戦がないのか」
「よその国ではあるけど、日本は小さな島国だし、戦争はよくないって国の憲法で決まっているから」
タハミーネは自分から、あまり話すことはしない。
最初は性格なのか、話すのが苦手なのかと思ったのだが。
ここは敵国で自分はとらわれの身だからと説明してくれた。
益々、そっくりだ、というより、そのままではないか。
よく、ライトノベルや映画で主人公が異世界にトリップするという話があるが。
木桜美夜、まさか、アル○ラーン戦記の小説の中にトリップするとは。
しかし、自分が若いティーンの年なら美形がたくさん出てくる小説の中に入りこんでしまうなんて凄いなどと単純に喜べるのだが。
戦はひとまず終わっているとはいえ、タハミーネは捕虜の身、そんなところに自分が居候していていいのだろうか。
彼女は関わる男を不幸にする女と呼ばれている。
確かに美女の為に国が滅びることはある、歴史や小説でも題材になっている。
たまに太った国王、イノケンティスが来て話しかけるが、ずっと無言だ。
でも、彼女にしてみれば、いや、普通の人なら無言になるのも当たり前では。
敵に囲まれているようなものだから。
「モデルになってくれる」
噴水のそばの東屋でたたずむ美女をスケッチするのが、ここ最近の美夜の暇つぶしというか仕事だった、も彼女に仕える侍女達に見せると褒められた。
(あまり、絵は得意というわけじゃないけどな)
たまにイラスト、絵を描いたりしていたが、それが、こんなところで役に立つとは。
人物ばかりではつまらなく思えてきた。
皮肉なことにというか、タハミーネの住んでいる場所は特別な場所らしい、綺麗なものが多い、王の配慮もあるのだろう。
噴水、花壇の花、建物の柱の装飾、造形、エキゾチックな異国文化だ。
ここが現実、異世界トリップ、創造、小説の中なのか、最初は悩んで答えを出そうとしたけど、それをやめたのは答えが出ないからだ。
というのも小説の中ではタハミーネとアルスラーンに正式な親子関係、つまり血の繋がりはない。
(王妃様は自分だけが大切だからと周りの家臣達が)
だが、自分の前でモデルをしてくれている彼女を見ていて、単純にそうとは言えない気がするのは考えすぎなのではないか。
夜の庭園を描いてみようと思って庭に出た。
同じところばかりではつまらないと思ったが、用心にこしたことはない。
司祭、ボダンはタハミーネ、彼女のことを異境を信じる悪魔の手先だと皆の前で平気で言ってるのだから、その彼女と一緒にいる異国人。
(ここにいると危ないかもしれない)
戦は終わり落ち着いたとはいえ、それは表面上だ。
だが、ここは食事には困らない、風呂にも入れる、だが、それだけだろうか。
息子のアルスラーンは母親のことを心配しているだろう、元気ですよと伝えたところで言葉だけを信じろというのは難しい、電話やカメラがあればいいのだが、それもない。
(んっ)
ふと庭に人影が見えた気がして足を止めた。
月明かりのせいか、人の姿が見えた、男が空を月を、見ているのだろうか。
その姿が、ひどく印象的だった。
あなたの息子に会いに行く、スケッチを見せてくると言われたときタハミーネは、いつも無表情な顔に驚きを浮かべた。
何か言いたげに彼女の唇がわずかに開きかけた。
心配してると思うのよ、その言葉に首がわずかに、ほんの少しだが。
「逢いに行ってくる、あなたの息子に」
一人で王宮を出たつもりだった、だが、その後ろをルシタニアの王宮からずっとつけてきている者がいるなど、美夜は少しも気づいていなかった。
知っている場所を旅するなら不安などないし、楽しい気分になれる。
だが、見知らぬ場所、しかも外国だ、唯一の救いは言葉が通じるということだろうか、街中を歩いていると周りから、じろじろと見られる。
最初、声をかけられたとき、逃げた奴隷ではといわれたとき、内心むっとしたが、脱兎のごとく逃げるのだけは我慢した。
そんな事をすれば怪しまれ、追いかけられる、子供のときからリレー協奏は苦手で、足は速くないので捕まるのは目に見えている。
だから、歌ったのだ、街中で。
日本語だけではなく、英語、イタリア、ポップス、歌謡曲、アニメ、○○動画の歌ってみた、つまり知っている歌、なんでもだ、聞いた事のない歌に周りは驚いた。
「私は旅の歌い手、諸国漫遊の旅の最中、見聞を広めているのです」
嘘も方便だが、納得する人もいた、だが、中には胡散臭いくさい輩だという目で見る者もいる、だから移動は昼間だ。
ベールを被っていない、ズボンにシャツという格好、おまけに髪がショートカットなので男だと勝手に思ってる相手もいた。
自分のいた世界で長いいタイトルの小説がある。
魔王になって転生しました、とか。
異世界で最強の魔法使い、王女、貴族をやっています、とか。
いっそ、ここが小説の中だったらと思い、ため息をつくのは何故だろう。
だが、仏様に手を合わせても、この世界の神様に祈っても、そんな都合のいい展開などおこるわけな。
野宿は危険なので宿屋に泊まるようにしていたが、それでも不安はあった。
山の中にアルスラーン王子が隠れている、姿を見たという噂を聞いたのは幸運だった、 井戸端会議みたいに談笑している街の人達の話を通りすがりに聞いたのだ。
その言葉を頼りに山の中へ入ったのはいいが、スーツケースを引きながら、登ったり、下りたり、石ころのや気の根っこに躓きながら山の中を散策するのは正直、疲れてきた。
(狼とか、凶暴な獣とかいないよね、木の上で眠るほうがいいか、いや、蛇とかいたらまずいか、毒をもっていないとも限らない)
自分はこの国の人間ではない、街の人間なら普通に知っていることも知らない、兵士でも巫女でも何でもない人間だ、危険はできるだけ回避しよう。
「水を汲んでくるよ、エラム」
アルスラーンは川へと向かった。
皆が心配してくれるのはわかるが、たまには一人になりたいときもあるのだ。
(もしかして、ルシタニアの兵が)
水音が聞こえてきたとき、気配を感じてアルスラーンは木の陰に隠れた。
相手は何人だ、一人なら自分がと思ったが、腰の短剣では心許ない。
身を屈めて川岸へ近づこうとしたとき、聞こえてきたのは獣のうなり声だった、だが同時に人の声、悲鳴だ。
こんな時思っている事とは違う行動に出てしまう、確かめようとアルスラーンは顔を覗かせた。
良くはわからなかったが、だが、襲われている人は一人で裸だ,水浴びをしていたのだろうか。
「うおおーっ」
アルスラーンは叫んだ、それは注意を自分に向ける為だった。
だが、獣はすぐに視線を戻した、自分の狙った獲物が弱いと確信しているのだ。
いけない、助けなければ、襲われている相手が腕を押さえていることに彼は気づいた。
怪我をしている、血の臭いで自分の餌、獲物になりそうだと獣は感じているのだ。
そのとき木々と揺れる音、足音が聞こえてきた。
振り返ったアルスラーンの顔に一瞬、笑みが浮かんだ。
黒い大きな影、ダリューンだ、大柄な男に背負われて山小屋に着いたとき、彼女がほっとしたのも無理はなかった、だが、それだけではない、自分を助けてくれた少年と男性がアルスラーンとダリューンとは幸運だと喜んだ。
しかし、獣に襲われたショックで腰が抜けて背負われて彼らの隠れ家につれて行かれたときは恥ずかしさでなんとやらである。
しかも、スーツケースをアルスラーンに運ばせるとは。
「重いでしょう、ごめんなさい」
これは一応というか、礼儀だ、初対面の相手に背負ってもらうのだから。
子供なら軽いよなんて笑ってすませられるが、三ノ宮美夜、大人なのだ。
最初のうちこそ、ここはアニメや小説の中だと思っていたが、本当にそうなのか、わからなくなってきた。
ダリューンは戦士と呼ばれるだけあってがっしりとした体格だ、腕も足も筋肉だ。
よく筋肉ばかりのプロレスラーでも顔が無駄すぎるぐらい、ハンサム、イケメンがいたりするが、実際のところ、多くはない。
しかし、このダリューンは黒髪を後ろで束ねて、荒○マンガのダリューンを彷彿とさせてくれる、というか似ていないこともない。
つまり、単純にいうと、いい男だ。
こんなとこ、自分のいた現実ではない。
(堪能しておこう)
「自分は異国の人間ですがタハミーネ様には、とてもよくしてもらいました、それで何か、お礼をしたいと思って、あなたに会いに来たのです」
スーツケースの中から取り出したスケッチブックやファイルにまとめた紙の束を出しながら、美夜は不安になった。
タハミーネの周りにいた女官達は褒めてくれた、だが、半分お世辞だと思っていた。
女がスーツケースから取り出す様子をアルスラーンだけではない、ダリューン、ナルサス、ファランギース、ギーヴ、エラムが興味深げに見守っていた。
差し出した薄く白い紙、それを見た、アルスラーンの目が驚いたように大きく開かれた。
そこには自分の母親がいた。
「そ、そなたは絵師なのか」
その言葉に美夜は驚いた、ということは少しは気に良ってくれたのだろうか。
彼女が住んでいる場所を説明する為に建物や部屋のスケッチを見せる。
「イノケンティス王の配慮で食事も不自由なことはなく過ごしています、城の一画の住まいは、とても綺麗なところです、見てください」
「母上」
思わず、アルスラーンは呼びかけた。
全員の視線が突然現れた異国の女性の描いた絵に向けられている。
部屋の中は沈黙、皆、無言だった。
(ナルサス様よりも、いいや、そんなこと思っては)
(見事じゃな)
(異国の絵師か、ファランギース殿ほどではないが、まあ、いい女、かな)
(おまえの描く、へたくそな絵より)
(無言)
「母上は国王に婚姻を迫られている、何か知っていることがあれば教えてほしい」
その言葉に迷った、こうして直接会う前、彼は子供、少年王、そんな姿を頭の中でイメージしていたのだが、純粋な母親を心配する言葉と表情を向けられ、正直、困惑した。
「頭のよい方です」
アルスラーンは不思議そうな表情になった。
自分の母親の事を口にするとき皆口々に美しいと、その美貌を褒めるのだ。
「国王の言葉に簡単に返事をすれば自分だけではない、周りの女官、現在のパルスの国民、アンドラゴラス王、それぞれの立場が変わるかもしれません。アルスラーン殿下がこうしている間だ、タハミーネ様も戦っているのです」
(母上が)
「私を城から送り出してくれたのです、異国の人間を、もしかしたら、あなたに会いに行くなど嘘をついて、私は安全なところへ逃げたかもしれません」
「そうなのか、いや、あなたは」
何か言おうとしたアルスラーン自身の口から出てくる言葉は最後まで続かなかった。
「ダリューン、彼女をあの人を、どう思う」
ダリューンは聞き返した、普段から戦の為に馬や剣の修行に励んでいる無骨な勇者でも、何が言いたいのか多少は察することができた。
だが、それが後に自分や周りを巻き込んでしまうとは予想もしなかっただろう。
自分達を取り巻く環境が一人の異国の人間によって変わるなど、このときは誰も想像していなかった。