手直しと推敲を加えているので、最初の頃より変わってくたと思います。
逆ハーで大人事情と情事を盛り込んでいます。
ナルサスは豪語した、隠れ家というのは幾つあっても困るものではないと。
いつ、どこで何があるかわからないからだ。
自分達から離れて街に住む、それも商売をしながら生活するという意見を彼女が口にしたとき、策士は考えた。
万が一の場合、そこを拠点に自分達が隠密行動を取ることをできるのではないかと、いや、それだけではない、敵の情報徴収にも役立つのではないか。
多少の危険はあるだろうが、そこはなんとか、うまく説明して口説き落とせばいいだろう。
いや、きちんとした基盤を整えればいい、自分達から離れて一人暮らしを始めたいと言い出した時点で彼女自身も自覚している筈だ、多少の危険というものを。
買ったのは一軒家だ、入りくんだ仕掛けなど用意する必要はない、自分達が休んだり、敵に見つかりそうになったら身を隠したりできればいいのだ。
アルスラーン王子を見つけたら賞金を出す、そんな噂が街に流れはじめたのは最近のことだ、すると街中がざわつきはじめた、中には年端もいかぬ少年を王だと言って城に連れてくる輩もでてきたので、これには王だけでなく、周りの臣下達も呆れ果てた。
それだけではない、近頃のルシタニアの情勢はどうなっているのか。
司祭や信徒の行動は行き過ぎではないかと近隣諸国の皇族、貴族達からの抗議文書が届いたのだ。
交易を求め入国しようとした使者の中には政務を取り仕切るギスカールの名前と実印の入った許可証を所持していたというのに、無礼な態度を取られ、立腹しているという。
「許可証は本物だ、シンドゥラ、ミスルの使者からの抗議文、それも王の直筆で、延々としたためられている、ボダン」
普段なら大司祭と礼儀を踏まえた呼びかけをするギスカールだったが、怒りを隠す事もしない相手にボダンは顔色一つ変えずにいた。
そばには王もいる、他国の使者も数名、そして、ここは謁見の間、正式な場所で自分に恥をかかすことはないだろうと甘く考えていたのだ。
だが、ギスカールは遠慮なく責め立てた。
「入国以前に噂があったのじゃ、挙動不審なところもあった、疑われても」
その言葉を、ギスカールは遮った。
「金の要求をしたらしいな」
「馬鹿な、そのような事はあろうはずがない、いくら王弟殿下の、お言葉とはいえ」
「おまえの臣下の所行だ、神への捧げ物だと言ってな、聞いていた者は大勢いる」
パルスの財宝だけは足りぬか、その一喝にボダンは周りを見た。
自分に向けられた視線が、不審と猜疑心の色を浮かべている、まとわりつくような不安な、疑いの眼差しを向けられる事に怒りだけではない。
司祭は、このとき初めて不安という得体のしけないものを感じていた。
そのとき、王弟殿下と老人が呼びかけた。
「誤解だとわかればよろしいのではありませんか、大司祭殿の知らぬことだとしたら、責めるのはいかがなものでしょう、交易を望んでいるのはこちらのほうなのですから」
謙虚な物言いにギスカールは、ほっとした。
絹の国(セリカ)の使者という老人が数名の共を連れて城を訪れたのは数日前のことだ。
「戦が終わったばかりです、もしかすると何者かが仕組んだことかもしれません、ですが、こうして殿下に直にお会いすることができました」
「寛大なお言葉、感謝する」
ギスカールは、ほっとした、目の前にいる老人は温和そうな顔で自分を見ている、だが、油断をすれば足下をすくわれるかもしれない。
(そう、男というものは、そうでなければ)
ギスカールの顔を見ながら、なかなかの男だと老人は思った。
兄、イノケンティスのような神にすべてを捧げる信心深い男ではない、だから、大司祭の行動に対しても、こうして動くのだ。
許可書の偽造という危ない橋を渡ったが、それだけの価値があった。
これで、しばらくは動きやすくなる、自分はしばらく休むことができるだろう。
何かあれば、そのときに動けばいい、臨機応変というやつだ。
外に、ルシタニア国外に出れば状況も立場も、何も知らない人間は動けなくなる。
城の外に出た老人は懐から取り出した包み、その菓子を一口囓った。
街中で買った店の菓子、異国の食べ物だ、懐かしい味だと思った、だが、そんな事を思うのは忘れてはいないからか。
風が耳元をかすめた、精霊が囁いた気がしたが、わかる筈がない。
神も精霊の言葉も理解する事はできないし、その必要はない。
その術を持たないからだ。
大司祭ボダンの行動に直接ではないものの、ギスカールが不快感を示したことがきっかけになったのかもしれない。
警護という名目で夜の町へ見回りさせていることを知った彼は銀仮面に尋ねた。
「何か探っているのではないか」
最初は考えすぎではないかと思ったが、それを完全には払拭できなかった。
聖職者というものは清廉潔白と言いながら、陰で何をやっているかわからない。
もし、自分の利益になるようなことならと銀仮面は行動を起こすことにした。
だが、表だって行動は目立つ。
(変装だ、な)
といっても普段から仮面をつけているのだ、仮面のかわりに片目眼帯だ。
素顔を知っている者は、ほんの一部だ、正体がばれる事はないだろう。
こうして、片目眼帯男は夜の町へと自ら向かった。