俺と妻たちの喫茶店物語 作:仮面記者
ある日の夜。
ゲンヤさんに誘われて呑みに行って、ベロンベロンに酔っぱらった彼をナカジマ家へ放りこんできたその帰りのこと。
スバルちゃんと、ティアナちゃんに少し呼び止められ、あることをお願いされた。
「ノーヴェの帰りが遅いんだ……変なことに巻き込まれてなかったらいいんだけど……」
「涼兄さん、ノーヴェのこと探してもらえませんか?」
「そうだな、こんな時間にお前らを出歩かせるわけにもいかないからな、行ってくるよ」
すでに夜遅く、連絡からしばし立っているのに未だに帰ってこないナカジマ家のオラオラポジションノーヴェちゃんが心配なんだとか。
元機動六課、現役レスキュー隊員と現役執務官といえども女の子なスバルちゃんとティアナちゃんをおいそれと外に行かせるのもあれだ。
アリサとすずかに一報入れてもらうように告げ、俺はノーヴェの帰宅ルートをナカジマ家から逆走する。
しらみつぶしに走るのは正直疲れがどうしようもないと思うだろう。
しかし俺の魔法適正は身体強化に限っていえば歴代の魔導士たちの中ではトップ争いに入るほど。
その程度の疲れ、対して問題になるものじゃない。
「――ん? なんだ、今の音……」
突如耳に入ったのは爆砕音。
空気がビリビリとふるえるようなその音は――誰かが戦闘したと間違いなく感じる音。
魔力弾や魔力砲の大規模行使ならばはっきりと魔力光が輝くところから考え、これは近接戦闘による余波。
ふと、ここで俺は前にゲンヤさんから聞いたある話を思い出した。
『最近通り魔事件が多発してる、気をつけろよ』
――通り魔事件、狙われたのは凄腕の格闘家ばかり。
主に狙われたのはストライクアーツという打撃徒手格闘戦技の有段者らしいが、それに限らず様々な格闘技の有名人たちに対して野良試合を挑んでいるという話。
地球規模で語るなら、空手、カポエラ、テコンドー、ムエタイなどといった肉体技のプロに次々喧嘩を挑むということ。
何がしたいのかさっぱりわからないが――もし今回のがそれだとするなら、犯人をとっ捕まえる必要がある。
「――ノーヴェちゃんには悪いが、先にこっちを済ませますかね」
到着したその場では――
「ノーヴェ……ちゃん?」
「はぁ……はぁ……」
陥没した地に伏している、見慣れた赤い髪の女の子――ノーヴェちゃんと、息を荒げて立ち尽くす銀髪の知らない女の子……
これはどう見ても闘いの後、連絡がないということはまさか――
「……噂の、通り魔ってやつかい」
「!? ……まさか、本当にいたとは……!」
「ああ?」
銀髪の女の子は一度こっちを見、すぐに構えをとる。
随分と背丈とかより幼い顔――なるほど、変身魔法でごまかしてるってことか、本当はもっと幼いに違いない。
それと――初めて見る構えだ、少なくともヴィヴィオ達やザッフィーのとこのミウラちゃんとかでも見たことのない構え……何もんだ?
「カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト――【覇王】を名乗っています」
「……覇王? 古代ベルカの王様にそんなンがいるってユーノの奴が言ってたような――」
「リョウ・ミカゲ、あなたにここで決闘を申し込みます」
「――あぁ? アホか、年端もいかねぇガキ相手に力振るえるかっての」
アリサには『両腕脚一本ずつ骨折るくらいの手加減』ということでお許しをもらったが、それはあくまでも敵が男である前提。
女だった場合はどれくらい手加減すればいいのかということについては一切聞いてない――当然ではあるが。
「そうですか――ここに倒れているノーヴェ・ナカジマを倒したのは私であると言っても?」
「そういってもだ、それに、ノーヴェちゃんとやりあったって言うんなら余計におとなしくした方がいいと思うがなぁ?」
ノーヴェちゃんは過去に俺たちと戦いを繰り広げた戦闘機人――サイボーグの一人。
そんな彼女とやりあってたというならば目の前の自称覇王とやらも浅い傷で済んでいるはずがない。
体力の消耗も激しいだろうから大人しく帰るそぶりを見せてくれた方が楽だ。
「そうですか――では、無理やりにでも戦ってもらいます」
どうやら、目の前の女の子は俺と戦うことにどうしても固執したいらしい。
「まぁまて、どうしてそこまで戦いたいかくらいは聞かせてもらおうか」
「……私は強くなりたいのです」
「…………強く?」
「弱い王に――生きる意味はありますか?」
「なに――!?」
俺の言葉が出来る前に、自称覇王の拳が腹部に突き刺さる。
瞬時に足に力を入れ、後ろに跳ぶことで衝撃を軽くすることにしたが、これはちょっとばかり相手を甞めてたかもしれない。
肌がビリビリ痺れた感覚、動きがまだ幼いゆえか成ってないが、成長すれば大したものになる。
「……今の一撃に、全然手ごたえがなかった……!?」
「いい拳はしてるんだろうが、やっぱ疲れてんだろお前さん。無理はすんな」
「くっ……!」
優しく、いつもヴィヴィオたちへ諭すのとおんなじ口調で語りかけた返事は芳しくない。
俺のことをにらむその眼、どう説得しても相手は戦うことをやめたくないようで、思わずため息がこぼれる。
「はぁ……わかったよ……少し荒っぽくなるがしゃーねー」
「――これなら!」
「遅い」
「っ!?」
跳びかかってくる自称覇王の動きに合わせ、いなした直後に右腕で彼女の脳天に一撃を落とす。
左腕だと材質の違いで頭の骨がぽっきり逝きかねないのでちゃんと右腕でやったか確認する作業は忘れない。
「……ふぅ、勢いだけは達者な奴だったわぁ……」
「よく言うぜ兄さん、あたしでも結局やられたってのに、兄さんは一瞬でいなすし……」
「そりゃノーヴェちゃんが戦ってたからなぁ、連戦ってだけでも相手からすりゃかなりきついだろうし――てか体は大丈夫なのか?」
「あー、悪い兄さん。ちょっと肩かしてほしいなぁって」
地面で大の字になって動かないノーヴェちゃんを起き上がらせ、即座に一度空中に放り投げる。
キャッチするように背中でおぶってやると、途端に元気になったかのようにじたばたしだすノーヴェちゃん。
なんだ、まだ動ける元気あるじゃん。
「そそそそそうじゃねーって兄さん! 恥ずかしいって!」
「いまさら何恥ずかしがってんだ、動けなくなってたノーヴェちゃんよくおぶったろ?」
「そっそうだけどぉ――いったぁ!?」
バッタバッタと暴れたはいいが、自称覇王から受けたダメージがやはり残っているのか背中の上で悶絶するノーヴェちゃん。
しがみついてくるのはいいんだが、ギリギリと力入れてしがみ付いてくるから指が食い込んでる。
俺じゃなかったら大怪我待ったなしだぞ、こういう時の力加減学ばなきゃな。
「んで、ノーヴェちゃんは無事だからいいとして――ありゃ? 自称覇王どこ行った?」
「まぁ……兄さんからは頭に一発もらっただけだからな……まだ動けるんだろ」
「しまったぁ……きっちり縛ってからノーヴェちゃん起こせばよかったわぁ……」
目を離した隙に自称覇王さんはどこぞかへ去ってしまったようで。
ノーヴェちゃんのあきれるような視線に居心地が悪くなった俺はとりあえず顔だけそっぽ向けてならない口笛を吹く。
――しかし、随分と頑丈だなあの子。あれだったら左腕で殴っても大丈夫だったかもしれん。
「兄さん、今『左腕なら確実に気絶した』って考えただろ」
「なぜばれた」
「左腕が不自然に動いた。いや……まぁ、あたしたちがその……そんな左腕にしちまった原因だから強くは言えないけどさ……絶対にあたしたちとか以外にはそれ振るわないでくれよ」
もちろん、思っただけで実際にはやらない。
俺の左腕はちょっと特別だからな、今のミッドチルダ程度の治安なら縛りプレイ余裕。
……ただ、時々動かさないとなまるんだよなぁ、錆びるともいわれたし……
「それくらいならあたしが相手するからさ、ほら兄さんの戦い方まだ学ぶところいっぱいあるし……」
「んー、そうだな、じゃあ週末頼むわ……でさ、自称覇王どうする?」
「あっああ、それな、あの、一応あれ、センサーつけといたんだ!」
まじか、戦闘中にセンサーはっつけるとかノーヴェちゃん優秀。
少し自慢気なノーヴェちゃんをほめてあげると照れるんだが、これがかわいい。
「スバルにはもう連絡しといたんだ、すぐに来てくれるって」
「そっか、じゃあ二人が来るまで休んでるか」
「いや、兄さん、今からあたしが指示するから捕まえに行こうぜ……」
ノーヴェちゃんの言葉にこれまた居心地の悪くなった俺は、自称覇王の逃げ込んだ先に移動。
途中合流したスバルちゃんとティアナちゃんと一緒に見つけたのは――まぁ予想通り年端もいかない幼い子供だった。
「涼さん、ノーヴェからやりあってたって聞いたけど骨はやってないですよね?」
「お兄ちゃん、私は信じてるよ?」
「お前ら二人はなんでこうも俺が容赦なさすぎる扱いをするんですかねぇ」
――自業自得だって怒られた。
それと、ナカジマ家に一晩泊まってくれとスバルちゃんたちに頼み込まれ、それをアリサたちに連絡したらこれまた『連絡が遅い』と怒られた。
彼の左腕は義腕です