俺の一族がレアモンスターなんだが。   作:鰹ふりかけ

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ギャグベースだよ


閑話白い悪夢

それは考えていた。

 

自分はなぜ産み出されたのかと

 

 

ダヴィンチちゃん工房の隔離金庫No.8の中に美味しいシチュー鍋は収容されていた。

 

そこに収容されている他の物達とは違い脱走することもなく本当におとなしかった。

それゆえの油断であったのだろうか、担当職員が2週間もの間金庫の扉は確認しても中身を確認せずに放置してしまったのだ。

 

翌日、職員が金庫室を見に行くと金庫室の扉に大穴が空いており室内の金庫が破裂していたのだった

 

 

 

カルデア通路

 

「腹がへったな」

「俺もだ」

二人の男性が並びあって歩いていた。

かたや白衣もう一方は白い作業服を着ており丁度食事に向かうところであろうか冗談混じりの雑談をしつつ食堂へとむかっていた

 

「それにしてもこの頃食事の内容がよくなったな」

「ああ、初期の頃のレトルトばかりにはもう戻れんよ」

レフによる爆発テロが起きた直後はカルデアに貯蔵されていた食品類、主にレトルトパウチ食品や缶詰が職員たちに提供されていた。

 

初めの頃は物珍しさからか喜んで食べていたが二週間・三週間と経つにつれて苦痛を感じ始めたのだ

 

毎日、毎日、缶詰とオートミールとレトルト食品そして日光を浴びていないために大量のビタミン剤が食堂で配給される。{水耕栽培施設からの葉物野菜の供給はあったが復旧における労働力の不足により生産量が低下しまさに焼け石に水の状態}

 

いつの間にか食卓から笑顔が消え、皆機械のようにそれらをかきこんでいく日々が続くようになってしまう

 

明らかに下がっていく士気と作業効率、そして日に日に高まるストレスと不安感がカルデア職員達をを蝕んでいく

 

 

そのときだった、特異点に出向いていた竜牙兵たちが新鮮な野菜や肉類、魚介類を回収してきたのだ。

 

これにより食堂が本格的に稼働し毎食バランスの取れた食事が提供されはじめカルデアの危機は去ったのだった

 

今では毎日メニューが変わり職員たちの数少ない娯楽の一つになっている

 

「ああ、それにしてもお腹がすいたな・・・ん?」

「どうした?」

食事がまちどうしくてたまらないのか作業服の男が再度呟きながら目を閉じ今日のメニューを予想して顔を緩ませるが違和感を感じてピタリと歩みを止める

 

「何か聞こえなかったか?」

「いや、特に何もないぞ」

はじめは気のせいかと思ったが。

 

やはり何か聞こえる

 

まるで金属が擦れるような音が

 

「気味が悪いな………」

「嫌な予感がするぞ」

金属が擦れる音は段々と大きくなり今まで聞こえていない様子だった相方も眉をひそめ周囲を見回していた

 

ここカルデアは立派な魔境である。

筋肉が蠢き骨が踊り、意味のわからない物体が徘徊しているのが現状であった。

 

ほとんどは無害であるのだが度々騒動に巻き込まれ鍛えられた職員はいつでも逃げ出せるように身構え、そしていち早く迫る危険を捉えようと二人背中を合わせてお互いの死角をカバーする。

 

そして、現れたのは

 

「鍋だと!」

「こいつか………」

廊下の曲がり門から現れたのは金属製の鍋であった、驚くと同時に少しだけ安堵し胸を撫で下ろす。

この鍋はカルデアに存在する彼の道具の中では危険度は高いが対処が簡単であったからだ。

 

つまり、対応さえ間違えなければ無害なのだ

 

 

 

 

 

 

だが、少し考えて欲しい

 

鍋って動けたっけ?

 

 

 

 

 

それは現実逃避に近い何かだったのだろう

カーリングの石みたく床を滑走しつつこちらに迫る鍋を二人はただ見ていることしかできなかった

「「うああああああああああああああああ」」

 

 

 

 

 

 

 

カルデア食堂

 

同厨房内

 

「さて、こんなものか」

「できたのですか?」

「ああ、少し待ちたまえ」

グツグツと煮込まれたカレーの前でエミヤはそういいながらコンロのスイッチを切り

お皿を持ってテーブルに待機しているアルトリア(剣)の前へと手際よくよそったカレーを運ぼうとする。

 

が………

(ガシャアアアン

突如として壁が崩壊してその向こう側より何かが飛来してくる

 

「なんだ!………またか」

思わずカレーを持って固まるエミヤ

すかさずエミヤの持っているカレーをちゃっかり確保して食べ始めるアルトリア

 

暫くのフリーズしたのちにエミヤは壁を突き破ってきた物の正体を瞬時に把握してこめかみを抑え、同時に武器を構え様子を見る。

 

鍋はコチラの様子を伺っている。

暫くしてズリズリとシンクの上を動き器用にコンロをつけてその上に収まった

 

 

・・・・・チーン!

 

やがてシチューが出来上がり周囲にクリーミーな香りが満ち足りる。

 

「何が目的なんだ………」

シチュー鍋は答えない、また器用にコンロのスイッチ操作して切りシンクの上を移動し始める。

 

そのときだった

「おう、腹がへっグヴォアアアアアア」

「魔力放出だと!」

鍋は食堂へとクーフーリンが入った瞬間に物凄い勢いで加速してクーフーリンの顔面へとめり込んだのだ

シチューが満杯となって重くなった鍋がめり込んだクーフーリンは跳ね飛ばされて床に倒れるがさらにそこに鍋の追撃が入る。

 

「オボボッオボボ……………ガタン」

すかさず倒れたクーフーリンの口元へと自らの中身を流し込む鍋、やがて頭部に鍋を被っているような状態になり必死にクーフーリンが頭から鍋を外そうもがき暴れるのだが

 

暫くして動かなくなった

 

死因 溺死(シチュー)

 

「ランサーが死んだ!」

「そんなことより、おかわりをお願いします!」

ものの数分でサーヴァントが倒されたことに戦慄しつつ武器を構え直し厨房から撤退を試みようとゆっくりと後退していこうとするが、セイバーが空気を読まずに皿を差し出したのだ。

その瞬間、今度はセイバーに向かって鍋が飛びかかる。

あわてて鍋をその間に入り剣で鍋を叩き落とそうとするが予想よりも強い衝撃を受けてなんとか受け流す事しかできなかった。

 

食堂の椅子や机を巻き込みながら転がる鍋を横目にセイバーの手をとって食堂から飛び出す

 

走る、走るどこが安全なのかわからずとにかく他のサーヴァントや筋肉がいる訓練所へと向かう

後ろを振り返ると鍋がこちらに向かって床を滑ってくるのが見えた。

 

「くそッ!」

振り向き様に鍋に向かって矢を放つが鍋はギュルリと回転しつつ不規則に跳ね回り避けてしまう。

 

鍋はそのままの勢いで壁に当りその反射で此方の頭部めがけて飛来する。

 

頭を瞬時に下げて鍋を回避するが回避した先でさらに鍋が跳ね返って今度は腹部を狙い向かってくる

投影した双剣を重ねてなんとか受け止めるが質量に押されて徐々に後退していくのがわかった

 

つばぜり合いは続きエミヤは壁際に追い詰められていく

鍋がどうにか中身を食べさせようと徐々に顔に向かって双剣が押し上げられていく

 

段々と押し上げられる両腕、鍋から立ち上る熱気を顔で感じられるような距離まで追い詰められる。

 

「ハアアアアアアアアア!」

あともう少しで鍋が口に届こうかと言うときに鍋が吹き飛んだ。

横を見るとセイバーが柄だけの剣を持った状態で鍋に対して構えており、聖剣でぶん殴られた鍋はというとさすがにダメージがあったのかカルデアの通路へと消えて行く

 

 

「ひとまず退いたか………」

なんとか撃退できたのを確認して投影を解くと同時に思案する。

 

相変わらず無茶苦茶な存在だなと思い付くもなんとか止めなくてはならない

どうしたものかと考えていると

 

「どうやら無事なようだな」

すっと緑アーチャーが現れる。

どうやら宝具で隠れていたようだ、困ったように頭を掻きつつため息をつく

 

「ああ、なんとかな」

「で、どうする?」

「やるしかないだろ………」

「だよな………」

こうして手の空いているサーヴァントが集められ対鍋を旗印とした討伐隊が結成される。

 

これだけのサーヴァント相手ならすぐに鎮圧できると思っていたが、そうはいかなかった。

 

 

「畜生!どこから来やがる」

「完全に相手のテリトリーに入っちまったな」

「音だ!音グヴォアアアアアア」

何もなかったはずの壁からいきなり鍋が飛び出してくる

 

頭数を得た討伐隊は鍋を追い詰めるべく前衛にセイバーやランサーで固め後衛からアーチャーが援護しライダーとアサシンが退路を断つという鉄板の布陣で挑んだ

 

しかし、鍋はそれを察知してか戦術を各個撃破に移行

 

マスターや筋肉が掘った抜け道や通気孔が密集しているエリアに誘導し孤立したサーヴァントを死角から奇襲し始めた

 

最初は軽く考えていたサーヴァント達も廊下に口からシチューを流して倒れる味方が増えるに従って真剣な表情で対応に当たるが、隠し通路に設置されたトラップやマシュ対策の魔力デコイによりすぐに位置を見失い。

 

いつどこから現れかわからない鍋に恐怖した

 

 

「ガガ、ヴぁアリーもうずこし………」

「サンソンが殺られた!」

「急いで肺からシチューを吐き出させるんだ!」

またしても被害者が出てしまう。

一番後ろを歩いていたサンソンが天井から降ってきた鍋に頭を覆われ溺れ口からシチューを垂れ流しながら倒れる。

 

サンソンの救護をしつつ集団で塊って鍋とにらみ合って

お互いの隙を探ししつつ距離を開けていく

 

その時、一人のサーヴァントがある事実に気付いた

 

鍋の中身がなくなっていることに

 

ここぞとばかりには攻勢に出るサーヴァント達

だが、再び逃げる鍋

 

やがて鍋は換気ダクトに逃げ込んだ

 

ガタンッガタンとダクトを移動していくがそこは配線やパイプなどが天井に露出しており追跡が容易くその出口に武器を構えたサーヴァントが集まる

 

今か今かと待ち構えていると異変が起きた

 

Gとネズミ達がダクトから逃げるように飛び出してくる

 

さらに

「フォフォオオオオオオオオオオオウ!」

フォウまでもがあせるように飛び出してくる

 

「なんだったんだ今のは………」

「来るぞ!」

唖然としつつも今度は金属が擦れるような音が聞こえてくるのを確認して武器を構え直す

 

チュドオオオオオン

爆音と共に鍋がダクトを突き破ってきた

 

 

「奴のトラップか!」

「散るな固まれ!」

彼のマシュ避けトラップを利用し爆発と共に現れた鍋に

多少の動揺を起こすが流石というべきかサーヴァント達はすぐさま対応にあたる。

 

「おい!ちょっと待てシチューが………」

「増えているだと!」

「馬鹿な!今までの間に食材何てなかったは………」

現れたシチュー鍋にはシチューが並々と満ちていた

サーヴァント達の間に衝撃が走る。

何故?今までの間に食材になりそうなものはなかったはずと今までの行動を振り返る

 

「ま、まさか………」

そして一つの予測に至る、ダクトに逃げ込んだ後に起こった出来事を思いだし

 

絶望する

 

「にげろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「いやあああああああああああああああ」

サーヴァント達は一目散に逃げ出し

 

それを嬉々として追い回す鍋

 

ここに地獄が顕現した

 

 

「馬鹿ねえ………霊体化すればいいだけじゃない」

「なるほど!」

霊体化すれば物理的攻撃は効かないといって一部の者達が霊体化を行って逃亡しようとするが

 

「嫌あああああああ………スポッ」

仲良く吸い込まれてシチューになった

 

「「「「………嘘だろマジかああああああああ」」」」

 

その試みを影から見ていたサーヴァント達は二重の意味で恐怖する

目の前で起きた悲劇とさらに凶悪さが増したシチューが此方に迫っていることに

 

「来るなあああああああああああ!」

「「「「「おい、馬鹿やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」

加速していくカオスのなか一人のサーヴァントが錯乱しシチュー鍋へと魔力弾を放ってしまう

 

周囲のサーヴァントが止めようするも鍋の中へと命中

 

そして

 

「「「「「「うああああああああああああ」」」」」」

シチューを纏った魔力光線がサーヴァントに襲いかかる

 

 

「なんでさ!」

「何でですかねえ?」

シチューまみれのサーヴァントの残骸がそこらかしこに

転がる中をシチュー鍋が新たな獲物を求めて去っていくそれを確認して二人に人影が現れる。

 

エミヤと緑アーチャーであった

 

「収集不可能だ!」

「だよなぁ」

 

「やっこさんとこにいくのかい?」

「仕方ないだろ!」

まるで苦虫を噛んだような顔をしてエミヤがゆっくりと歩み出す

それもそのはず、元をいえば今回の騒動を起こしている鍋は筋肉達が暴れているのを止めてもらうために彼を訪問して出現したのだ。

 

まさにやぶ蛇

 

それゆえに今度は何が飛び出して来るかわかったものではないからだ

 

「それにだな………彼をかれこれ一週間ほど見ていない」

「………あー、憂鬱だわ。マジだるい」

彼の生活サイクルで食堂に現れるのは日常であった。

故郷の味に惹かれてか、マシュに捕獲されてもすぐに脱走してやってきていたのだ。

それが一週間も現れないとなると………

 

「マジのヤツじゃないですか………」

「どうしてこうなった」

 

「「はあ、」」

二人のアーチャーはとぼとぼと彼の部屋へと向かう

 

 

所長室前

「「「「押せえええええええええ」」」」

「「「「迎えうてえええええええ」」」」

 

筋肉達が大乱闘をしていた

 

「「「「「何故わからん!これは新たなローマへの軌跡だと」」」」」」

「「「「「流石に一週間は不味いだろ」」」」」」」

通路いっぱいに盾を並べ押し合いへし合いを繰り返す筋肉達。大きな質量がぶつかりあう。

凄まじい衝撃のもと筋肉達の腕が吹き飛び、顔も飛ぶ。

 

「なんだこれ………」

「もう帰ろうぜ………」

明らかにめんどくさい相手を前に踵を返す二人

こうしてカルデアの抑止力は消滅した

 

 

それからと言うもののスタッフはドアを突き破ろうとして体当たりをし続ける鍋に恐怖しつつ籠城し

 

捕まったもの達は自分たちの周囲をぐるぐると回り続ける鍋に強制的にシチューを食べさせられる。

 

サーヴァント達は隠れ忍び

 

筋肉の乱闘は終わらず

 

そして所長室から悲鳴が響く

 

 

バッドエンド29

白い悪夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





鍋は主人公が飢餓による狂気の狭間の中で産み出された道具です。
そのため、周囲の飢餓を撲滅しようとする強い意志が宿っております、はい。

暫くの間放置されると自ら動きはじめて周囲に自らを必要とする対象を探索し始めます。

基本的に鍋は飢えを解消しようと空腹を訴える相手へと自動的に届けようします。
そのため、お腹がすいた・腹が減った・今日の献立はなんだろう等の空腹をほのめかす相手を優先して配給を開始します。

対処法
喜んでシチューを食べてあげてください。
そうすれば鍋は安心して落ち着きます
ただし、シチューを食べた後に何も言わない……とまだ足りないと判断しより多量のシチューを届けにきます。



あとがき
みんなシチューには気をつけよう
特に夏場
黄色ブドウ球菌は加熱しても意味がないぞ




酷いめにあった

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