~着任~
2015年2月11日、この日の朝は普段と違ってより一層寒さに堪えた。冷えた黒塗りのセダンに乗っていると身体が冷え、後部座席にいつつも端に寄ってついつい目を瞑って蹲りたくなるものだ。
千島列島北東部に位置する幌筵鎮守府に配属された俺、灰原 桐谷(はいばら きりや)(16)少佐は今日からその鎮守府を指揮することになった、こんな北端の鎮守府に配属されるなんて神のいたずらかのようにも思える。
元々は横須賀鎮守府で大人しく士官兵として働くつもりだったが、数年ほど前、各地の海から次々と謎の艦艇群(通称:深海棲艦)が現れるや否や、無差別に艦船に攻撃を仕掛けるようになり、軍艦の火力では力及ばず容赦なく轟沈され、各国は制海権を喪失し、挙げ句の果てにはシーレーンまで断絶され孤立していく。奴等の目的は未だに分からない。因みに、容姿は初期段階としては魚に足が生えたような生物が現れてきて、なんとか倒せる強さだが、そのうち人間に近い容姿をしていくにつれて強くなってくる。
その後、武装した女の子(通称:艦娘)が登場して参戦してきた。神は気まぐれな御方なのか、人間側に神の御遣いを遣わされたようだ。そして、沢山の船員、指揮官が戦死して人数不足となった為か、こんな俺まで駆り出され彼女達の提督として任命された。艦娘は深海棲艦に抵抗できる唯一の手段と言われているのだが、なぜ彼女達が現れたのか、なぜ奴等に抵抗できるのか、上層部による情報漏洩防止及び秘密主義の為、俺みたいな下級司令官にはその件について何も聞かされていない。
ただ、彼女達の艤装にいる妖精と言われる小さな人間のような者が艦娘と何かしら関係があるように思われる。
車に射し込む陽光に顔が照らされて、眩しさと暖かさに浸っていると眩しさでつい目を開けてしまった。動いていない、車が目的地に着いたのだろう。目に入ったのは赤煉瓦で出来た、人の気配があまりしない建てられてまだ新しそうな鎮守府が佇んでいた。ひとまず運転手にドアを開けてもらって、白銀の新雪に足を落として車外に出て、ひとまず埠頭に目をやると演習場らしきものが存在する、きっとそこで鍛練に励むのだろう。視線を鎮守府に戻すと、その施設の前で、腰…いや、足元まであろうかという瑠璃色のような長髪をし、袖がない、白を基調としたセーラー服を身に纏い見た目小、中学生かと思われる可憐な女の子が直立不動でこちらに向けて、参考にされそうな敬礼をした。
「初めまして!五月雨って言います!本日より提督の秘書艦となります、よろしくお願いします。ひとまずは提督室まで案内しますので、着いてきて下さい」
「よろしく。そうか、君が秘書艦か、今日から色々と世話になるな」
「いえ、こちらこそ!」
門に入り、鎮守府の回りを見渡すと、入渠、グラウンド、中に入ると工廠、艦娘の個室、教室などが充実していて中々な感じだ。ほう、一階奥には食堂まであるのか、で、三階に提督室か…。
提督室に入るとき、五月雨が先にドアを開けてエスコートしてくれた。気配りまで出来るのか、良い娘だ。 中に入ると、給食員を彷彿させる服を着た、左に栗色のような髪色をした人、中に同じ服装で鴨の羽色のような髪色をした人がいて、右にはセーラー服のような格好をし、髪は黒のロングストレートをした、知的さを思わせる眼鏡を掛けた人、計三人が横に並んでこちらにむけて五月雨のように敬礼していた。
「提督、初めまして。軽巡、大淀です。この鎮守府の運営、管理、提督のバックアップを全力でサポートさせていただきます」まずは右の娘か…。
「提督!初めまして。給糧艦、伊良湖です!一階の間宮食堂で務めています」
次に中か。
「提督、初めまして。同じく給糧艦の間宮です。朝、昼、晩の食事は間宮食堂にお越しください」
後ろにいた五月雨が前に回ってきた。
「改めまして、白露型6番艦の駆逐艦、五月雨って言います!よろしくお願いします。護衛任務はお任せください」
すると、大淀が挨拶を皆にするよう促してくれた。
「提督、どうぞ、我々に一言お願いします」
「分かった。初めまして、私は灰原 桐谷、階級は少佐だ。呼び方は提督、司令官、少佐、好きに構わん、あいにくながら、指揮経験は実戦に関してはあまりないので迷惑かけると思うがよろしく頼む。因みに、私は戦い、仲間が死ぬのが嫌いだ、だが今は戦いのない世の中にする為にも戦って勝たなければならない、それにここの鎮守府に着任した今、君達を死なすわけにはいかない、いや、死なせない。それが私の考えだ、以上」
言い終わった後、艦娘達から温かい拍手が送られる。
「では、提督、僭越ながら私、大淀が早速ですがまずは建造について説明させていただきます」
「工廠にて、現在ある資源から適量を妖精に預けることによって新しい艦娘が誕生します」
「提督、今から実際、工廠に向かいますので秘書艦と共に着いてきてください、間宮さん、伊良湖さんは元の持ち場に戻ってください」
「分かった」
「「分かりました!」」
大淀は俺がいなくてもこの鎮守府を一人でやっていけるのではないかという、虚しい気持ちに駆られてしまった…。
気を取り直して、工廠に向かうと工事現場で働いている人のような格好をして、妖精がせっせと準備をしていた。
「提督、まずは投入したい資源の量をこちらの書類に書き込んで、近くの妖精に渡してください」
「分かった」
振り向き様に言われて思わず、ビクッとしたが敢えて冷静に言ってしまった。いきなり声をかけられてビックリするなんて、人見知りは未だ治らないようだ。
そこの書類には燃料( )、弾薬( )、鋼材( )、ボーキサイト( )と、()に数字を当てはめるような形で記入欄が書いてあった。
「提督!最初は無難にall30でどうでしょうか??」
「それもそうだな、五月雨ありがとう」
「えへへ…提督に誉められちゃいました…」
…はにかむような笑顔に思わず見とれて嬉しがったのは黙っておこう。
早速燃料、弾薬、鋼材、ボーキの欄にそれぞれ30と記入する。
「そこの妖精さん、これでよろしく頼むよ」
「(コクン、コクン)」
すると、そこにいた妖精は何か個室のようなところに入っていった。
その様子を見た大淀は微笑を浮かべて、
「どうやら1:00:00みたいですね、折角ですから高速建造材を使いましょう」
これは当たりなのかな?取り合えず使うことにした。
すると、妖精がどこからかバーナーのような物を取り出してきて、個室に入っていった、すると、残り時間がみるみるうちに急激に減っていった。
「あ!新しい仲間?早く会いたいですね~、ささ、中に入ってみましょ?」
「おいおい、五月雨、あまり引っ張るなよ」
手を引かれて中に入ってみると…そこには。
「初めまして、龍田だよ~。天龍ちゃんが迷惑かけてないかな~、って、あれ?天龍ちゃんはまだいないのね~」
そこにはなんと、独特な雰囲気を持ちゆったりとした甘ったるい口調をする中、高生のような感じの可愛い女性がいた。
「初めまして、私がここの鎮守府の提督だ。宜しく頼む」
「初めまして!五月雨って言います、今は提督の秘書艦として就いています!」
「初めまして、龍田だよ~。二人ともイジメ甲斐がありそうね~、フフフ…」
「え?」
「ひっ…」
今、何か異様な気配を感じたな。気のせいだろう、そう願おう。
その後、俺達はひとまず提督室に戻った。大淀曰く、明日は上から着任祝いの為に新しい艦娘が二人ほど派遣されるらしいので、その娘達を迎え入れる為の手続きをするようだ。それと、明日はどうやら、戦闘に慣れる為に、鎮守府正面海域に存在するはぐれ深海棲艦を掃討するらしい。五月雨は秘書艦の為、俺と資源管理の書類、今日の資源収入・支出・収支、今日建造された龍田の鎮守府登録手続き、といった書類整理をしている、が、しっかしよく働くな。たまにハンコを逆さまに押すから複雑な気持ちだけど…。
「提督~、何かすることありますか?」
軽く現状整理していたら、龍田に相変わらずゆっくりな口調で、声を掛けられた。
あ、うっかり忘れてた…。
「そうだな、二階に軽巡用の部屋があるから、そこから自分の部屋を選んで明日の出撃に備えて休んでいてくれ」
「りょ~かいです」
そう言うと、彼女は後ろを振り向いて提督室を後にした。
「提督は優しいですね!すぐには出撃しないのですか?」
「あぁ、いきなりするのもなんだし今日は俺も、龍田もこの鎮守府に慣れて欲しいと思ってな、あ、因みに五月雨も龍田や、明日新しく来る艦娘と一緒に明日の戦闘に参加してもらうから、後、時刻はマルキューマルマル(09:00)。後で龍田にもそう伝えておいてくれ」
「了解です!」
提督室には、俺用の個室しかもトイレ風呂つきが端にある扉の方に繋がっている。どうやら、そこで寝起きして、昼間は提督室の提督用の椅子に座って雑務をこなすらしい、他にも、出撃の場合一緒に行って直接指揮や、作戦指令室で艦娘達に無線で指示をする。これらは何かと大変そうだ。
陽が傾き、辺りが黒一色に覆われ始めると外は静まりかえっている。
今夜はこれで終わりのようだ。間宮食堂にでも行って、明日に備えてさっさと風呂に入ってあの先輩に連絡して寝るか。
「五月雨」
「はい?提督、何でしょう?」
「今日はこれで終わりだ、間宮食堂にでも行って一緒に食べないか?」
「お食事ですね!はい!喜んで」
五月雨は嬉しそうに言って返事をしてくれた。この反応はこれはこれで悪くないな。
夕食後、提督室に帰る途中、五月雨とは自室で別れた。明日の作戦時刻はマルキューマルマル(09:00)、これは俺にとって初陣だ。出落ちするわけにはいかない、無事に勝利して凱旋してくるぞ。
自室に入ると、小さいベッドが1つ、クローゼット、机に電話機が置いてあるぐらいだった。黒電話のダイヤルを回して、ある鎮守府に連絡を取ろうとしたところ、いきなり電話が鳴ったので回しかけたのを止めて、こんな夜に電話が鳴るのも変だから怪訝そうにしながら電話を出た。
「はい、こちら幌筵鎮守府ですが?」
「こちら、宿毛鎮守府だ、どうやら無事に着任したようだね」
この声には聞き覚えがあった、いや、忘れるわけがない
「あ!俊也先輩!いえ、今は古賀少将でしたね」
「別に、昔みたいに呼んでくれて良いよ」
「ありがとうございます!先輩!お久しぶりですね~、丁度連絡をしようとしてたのですよ~!」
「そかそか、それでだけど今、そちらの方面に我が川内率いる水雷戦隊が向かっている頃だ」
「そうでしたか、宿毛からわざわざお疲れさまです、しかしながら、それは如何様で?」
仕事の内容なので俺も急に声のトーンを変える。
「近頃そちらに厄介な深海棲艦が出現しているらしい、その排除だ」
「いえ、でしたら私目にお任せしてくだされば」
「初陣にはキツいだろう?相変わらず無理をするところは変わらないんだな、それに、今回の主旨は討伐及び、艦娘の育成ついでにそちらを向かわせた。で、頼み事なんだが、艦娘の補給、修理の為、帰還するときそちらに寄港させてくれないか?」
「坂内少将の頼みとあらば喜んで、これは私目の頼みですが、ついでに演習相手をしてくれると助かります」
「それぐらいお安い御用だよ、後で川内に伝えておくね」
「わざわざありがとうございます、相変わらず優しいところはお変わりありませんね」
「そうか?ありがとね」
「いえいえ、明日は初陣なので、備えてもう寝ますね」
「わかった、わざわざすまんな、おやすみ」
「こちらこそすみません、おやすみなさい~」
先輩はやっぱり変わらないな、何か急に眠気に襲われた。相当疲れたんだな、今日はもう寝よう。受話器を無造作に電話機に置くと風呂に入らず、灯りを消し、うつ伏せでベッドに倒れこむように寝入る。この調子だとこれからが大変そうだ…。