アルスラーン戦記 pastiche   作:木桜 春雨

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pixivにupしたものを改正、手直ししました。
展開上、文章を削ったり,加筆してあります。

ギャグ的な感じ,軽いのりで読んで下さい。


王弟と銀仮面

ルシタニア国王、 イノケンティス七世の一言に臣下達が呆れたように溜息をついたのも無理もなかった。

 捕虜となったパルス王国の王妃、タハミーネに一目惚れした兄が彼女を妻として娶りたいと言い出したのだ、予想もしなかっただけに驚きだ。

 正直、そんなことを言い出すとは弟のギスカールにとって驚き以外の何者でもない。

 そして、この王の一言が周りの事態をとんでもない方向へと動かし始めた。

 

 この発言に真っ先に反対したのは大司祭のボダンだ。

 だが、これは当然の反応だろう、異教徒の女を妻にするなどもってのほか、たとえ王であろうとも天罰が下るであろうと、この男は豪語した。

 元々、熱心な教徒である王は、ボダンの言葉に顔色を変えて内心震え上がった。

 だが、人の気持ちというものは、そんな簡単に納得も割り切れるものでもない。

 恋情というものは周りから反対されれば、尚更、燃え上がってしまうのだ。

 産まれた時から王になる為の教育を受け、神の教えだけが人を幸福にするのだと信じて生きてきた王にとってタハミーネの出会いは運命だったのかもしれない。

 ボダンは怒り狂ったが、タハミーネを妻にするというイノケンティスは、これだけは譲れないとささやかながらも抵抗の意思を見せた。

 

 「愛しい弟よ、なんとかならぬか」

 いつも、いや、毎回こうだ、厄介な事は、すべて弟の自分に押しつけてくる、この兄者の他力本願の性格はなんとかならないものか。

 子供の頃からだ、顔には出さないが、ギスカールは腹が立つというより、呆れていた。

 ただ一つ、感心しているのは后妃に関する執着だ。

 ボダンに連日のごとく文句を言われているというのに、近頃の兄は、彼の言葉を聞き流すという技を覚えた。

 「ボダン、そなた何か言ったか、聞こえなかったぞ」

 という具合にだ。

 以前なら顔色を変え、困ったと弱音を吐いていただけだ。

 いや、裏を返せば、それだけ必死といいうことなのかもしれない。

 恋は盲目、いや、女の存在が、これほどの影響を与えるとは恐ろしい、いや、改めて感心せずにはいられない。

 この熱意を少しでも国政の為に向けてくれたら、自分の苦労も少しは報われるのにと思わずにはいられなかった。

 そして予想もしないことが、ボダンの怒りは王にでは城の外、平民に向けられた。

 

 「ギスカール様、お願いです」

 ボダンの行動に呆れた城の者が彼に嘆願したのがきっかけだった。

 

 「近隣諸国からの旅人や異教の者に無理難題を押しつけているのです」

 「異国の神をルシタニアに持ち込んで、邪教の教えを広めようとしていると、荒唐無稽、いや、無茶苦茶な物言いです、こんなことを許していたら、我が国は諸外国から何を言われるか、これをきっかけに国交に支障がでれば」

 部下の報告にギスカールの額に深い皺が刻まれた。

 

 馬鹿か、間抜けか、兄者が自分の言葉に従わぬから、その腹いせに、抵抗ではない者に八つ当たりをしているのか、苛立ちがわからぬ訳ではない。

 何故なら、后妃との婚姻は弟の自分も諸手を挙げて賛同はできないからだ。

 しかし、今は、国政をまとめている最中だ、戦は終わったが、その後始末に国も自分も奔走している忙しい時だ。

 そんな時に、もし近隣から戦でも仕掛けられたらどうするつもりだ。

 バルスに圧勝して敵なしと思っているのか、傲慢だ。

 現実的な考えを持つ、ギスカールは今回の戦の勝利を当然だとは思っていなかった。

 いや、むしろ、運がよかったのだとさえ思っていた。

 

 民が困れば、国が飢饉に陥れば、自分の食べるものがなくなれば神が助けてくださる。

 天から降る雨が砂糖水に変わり、パンが空から降ってくる。

 などという馬鹿げた考えを平気で口にする、いい歳をして、自分の兄は本気で思っているような男だ。

 パルスの財宝の管理をボダンに任せるだけでも腹が立つというのに、これ以上、好き勝手されてはたまらん。

 聖職者というのは、己の我欲、目の前のことにしか興味がない大馬鹿者ばかりだ。

 ギスカールは、ため息をついた、これで今日は何度目だ、胃が、ねじ切れそうだ。

 痛むというより、刺すような痛みを感じるのは気のせいだろうか。

 肩のあたりも妙に思い、王になる為の重圧ならいくらでも耐えられる。

 だが、あの司祭と他人任せ、弟頼りの兄者の為に命を縮めるのだけてはなんとしても避けたい、いや、我慢ならないのだ。

 

 

 「どちらへ」

 振り返ると銀色の仮面をつけた男が立っていた。

 街だ、ギスカールは苦々しく呟いた。

 一度、警告しようと思っていたが、とうとう、堪忍袋の緒が切れてしまった。

 異教徒への取り調べ、その最中、部下の家族の者が巻きこまれたのだ。

 (あの老いぼれめが)

 神殿の奥で黙って祈祷でもしておればいいものを。

 兄者にも腹が立つ、だが、あの司祭は、それ以上だ。

 どうして、自分の周りの人間は、ろくでもない奴らばかりだ。

 腹の中で悪態をつく彼の後ろを、仮面の男も追いかけた。

 

 

 街中を馬では目立つ。

 ギスカールの後を歩きながら、仮面の男は数日前のことを思い出した

 一人で散策していた際、自分に声をかけてきた女のことを。

 (店を出すと、言っていた)

 突然、悲鳴が、いや、泣き声が聞こえてきた。

 それも子供のものだ。

 

 まるで火がついたように泣き出す幼子の隣で地面に頭をこすりつけるように、ごめんなさいと謝っている子供がいる。

 「異国の食べ物などを口にして、それでも我が国の人間か、子供だからといって」

 遮るように響いたのは女の声だ。

 自国、ルシタニアの人間ではないことは一目でわかる。

 男が詰め寄ったときだ、ばしんっと、その場の空気が鳴った。

 「神に仕える者のすることですかっ」

 それは女の怒声だ、だが、それだけではない相手の男の顔を叩いた音だった。

 自分が何をされたのかわからず、男は呆然とした。

 だが、それは周りにいた人間もだ。

 「き、貴様、よくもっ」

 怒りで顔を振るわせた兵士が腰に手をかけた、その瞬間。

 

 痛みに、男は視線をそちらへと向けた。

 銀色の仮面をつけた男が立っていた、そして隣には。

 

 言葉がすぐには出てこない、それは驚きの為だ。

 何故、ここに王の弟が、そして銀仮面卿が。

 「王弟殿下、これは」

 何か言わなければならない、説明しなければ、自分は大司祭の命令でやっているのだ。

 異教徒が我が国民を惑わそうとするのをと言いかけた。

 「何をやっている」

 静かな声に含まれている感情は怒り以外のなにものでもない。

 

 

 「ダリューン様、見つかります」

 今にも飛びだそうとする大男を、エラムは必死に押しとどめた。

 店を始めるといって、彼女は自分達と別れる事になったが、やはり気になるのだろう。

 暇な時間を見つけてはダリューンやナルサスは街へ出かけていた。

 

 「大丈夫ですよ、ほら」

 エラムは荒ぶる馬のようなダリューンに落ち着いてと声をかけた。

 ダリューンは目をそらすことができずにいた。

 騒ぎを起こせば異国人ということで、どんな目に遭うかわからない。

 そのことは彼女はわかっているはずだ、なのに。

 (やってしまったことはしかたがない)

 彼女が男に平手打ちを食らわせたのは予想外だった。

 だが、それ以上に。

 

 銀仮面、あの男が何故、ここに、それも一人ではなく、王の弟と共に行動しているのか。

 正直なところ、あの豚みたいに太った男の弟とは思えなかった。

 本当に兄弟なのだろうか、天と地の差だ。

 がっしりとした体格の、いかにも武人といった感じの男だ。

 

 「エラム、後で、日が暮れたら、俺は彼女の家に行く」

 ごほん、小さくダリューンは咳払いした。

 「街の噂や、司祭の動きなど何か知っているかもしれないだろう、彼女は」

 「遅く、なりそうですね」

 韻を踏むようなエラムの言葉だが、ダリューンは気づきもしない。

 視線は向こう側、仮面の男とギスカールに向けられているからだ。

 「殿下が心配なさるのでは、泊まってくるんですか」

 「仕方がない、おまえから説明してくれ、大事な用だからと」

 どんなに大事な用なのか、そのあたりを詳しく聞きたいと思いながらエラムはやれやれと肩をすくめた。

 

 「王弟殿下、ありがとうございます」

 女が感謝の言葉を、周りの人間が自分に向けている視線に気づき、ギスカールは内心、自分の株が上がったことを確認、いや、感じた。

 「よろしければ、茶を、異国の飲み物をいかがですか」

 「異国の飲み物か」

 ギスカールは一瞬迷った、だが、女の顔を見ると、そうだなと頷きかけた。

 ところが。

 「殿下」

 と銀仮面卿が囁いた。

 「困っている者が、他にもいるかもしれません」

 仮面の女は女の方へ顔を向けた。

 「生憎と、殿下はお忙しい身だ、茶を飲む暇もないほどにな、其方の気持ちだけは、ありがたく、受け取っておこう」

 おい、待て、銀仮面卿とギスカールは言いたかった。

 (何故、おぬしが、俺の代わりに返事をするのだ)

 しかも、その言葉の中には微妙な気遣いすら感じるのは気のせいだろうか。

 「またの機会に、寄らせてもらうことにしよう」

 と言い残してギスカールは女に笑顔を向けた。

 だが、宮廷内で難しい顔ばかりの男にとって、この時の笑顔は、多少、ぎこちないとものであったのはいうまでもない。

 

 

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