アンチョビピッツァ   作:はなみつき

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ドリルツインテールドゥーチェも尊過ぎて生きるのが辛い


ペパロニ、植え込みのむこうに

 空を見上げると日本の街中では中々見ることが出来ない満点の星空が見ることが出来る。海を行く学園艦は周りの空気が澄んでいるため、数多くの星が見られるのだ。

 俺は学園艦から見る星空が結構好きだったりする。そのため、夜に外出すると気が付いたら上を向いていることが多い。そんな俺に釣られてか、チヨも星空を眺めているようだ。

 横目でチヨのことをちらと見ると、何やら物思いに耽っているようだ。彼女はあの星空を見ながら何を考えているのだろう?

 

 そんなこんなしていると、スペイン階段風階段に腰かけて一休みし始めてから十分くらい経っただろうか。俺もチヨも持ってきた飲み物はすでに飲み干してしまっている。

 

「そろそろ行くか」

「……あ、うん……。そうだな」

 

 季節的に暖かくなって来たとは言え、夜風は結構涼しい。夜風に当たり続けて俺もチヨも風邪を引くというのは面白くは無い。二人とも飲み物は飲み干して良い頃合いだと思った俺はチヨに戻ろうと呼びかける。

 チヨは思いのほか真剣に考えこんでいたようで、俺の呼びかけに少し遅れてから答える。

 

「コータローは……す……んん゛っ……今、何を考えていたんだ?」

 

 チヨは俺達が二人だけの時にする呼び方で俺に話しかけてきた。

 どうやらチヨも俺が夜空を眺めながら物思いに耽っていたことに気が付いていたようだ。

 

「チヨに初めて会った時のことだよ。昔は大人しい女の子だったのにどうしてこうなったのかなぁ……ってね」

「なっ! な゛~に゛~!? それはどういう意味だ!」

 

 俺が生暖かい目を向けながらチヨにそう言うと、俺の言葉が心外だったのか声を大きくした。

 三年前のチヨは引っ込み思案と言うほどではないが、どちらかと言うと物静かな、本当に文学少女然とした少女だった。しかし、アンツィオ高校と言う学び舎で一年、二年と過ごすうちに彼女もその例に漏れずノリと勢いで陽気に人生を過ごす少女へと変わっていった。

 

 さっきまでプンスカといった感じに怒っていたチヨであったが、今度は一転して何やら不安そうな表情をしてこちらに聞いてい来た。

 

「その……コータローは前の私の方が良かったか?」

「ん? まあ、文学少女系チヨも良かったけど、ドゥーチェ系チヨの方が俺は好きかな」

「そうか! そうかそうか……」

 

 チヨは「そうか!」でパッと笑顔になって、「そうかそうか……」の所で腕を組んでしみじみと頷いている。

 チヨは自分の今の方向性が間違っていないことを俺と言う他人から聞くことが出来て嬉しかったみたいだ。

 『ドゥーチェ』という役職はアンツィオ高校の戦車道チームにおいてとても重要な位置づけだ。そんなドゥーチェという役割を担ってきたチヨにとって、自分がやって来たことは間違ってはいなかったという確信が欲しかったのだろう。

 

「ほら、ゴミ捨てて来てやるよ」

「うん、ありがとう」

 

 俺はチヨから空になった缶を受け取り、一番近くに置いてあるゴミ箱の方へ向かう。

 ゴミ箱に缶を投げ込み、チヨの所に戻ろうとした俺は近くの植え込みの陰に見知った人物の頭部を見つけた。

 

「ペパロニ、こんなところで何やってんだ」

「うぇ!? に、にーさん……」

 

 俺のことを『にーさん』と呼んで慕ってくれるその人物は、俺とチヨの可愛い後輩の一人であるペパロニだった。

 ペパロニはツンツンと跳ねたくせっ毛に黒髪ショートヘアーで、もみあげを一房だけ伸ばして三つ編みにしているのが特徴的な少女だ。元気な子が多いアンツィオ高校の中でもとりわけムードメーカー的な立ち位置の活発な少女である。

 

 念のため言っておくが、彼女の言う『にーさん』とは血縁関係を匂わす表現ではなく、年上の人物に対する表現である。

 彼女ににーさんと呼ばれるところをクラスメイトの男子に見られた俺が男どもに取り囲まれたのは今になっても良くない思い出だ。

 

「えーっと、えーと……。コ、コンタクトをこの辺に落としまして……」

「お前、この間裸眼で3.0ってこと自慢してたじゃねーか」

「あっ! うぅ……」

「コータロー、何かあったのか? ん? ペパロニじゃないか」

 

 俺が誰かと話していることに気が付いたチヨもこちらに来たようだ。

 しかし、本当にペパロニは何をしていたんだ? コンタクトなんて必要ないだろうに。……はっ、もしかして、ペパロニは本当にコンタクトを探していたのか。つまり、それは……

 

「ペパロニ、お前まさか……」

「ギクッ」

 

 俺がそう言うとペパロニは明らかに動揺した様子を見せ、ものすごい量の汗をかき始めた。

 ふっ、分かり易い奴だな。

 

「視力検査の時にコンタクトってこと申告せずにインチキしたな!」

「何!? そうなのか! ペパロニ、流石にそれは褒められたことじゃないぞ」

「え? あ……えぇ?」

 

 俺の指摘によってチヨもペパロニが犯した罪を言及し始める。しかし、どうもペパロニの反応がおかしい。

 彼女の表情は想定していた事態と全く違って拍子抜けしたような感じだ。もしかして、何か間違えたか?

 

「ドゥーチェ、ディレットーレ。ペパロニは私が落したコンタクトを探してくれていたんですよ」

「カルパッチョか」

 

 そんな発言をしながらどこからか現れたのはこれまた可愛い後輩の一人であるカルパッチョだ。 

 金髪ロングの髪が魅力的な少女である。彼女はアンツィオ高校では珍しく、おっとり穏やかな人物であり、暴走しがちなペパロニのブレーキ役だったりする。

 

 そうそう、ディレットーレって言うのは俺のことだ。意味はイタリア語で部課長。僭越ながら戦車整備班のリーダーを任されている俺は戦車道チームの後輩達からそう呼ばれることも多い。

 ディレットーレ、ディレットーレと呼びながら後輩達が寄って来てくれることはとてもうれしいものだ。チヨがみんなに囲まれてドゥーチェ、ドゥーチェって呼ばれて楽しそうにしている気持ちがよくわかる。

 

「そうなのかペパロニ?」

「そ、そうなんッスよ! カルパッチョがこの辺で落としたって言うから一緒に探してあげてたッス!」

「そうだったのか。すまなかったな、ペパロニ。お前がインチキしてるなんて疑っちまって」

「私も悪かったな」

「え、いえいえ! 全然気にしてないッスから」

 

 俺とチヨは無実のペパロニを疑ってしまっていたことを知って素直に頭を下げる。間違ったらすぐに謝るのは人として大事なことだ。

 ペパロニは手を振って慌てたように気にしていないと言ってくれた。優しい後輩だ。

 

「コンタクトはさっき私が見つけました。手伝ってくれてありがとうございます、ペパロニ。そろそろ戻りましょうか。それでは、ドゥーチェ、ディレットーレ、これで失礼します」

「失礼します、姐さん、にーさん!」

「おう、また明日な」

「ちゃんと歯磨いてから寝ろよー」

 

 ペパロニとカルパッチョの二人に対して俺は無難に、チヨはなんだか母親みたいなことを言う。

 それを聞き届けると、ペパロニとカルパッチョはどこかへ行ってしまった。恐らく各々の家へ帰って行ったのだろう。はて、あいつ等は寮生だったかな、アパートを借りているんだったかな? まあ、いいか。

 

「それにしても、カルパッチョってコンタクトだったんだな」

「私も初めて知ったぞ」

「まだまだみんなの知らないことはいっぱいあるんだな」

「そうだなー」

 

 俺とチヨは後輩の今まで知らなかった一面を知ることが出来て何となく嬉しい気持ちになり、一方でまだまだみんなのことで知らないことも多いのだと改めて思い知らされた。一緒にパスタを茹でた仲だというのに……。

 

「俺達も、ガレージに戻るか」

「うん」

 

 俺がそう言うと、チヨもそれに賛成のようで素直に頷いた。

 

 

 

 

 ペパロニ、カルパッチョ。

 

 ガレージへと歩みを進めながら俺は二人のことを考えている。

 あの二人は俺とチヨにとっても特に思い入れがある後輩だ。いや、別に後輩達に対して差をつけているわけではない! 今年入って来てくれた戦車道チームの三十九人、戦車整備班の八人の一年生達も皆俺達の可愛くて、愛おしくて仕方がない後輩だ。

 ただ、先輩が引退して俺とチヨだけになってしまった戦車道チームに新しく入って来てくれた二人は俺達にとって希望の光みたいに感じたのだ。

 

 そうやって考えて居ると、後輩たちが来てくれた時の事が自然と思い浮んで来た。

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