「ムグムグ……ゴクリ。うまい! それで結局の所は何をするんだ?」
チヨは俺が作ったナポリタン幸せそうな顔をしながら食べている。しっかりと噛んでから飲みこみ、話の続きをし始めた。
「とりあえずは宣伝だな。そこでドゥーチェ・アンチョビのお披露目だ」
「うう……恥ずかしいけど、仕方ないか……。それで、いつやるんだ?」
「そうだなぁ」
まず新入生が全員集まっている時がいいよな。
それでもって新入生だけでなく、在校生も居てくれたらノリと勢いでさらに盛り上げてくれるに違いない。
そして、戦車道にいち早く興味を持ってもらうために、新入生たちが戦車道以外の選択科目を履修するかを考え始める前に宣伝をする必要がある。
となると、良い機会があるな。
「良い事思いついたぞ。ふふ……ふふふ……」
「えぇ……あんまりいい予感はしないぞ」
そうと決まったら来週に向けて演説の内容を考えないといけないな。それと、学園長に許可を貰いに行く必要があるか。
俺は来週の計画を立てながらナポリタンを食べ、チヨはそんな俺を見て若干引きながらナポリタンを食べることに集中し始めた。
☆
すでに何回目かもわからないチヨとの話し合い兼夕食会から一週間。俺達がいる場所はアンツィオ高校の全校生徒を収容可能な講堂だ。
まさしく今この場所でアンツィオ高校の入学式が行われている真っ最中である。そして、式典はまもなく終わろうとしている。
「これをもちまして第136回アンツィオ高校入学式を閉会いたします」
入学式の司会進行役を務める先生が入学式の閉会を宣言した。
先生の宣言は入学式が終わる宣言であると同時に俺達戦車道チームの宣伝が始まる宣言でもある。
俺とチヨは座っている在校生とは別の場所で待機しており、すぐに作戦を決行できるようにしている。
だが、チヨはさっきから緊張しっぱなしである。なんだ、そんなにドゥーチェフォルムで人の前に立つのが恥ずかしいのか?
「なあ……本当にやるのか?」
「ここまで来て何を今更。話は俺がするから、締めは任せたぜ」
「う、うむ」
緊張に堪りかねて小声で俺に話しかけてくるチヨ。こんなんじゃ先が思いやられるが、これでも彼女もアンツィオ高校の生徒だ。大勢の人の前に立ってしまえばテンションが上がってノリと勢いが出てくるだろう。
辛いのは始まる前だけだ。
「新入生が退場します。一組から……」
来た!
作戦スタート!
「ちょっと待ったー!!」
「「「「「おー!!」」」」」
先生の台詞を遮って俺が大声を上げて式を中断させ、チヨと一緒に待機場所から駆け出す。
俺達が式の途中で割り込むことは教師陣以外知らないはずなのだが、二年生と三年生はイレギュラーな事態にノリノリだ。
流石はアンツィオ生だ。期待通りである。
一方で新入生達は思いもよらぬ乱入者と、上級生達の謎の連帯感に戸惑っているようだ。
「よっと」
俺は叫びながらステージに駆け寄り、一息にステージの上に飛び乗る。
「コ、コータロー……私を上げてくれぇ」
が、チヨは意外と高さがあるステージを登ることが出来なかったらしい。無理せずに隣にある階段を使えば良いものを。
仕方がないから俺はチヨの手を掴んで思い切り引っ張り、ステージに上げてやる。
なんだか気が抜けてしまったが、気を取り直して俺は目的の戦車道の宣伝を開始することにする。
「我々は! アンツィオ高校戦車道チームである!」
「「「「「そうだ!!」」」」」
俺が名乗りを上げると二、三年生たちが合いの手を入れてくる。練習もしていないのにこの連帯感は本当に流石と言わざるを得ない。
「今日は! 新入生諸君が我がアンツィオ高校にやって来た記念すべき日である!」
「「「「「そうだ!!」」」」」
「ところで! 我々、アンツィオ高校戦車道チームは履修者不足でたいへーん! 困っている!」
「「「「「そうだ!!」」」」」
「だが! 今年の我々はパスタに加えた隠しきれない隠し味のように、一味も二味も違う!」
「「「「「そうだ!!」」」」」
ここで一息置く。
演説で大切なのはメリハリだ。一番聞かせたいことを印象付けさせるのだ。
「まずはこの俺! どんな戦車だって直して見せる! 俺の名前はピッツァだ!」
「「「「「ピッツァ! ピッツァ! ピッツァ! ピッツァ!」」」」」
そして次が一番の盛り上げどころ。
「そしてそして! このお方が我々、アンツィオ高校戦車道チームを率いるドゥーチェ・アンチョビだあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」
会場のボルテージはマックス!
ここでチヨによる締めで畳みかける!
俺はチヨの方へ手を向けて、聞いている生徒たちの注目を俺からチヨの方へと向けさせる。
「みんな私にちゅいて来ーい!!」
「「「「「「「「「「ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!」」」」」」」」」」
どうやらチヨもステージに立って覚悟が決まったらしい。ちょっと台詞を噛みはしたが、俺がプレゼントした鞭をふるってカッコイイポーズをとっている。髪型をドリルツインテールにしてメガネを外したチヨは今までの物静かな雰囲気とは違い、キリッとして若干キツめの印象を人に与える。しかし、これくらいの方がアンツィオに入学した生徒に受けは良いだろう。そして、俺の見立て通りその見た目に鞭はピッタリの小道具だ。
とにかくチヨも無事に役割を果たしたみたいだし、これで終わりだな。
「以上! 戦車道チームでした! 解散!」
チヨがそう言うと、俺とチヨはステージから飛び降り、来た時と同じように駆け足で今度は講堂の出口へ向かって行った。
「えー……新入生が退場します。一組から順に退場してください」
進行役の先生が何事もなかったかのように遮られた言葉を言い直しているのが聞こえてきた。
☆
「コータロー、新入生は来てくれるかな?」
「書類を出しておいてやっぱ辞めますってことは無いだろ」
アンツィオ高校戦車道チームが作戦会議等で使う教室で俺とチヨは戦車道を履修してくれた新入生を待っている。机の上には二枚の書類があり、その紙には二名の一年生の名前と戦車道の欄に丸印が書かれている。
しかし、チヨは新入生が本当に来てくれるかどうかが不安なのか、さっきからずっとそわそわしていて落ち着かない。
入学式で行ったゲリラ宣伝に加えて通常の宣伝の結果、今年の戦車道履修者は二名ということになった。
うーむ、やはり俺の演説スキルだと二人が限界だったか……。来年は全部チヨにやらせた方が良いかもしれない。
「本当に大丈夫かなぁ」
「大丈夫だって……たぶん」
チヨがずっとこんな調子だから俺まで不安になって来たじゃないか。
「大丈夫かなぁ……大丈夫かなぁ……ん?」
「お?」
チヨがそんな調子でいると俺とチヨが凝視していた教室のドアのノブが動いた! このタイミングで顧問の先生とかだったらめっちゃ怒るぞ。
「失礼します!」
「すいませーん」
知らない声!
教師陣よりも若い声!
それも二人!
これは来た!
ドアが開いた瞬間に俺とチヨは立ちあがり、後輩たちが教室に入って来た瞬間に俺とチヨとで二人の後輩を挟み込む。その行動は待ちに待った新入生の二人を絶対に逃がさないと言う思いによるものであるのは仕方がない。
一人は黒髪ショートヘアーの女の子。もう一人は金髪ロングの女の子のようだ。
「戦車道へようこそ!」
「俺達は二人を歓迎する! これからよろしく!」
「よ、よろしくお願いします」
「お願いします……」
「さあさあ! 歓迎の宴会だ!」
「ピザだ! パスタだ! カプレーゼだ!」
「え? え? え?」
「えーっと……」
俺とチヨによる怒涛の畳みかけに二人の後輩はたじたじだ。しかし、一年間待ち望んだ俺達以外の戦車道履修者。二人は俺達にとってかけがえのない後輩なのだ。我慢など出来ようはずがない。
俺達は二人を歓迎すべく準備していた料理をテーブルに並べ始めた。
「おー! すごいッス! 料理がこんなに沢山」
「どれも美味しそうですね~」
「どんどん食べてくれ! これは二人のための宴会で、料理だからな」
「この料理は全部先輩達が作ったんですか?」
「おう、俺とドゥーチェの手作りだぞ」
金髪の後輩がそんなことを聞いてきた。
アンツィオ高校は貧乏高校。そのため部活動等に支給される予算は少ない。その少ない予算を補うために学生たちは学校の敷地内で屋台を営むことが多いのだ。その例に漏れず、俺達戦車道チームもナポリタンの屋台を出して予算を確保している。そのため、俺とチヨは料理に関して結構な自信を持っていたりする。
「はえ~流石ッス。こんなおいしい料理を食べたらみんな戦車道を履修するんじゃないッスかね?」
「え?」
黒髪の後輩がぽろっとそんなことを言う。
料理を使って勧誘……。
その発想は無かった。いや、でも、いくらアンツィオの学生とは言え、まだアンツィオの空気に染まり切っていない一年生が料理に釣られて戦車道を履修してくれるなんてことは……
…………
来年は屋台で「私たちは戦車道チームです」ってことを新入生にアピールしてみるか。
次の年、戦車道履修者に戦車道チーム三十九人、戦車整備班に八人の新入生が加わった。