俺と妻たちの喫茶店物語 作:仮面記者
「ええー涼兄ちゃんもう帰っちゃうのー?」
「文句言わないのスバル、本当だったら泊まってもらうのも無理だったのよ?」
「それもそうだけどさぁ……」
翌日。
俺は昼前に店の方へと帰ることとなった。
朝起きたら愛しのすずかからデバイスに
『涼くんが帰ってこないといつまでたっても仕込みができないよー(; ・`д・´)』
というメールが届いてたからである。
だがこのメールが届いた時間は朝の四時――なぁすずか、四時っていつも仕込みやってないじゃん……まさか、仕込みってケーキじゃなくてそっちのことだったりしないよな?
「まぁまぁ、また来るよ今度は休みの時にでもさ」
「ほんと! 次はケーキいっぱい持ってきてよ! 皆涼兄ちゃんのケーキ大好きだし!」
「結局アンタ、それが狙いなんじゃないのバカスバル……」
「ハッハッハ、あいかわらず食い意地張ってるからなぁ……さて、それじゃああの子のことは皆に任せるわ。よろしく頼むぜ」
通り魔してた自称覇王イングヴァルト――本名アインハルト・ストラトスのことはとりあえずスバルちゃんとティアナちゃん、そしてストラトスのことを気にしていたノーヴェちゃんに任せることにした。
ノーヴェちゃんは面倒見もいいから何とかしてくれるに違いない。
「そういえばあの子、すっごく涼兄ちゃんとの戦いしたがってたよねぇ。『昨日のは納得のいく結果ではありません』って」
「まぁ、左腕がアレな涼さんと戦いたいというなんて無謀というのかなんというのか……まだ四年前の涼さんだったら『手加減してもらってね』くらいで済むんだけど」
「なんてひどい言い草だティアナちゃん……」
結局ストラトスの通り魔事情はよく分からなかったが、彼女は別れ際まで俺との改めて万全な状態での再戦を煩く望んでいたので、『いつかな』とあしらっておいた。
元々昨夜の戦闘だってあっちが勝手に仕掛けてきただけのことだし、俺がわざわざその誘いに乗ってやる義理もない。
まぁティアナちゃんの言う通り、昔の俺だったならともかく、今の俺は左腕の加減がうまくいかないので、誤ってポッキリするのはぶっちゃけ明白。
犯罪者とか相手ならいいのだが一般人相手にして骨もらうほど俺も外道ではない。
なにより――ヴィヴィオにうらやましがられてしまうじゃないか。
なのは、フェイトと同列に俺のことを愛してくれる可愛い娘から『ヴィヴィオが大きくなったらパパと果たしあうんだ!』と言われたことを、俺はいまだに覚えている。
――たぶんあの子は果し合いの意味を知らないで言っただろうけど。
まぁ、そんなわけでヴィヴィオとの決闘だって俺の左腕がある意味厄介な代物だからって泣く泣く『我慢してくれ』って言ったのに、そんな中同じくらいちまっこいストラトスを優遇してやる理由もない。
――でもあの子まだそのこと覚えているだろうか、今度進級祝いのパーティする時にでも聞いてみようか……
「さて……それじゃあ帰るわ」
「じゃあねー涼兄ちゃん!」
「なのはさんたちにもよろしく言っておいてください」
「おう、仕事忙しいんだもんな、頑張れ執務官」
帰る前に昨夜ベロンベロンに酔っていたゲンヤさんの様子を見ると、二日酔いで頭を痛めているわけでもなさそうということで、こちらも心配なし。
昔から酒強かったんだよなぁこの人って。
そうしてナカジマ家を後にし、よくわからん開放感を感じながら、意気揚々と貸し切り中のBAUMに戻ると――なんか珍しい客が来ていた。
「やぁ、邪魔してるよ。涼」
「邪魔してる自覚があるなら帰ってくれませんかねぇ。てか貸し切りってそういうことか――クロノ」
「クロノ『さん』だ。僕の方が年上だぞ、少しくらい敬いたまえ」
店のテーブルで管理局員制服の上スーツを脱ぎ、リラックスしたように椅子にもたれかかってコーヒーをすすっているその男の名はクロノ・ハラオウン。
確か……管理局最年少提督だかで女性人気も高い、さらに妻子持ちのイケメン。
齢十歳だかで執務官として活躍し始めたとだけあって、俺たちよりもはるかに強い魔導師でもある。
「テメェ敬うくらいだったらユーノを崇めるまであるんだが?」
「――ほういい度胸だ、貴様表に出ろ。久々にデュランダルも振るわなければ錆びついてしまうし、いい機会だ」
「いいぜ、俺もこの左腕しばらく満足に振るってなくてなぁ、錆びる前に餌食になってもらおうじゃねーか!」
「ふっ、今までの模擬戦で一度も勝てなかった奴がよく吠えるな」
「テメェ……!」
俺としては、エリート故の頑固さだとか会うたびに爽やかっぽい笑顔ふるまってくるこいつがうざくて仕方がないけれども。
勝てないとしても叩き潰す、模擬戦で毎度コテンパンにやられた積年の恨みここで――
「こんの――バカども!」
「――いってぇ!」
「グアッ――す、すまない……アリサ……」
「あんた達、顔合わせるたびに喧嘩腰になるのは構わないけど――アタシたちの苦労も考えなさい?」
「イエスマム!」
「ぐっ、アリサを見ていると母さんを思い出す……!」
――晴らしたかったけど、うちのヒエラルキー最強のアリサには勝てなかったよ。
クロノとまとめて拳をおとされ、おとなしく座るように命じられたので素直に従う。
これ以上逆らうと何されるかわかったものではない。
「んで……テメェはいつ帰ってきたんだ」
「昨日だ、明日からまた出る」
「いっそがしいなぁ提督って位も」
「僕ほどではないが君だって忙しいだろうに」
まぁ、仕込みとか仕入れとか、はたまた遊びに来る娘たちとの時間とかいろいろあるし忙しいもんではある。
だが家にまともに帰れないような仕事ではないのだからクロノの方はよっぽどではないだろうか。
「最近なんて、息子たちに顔を忘れられかけててね……」
「おうふ、それはつれぇ、強く生きろ」
「ははは、僕は次帰ってきたら地球へ一度向かうんだ……」
なんか子供関係の絶望によって急に死亡フラグを立て始めたぞこいつ。
いや、まぁでも大変だもんなぁ提督って、満足に休みとって地球まで行く余裕がないんだもん。
俺管理局辞めて正解だったわ、もしかするとこいつに連れられて異次元航海とかさせられてたかもしれないし、やめて正解だわ。
「はいはい、あんた達バカな話してないで――はい、クロノさん。昨日の余り物で申しわけないんだけど」
「ああ、いや構わないよ。このバカが今朝居なかったからこそ、僕もこの時間からここに入れるわけだしね」
「そういえばよ、今日クロノが来るって話俺聞いてないんだけど」
俺のデバイスに来たのは朝四時のすずかからのメールだけである。
あの後クロノが来るといった内容の連絡は受けていないが――
「すぅずぅかぁ?」
「えっとー、そのね、あのー」
「ちゃんとメールしとけって言ったでしょうが!」
「イタイイタイイタイ! お願いだから涼くん直伝のアイアンクローだけはだめぇぇぇ!」
アリサ怒りのアイアンクローを受け、悶え叫ぶすずかを見ながらあきれるようにケーキを口に運ぶクロノ。
くそっ、絵になるような恰好しやがって、その顔面にハバネロパイぶち込んでやろうか!
「まったく、アリサもすずかも、君も本当に騒がしいものだ」
「そうだな、ハバネロにやられたテメェもきっと煩そうだ」
「おい涼、君は今僕をみて何を考えた。言ってみろ怒らないでやるから、僕は優しいからな」
「テメェの顔面が真っ赤に腫れたならどんなに愉快で最高なオブジェになったんだろうなってことをな」
「よーしわかった、やっぱり貴様表に出ろ、今日こそ決着をつけるべき時だったんだなと確信したよ狗野郎」
怒らねぇって言ったのテメェじゃねぇか。という言葉をすんでのところで飲む。
格好の機会だ、やはりこいつとはここで決着をつけなければなるまい。
二人同時に示し合わせるように席を立った――そのとき。
「Sit down」
「「ワン!」」
即座にアリサに見つかったのでこれまた俺たちは同時に返事をしつつ座る。
クロノに浮かんでいる表情は畏怖。
きっと俺の顔にもこんな表情が浮かんでいるに違いない。
「まったく、油断も隙もありゃしないわね……さて、しつけの時間――かしら?」
「……慈悲をくれないか、アリサ」
「却下よ。クロノさんに対してのそのやたらと好戦的な態度位は改めてもらうわ」
「……クロノ」
「すまない涼、僕だって命は惜しい」
やさしさもなくアリサに引きずられる俺のことを、これでもかという笑顔で見送るクロノに対し、俺は『いつかまたぶっ飛ばす』と誓った。
「涼、反省が足りないようね。もう少し追加する?」
「ほんとマジすいません反省してますから、反省してますから膝に脚乗っけるのはあぁあ!」
全盛期万歳