理由は忘れましたが、何故かすっごい恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせたドゥーチェがペパロニに
「姐さん、また照れドゥーチェモードですか?」
って、言われながら呆れられている夢を。
もう、今日書くしかないと思いました。
「姐さん! 大変ッス! 姐さん! アンチョビ姐さーん! 大変ッスよ!」
「どうしたんだペパロニ。そんなに慌てて」
ペパロニは別の場所で露店を開いていたアンチョビの元へと慌てた様子でやって来た。
「アンチョビ姐さんが大変ッス!!」
「はあ? 別に私は大変じゃないぞ」
要領を得ないペパロニの言葉にアンチョビは首を捻るばかりだ。
「ペパロニ、落ち着いて。状況を詳しく説明して」
アンチョビとペアを組んで露店をやっていたカルパッチョがペパロニに冷静に説明するように促す。
「えっと……さっきにーさんの知り合いの女の人がお客さんとして来たッス」
「ふむふむ」
相槌を打って続きを話すように促すアンチョビ。
「そうしたら、女の人がピッツァにーさんに向かって「お前は私のだ」って、言ったッス! それに対してにーさんが「男冥利に尽きる」って返してたんッスよ!」
「ディレットーレが?」
ペパロニはさっき目にした情景を思い出しながら、まほと工太郎の会話を二人になりきって再現する。少々演技がわざとらしいのはご愛敬。
ペパロニの話を聞いたカルパッチョはその事を信じられず、怪訝な様子で疑問を程す。
「どうも二人の会話から察するに、二人は昔馴染みっぽいッス。そのすぐ後に二人でどっか行っちゃったんで、急いで姐さんに知らせに来たッス」
「それ本当?」
「不倫ッス! 絶対不倫ッス! いや、二股ッスかね?」と騒ぐペパロニ。
「うーん、ディレットーレがそんな不誠実なことをするとは思えないんだけど……ドゥーチェはどう思いますか?」
やはり腑に落ちない様子のカルパッチョは工太郎をよく知るアンチョビに意見を求めてみるが……
「? ドゥーチェ? あっ」
カルパッチョがさっきから反応が無いアンチョビに目を向けてみると、そこには表情をピクリとも動かさず外からの呼び掛けに全く反応を返さないアンチョビが立っていた。
「フリーズしてる……」
アンチョビはペパロニがした話の余りの衝撃に固まってしまっていた。
「ドゥーチェが大変っていうのもあながち間違いじゃなかったのね」
しみじみとそう呟くカルパッチョ。
未だ固まったままのアンチョビ。
「うーん、あの人どこかで見たような気がするんだよなぁ」と首を捻って考えるペパロニ。
そんなカオスな光景がしばらく繰り広げられていた。
☆
「それにしても、直接会うのは本当に久しぶりだな」
「最後に会ったのは……高校に入学する直前の春休みか」
そんな感じに話しながら、俺はアンツィオ高校にある名所を案内していった。
まほちゃんは一年の頃から手腕を買われて次代の隊長候補として練習に明け暮れていたし、俺は俺でアンツィオ高校戦車道チームの再興に走り回っていた。
こんな二人であるため中々日程が合わず、こうして直接顔を合わせるのは二年半ぶり位になっていた。
「最近はもう忙しくないのか?」
「我々三年生にとってはこの間の大会が最後だからな。名目上隊長はまだ私のままだが、既に隊長としての仕事の引き継ぎを始めている」
「なるほど。だったら気楽なもんだな。次の隊長は今年の副隊長か? 確か逸見エリカさんだったかな」
「ああ。エリカなら来年の戦車道チームを良い方向へ導いてくれるはずだ」
逸見エリカ。
俺が彼女の名前を知ったのは彼女が黒森峰学園に入学してからだ。
高校で活躍する選手の多くは中学生の頃から優秀な成績を残している場合が多いため、今活躍している有名選手は中学生の頃から把握していた。
そんな中、逸見さんは中学で目立った成績は残していなかったにも関わらず、強豪黒森峰学園戦車道チームの副隊長にまで上り詰めている。
きっと、高校に入ってから文字通り血の滲むような努力を行ったに違いない。
俺が見た彼女が指揮する車両は、一見ひねくれている様で、実際は純粋で真っ直ぐな心意気を感じるようだった。
そして、そこから滲み出る執念にも似た何か。強い想いを抱く者だけが纏う雰囲気を持っていた。
まほちゃんの言う通り、彼女なら黒森峰を率いて行くことが出来るだろう。
「コウはどうなんだ?」
「アンツィオは人手不足だからな。三年は俺とドゥーチェの二人だけとは言え、俺達二人が引退してしまうと色々大変なんだ。それと……なんとも不安でな。取り合えずやれるだけやってから引退するつもりなんだ」
アンツィオ高校戦車道チームの次期ドゥーチェはペパロニということで俺とチヨの間で決定している。
普通の戦車道チームを率いる隊長とするならカルパッチョの方が良いのかもしれないが、アンツィオ高校戦車道チームの、ドゥーチェとするならその性質上ペパロニが最適なのだ。
それに、カルパッチョ本人も自身が先頭に立って人を率いるより、隊長を支える方が性に合っていると自覚していることも要因の一つだ。
それは良い。良いんだが……。
あの後輩たちだけでこれからアンツィオは大丈夫なんだろうかと心配になってしまうのだ。
俺もチヨも後輩たちを信用していない訳ではない。しかし、これからのアンツィオ高校はあの子達だけでやっていけるのかと想像すると……どうしても不安になる。
これが親が子供を心配する感覚なのだろうか? たぶんそうだと思う。
「過保護すぎではないか?」
「仰る通りだと思います……」
俺とチヨは引退の時期が近づくにつれてその事が頭をちらつき始め、最近は二人で頭を抱えて悩んでいる。
もういっそのこと卒業するまで世話焼いてやろうか。後輩たちのためにはならないかもしれないが、そっちの方が俺の精神衛生上良さそうだ。
「何はともあれ、この三年間は悪くない時間だったよ」
「そうか」
出した結論は先伸ばし。
話をそらして無理矢理今の話題に結論付ける俺。
まほちゃんもそれ以上は突っ込んでこない。まあ、彼女には関係の無い話だしな。
その後も俺達は互いの近況等を話しながらアンツィオ高校を歩き回った。
観光名所を全部回った頃には日は傾き始めていた。
「今日はありがとう。アンツィオも良い学校だな」
「どういたしまして。そう言ってもらえると一生徒として嬉しいぜ」
イタリアの名物も買うことが出来る購買でお土産を買ったまほちゃん。その左手にはお土産を入れた紙袋が提げられている。
まほちゃんはこの後飛行機で熊本の実家に帰るそうだ。
学園艦の乗降口で俺達は別れの挨拶を交わす。
だが、彼女には直接言っておかないといけないことがあるんだ。
「まほちゃん、約束、守れなくてごめん」
「何、気にすることはないさ」
それは俺が西住姉妹の専属整備士に成るという約束だ。
少し前の俺なら、喜んで彼女達の専属整備士に成っていただろう。だけど、俺にはもう一人、その人のために戦車を整備したいと思える人が出来てしまった。
……なんだか、不倫の言い訳をしているみたいだ。あなたの他に好きな人が出来たの、ってか。
「専属には成れないけど、まほちゃんが俺に言ってくれればいつでも戦車の整備をしに行くからな。それに、まほちゃんが大学選抜に選ばれたら君の戦車は俺がしっかりと整備させてもらうよ」
「ああ、それは心強い。コウが整備してくれた戦車は調子が良いんだ」
相変わらずまほちゃんは整備士にとって嬉しいことをいつも言ってくれる。
そう言われたら期待に応えないといけないな。
「私はそろそろ行くよ」
「おう、また今度な」
そう言ってまほちゃんは学園艦のタラップを降りようとした時だった。
「そこの二人ちょっと待った!」
聞こえてきたのはこの三年間で親の声より聞いた声。
振り返って姿を確認するまでもなく、声の主が誰か何てことはすぐわかる。
「アンチョビか」
ドゥーチェ・アンチョビ。
うん、思った通りだった。
チヨの両隣にペパロニとカルパッチョが居ることが確認できたため、チヨのことをアンチョビと呼ぶ。
おそらく、ペパロニがチヨに黒森峰の隊長がアンツィオ高校に訪れたことを知らせたのだろう。今日は私用で訪問したとは言え、同じ戦車道チームの隊長として挨拶をしておこうとでも思ったのだろう。
「コータロー!!」
え? 俺? 何で?
「私との……私との関係は遊びだったのか!」
……はい?
「コータローは幼馴染みの女の子との関係が今日までずっと続いていたんだろう! そして、今日、迎えに来たその子と一緒にアンツィオ高校を去っちゃうんだろう……」
チヨは目に涙を溜めてそう言った。最初の勢いはだんだんと無くなり、最後の方は声がかすれてほとんど聞こえなかった。
うん、何だかとんでもない勘違いを受けている気がする。
まあ、なんだ……。
チヨは恋愛小説の読みすぎだな。
一体どこからそんな話が出てきたんだか。
しかし、参ったな。
俺の経験(ギャルゲー(全年齢対象版))上、こういった状況では男の側がなんと言おうと混乱した女性は聞き入れてくれない可能性がある。
どうやって誤解を解こうか悩んでいると、まほちゃんがチヨの前に歩み出た。
「貴女が安斎千代美だな。こうして直接話すのは初めてだな。初めまして、西住まほだ」
「ぐすっ……そう言えば、アンタ黒森峰の……」
チヨは涙ぐんでしまい、最後まで言葉が紡げていない。
どうやらチヨは今までまほちゃんがあの西住まほだということに気が付いていなかったらしい。
「まず言わせてもらうが、君は大きな勘違いをしている」
「……」
チヨは何も言わない。
話を聞くつもりがあるのか、はたまた声を出せないのか。
「君がコウと恋仲であるということはコウから聞いている」
「え?」
「おそらく君が告白した次の日だろう。「彼女が出来たー!」と、コウは嬉しそうに電話で報告してくれたよ」
にょわあああああああ!?
まほちゃん! それは秘密だってば!
「私は人の彼氏を盗ろうなどと、そんな無粋な人間ではない」
「え……でも……「コウは私のものだ」って、言ってたと……」
「正しくは『コウは私の専属整備士だ』だな。最も、コウは君の戦車も整備したい様だから、私の専属に成るという話は断られてしまったよ。それと、私の言葉足らずで誤解を与えてしまったようだ。すまない」
そう言ってまほちゃんはチヨに軽く頭を下げる。
「で、でも……コータローが「男冥利に尽きる」って……」
「『男』なんて言ってないぞ。言葉にはしなかったが、俺は『整備士冥利に尽きる』と、言ったつもりなんだ」
「え……」
俺はチヨの第二の勘違いをすぐさま修正する。
しかし、俺が言っていない単語が加えられていたのは何でだ?
俺とまほちゃんの話を聞いて、その内容をチヨに伝えた人物と言えば……
ペパロニがあからさまに視線をそらす。
あいつか……。
はあ……全く……仕方がないやつだ。
俺は思わず手で頭を押さえてしまう。
「君とコウの関係を、私は祝福しよう。コウは一見しっかりしているようで意外と抜けたところがある男だ。これからコウを宜しく頼む」
「え……あぅ……は、い?」
だから、まほちゃんは俺のかーちゃんか!
まほちゃんは再びチヨに頭を下げる。
かーちゃんでもそこまでしないぞ。
俺まで恥ずかしいんだが。
「えっと……全部……私の勘違い?」
「ああ」
チヨは一つ一つ確認するようにまほちゃんに聞く。
「まほは……コータローの彼女じゃ無い?」
「そうだな」
さっきまで蒼白かったチヨの顔色が赤みがかってきた。
「コータローは……私の……か、かか、彼氏?」
「少なくとも、コウは君が彼女であることをとても喜んでいたよ」
チヨは顔を俯かせてしまうが、耳の先まで真っ赤になっており、プルプルと僅かに震えている。
誤解を完全に解くのは……ここしかない!
「チヨ! 昔も今もこれからも! 俺のパートナーはチヨだけだぞおおおおおおおおおおお!!!!」
叫んだ。
それはもう腹の底から声を出して本気で叫んだ。
回りに居た人達も「なんだなんだ」と、こちらに目を向けてくる。
「……う」
「う?」
俺の叫びを聞いたチヨは一瞬震えを止めて、謎の『う』を発する。
「う゛う゛う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! はーずーがーじい゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃぃ!!!!」
『う』を発したと思ったら、言葉のほとんどに濁点を付けながら何処かに走り去って行ってしまった。
「あ! ドゥーチェ、待って下さいッス!」
さっきまで気まずそうにしていたペパロニは突然走り出したチヨを追いかけていく。
「はぁ……こんなことだろうと思っていました。ディレットーレ、私もこれで失礼しますね。後でドゥーチェとゆっくりお話してあげてください」
カルパッチョは俺とまほちゃんに一礼してからチヨとペパロニを追いかけていく。
「さて、私ももう帰らなければ。それでは、また次の機会に会おう」
「お、おう。また今度」
まほちゃんは何事も無かったかのように改めて別れの挨拶をしてタラップを降りていった。
一人残された俺は空を見上げて静かに思う。
結局チヨに止め刺したの……俺だったな……。
こうしてチヨの勘違いは無事に解消された。
次は何時になるかな