アンチョビピッツァ   作:はなみつき

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アンチョビは病んでません。
あくまでも知的好奇心です。
病んでません(大事なことなので(ry)


チヨ、心の向こうに

「ただいま~っと」

 

 電気が付いていない真っ暗な部屋に俺の声が響き渡る。

 アパートを借りて一人暮らしのため、俺の声に返事を返してくれる存在はない。俺が普段愛用している机や椅子が九十九神だったら返事をしてくれるだろうに、なんて意味の無い事を考えてしまう。

 独り暮らしを始めてから思い知ったのだが、真っ暗な家に帰るというのは存外寂しいものなのだ。

 

「お邪魔します……」

 

 だが、今ここに居るのは俺だけではない。

 

「はい、いらっしゃい」

 

 俺が先に玄関に入ってから、家主としてチヨを家に迎え入れる。

 

 まほちゃんと俺の関係に関する勘違いに気が付いたチヨは走り去って逃げてしまった。

 チヨはその後を追いかけて行ったペパロニとカルパッチョによって確保され俺の前に連れてこられたのだが、あんなことがあったばかりなので俺を真っ直ぐ見られないでいた。

 

 しかし、体は正直なものでチヨのお腹は空腹を報せる声をあげる。

 どうやら、ペパロニから話を聞いてから昼飯も食べずに()り、その後の絶叫からの全力疾走のコンボで限界が来たらしい。そこで、ちょうど良いから俺の家で夕飯を食べなからしっかりお話ししてこいとのカルパッチョからのお達しなのだ。

 

「はぁ~……」

 

 俺が玄関にある部屋の電気のスイッチを順番に着けていくと、チヨはふらふらと部屋の奥に進んでいく。すると、チヨがいつも座る座椅子。に座ると、ぐったりと炬燵に体を預ける。

 頬を炬燵の天板にぺったりとくっつけ、両腕は投げ出す。

 その様はまさにたれたパンダそのもの。いや、今はぐでっとした卵の方がわかりやすいのか。

 

 さっきからチヨはずっとこんな調子だ。

 俺の家に行く途中もどこか上の空で、一人で歩かせたら事故に遭っても不思議では無い位だった。

 まあ、仕方ないと言えば仕方ないのか?

 

「はぁ~……あっ、チョコ……食べていいか?」

「ん? 構わんよ」

 

 たれチヨの視線の先にあったのは、竹で出来た小さな篭の中に積まれたチョコレート。

 そのチョコレートはこの間ガレージでチヨにあげた物と同じ物だ。このチョコレートは観光客のお土産としても人気なのだが、アンツィオ高校の生徒の場合は三割引で買うことができる。そして、何より味が良い。そのため、俺はこのチョコレートをよく買って来て常にストックしているのだ。

 

「……おいしい」

 

 包み紙からチョコレートを取り出して口に含んだチヨは呟く。

 甘いものを食べたからか、チヨの浮かべる表情はさっきよりも随分柔らかい。

 

「よし、チョコを食べたら元気が出てきたぞ! コータロー! 美味い飯を頼む!」

「任せろ」

 

 どうやら、チョコレートを食べたチヨは調子を大分戻したようだ。さっきまでの暗い雰囲気はなく、何時ものような活発で元気ドゥーチェだ。

 

 さて、頼まれたからにはその期待に応えなければなるまい。

 えーっと……何があったかな……。

 

 俺は冷蔵庫と冷蔵保存が必要ない食材を保管しているダンボールの中を確認する。

 

「パスタしか()ぇ!」

 

 正確には少しの野菜やベーコンの様な肉製品、非常用の缶詰めもあるのだが、これ等の食材から作ることができる料理が俺の脳内レパートリーだと⚪⚪パスタ的な物しかない。

 

 何より米が無いのが痛い。

 最近はパスタばっかり食ってたからこそ起きてしまった事態だ。

 安価で手に入り、調理も簡単。加えて長期保存も可能なパスタは男の一人暮らしの強い味方だから、ついそればかりになってしまう。

 

「アンチョビパスタにするか」

「お、いいね~」

 

 俺の呟きに返すチヨ。

 チヨの一番の好物はカルパッチョなのだが、残念ながら材料がない。そこで、チヨがその次位に好きなアンチョビを使ってパスタを作ることにした。

 本当はこのアンチョビは保存用の缶詰めの物なのだが、今日はサービスだ。これくらいチヨに優しくしても良いだろう。

 うん、本当に。今日はね。

 

 俺の大声告白(後攻)もかなりの人目を集めたが、その後チヨがやらかした走り回りながらの絶叫はそれ以上の人の注目を集めていた。

 それはもう、たくさんの人がチヨのその姿を見たことだろう。

 

 でもまあ、この学園艦で暮らす人がそんなチヨの姿を見ても「ああ、またアンツィオ生か」程度にしか思わないだろう。

 ここではテンションが上がったアンツィオ生が大騒ぎしたり、走り回ったりするのは日常茶飯事だ。

 

 しかし、チヨの場合はその立場上多くの人に容姿と名前を知られているから「あれ、戦車道チーム隊長の安斎さんじゃない?」ということになるかもしれないな。

 

「そんじゃま、作業にとりかかりますか。チヨはテレビでも見ながら待っててよ」

「はーい」

 

 俺は料理人の制服たるエプロンを身につけ調理を始める。

 一人の時はわざわざエプロンは使ったりしないのは秘密だ。傍に女の子が居ると男はちょっとでも格好つけたくなる物なのだ。

 

 一方のチヨはテレビの電源を入れ、チャンネルを次々と切り換えて今やっている番組を確かめている。そのうち静かだった部屋にニュースキャスターの声が聞こえ始める。

 どうやら、特に興味のある番組はやっていなかったようだ。

 

「コータロー」

「んー?」

 

 パスタに入れる野菜やベーコンを細かく切っていくトントンという音。

 名前も知らないキャスターが今日あった出来事を淡々と伝える声。

 

 それらに紛れて消えてしまいそうな程のチヨの声を俺は聞き逃しはしなかった。

 

「コータローは学外で親しい女友達って、どの位居るんだ? ……てっ、あ! いや、その、別に、今のはヤンデレ彼女的発想ではなくてな! 純粋に、好奇心でな!」

 

 おそらく自分でも無意識の発言だったのだろう。

 そのあまりの質問内容に気が付いたチヨは自分で言い訳をしている。

 確かに、普段の俺ならドン引きしているところだが、ついさっき起こった事件……事件? まあ、事件としておこう。事件があったから、チヨがそんな質問をしてしまうのも無理はないと思う。

 

 今回はいつも冷静なまほちゃんが居たから大事にならずに済んだが、またあんなことになっても面倒だし、ちょっと話して事前に回避できるなら、チヨの質問に答えても良いだろう。

 

 だが、よく考えたらほとんどペパロニのせいの様な気もする。しかし、チヨは恋愛小説が好き過ぎて時々思考がドラマティックになるのも事実。やっぱり予め話しておいた方が良いか?

 

「そうだな、まずまほちゃんとみほちゃんの西住姉妹は特に仲が良いな」

「ああ……うん。そうだろうな……」

 

 またあの事を思い出してしまったのか、チヨの顔は真っ赤だ。

 いじめかっ! って、言いたくなる顔だ。

 

「やっぱりというかなんというか、西住みほとも仲が良いんだな」

「あの二人は俺の整備士としての師匠の娘でな、師匠の家に通ってる間に自然と仲良くなってた」

「あー、なるほど」

 

 みほちゃんはまほちゃんの一個下の妹だ。

 彼女もかつてはまほちゃんと共に黒森峰学園に通っていたのだが、色々あって今は大洗女子学園に通っている。

 

 そう、大洗女子学園だ!

 俺達アンツィオ高校を二回戦で破った相手であり、今年の戦車道大会で見事優勝を納めた学校だ。

 みほちゃんはそこの戦車道チームの隊長を努めている。

 

 いやー、みほちゃんの西住流とは違う戦い方は本当にワクワクしたなぁ……と、みほちゃんの戦車道について語り始めたら終わりがないからこの辺にしておこう。

 

「他には聖グロのダージリンさんとか」

「ダージリン? 何か関わりがあったのか?」

 

 (セント)グロリアーナ女学院、通称聖グロは神奈川県に所在する高校だ。

 イギリスに縁のある名門のお嬢様学校であり、その教育内容は多才で気品ある淑女を養成することに特化している。

 在校生の気質がアンツィオ生と真逆とよく対比されることがある。

 

「あれは一年の夏休み、一番美味い紅茶を求めて日本中の紅茶屋を巡っていたときのことだ」

「そういえばそんなこともしてたな」

 

 俺が一番好きなことは戦車を弄ることであるが、それには満たないものの趣味と言えるものがいくつかある。

 イヤホンやプレイヤーにこだわって音楽を聴いてみたり、最高の睡眠を求めて抱き枕にこだわってみたり、友人から貰ったお古のカメラを契機に写真撮影にはまったり等々。

 そんな数々の趣味の一つが紅茶を嗜むことなのだ。

 

 そもそも高校生になったら日本の各地に旅行してみたいと思っていたのだが、ただ単に理由もなく各地を歩き回るのは結構辛いものがある。

 そこで、俺は美味い紅茶を探すという目的を持って、評判の良い紅茶屋を巡る旅に出たというわけだ。

 

「神奈川で一番評判の良い茶屋に行ったらそこでダージリンさんを見つけてな、気が付いたらサインをねだってた」

「その情景がありありと思い浮かぶな」

 

 ところで、聖グロ戦車道チームではいずれも紅茶にちなんだニックネームを持つ生徒が居る。

 これらの名前は、幹部クラスおよび将来を期待された候補生にのみ与えられるものである。

 

 当時、ダージリンさんは一年生であるが中学生時代から戦車道で活躍しており、将来を期待されていた彼女は一年生にもかかわらずダージリンのニックネームを与えられていた。

 

 戦車道ファンにとって有名人にも等しい人がそこに居たら、サインを貰いたくなるのは致し方のないことである。

 

「その後色々話してメル友になったんだ。最近ではお互いのお勧めの茶葉とか紅茶に合うお菓子の情報をやりとりしてるな」

「私より淑女みたいで何か複雑なんだが」

「そうか? いやー、照れるね~」

 

 俺が女に生まれてたらお茶会のためだけに聖グロに行ってたかもしれない。

 

「後はそうだな、サンダースのアリサさんとか、プラウダのノンナさんとか」

「サンダースの副隊長の参謀の方とプラウダの副隊長だな」

 

 簡単に説明するとサンダース大付属高校はアメリカと関連性が深い学校であり、プラウダ高校はソ連と関係の深い女子校である。

 両校とも戦車道が非常に盛んで、戦車保有数が日本一、二の学校なのだ。戦車保有数の関係で日本において50vs50の試合を行うことができる高校はこの二校のみであり、時々行われる50vs50の試合はまさに圧巻である。

 俺も何度か見に行ったことがある。

 めっちゃ興奮した(小並感)

 

 ちなみに、その二人との出会いは秋葉原でのことだった。

 二年の夏休み、当時使っていたポータブルアンプのアップグレードのためにオペアンプを求めて秋葉の町をさ迷っていた。そこでふらっと入った無線機器やパーツを取り扱っている店でアリサさんに会ったのだ。

 

 アリサさんはサンダース戦車道チームの副隊長を務め、作戦立案を行っている。

 彼女は勝つためならルールの範囲内であれば何でもやるタイプであり、彼女の立てる作戦は有り体に言ってしまえばいやらしい。

 しかし、戦いにおいてそれは悪いことではない。外から見てる俺ですらそう思うのだから、実際に対戦している相手は相当やりづらいはずだ。

 この事からも彼女の参謀としての有能さが窺える。

 当然サインも貰った。

 

 ノンナさんに会ったのも同じ日だ。

 場所は秋葉が誇る超大型家電量販店のカメラブース。

 彼女は女性にしては長身なので、人が多い場所でもすぐに見つけることができた。

 当然、俺は彼女に話しかけた。サインを貰うために。

 ノンナさんの砲手としての腕はとてつもないものであり、その腕前は大学選抜レベル。いや、社会人チームの中でもやっていける程だろう。

 そんなすごい選手に会えたらサインが欲しくなるのは仕方ない。仕方ないったら仕方ない。

 

 アリサさんは機械弄りが趣味だそうで、俺との会話は結構盛り上がった。この間もシャーマンに規格外の通信機器を取り付けるための方法について熱く語り合ったものだ。

 

 ノンナさんは物静かな女性だが、カメラには凄いこだわりがあるらしい。その日は店員の迷惑そうな様子も気にせず、カメラブースの前でカメラについて二時間位議論してた気がする。

 なお、議論はそこでは収まらず、今でもメールでお互いの意見をぶつけ合っている。

 全ては最高の一枚のために。

 

 二人とも今では大切なメル友だ。

 

「まあ、そんなもんかなぁ」

「なるほどな~。コータローは顔が広いんだなぁ……、って戦車道関連の人ばっかりじゃないか!」

「当たり前じゃないか。何も知らない女性にホイホイ話し掛けるほど俺は軟派じゃないぞ」

「いや、今の話を聞く限りコータローはかなりの軟派者だぞ」

「なん……だと……」

 

 いつの間にか俺の女性に対する対応がアンツィオ風になっていたのか……。

 

「でも、話を聞いてなんか納得した」

「ん? そうか。それなら良かった」

 

 チヨはそう言うとチョコレートを口に含む。

 

 ん? ……ん!?

 

 チヨの奴、俺が置いてたチョコレートを全部食べやがったな!

 篭の中には五つのチョコレートを置いていたのだが、今の話しをしている間に中身は全てチヨの腹の中。残っているのは綺麗に畳まれた五枚の包み紙だけだった。

 

「鼻血出るぞ」

「大丈夫だって」

 

 俺の忠告を気にした様子も見せないチヨに俺は呆れるばかりだ。

 

 

 

 チヨがチョコレートを食べるときは、心を落ち着かせたいときだ。

 今の間にチヨの心を騒がす何かがあったのか? それもチョコレート五つも費やすほどの。

 

 そんな疑問を抱きながら、俺はパスタを茹で始める。

 

 ぐつぐつと沸騰する湯に揺られるパスタを眺めていると、チヨが初めて俺の家を訪ねた日の事を思い出した。




工太郎「ノンナさんも写真を撮るの好きなんですか(戦車)」
ノンナ「ええ、好きですよ。写真を撮るの(カチューシャ)」
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