ワンピースでPlus Ultra   作:ちょもらんま

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二話

 ソラには自分のこの力が本当にワンフォーオールなのかどうか、実際のところ分からなかった。根拠となるのは、木を殴るときに、偶然「スマッシュ」と唱えたことと、突発的に暴風のごとき破壊力を生み出して壊れた右腕。だが、ソラにとってこの力が別の力、例えば砂糖力道のシュガードープでもよかった。

 

 

 彼が望んでいたのは、アーロン一味から大切な人を守るための力。せめてアーロンと相打ちまでもっていけたらと、延々悪魔の実を求めて彷徨い歩いていたが、ここにきて見分色の覇気とワンフォーオールの力。これは誰かがアーロンを倒せと自分を後押ししてくれているのかもしれない。ソラは病院の暗い寝床でこの力を授けてくれたであろう神にただただ感謝した。

 

 

 そんなソラは退院後、右腕をしばらく使えない生活を余儀なくされた。全治には半年はかかるそうだ。彼は神を恨んだ。信仰心のない人間なんてこんなものである。左手で不器用にちまちまとご飯を食べながらソラは内心鬱屈した思いだった。いよいよこれからだというのにこのざまだ。もう時間もないというのに。

 

 

 「お兄ちゃん。このみかんおっきいよ!」

 

 

 そうだねと、ぽんぽんとナミの頭を撫でて作業に移る。焦りは禁物。今の自分のすべきことは、一刻も早く右腕を治すことだと言い聞かせ、ここ数日は家の手伝いに励んでいた。ちなみに今日はみかんの収穫日だ。摘果作業や整枝作業を地道に積み重ねた成果だろう。今年は豊作だ。みかんの色も大きさも文句なし。十分に熟れたみかんをもぎ取りながら、これ売れ残ってジュースにならないかなと密かに狙いをつけながら黙々と作業する。

 

 

 「ソラ兄さん。腕まだ治ってないんでしょ? ここはいいから休んでなよ」

 

 

 そんな彼を若干心配性なノジコがそっと声をかけた。その気遣いがくすぐったく、できた妹に感心する。なんら人並外れたところのない自分に誇れるものがあるとするならば、間違いなくこの二人の妹だろう。大丈夫だからと、ナミと同じように頭をぽんっと叩く。本当に、と言わんばかりに顔の覗きこんでくるノジコは、まるで姉のようだ。これではどちらが年上なのか分からない。ソラが笑顔で再度大丈夫と告げると、ノジコはほっとしたように笑った。

 

 

 「むー。なによ。ノジコってば」

 「何よ? ソラ兄さんはよく無茶するから、これくらいちゃんと言っとかないと」

 「ふーんだ。それくらいわたしだって」

 

 

 たまにソラは疑問に思うのだが、なぜこの二人は自分を兄として慕ってくれるのだろう。普通とは大きく逸脱しているのを自覚する彼にとって、二人の妹の態度に嬉しくも不思議に思うのだった。

 

 

 籠一杯に収穫し終えたソラは、仕事終わりのみかんジュースを飲みながら一人、ぶらぶらと散歩をしていた。いつもなら二人のうちどっちかは付いてくるのだが、疲れているのだろう。ぐったりと休む二人を残し、ソラは家を出たのだった。

 

 

 散歩しながら頭の中を占めるのは、これからどう時間を過ごすかだ。右腕を治すためには過度のトレーニングはできない。見分色の覇気を鍛えようにも、鍛え方が分からない。そもそも頭を打って芽生えた偶発的なものだ。このままでは宝の持ち腐れでしかないが、気配をより強く感じるためにはどうすればいいのか。原作のルフィのように野生に帰ればいいのか。

 

 

 レイリーのような教え導いてくれる師匠の存在がいかに得難いか。原作のルフィの幸運に嫉妬するも、自分には剣を教えてくれる世界最強の剣士も、半裸のよく分からない二足歩行のカブトムシもいないのだ。溜息を吐き、顔を地面に向けながら歩いていると、小さな紙くずが落ちていた。何気なしに拾い上げる。

 

 

 「ヒーローってのは本来奉仕活動! 地味だ何だと言われても! そこはブレちゃあいかんのさ…」 

 

 

 電流が全身を駆け巡る。これは確かオールマイトが緑谷に言った言葉だ。オールマイトからの最初の試練は、不法投棄で埋まる海岸を綺麗にすることだった。ヒーローの本質を伝えるとともに身体を鍛えるというまさに一石二鳥の試練。見事成し遂げた緑谷はワンフォーオールを使うための器を手にすることができた。

 

 

 「肝に銘じておきな、これは君自身が勝ち取った力だ」

 「最初から運よく授かったものと認められ譲渡されたものではその本質が違う!」

 「人々を笑顔で救い出す“平和の象徴”は、決して悪には屈してはいけないんだ」

 

 

 次々と浮かぶオールマイトの言葉を、ソラは何度も頭の中で繰り返した。この力は、勝ち取ったわけでも認められて譲渡されたわけでもない。だが、今の自分にとって何よりも必要な力だ。何故か。それは自分のかけがえのない家族を守るため。自分の一つしかない居場所を守るため。敵は強く、このままでは自分は死ぬだろう。逃げたくないといえば嘘になる。だが、それでも。

 

 

 「あの場の誰でもない、小心者で“無個性”の君だったから!!! 私は動かされた!! トップヒーローは学生時から逸話を残している……彼らの多くが話をこう結ぶ!! 「考えるよりも体が動いていた」と!!」

 

 

 理屈ではない。怖くても恐ろしくても、自分は立ち向かわなくてはならない。そうだ。うだうだ考えていたが、やることは一つだ。

 

 

 「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの! 敵(ヴィラン)よこんな言葉を知っているか!!? Plus Ultra!![更にむこうへ]」 

 

 

 限界を超えること。

 

 

 覚悟を決めたソラは、心でPlus Ultraと唱える。全身に巡る電流と高揚感。まだオールマイトのようにワンフォーオールを使いこなすことはできないが、緑谷のように出力を抑えての発動ならできるようだ。暴発が怖くて、身体を鍛えるまではなるべく使わない方がいいと考えていたが、彼は考えを改めた。限界を超えるためには無茶の一つや二つ、笑顔でできるようになろう。

 

 

 顔をあげると夕焼けに染まる空が見えた。無性に叫びたくなったが、それは恥ずかしいので、全力で走り出した。もう止まることはない。アーロンを倒して、平穏を手に入れるまではと、ソラは自分に誓うのだった。

 

 

 その後、出力の調整など何の考えもなしに突っ走ったソラは、全力ですっころんで頭から地面へヘッドスライディング。額から血を流しながら帰路につき、ベルメールからの拳骨をもらうのだった。もう二度とテンションに身を任せないと、彼は思った。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 次の日。

 

 

 「ねぇソラ兄さん。えっと、今度はどうしたの?」

 

 

 心配そうにこちらを見るしっかり者の妹に、ソラはなんとも言えず、苦笑いでごまかし黙々と村中のゴミ拾いをこなす。海岸の不法投棄のような重量物がないため筋力アップには繋がらないが、オールマイトの力であるワンフォーオールにもしかしたら認められるかもしれないという打算のもとの行動だった。

 

 

 「えらいねぇソラちゃん。ジュース飲んできな!」

 

 

 近所のおばさんはソラの行動を好意的に解釈し、好物のミカンジュースをご馳走してくれる。ぺこりと頭を下げ、水分を補給したら、黙々と目をつむって気配を探りながらゴミ拾いに精を出す。ゴミを見つけたら、Plus Ultraと唱え、出力1パーセントを意識して優しく掴み、背負った籠に入れる。これの繰り返しだ。

 

 

 これを毎朝。昼は家の手伝いに、夜は身体を壊さない程度の筋トレ。

 

 

 右腕が完治してからも、ゴミ拾いは継続し、より負荷を強めて筋トレを行うようにした。スマッシュは使えないが、Plus Ultraをキーとしてフルカウル状態にはだいぶ慣れた。スマッシュのときに感じた力を100%とすれば、これは大体3%くらいだろう。とにかく身体になじませること意識して、普段から使うようにした。

 

 

 念のため、小金稼ぎも忘れない。厳格だが時に結構大金をくれるゲンさんのもとにちょくちょく通って、彼の後に付いて回ってお手伝い。最初は戸惑い対応に困っていたが、いつの間にか顔を見せないと文句をいうようになっていた。

 

 

 そして、時は過ぎ、

 

 

 「ノジコのおさがりばっかり!」

 

 

 と喚くナミに、今度一緒に買いに行こうと宥めて機嫌を取ると、ノジコが不満を隠そうとせずにナミに噛みつく。あんたたちはもう……と呆れるベルメール。いつも通りの光景だ。だが、それも今日までかもしれない。と不安になる心を叱咤し、ソラは静かに家を出た。

 

 

 アーロンの来襲。コノミ諸島のこの村に来ることは分かっていたが、明確な日にちが不明なためソラは家で静かに気配を探っていたのだが、とうとう自分の覇気で捉えられる範囲に奴が来たようだ。嫌な気配が西の方角から伝わってくる。ソラは右手で胸を掴んだ。すべてはこの時のために、覚悟は済んでいる。

 

 

 「ごめんなナミ。買い物は行けないみたいだ」

 

 

 奴をこの村に近づけさせない。その前に止めようとソラは考えていた。出力5%のフルカウル状態で、地面を大きく蹴った。猛スピードでココヤシ村を後にし、見分色で感じる気配を頼りに全力で走る。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 「シャーハッハッハッハ。ゴキゲン麗しゅう くだらねェ人間どもよ!!!」

 

 

 この言葉とともに、アーロン一味の侵略が始まった。

 

 

 圧倒的な暴力で村一つを即座に支配下に置いたアーロン一味は、その足をとどめることなく、ココヤシ村へと歩を進めていた。大人一人10万ベリー、子ども一人5万ベリー、それが払えないなら死を。こんな要求、あり得ないと誰もが思う。だが、アーロン一味を止める術を持つ者はこの島にはいなかった。海軍でさえも、後にネズミ大佐を取り込むアーロンにしてやられている。

 

 

 「しかし手ごたえがないな。人間ってやつは」

 「チュッ。もっともだ。陸の上でしか生きられない下等種族ってな」

 「それ、アーロンさんの受け売りだろ。しかし、全くだな。ここまでとは張り合いがない」

 

 

 ソラは、アーロン一味がココヤシ村に到着する前に、その姿を視界に捉えた。こいつらを村に行かせるわけにはいかない。このままでは半時もせずに村に辿り着くだろう。一旦フルカウルを解除。息を整え、無言でアーロン一味の先頭を歩くアーロンの元へと向かう。

 

 

 「ん、なんだぁ。このガキは? おいハチ、捕まえ……」

 

 

 先手必勝だ。名乗る必要も、戸惑う必要もない。油断している今が最初で最後のチャンスだ。アーロンさえ殺せば、この一味は解散する。たとえクロオビやチュウがその後を引き継ぎまとめようと、海軍を手玉にとれるほどの謀略はあいつらではできない。

 

 

 ここで全力のスマッシュを放ってアーロンを殺せたとしても、その後自分の命はないだろう。だが、命を懸ける覚悟はできている。腕を伸ばして自分を捉えようとするハチを、見分色の覇気で難なく躱し、アーロンの前に立つ。ソラは一切の躊躇なく、唱えた。

 

 

 「デトロイトっっ!! スマッシュ!!」

 

 

 100%のワンフォーオール。右腕にすべてを込めて、文字通り全身全霊の一撃をアーロンの腹に叩き込む。

 

 

 「アーロンさんっ!!!」

 

 

 手下数人と吹き飛ぶアーロンに、クロオビが叫ぶ。想像すらしなかった光景に、理解が追いつかない。轟音が響き、アーロンは大木にぶつかりうめき声をあげながら悶えている。目の前のガキはなにをしたのか。どうすれば人間のガキが、あのアーロンさんにここまでダメージを与えることが出来るというのか。クロオビは正体不明のオレンジ色の髪をした少年に警戒心を最大限まであげ構えをとった。

 

 

 一方、ソラは愕然としていた。

 

  

 右腕は折れた。間違いない。痛みも半端ではない。火柱に手を押し付けているかのようだ。その代償が、アーロンの命なら安いものだったのだが、奴はまだ生きている。血反吐を吐いて苦しんでいるが、生きている。魚人の頑丈さを舐めていた。この一撃で刈り取れるほど甘くはなかったのだ。ならばと、左腕に力を籠める。ゲームオーバーにはまだ早い。トドメを刺せば、あと一撃食らわせることが出来れば、命を刈り取れる。

 

 

 早く、トドメを。

 

 

 「このクソガキがぁぁぁぁあぁあぁぁっぁぁ!! 下等種族の分際で!!」

 

 

 フルカウルを発動、クロオビの正拳を紙一重で躱し、一気にアーロンへと接近するソラは、今度は頭を潰そうと再び100%のワンフォーオールを発動させた。この一撃で、今度こそ終わらせる。その覚悟で放とうとした全力のスマッシュは、海王類のごとく目を怒らせたアーロンの頭を確実に粉砕する。

 

 

 はずだった。しかし、その前にソラは血を吐き倒れ伏す。

 

 

 まだ未熟な彼の見分色の覇気では、背後から襲う水の鉄砲をとらえきることが出来なかった。

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