アンチョビピッツァ   作:はなみつき

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短めなちょっとした小説の予定です。
御暇でしたらどうぞお楽しみください。

!注意!
独自設定あります。多少の原作との違いは御目こぼしを。



戦車、壊れた後

「CV33はとりあえずお終い、っと」

 

 俺は手に持ったレンチを軽く宙へ投げてパシッと音を立ててキャッチする。

 今日の試合で走行不能状態になったCV33達を走行可能状態にまで修理し、ガレージ内にずらりと並ぶ復活したCV33を眺める。

 CV33はイギリスのカーデンロイド豆戦車をベースにイタリアにおいて設計・製造された豆戦車だ。全長3mちょっと、武装は8mm機銃が二丁、装甲厚は最大14mmと言うなんとも可愛い戦車だ。小さい車体から繰り出されるすばしっこい動き、軽い車体を生かしたゾンビ戦法を用いて試合を戦った。しかし、8mm機銃では残念ながら火力不足と言わざるを得ないだろう。

 

『P40フラッグ車、走行不能! 大洗女子学園の勝利!』

 

 その放送がまた頭の中で繰り返し、繰り返し、繰り返し鳴り響き始めた。CV33の修理をしている間は集中していたため気にならなかったが、一度手を止めてしまうと再びそのことを意識してしまう。

 第六十三回戦車道全国大会、第二回戦において我らが母校の戦車道チームは大洗女子学園に敗北した。

 この試合でCV33達は元気に走り回り、機銃で敵戦車をチクチクと攻撃していた。しかし、CV33達の機銃では敵戦車を行動不能に追い込むことは出来ない。仕方のない事とは言え、悲しい事実だ。

 

 対戦相手とは試合後に一緒に食事をとり、お互いの健闘を称え合ったし、俺達の思いは大洗の戦車道チームに託した。

 吹っ切ったつもりだった。が、案外引きずっているようだ。

 隊長であるアイツは『現状では二回戦まで行ければ上等であり、一度でも勝利することで後輩たちに自信を付けさせる』という事を目標に据えていたみたいだ。

 今年の大会で一回戦を突破できたという事実は後輩たちにとってとてもいい経験であり、俺達三年生が卒業した後でもやって行けるようにという心積もりなのだろう。

 

 俺としては例え難しくても優勝……とまでは言わないが準優勝、ベスト4まで行って欲しいと考えていた。

 俺とアイツで頑張って来た三年間がこの大会を持って終わりだという事を考えると……なんとも物悲しい。

 

「……セモベンテとP40は明日でいいか。戦車(この子)達もこんな気持ちで車体(からだ)に触ってほしくないだろうしな」

 

 そうと決めたら手に持っていた工具を腰に巻いていたポーチに収めた後に、腰からポーチを外す。身軽になった所でCV33の横に敷いてあるシートの上に寝転がる。手を組んで頭の後ろに回して枕にすることで固い地面に直接頭が接することを防ぐ。環境的には決して寝心地が良い場所ではないが、この場所で横になると心が休まるような気がする。

 

 寝転がった俺が見る景色は戦車をしまうガレージの天井だけだ。この三年間で戦車の修理や整備が一段落すると今みたいに寝転がり、寝転がるたびに何度も見た天井だ。そんな天井を眺めて居ると色々なことを思いだす。

 練習の後の戦車の整備のこと、練習試合の後の戦車の修理のこと、新しく買った戦車の調整のこと、特に意味もなく個人的に戦車を弄り回したこと。

 

「なんだ、まだ残ってたのか」

 

 そんなことをつらつらと考えながら天井をぼんやりと眺めて居ると、今まで見ていた一面天井の景色がある人物の顔に変わった。それは高校に入ってからは親の顔よりも見た人物の顔である。どうやら彼女は仰向けになっている俺の傍に立ち、俺の顔を覗き込んでいるみたいだ。彼女は腰に手を当て、さらに腰を九十度以上曲げて顔を近づけている。

 

「へっ、へぇあっ……」

「ん?」

「へっくしおおおおぉぉぉい!!」

「う゛わ゛ぁ! 汚いな!」

 

 俺の顔を覗き込んだ彼女のドリルツインテールは重力に従い垂れ下がり、その毛先が俺の敏感な鼻を刺激してくれたものだからくしゃみがでるのは仕方がない。

 唾と鼻水が若干彼女の顔に飛んだ気もするが、所謂コラテラルダメージと言うヤツだ。何のための被害かは知らないが。

 

「やあ、チヨ」

「私の事はアンチョビと呼べ。またはドゥーチェ」

 

 彼女の名前は安斎千代美。隊員達からは畏敬の念と親しみを込めてドゥーチェやアンチョビと呼ばれている。俺は隊員達の前では彼女のことをドゥーチェと呼んで言るが、彼女と二人きりの時はチヨと呼んでいる。

 そして、これは俺達が二人きりのときにいつもやるお約束のような物だ。いつものお約束なのだが、さっきまで色々なことを思いだしていた俺は彼女はいつから自分のことをアンチョビと呼ぶようにと、言うようになったのかも思いだした。

 

「ふふ……」

「何を笑っているんだ?」

「いやなに、前はアンチョビって呼ばれることを嫌がってたのに、今じゃあ自分で呼ばせてるって思うと……なんかおかしくてな」

「なっ! お前が始めたことじゃないか!」

「まあまあ、これやるから御気を沈めたまえ。ドゥーチェ」

 

 俺は寝そべった状態のままつなぎのポケットに手を入れ、チョコレートを取り出す。取り出したチョコレートは学校の購買で売っている、イタリアでとても有名なチョコレートだ。高校に見学に来た人が買っていくお土産としても評判が高い。

 そいつをチヨに手渡す。

 

「ふん……まあ、許してやろう……って、これ溶けてるじゃないか!」

「ずっとポケットに入れてたからなぁ」

 

 季節は夏ではないものの、だんだんと暖かくなってきている。それに加えてガレージという熱のこもる場所でずっと作業していたのだから、ポケットの中のチョコレートが溶けるのは必然か。

 

「なんだかんだ言いながら食べてるじゃないか」

「折角貰ったんだしな。それに、チョコは溶けても美味い」

 

 チヨはそう言いながら包み紙に残った溶けたチョコレートを舐めて最後まで味わっている様子。その行動は女の子としてどうかと思うぞ、俺は。

 

「そう言えば、チヨは何か用事でもあったのか?」

「あー、まあ……なんだ。どうせお前は根詰めて作業しているだろうから、息抜きに誘いにな。外の空気でも吸わないか? この時間だと夜風が涼しくて気持ちいいぞ」

 

 CV33の修理をしているうちにいつの間にか夜になっていたようだ。ガレージに時計はあるが全く見てなかったし、外の様子は見えなかったから全く気が付かなかった。

 それに色々考えてしまい戦車の修理に身が入らなくなって来たところだ。チヨの誘いに乗るのも良いだろう。

 

「そうだな。自販機で飲み物で買ってから散歩に出も行くか」

「うむ。ご馳走様」

 

 はいはい。わかってますよ。

 

 

 

 

 

 

 俺達は俺がおごった缶の紅茶を飲みながら学園の敷地内を散歩していた。ある程度歩くと学園の観光名所『スペイン階段風階段』が見えてくる。さっきまでやっていた戦車の修理に加えて、少々歩いたために若干の疲労感を感じ始めた俺はスペイン階段風階段に腰かけて休憩することを提案した。

 

「……」

「……」

 

 散歩をしているときもそうだったが、階段に座って休憩しているときも俺とチヨの間に会話は無い。俺もチヨもどちらも話を切り出すことは無かった。

 しかし、この沈黙の時間に苦痛は感じないし、静かに二人で過ごす時間というものは心が落ち着く。

 この程度で気まずくなる程彼女との付き合いは短くないのだ。

 彼女が前に立って、俺は彼女を支える。

 高校三年間ずっとそうやって来た。

 これからもずっとそれが続いて行くように錯覚していた。しかし、今日の大会を以て、それが終わろうとしている。

 

 そうやって思うと自然と彼女との出会い、高校生活の始まりの記憶が思い浮んで来た。




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