南方海域ひとりぼっち   作:Colonel.大佐

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撤退75日目 横須賀鎮守府

 横須賀鎮守府のブリーフィングルームに、艦娘たちが集められていた。

 駆逐艦、軽巡、重巡、航巡、戦艦、軽空母、正規空母と言った艦隊を構成する大半の艦娘たちが集められ、パイプ椅子に腰掛けていた。その中で、潜水艦だけが最前列へと集められていた。

 彼女たちの視線の先には、ホワイトボードに貼られた地図と、本郷中佐と大淀がいた。

 全員の声が静まり返った所で、本郷中佐はこほんと咳払いを続ける。

「今回のミッションについて説明する。那智が生きているというのは周知のとおりで、今現在でも生存が確認されている。今回は那智との交信を成功させるためのミッションだ」

 

 那智、と聞いて艦娘たちはまたざわつき始めた。

 無理も無かった。彼女たちに伝えられた那智生存に関する情報は緘口令が敷かれ、現在は機密事項として扱われている。海軍にとって恥なのか、それとも都合が悪いのか、どちらかは不明であったが政治的な事情が絡んでいる事は艦娘の誰もが知っていた。

「静粛にお願いします」

 ぴしゃり、と冷や水をかけるように大淀の言葉が部屋に響いた。

「那智の救出に関する是非はこのミッションの成功にかかっている。だが、今回の任務地は日本近海を離れて、南方海域へと向かう。敵の支配地域にして深海棲艦の最深部だ」 

 本郷中佐はそう言うと、改めて全員の顔を見た。

 緊張感、不安、そういった表情を誰もが浮かべている。

「那智との通信回復のため、艦娘用の通信中継装置を南方の海域へ設置する。設置場所はマリアナ諸島テニアン島。通信中継装置は小型化されているとは言え、持ち運ぶには大きい代物だ。輸送の際は運貨筒を使用する。よって今回の任務はまるゆを中心に行い、潜水艦隊による突破作戦を実施する」

「……私たちは行ったきりの特攻隊、ですか」

 伊8が声を上げるが、本郷中佐は至って気にしていない様子であった。

「特攻とは違う。今回は二部隊による陽動作戦も展開する。まず、打撃部隊による艦隊で前線を強襲し、威力偵察を行う。その間に出来た隙を突いて、行って戻ってくるだけだ」

 再び部屋がざわつく。

「今回の任務は危険かつ難易度の高い任務だ。同海域は姫クラスの深海棲艦が多数目撃されている。フラグシップやエリート級の巣窟だ。私は君達に対して強制はしない、今回の任務は潜水艦も含め志願制とする。志願する物は立て」

 

 本郷中佐の言葉を聞いて、真っ先に羽黒が立ち上がった。

 誰もが、それを見て驚いていた。

 普段のおどおどしたような雰囲気とはかけ離れた、覚悟を胸に秘めた顔と、迷いの無い目で、羽黒は提督をじっと見た。

「志願します!」

 臆することのないまっすぐな声で、羽黒は宣言した。

「私もお願いします」

 妙高も、また同じように立ち上がった。

「打撃部隊と言えば私の出番だろう、長門型を忘れてもらっては困る」

「なら、私も」

 長門と陸奥も立ち上がった。

「榛名もご一緒します」

 そして、榛名も立ち上がった。

 

 そんな彼女たちを見ていて、一人の駆逐艦がため息を吐いた。

 望月だった。

「別にいいけどさー、死にに行くつもりなの?」

「ちょ、ちょっと望月ちゃん」

 隣に座っていた吹雪が突然の言葉に動揺する。

 周囲の艦娘たちの、厳しい視線が望月に突き刺さった。

「この任務は志願制だ、駆逐艦には荷が重過ぎる……責めはしないぞ」

 長門はそうつぶやくが、望月は口元にニヒルな笑みを浮かべた。

「潜水艦も沈められないような編成で、潜水艦が出るかもわからない海域へ戦いに行くって事が、自殺するつもりなのかって言ってんの」

 よいしょ、と望月は椅子から立ち上がった。

「みんな潜水艦の1隻も沈められないだろうから、私も行くよー。対潜任務は私の仕事だし」

「危険だぞ。解っているのか?睦月型では厳しい任務だ」

 長門が念を押すように言うが、望月は“んな事知らね”と言わんばかりの表情だ。

「那智姉ぇのピンチに問題児No.2が黙って見てると考える方がおかしい。それにまだ上手な始末書の書き方を教わってない。あと睦月型に対する明らかな侮辱ってゆーか、私達はあんたら以上に資源を稼げるぞ」

 ははは、と周囲の睦月型駆逐艦が笑う。

 彼女のネジの外れぶりは那智と関わってから酷くなる一方で、こんな事も、彼女たち睦月型の間では周知の事実であった。

「どうせうちの睦月型は全員クレイジーだ。許可する」

 本郷提督は呆れ気味に承認した。

 

 最前列の潜水艦娘は、その光景を見て重たい表情を浮かべていた。

「イクたちはどうするのね……?」

 伊19が、不安げな表情を隠さずに左右に座る伊58とまるゆを見た。

「まるゆもきっと、お役に立ちます!」

 俄然やる気、と言わんばかりの勢いでまるゆが立ち上がった。

「潜水艦娘になった以上は、これぐらいで不平不満を漏らしてる程度では潜水艦の風上にもおけないチキン……オリョールクルーザーの肩書きが聞いて呆れるでち」

 伊58は皮肉な笑みを浮かべると席を立ち上がった。

 それに続いて、潜水艦娘は全員立ち上がり、最後に伊19が観念したかのように立ち上がった。

 

「参加する面子は決まった。出撃は明日の0900、今晩に詳細な説明を行う。解散!」

 艦娘たちが全員立ち上がり、敬礼を送る。

 提督と大淀がブリーフィングルームを出て行ったのを見送ると、艦娘たちは部屋を後にしていった。

 だが、全員の顔から不安や緊張の色はなくなり、那智戦死の報を聞いて以来、初めての明るさが戻りつつあった。

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