ワンピースでPlus Ultra   作:ちょもらんま

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一話

 ソラは、いつも気怠そうな顔をした少年で、滅多なことでは笑ったりすることはなかった。

 

 話をする時はいつも冷静で、その上口数も少なく、話下手な方だった。おまけに感情を外に出さず、痩せていて、口数も少ないから友達もできない。けれども不思議な魅力のある少年で、妹分であるノジコとナミはこの少年によく懐いていた。和やかな家族の団欒の中でどうにか少年を笑わせようとする2人を見ては、養母のベルメールは楽しげな表情を浮かべるのだった。

 

 

 彼は自分に対して厳しく、家庭が裕福でないのも相まって、あまり豪華な食事を好まなかった。それよりも売れ残ったみかんを搾ったジュースを好み、散歩しながらちびちびと飲むのがお気に入りだった。

 そんな彼に近所の子ども達は、みかんジュースを飲んでいると、みかんみかんと小馬鹿にしながらよく絡んできた。しかし彼はそんな子ども達にえらく優しく、通せんぼされようと大好きなジュースを奪われようと、決して怒ることはなかった。

 

 

 その代わりに怒るのは、彼の後ろにカルガモ親子のように着いて歩く男勝りな妹分達だ。彼女たちは負けず嫌いで、喧嘩にはどんな手段でも使うからめっぽう強い。そんな妹分達を止めることはソラにはできず、喧嘩が一段落ついてから3人で散歩するのがいつもの日課になっていた。

 

 

 この3人が日曜日の朝に散歩しているのを見かけた近所のおばさんは、つまらなそうに時折みかんジュースを飲んでいる彼の隣で、元気いっぱいに笑っている二人の少女の姿を微笑ましく眺めていた。退屈そうにしている割には、このソラという変わった少年は朝の散歩を欠かすことなく、時折眠たげな眼をこすりながらも時折2人に引っ張られながら歩く。その光景は、平和で、穏やかな日曜日の朝にぴったりだと誰もが思うだろう。

 

 

 数人の偶然に出来た友人だけで満足するのは内気な人の特徴の一つだが、彼はそれに輪をかけて内気な性質で、今の家族だけで満足していた。誰一人として血のつながりがないのに、蔓のように年月とともに絡み合い、ともに大きくなっていく関係。

 

 

 それが嬉しかった。しかしソラには誰にも言えない秘密があった。

 

 

 自分の命よりも大切だと思える家族にも黙っていることがある。言っても信じて貰えないからというのも大きいのだが、彼には前世の記憶があったのだ。それもこの世界そのもの、ワンピースという漫画をよく知っていた。いつの間にか廃墟のような火薬の匂いのする場所で歩いていると思ったら、泣きながら赤ん坊を抱える女の子がいたので、その子の手を取り彷徨っているうちに出会ったのがベルメールだ。好きな漫画のキャラクターによく似ているなと能天気なことを考えていたら、抱きしめられ、あれよあれよと家族になっていた。

 

 

 自分が小さくなってしまったことにも、見覚えのない顔であることも、もともとの性格のせいか彼は気にしなかった。名前を聞かれた時も、丁度空模様がきれいだったから何気なしにそらと呟いて決めてしまったくらいだ。もっとも前世の知識があるといっても漠然としすぎていて、自分の名前なんて全く分からなかった。

 

 

 覚えていないということは、それは自分にとってそれほど大事なことではないのだろうと、彼はあっさりと切り捨てた。ただワンピースの物語ははっきりと覚えていた。自分の名前よりも大切なことだろうかと頭を悩ませたこともあったが、元来適当な彼は分からないことは分からないままにしておける性格だったので、答えの出ない思索は時間の無駄とばかりに諦めた。

 

 

 それよりも、諦めきれないことが、これから彼が知る未来に起きる。どうしても防ぎたい未来があった。王下七武海に海峡のジンベエがつけば、アーロンが一味を引き連れイーストブルーにやってくる。ココヤシ村に破壊と搾取を、大事な人の死を届けにやってくる。

 

 

 自分に特殊な能力があればと彼は強く願ったが、神様は何も授けてはくれていなかった。前世の知識と言っても所詮は誰にも話せない不確定なもの。切実に力が欲しかった。アーロン一味を一人で撃退できるくらいの。ただ悲しいことに、この身体はどうにも戦闘には向いていなかった。筋トレを日課の一つにしているが、喧嘩は妹達の方が強そうだ。人を殴ったりするのにも抵抗がある。始めて2年は経つはずだが、空気にプロテイン含まれている世界といえど、人には向き不向きがあるらしい。

 

 

 仕方なく、彼は悪魔の実を見つけようと決意した。当たり外れはあるが、もしも最強種のロギアでも食べられれば覇気を使ってこない限り、魚人なんて片手で倒せるとソラは考えた。だが、売れば1億にもなる悪魔の実。そうそう見つけられるものでもなく、単に朝夕の散歩が趣味の変わった子どもになってしまった。

 

 

 いくら探しても、悪魔の実は見つかりそうにない。悲嘆にくれたソラだったが、諦めるわけにはいかない。ならばとお金を稼ぐことにした。確かお金があればあの襲撃も一度はなんとか凌げる。その後は村一丸で支えあい時間を稼げれば、自分が海軍本部かジンベエにどうにかして助けを求められれば、犠牲なくアーロンを撃退できるかもしれない。

 

 

 日々悪魔の実を探しに島中をうろつき、時にはお金欲しさにお手伝いに走り、かまってと煩い妹分の相手をしているうちに、いよいよナミが6歳の誕生日を迎えた。アーロン一味がココヤシ村を襲うまで4年しかないことに気づくと、焦りと不安を感じ始めた。隣でどっちがお兄ちゃんのお嫁さんになるかと言い争う妹分の声が聞こえないくらい彼は焦っていた。

 

 

 まず喫緊の問題が、お金が足りない。最低でも自分の分、5万ベリーは用意したいが、まだソラは12歳。だいたいこのくらいだろうと適当に自分で決めたのだが、まだまだ子どもである。小銭しか稼ぐことが出来ない。お世辞にもお金に余裕のあるとは言えない家のみかん作りの手伝いをして、お金を請求するなんてできないし、近所の人のお手伝いなんてたかがしれている。

 

 

 困ったソラは、ある日ふと閃いた。そうだ。賞金稼ぎになろう。海賊狩りのゾロみたいに、何百万の山賊なんて倒せないだろうが、このまま手をこまねいていてはベルメールは死ぬのだ。もしもベルメールが銃で撃ち殺されるなんて場面を目にしたら、生きていける気がしなかった。漫画ではないのだ。自分はナミほど強くないだろうとソラは思った。

 

 

 行動が早いのはソラの美点の一つだが、あまりに愚かな選択だった。こんな何の取柄のない子どもが狩れる賞金首なんているわけないし、そもそも大切な息子が賞金稼ぎになりたいなんて養母がどう思うかなんて想像してしかるべきだろう。散歩帰りにベルメールに賞金稼ぎになりたいから海に出るといったら、彼女はソラの襟を引っ掴んで、至近距離で彼を睨みつけた。普段は冷静沈着なソラも、ベルメールの眼力に、全力疾走した後のようにびっしょりと汗が全身から出た。

 

 

 数分間の沈黙のあと、もう耐えられないと目が死に始めたソラに、ベルメールは「絶対だめ!」とはっきり告げた。元海兵である養母の圧倒的な迫力に、素直に首を縦に振るしかなく、そんな彼の様子に満足したベルメールはにかっと笑った。

 

 

 そこからはお説教の時間である。なんでそんな馬鹿なことを言い出したのかと問い詰める彼女に、しどろもどろではあったが、悪人をやっつけたいと言えば、頭をなでながら「やっぱり男の子ね」と誇らしげに呟いていた。罪悪感が襲うが、最終目標はアーロン一味の壊滅なので嘘は言ってない。

 

 

 そんなことがあり、もう悪魔の実でも見つけるしかないと腹をくくったソラは、全力で島中を探し回った。沖合に浮いてる実を悪魔の実と勘違いし、泳いで取りに行こうとするも流され溺死しかけたり、若干反抗期の入った妹が、構ってくれない薄情な兄に業を煮やし、全力の腹パンをしかけてきたせいでのたうち回ったりと、何回か死にかけるも成果はでなかった。

 

 

 そしてナミが8歳の誕生日を迎える。いよいよ不味いと四苦八苦していたらプレゼントの用意を忘れて泣かれてしまった。ノジコの時にはたまたま見つけた綺麗な貝殻をあげたのだが、それが不味かった。完全に臍を曲げたナミのために、夜中までかけてオレンジ色の小さな貝殻を見つけてようやく許してもらうのだった。

 

 

 そんなソラはある日、森の中ならもしやと神経をとがらせながら悪魔の実を探していると、足を滑らせて崖から転落してしまった。真っ逆さまに落ちたソラは、頭を思いっきり打ち意識をなくし、そのまま村人全員の必死の捜索により発見された。目が覚めるなりベルメールから全力の平手をお見舞いされた彼だったが、思いもよらない収穫があった。

 

 

 なんと見分色の覇気に目覚めたのだ。病院で横になっていても、自分の隣の部屋にいる人や2階にいる人の気配までつぶさに感じ取ることが出来るようになってた。翌日に退院したソラは、さまざまなことを試してみた。目をつむった状態でも、人ごみの中で次に誰がどう動き、どうすれば躱せるのかがはっきりとわかった。まさか悪魔の実を求め続けて見分色の覇気に目覚めるとは夢に思わなかった。

 

 

 見分色が使えたということは、武装色の覇気も使えるようになることが出来るだろうか。そう考えたソラは、頭の中でレイリー師匠の教えを思い浮かべ、見えない鎧を着ているイメージで、近くの木に殴りかかってみた。当然のように、木はビクともしない。無性に恥ずかしくなったソラは、今度はもっと強くイメージし、殴りつける瞬間に「スマッシュ!」と叫んでみた。特に意味はない。パンチの威力が上がりそうだという単純な理由だったのだが、その効果は抜群だった。

 

 

 轟音とともに砕け、吹き飛ぶ木にソラは放心した。まさかこれは、武装色まで使えるようなっているなんて信じられないと思い、自分の腕を見てみると見事に変な方向に折れていた。途端に走る激痛にさしものソラも顔をしかめ、痙攣する腕を必死に抑えながらうずくまる。この破壊力に、この痛み。どこかで見たことがあった。ワンピースではない。だが、同じくらい好きだった漫画の主人公が自分と同じように苦しんでいた。

 

 

 まさか、この力は、あのキャラクターの個性だろうか。痛みで震える思考を必死に走らせるソラは、もしもそれが事実ならば、もしも本当にあの力を自分が使えるようになるのなら。

 

 

 「お兄ちゃん!?」

 

 

 妹の悲鳴じみた声と駆け足が聞こえてくる。ああ、この声はナミだ、と薄れる意識の中で、ソラは笑いがこみ上げてくるのを感じた。身体が、心が歓喜しているようだ。この身に宿る力が何なのか、まだはっきりと分からないが、ようやく一縷の希望が垣間見えた気がした。

 

 

 「あんたって子は本当に……今度は何やらかしたのよ?」

 

 

 「まぁそう怒るなベルメール。男はこのくらい元気な方が」

 

 

 「ゲンさんは黙ってて! 本当にこの子はもう……私もよく問題児呼ばわりされたけど、それ以上ね」

 

 

 ソラは横で仲良く言い合う大人二人の声で目が覚めた。またもや病院のお世話になってしまうとは、白い三角巾と椹木で固定された腕を見ると、どうやら怪我はだいぶ酷いようだ。ここにリカバリーガールが居ればいいのにと切に思った。

 

 

 早く退院して、自分の力を知らなくてはいけない。この怪我はどれくらいで治るのだろう。完治させたとして、恐らくアーロン一味が襲ってくるのは一年と少し。それまでにこの力を、せめて自由に打てるようにコントロールできるようにしたい。最悪でも自分とアーロンが相打ちならお釣りがくるなと、考えながらソラは動く左手の感触を確かめていた。

 

 

 「こら! 起きたんなら言うことあるでしょうが!!」

 

 

 ぺしんと切れのいい音が病室に響いた。それを見たゲンさんが、怪我人に手をあげるなと抗議の声をあげるもそれに従うベルメールではなかった。またもや言い合う二人。

 

 

 「あー、ソラ兄さん起きたんだ。ほら、ナミ。だから言ったじゃん」

 「ノジコはあれを見てないからそんなこと言えんのよ!お兄ちゃんの腕、酷かったんだから!」

 「そうそう。わんわん泣いちゃうくらいね」

 「ノジコだって涙目だったじゃない。私、見てたんだから!」

 「泣き虫ナミと一緒にしないでよ。私は泣いてないからね」

 「嘘つきー! ベルメールさん、ノジコが嘘ついたー!」

 「はいはい、あんたたち、ここ病室だから。うるさくしちゃだめよ」

 「人のこと言えんだろうが……全く」

 

 

 この光景を守れるヒーローになりたい。ソラは強く、強く自分の胸に燃え移っているであろう炎の灯を左で握りしめるのだった。 

 

  

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