南方海域ひとりぼっち   作:Colonel.大佐

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第一章 孤島の那智
ログ 1日目


[ミッションログ 1日目]

 

 事態は最悪だ。

 もしものためにこのログを残しておこう。万が一、私が死んでもこれを誰かが読む事で、私がどうやって生きて、何をしていたか、そして家族や仲間たちにメッセージを残す事が出来る。

 もし私が死亡した場合は、このミッションログが唯一の記録になるだろう。もしこれを拾った誰か(深海棲艦でない事を祈る)は、両親や仲間や上官に、私がどうなったかを伝えてほしい。

 果たしてこれを拾ったのが数ヵ月後、数年後、十数年後になるかは解らないが、とにかく一番最善なのはこれを私自身が生きて帰って持ち帰り、それを元に本を書いてベストセラーになって印税生活をする事だ。

 

 私は絶対死なないからな。でもこれを読んでる人が私の死体を見つけたら後は頼む。出来れば本にして、印税の半分は両親やその子孫に渡してあげてくれ。

 

 さて、状況を説明しよう。

 ここは現在深海棲艦との戦いにおいて最前線だった、今は最前線の向こうに側になった場所だが。日本国防海軍南洋派遣艦隊駐留第13基地。絶海の孤島だ。

 私は艦娘の重巡那智、この基地の艦隊に所属している。

 

 本来なら、私は仲間たちと危機を乗り越えた喜びをかみ締めながら、上官の本郷提督の指揮の下で深海棲艦のケツを蹴っ飛ばす愉快な反抗作戦の予定を立てている所だが、私はその場にはいない。おそらく死んだものとされているだろう。

 まず先に何が最悪かを説明しよう。

 

 放棄された基地に取り残された。

 一昨日の事だ、深海棲艦の大規模攻勢……いや、その表現すら生ぬるいような無数の侵攻部隊が偵察艦隊と偵察機によって明らかになった。

 昔の戦争映画で「海が3分に敵が7分」とか、そんな台詞があったのだが、まさにそれに近い。空母を中心とした打撃部隊が侵攻していたとあって、規模の小さな我々の基地では防衛は不可能だと本郷提督は判断し、即座に撤退を上層部へ打診した。

 

 同様の報告はすでに南方のありとあらゆる海域で行われているようだった。そればかりか、すでに通信途絶し壊滅したと思われる基地も増加の一途をたどっている。今回の攻勢はまさに深海棲艦にとっては史上最大の作戦であった。基地を放棄し、南方に展開する全ての艦隊は本土まで撤退せよとの命令が下ったのだ。

 かくして基地要員と全艦娘が基地を放棄して脱出するというダンケルクもかくやの撤退をする事になった。この時点で日付は昨日になっていた。しかし、それでも判断は遅かったと見え、深海棲艦の大規模な空襲が基地を襲った。

 運の悪い事に深海棲艦の夜間爆撃機が我々に襲い掛かり、こちらの防空システムは完全に使えないという非常に不利な状況になってしまった。とはいえ、空襲がある頃には大半の艦娘と基地要員は脱出に成功していた。

 

 残っていたのは我が基地の精鋭第一艦隊と本郷提督含む下士官数名、私はその第一艦隊の6隻のどん尻、いわば殿を担当していた。本郷提督の乗った脱出艇を援護するための戦闘中、私は深海棲艦の爆撃の直撃を受けた。

 艤装と制服がばらばらに砕け散り、浮力を失って沈降していく瞬間、羽黒が私を助け出そうと手を伸ばしてきたのは覚えている。しかし爆弾が直撃したショックで私は気を失い、そのまま意識を失ってしまった。

 

 幸いにも深海棲艦はこの基地を占領せず、逃げ出した仲間を追撃したようだ。

 そして今朝、カンカンに照った太陽の下で私は目が覚めた――基地の近くにある砂浜の上で。

 おそらく艤装損傷時に失ったと思っていた浮力がまだ残っていて、半分沈んだ状態で浮きながら波に流されて沖合いからこの島までどんぶらこと戻ってきたのだろう。幸いにも身体に傷はなかったし、艤装はまるで役に立たなかったが、また形を保っていたので基地に残った入渠設備を使おうと思った。提督の許可がいるが、この状況では選択肢はないと思ったし、急な撤退で資材や高速修復剤はまだたんまりと残っていると踏んでいた。

 しかし、疲れた身体を引きずって基地までたどり着くと、そこは焼け野原だった。

 私を心底落胆させたのは、入渠設備が爆撃の直撃を受けて全滅していたからだ。そして弾薬庫と燃料タンクが吹き飛び、跡形もなくなっていた。予備の艤装を保管していた格納庫も同じだ。焼け残ったがらくたしか残っていなかった。

 私は艦娘としての役目を失ってしまった。

 何とか救援を呼ぼうと、司令棟の通信室へ向かったが最悪な事に脱出時の戦闘で流れ弾が当たったのか、通信室は凄まじい状態になっていた。通信機は破壊され、壁はぽっかりと大穴が空き、設備は丸ごと破壊されていた。移動式の通信装置も探してみたが、どうやら撤退の際に本郷提督が持っていったらしい。予備を探したが無かった。血眼になって携帯電話や衛星電話の一つでも無いか探したが、徒労に終わった。そして、バカな事に私はここに来て基地の電力が全て喪失している事に気が付いた。

 

 ようやく私はこの南洋の基地に取り残された事を思い知った。

 連絡手段はない、脱出手段はない、友軍艦隊は遥か彼方へと撤退した、この島でサバイバルして、いつ来るかわからない救援を待つしかない。

 さらに状況は最悪である、深海棲艦の支配地域の真ん中にあるため下手に脱出すると海の藻屑だ、食料が尽きたら死ぬしかないし、水が尽きれば死ぬしかない、深海棲艦が空襲や艦砲射撃をかけて来たら死ぬしかないだろう。

 

 疲れ果てた私はとりあえず泣いてみて地面をぶん殴り、ありとあらゆる罵声を大音量でシャウトしてみたが事態は解決しなかった、ちょっとスッキリはした。

 

 とりあえず兵舎に戻って制服を着替えて一杯ひっかけてから寝ようと思ったが、私の自慢の酒コレクションを保管していた自室は兵舎ごと爆撃で吹き飛んでいた。今度こそ本気で泣いた。

 とりあえず、無事だった司令棟にある秘書官控え室の仮眠ベッドで横になっている。控え室にあった煎餅を食べて、休憩室の自販機を破壊して取り出したコーラでも飲んでひとまず腹を満たしてから寝るつもりだ。

 

 生存の望みは低い、しかし生き延びて見せるぞ、全ては生きて帰ってイケメンの嫁になって美味い酒を飲む為だ。

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