歩き始めて10数分、目的地の公園に到着した。地元が隣町に近い方面の所にあるので、自宅からは交通機関を利用しなくてもすぐ着く距離だった。その公園は、とても森林が豊かで、多種な植物が咲いている。公園を利用する人間は様々だ。幼児、学校帰りの小学生、デッサンに勤しむ美大生、お笑いの稽古をしに来ている芸人、高齢者。もとは植林場だったとか。
僕は公園の敷地内に入り、溝に大きな木が生い茂っている道を通った。桜の蕾が芽生えている。
少し歩くとそこには大きな滝があり、滝の前で何人かの見習い芸人と思われる人達が稽古をしている。傍にあるベンチに僕は腰をかけた。滝はチャポチャポと綺麗な水の音を流し、うららかな太陽の日差しに体を照らされた。眠くなってしまいそうだ。
「まるで老人にでもなった気分だなぁ。」
あまりの気持ちいい天気に、僕は思わず独り言をつぶやいた。
と、その時。
「お兄ちゃん、」
隣から幼い声が聞こえた。声がした方向に首を向けると、そこには、幼稚園の制服を来た、お下げ髪の幼女が立っていた。
「?どうしたの?」
「あのね、パパがいないの」
見るからに5歳程度の女の子だが、歳の割にはとても落ち着いていた。しかしながら僕は目の前で困っている子供を放っておこうとは思えなかった。
「そっか、じゃあお兄ちゃんが探すの手伝ってあげようか?」
「うん!ありがとう!お兄ちゃん!」
少女は嬉しそうにお礼を返した。
「私はゆき。お兄ちゃんは?」
「僕は兎影間琴(とかげまこと)、よろしくね。」
相互に名乗り合い、僕はベンチから立ち上がった。するとゆきと名乗った少女は、僕の袖を掴み、こっちだと言わんばかりに別の道に繋がる方向に指をさした。
「え?」
思わず困惑すると、少女は僕の袖から手を離し、指をさした方向へと走った。
「あっ、ちょっと!」
少し焦りながら、僕はそのまま少女を追いかけた。
「こっちにパパがいる気がするの!」
根拠はなさそうだが、僕は少女の感覚に従うことにした。しばらくすると少女は立ち止まり、僕の顔を覗き込んだ。
「…?どうしたの?」
「ここ!ここにいる気がするの!」
少女は目前の大木に指をさした。周辺に人けはなく、とても誰かいるようには思えなかった。
「この木の後ろにいるってこと…?」
「うん!」
視認しなくては気がすまなそうなので、僕は半信半疑で木の後ろに近づいた。その時…
「ウァァァァ!!」
そこにいたのは確かに『男』だった。彼女の言う通り。だが、一目して分かる。こいつはこの少女の父親ではない、と。殴られたら一たまりもないような図太い腕、レスラーのようなガタイに、不良すら怖気付くような強面、極端に短い髪の毛、しわがよった額、ギロッとした目つき、とても凶暴そうな特徴の男だ。
「!?」
その迫力に僕は肝を抜かした。と、次の瞬間
ザバッ!
と音を立て、眼前の男はものすごいスピードで僕の襟を掴み上げてきた。
「へっ、よくやった、ガキ。」
男は少女に顔を向けて言った。少女に焦った様子はなく、ただじーっとこちらを見ていた。
男は僕の襟を掴んだまま少女の顔に手のひらを向けた。すると次の瞬間、
男が手を向けた方向に、人一人入れるような大きな空間の『穴』が生まれた。僕はその光景にただただ唖然としていた。
「まぁせいぜい仲良くやろうぜ?兄ちゃんよ。」
男はそう言いながら、僕を奇妙な穴の中へと放り投げ、その後に続いて穴の中へと自ら入っていった。
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「ハァ…ハァ…ハァ…、!ゆきちゃん!」
「あっ、ママ!」
「もう、ちょっと目を離した隙に離れちゃって…」
「ごめんなさい。パパは?」
「?何言ってるの、ゆきちゃん。うちはパパはいないでしょ?」
「あっ、そっか。」
「変な子ねぇ。」
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気がつくと、僕は冷たい地面に這い蹲っていた。
「…?ここは…?」
周辺を見上げると、まるでそこは病棟のような場所だった。
「病棟…?の廊下…?どうなってるんだ…病院は公園からだいぶ離れた所にある。こんな一瞬で辿り着けるなんてありえない…」
僕は目の前の現実にとても混乱していた。
「あの男はどこだ…?」
「ここだ!」
声のした方向に視線を向けると、そこには先ほどの凶暴な男が、廊下の曲がり角に立っていた。
「さぁ…始めようぜ。」
「え…?」
僕には彼が何をしようとしているのか、理解できなかった。いや、理解する余裕がなかった。なぜなら彼は、数メートル先から『拳銃』をこちらに向けているからだ。
バン!バン!
「ひっ!」
とこちらに向けて発砲する。しかし、弾は自分に当たらなかった。
バン!バン!バン!
3発続けてこちらに発砲する、これも当たりはしないが、僕の爪先のそばに着弾した。
それが現実なのか、夢なのか、そんな事は考えなかった。ただ、頭の中は『逃げろ』という言葉で埋まり尽くしていた。即座に僕は立ち上がり、男に背中を見せ、逃げ出した。男はそれを追いかけながら発砲する。
バン!バン!
「おいおい?逃げてんじゃねえよ!戦え!」
「ハァ…ハァ…ハァ…」
男の言葉は耳に入ってこない、全神経を逃げる事に集中させている。必死に腕を振り、足を動かし、ただただ逃げている。
「…チッ、当たらねーな。まぁ、いい。距離を詰めてぶっ殺すだけだ。」
僕は一旦後ろを向き、どれほど男が迫っているのかを確認した。近いわけでも遠いわけでもないが、これ以上距離を詰められると流石にやばい。廊下を渡りきり、曲がり角を右にまがった。が、
「行き…止まり…!?」
まがった先には、大きな壁が行く手を阻んでいた。即座に振り返り、別の道に行こうとする、が…
「へっへっへっ」
遅かった。男は目の前に近付き、それに合わせるように僕は後ろへと下がる。が、後ろに道はない。壁に背中を着き、足を竦ませた。冷や汗をかき、怖気付き、自らの死を悟った。
「なぁ、おめぇなんで武器を使わねえんだ?」
「…?」
「とぼけんな!おめぇも罪を消す為に戦うプレイヤーだろうが!」
「武器…?罪を…消す?プレイヤー…?」
「…めんどくせえ、なんでもいいがおめぇの『パーツ』は頂くぞ。あと、命もな!」
男は銃のマガジンを入れ替え、僕の頭に銃口を向ける。
「へっへっへっへっ、ゲームオーバー、ってな!」
男が引き金を引こうとした、と、その瞬間
ドーン!
激しい音が鳴り響き、男は何者かに腹を銃で射抜かれた。
感想、アドバイス等頂けると幸いです。次回から三人称で物語を書いていきます。