チハたん∩(・ω・)∩ばんじゃーい
あ、間違えた。せーの
ドゥーチェ‼ドゥーチェ‼ドゥーチェ‼ドゥーチェ‼ドゥーチェ‼ドゥーチェ‼ドゥーチェ‼ドゥーチェ‼
夜の散歩を終えて、俺とチヨは戦車が仕舞われているガレージに戻って来た。
「いい気分転換になったぜ。サンキューな」
「なに、気にすることは無いさ。こっちこそ、飲み物ありがとう」
「気にするな。いや、ちょっとは気にしろ」
「むっ、それは私の真似のつもりか?」
チヨがよくやる言い回しの真似で返事をしてやる。そんな俺に対してチヨは口をとがらせながら弱く睨んでくるが、全然怖くない。
戦車の修理に身が入らなくなって来ていた頃にチヨが提案した息抜きは、思っていた以上に効果があったみたいだ。さっきまで頭の中で繰り返し鳴り響いていたアンツィオ敗北を知らせる放送は今ではすっかり鳴りを潜めてしまった。
「さーてと、気分も良くなったし、戦車の修理を再開するか。まずは
傍に置いてある基本的な工具を入れたポーチを手に取り、腰に巻き付ける。これで戦車整備の準備は完了だ。
俺はP40を見上げる。
P40はイタリア製の重戦車。これまで豆戦車と少数の自走砲しか保有していなかったアンツィオ高校戦車道チームの秘密兵器だ。ああ、もう公開されてるから秘密じゃない兵器か。
何にしてもP40はアンツィオ高校において、一番強力な戦車と言うことが出来る。もちろん、時と場合と条件次第で話は変わって来るだろうが。
「こいつを手に入れるのにも苦労したよな」
「ああ……そうだな」
P40は歴代の戦車道履修者が少しずつお金を溜め、俺達の代でとうとう目標金額に達したために購入することが出来たのだ。
実はP40のお金をこれまでと同じペースで溜めていたら今年の戦車道大会までに間に合わないことが判明した。そこで、今年戦車道を履修してくれた沢山の一年生達には一日三回のおやつを一回減らしてもらい、その分のお金をP40購入に充てて協力してもらったのだ。
「後輩達には感謝だな」
「ああ、私もおやつを一日一回にした甲斐があったってものだ」
後輩に協力を申し出た時、チヨはみんなの前で「もちろん、お前たちばかりに苦労は掛けない。私は……私は! 一日のおやつを三回から一回にするぞおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」と、苦渋の決断を下したような表情でそう言った事は記憶に新しい。
ちなみに、俺はもともと学校でおやつの時間は設けていなかったので、彼女たちのおやつ三回分のお金をチームに寄付することにした。そうしたら後輩達から尊敬のまなざしで見つめられた。
何はともあれ、その成果もあり、今年の大会の一回戦には残念ながら間に合わなかったものの、二回戦の対大洗女子学園戦で投入することが出来た。
P40をフラッグ車とし、その車長はチヨ。チヨは後輩達を率いて戦い、そして敗れた。行動不能を示す白旗がその事実をまじまじと俺に訴えているようだ。だが、そのことで俺の心が乱されることはもうない。なんて言ったって、試合で負けた本人たちが気にしていないのだ。チヨと散歩をしているうちに気が付いた。それなのに裏方の俺が気にしたところで仕方のない事だ。
「さて、俺は徹夜の覚悟だけど、チヨはもう帰った方がいいんじゃないのか?」
まだ深夜と言う訳ではないが、日はとっくに暮れて外は真っ暗だ。学生はもう家に帰るべき時間だろう。
「……私も残らせてくれないか。そんな気分なんだ」
「……そうか」
今日の敗戦を気にしてはいないとはいえ、今日という日が俺達にとって大きな意味を持つ日であることには変わりはない。これまで一緒に戦ってきた戦車達と今日という日を少しでも長く過ごしたいと思うのは自然である。
「コータロー!」
「ん?」
俺がP40の修理に取り掛かろうとした時、チヨは俺を呼び止め、こんなことを聞いて来た。
「お前……は……す、好きな子は…………いるか……?」
好きな子? 何で今更そんなことを?
「そりゃあ……」
チヨの質問に答えようとした時、俺は気が付いた。
チヨの真剣な表情に。そして、真剣な表情と共に不安げな様子が見て取れる。
今日は珍しい日だ。チヨが不安げな表情をするなんて。
一昨年までは、困った時や心配事がある時はしょっちゅう不安げな表情を見せていたチヨだったが、今年に入ってからその表情をすることはめっきり少なくなっていた。例えそれが俺とチヨしかいない時であってもだ。
アンツィオ高校の空気に更に馴染んだということもあるだろう。だが、後輩たちがやって来て、強いドゥーチェであろうとして気を付けていたというのが大きいと俺は思っている。
そんなチヨが今日は二度も不安げな表情を見せたのだ。
「冗談じゃ……なさそうだな」
「ああ、本気だ」
チヨの気持ちは確からしい。
チヨは……どうやら俺の気持ちに感づいているようだ。
ふぅ……答えるしかなさそうだな。
「そうだな。俺が……俺が好きな子は……」
これを答えたらチヨに幻滅されるかもしれない。
これを答えたらチヨに嫌われるかもしれない。
これを答えたらチヨが離れてしまうかもしれない。
だけど、チヨがここまで真剣に聞いて来ているのだ。だったら、俺もそれに答えなければならないだろう。
俺は再び口を開いた。
チヨの質問に答えるために。
「
「は?」
それはもう語尾にハートマークが付くくらいの勢いでそう答えた。
チハたんは第二次世界大戦当時に日本陸軍が使用した中戦車である。
装甲貫通力の低さや装甲の脆さ等の問題を持ち、同時期の他国中戦車と比較するとその容姿は明らかに小さい戦車である。
そして何より……
そんなこの子が一番かわいいと思います!
チハたんを主力として戦車道を行う高校で知波単学園という学校がある。この学校では『突撃して潔く散る』事を美徳としており、彼女たちの試合にもよく現れている。
この考え方は『知波単魂』と呼ばれている。
では、この溢れ出るチハたんへの愛は、思いは、恋慕はなんと表せば言い換え良いのか?
俺は『チハたんごころ』を提唱する!
「「「「「「「えー!?!?」」」」」」」
「にーさん! そりゃないッスよ!」
「ディレットーレェー……」
「(その答えは)ないです」
「うおっ、お前たちみんな集まってどうした? ていうか、ペパロニとカルパッチョは帰ったんじゃなかったのかよ」
ガレージには俺とチヨの二人しかいないと思っていたのだが、どうやらそういうわけでは無かったらしい。突然声を上げたのは戦車道を履修している一年生、二年生だ。どうやら全員いるらしい。
ある者はCV33の車内から、それ以外はCV33の後ろから顔を出している。
「にーさん! 一番好きな
「あれ? そこに突っ込むんですか?」
後輩たちを代表してか、CV33の陰に隠れていたペパロニとカルパッチョが俺とチヨが居る方へ向かって来た。
確かに、ペパロニが言っているようにCV33は俺の好きな戦車であることに間違いはない。しかしそれは……
「イタリア戦車の中では……な」
「なっ!」
そう、俺がみんなの前でCV33を好きな戦車と言ったときの会話の流れは『イタリア戦車の中で』と言うものだった。
どうやらペパロニもその事を思い出したらしい。
「騙すつもりは無かったんだ。ただ、言うタイミングを見失ってしまってな」
「うう……そりゃないッスよ……」
すまないな、ペパロニ。
今でこそ俺はアンツィオ高校に居るが、本当は別の学校へ入学する事を考えていた。
一つは俺の友人二人がかねてより目指すと言っていた黒森峰学園。その友人とは師匠の娘のことであり、師匠の家に入り浸っていた俺が彼女達と戦車と言う共通の話題を通して仲良くなるのに時間はそう掛からなかった。引っ越してから会う機会は格段に減ったとは言え、二人との交流は今でも続いている。友人と同じ学校に通いたいという思いが俺には有った。
しかし、それと同等の思いも俺は持っていた。それはチハたんへの愛、チハたんごころ。
そのため、戦車道チームがチハたんを主力として使っている知波単学園に行くことも考えた。
その二校で進学先の候補として絞り込んでいた頃、アンツィオ高校の学園長から声が掛かったのだ。
学費免除は偉大だとだけ言わせてもらおう。
「はっ」
さっきまで呆けていたチヨが復活したようだ。俺が一番好きな戦車がイタリア戦車でなかったことがそんなにショックだったのだろうか?
「はは……まあ、お前がそういう奴だってことは私が一番知ってたさ……」
「ドゥーチェ……」
落ち込んだ様子のチヨにカルパッチョが声をかけている。え……そんなにショックなの?
すると、さっきまで四つん這いになりうちひしがれていたペパロニが復活した。
「アンチョビ姐さんはですね、今年の大会が終わったらにーさんに告白す……」
「わ゛ー! わ゛ー! わ゛ー! 何でその事を知ってるんだ!?」
ペパロニが何かを言おうとした所にチヨが割り込んで声を掻き消してしまう。チヨのせいでペパロニが何を言いたかったのかさっぱり解らなかった。
「ごほん! ところで、コータローは大学ではどうするつもりなんだ?」
おや? チヨが後輩たちの前で俺の事を名前で呼ぶなんて。一体どういった心境の変化が有ったのだろうか。
それより、大学のことだったな。
「特に行く学校は決めてないけど、取り合えず戦車道の大学選抜チームに土下座でも何でもして戦車の整備をさせてもらえるように頼むとするかな」
「ふふ……コータローらしいな」
チヨは少しだけ笑みを浮かべる。
「なら、私も大学選抜に選ばれるように頑張るとするか」
「おお! それはいい。また一緒に戦車道が出来るな。ドゥーチェ・アンチョビなら余裕で選ばれるさ」
俺が土台でチヨがメインで。
そんな感じでやっていくのが俺は好きだ。それはこの三年間がどうしようもなく楽しかったことが証明している。
「ああ、その前に言うことがあった。コータロー」
「ん? なんだ?」
今から楽しみになった大学生活に思いを馳せていた俺は、チヨの呼び掛けにより現実に引き戻される。
俺が見たチヨは俺の瞳をじっと見つめていた。
「私は、コータローのことが好きだ」
「え……」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
好き?
誰が?
チヨが。
誰を?
俺を。
そうだったのか。チヨは俺の事を好いてくれていたんだ。
じゃあ、俺は彼女の事をどう思っている?
当然、嫌いな訳がない。
彼女と過ごした三年間はとても楽しいものだった。
喜ばしい時に一緒に居れば、その喜びはより大きくなった。
悲しい時に一緒に居れば、悲しみは少なくなった。
もちろん喧嘩する時だってあった。それでも、いつの間にかお互いが謝って今ではいい思い出だ。
ああ。
なんだ。答えはずっと前から決まっているじゃないか。
俺は……
「俺は……」
ここから先の台詞は後輩たちのドゥーチェコールに掻き消されてしまった。
と、いうわけで、これにて本編完結となります。
短い間ではありましたが、お読みいただきありがとうございます。
これからはおまけの小話を何話かあげる予定です。
次回あげるまでは暫く期間が開くと思うので、待って下さるやさしいかたは待っていてください。
次回おまけ!『まほ、来校』
この次もサービスサービス!