[ミッションログ 2日目]
起床して、ある程度心の中が落ち着いてきた。
完全に基地に置き去りにされ、独りぼっちになってしまったという事実に打ちひしがれているだけでは意味がない。むしろ、私にとって一番の不安は、第一艦隊の全員――妙高姉さん、羽黒、榛名、長門、陸奥の5人と、本郷提督が無事に本土まで脱出できたかどうかだ。
しかしまあ、私以外に誰も島に漂着してないし、残骸も見てないことや、本人たちの潜った修羅場の数を考えれば無事の可能性は高い。通信さえ可能だったらな。
気持ちも落ち着き、散歩がてら基地を見回っていくうちに、ようやく我が基地の損害状況が明らかになってきた。
基地設備は壊滅的な打撃を受けたが、それでも無事な部分はあったようだ。司令棟は無事で、倉庫に関しても同じく無傷だった。発電設備は軒並み大打撃を受けてしまったが、幸運な事にソーラーパネルは無事だった。しかし基地設備すべてに電力を供給する事は不可能だし、ソーラーパネルで得られる電気も微々たる物だろう。ただし個人で使う分には特に問題なさそうだ、私一人で使う分なら十分だ。
兵舎は、私が入居していたB棟が丸ごと吹き飛んだ。跡形も無くなってしまい、もはや影も形も無い。私が給料をつぎ込み、提督や大淀の目を盗み、明石に賄賂を握らせてまで取り寄せた酒類は跡形も無く吹き飛んだ、アルコールは揮発し、酒ビンは粉々になり爆撃の高熱で溶けて臨終した。涙はとうに枯れ果てた。そのうち酒の墓を建てたい。
A棟は無事だった。ほかに完全に破壊されていたのは退避壕、艤装格納庫、ドック、建造設備、それから通信室の設備のみだ。
貯蓄物資の状況は最悪だった。まず燃料タンクは完全に破壊されてしまい、弾薬庫も跡形も無く吹き飛んだ。かき集めれば何とか燃料弾薬は確保できなくもなさそうだが、それでも出撃1回分があればいいところだろう。つまり、私がイエス・キリストばりに何らかの奇跡を起こして艤装を修理する事が出来ても、このまま海へ出る事も戦う事も出来ない、最悪だな。海でも割れたらよかったが。
次に食料と水だ。真水は無事な貯水タンクが1つあったのでどうにかなるが、この基地の水は主に島の反対側にある小さな施設で海水の淡水化を行っていた……とりあえずこれの確認は後回しにしよう。もしダメになったら井戸を掘るか、海水を蒸留して真水を得る原始的な方法を取るしかない。蛇口を捻れば水が出てくると言う当たり前の事が、今はひじょうにありがたい。
食料に関して言うのなら、こればかりはどうしようもなかった。まず食堂が半分吹き飛び、間宮と伊良子が使ってたであろう厨房は瓦礫の中だ。冷蔵庫の残骸も発見したが、すでに電力の消失と爆撃の損傷で中身は完全に死んで腐ってしまっていた。常温保存していた貯蔵庫も同じ運命だ。幸運な事に無事な調味料だけは何とか無事だったテーブルから入手できた。
となると倉庫に保管されているであろう非常用や任務用のレーションのみが今のところ私の生存に必要な食料なのだが、こちらも残念な話だがかなりアテがない。と言うのも、実は深海棲艦に攻撃された時は補給前で、基地に補充されているレーションは少ないかったからだ。
それでも私1人で食べるには十分な量だと思うが、期待は出来ない可能性がある。何にせよあまり大きな基地では無いのだ、長期のサバイバルとなると、じきに無くなってしまうだろう。もし隣に赤城と加賀いたら10日もしないうちに私は栄養失調になっていただろうな。
とりあえず生き延びるための方法を模索するために司令棟を物色してみた。
ひとまずは武器が欲しかった。提督の執務室を真っ先にあたってみる事にした。
秘書艦として何度か仲間の頼みごとで、提督の机の鍵をピッキングして開けて書類を盗み見るという違法行為をやったが、その際に提督の拳銃があった事を思い出したからだ。
奇襲にあわてて持ち出せなかったであろう拳銃を入手できた。艦娘養成学校のサバイバル訓練でも使った事がある9mm拳銃だ。刻印はまだ国防海軍に改名前の海上自衛隊とある。
予備弾倉も3個見つけた。手入れが行き届いていて今すぐ使えるだろう。弾は合わせて27発だが、深海棲艦相手では歯も立たないだろう。海鳥が来たときに使う狩猟用しか使い道は無さそうだ。
後は住処の問題だ。
司令棟と兵舎、倉庫のみが奇跡的に現存しているが、あとは軒並み爆撃で破壊されて焼け焦げたか丸ごと爆発で吹っ飛ばされている。
じゃあ基地の中で無事な所で寝泊りすればいいわけだが、2つ理由があって、正直この基地設備で寝泊りするのは良策とは言えない。
戦況がすでに好転していなければ、ここは深海棲艦の現在支配海域のど真ん中にある。連中は上陸こそしてこないが、ここは往路であるから、海に面している基地で生活しているのが深海棲艦にバレると非常にまずい事になる、ましてや私は艤装無しの艦娘で、生身の人間では丸腰も同然だ。これが1つめ。
そして2つめは爆撃の危険性だ。深海棲艦の艦載機による空襲を受けると非常にまずい。もう人が存在していない基地(私はいるけど)でも、空襲攻撃を受ける可能性は十分ある。しかも退避壕も綺麗に吹っ飛ばされてしまい存在しないので、仮に基地でひっそり暮らしていてもまさかの空襲で死ぬ事もありえる。
島の山に通信用のアンテナと、レーダー用の小屋があったが、あれはあれで目立つ場所にあるので対象外だ。他に爆撃候補からズレて、かつ外海から見えず、それでいて居住できる施設はあるものだろうか。
とりあえず明日以降にやる事のリストを作る事にした。まず優先課題は安全な住処の確保と、物資の確認だ。
ひとまず、今日は眠ろう。今日も司令棟の仮眠室が寝床だ。そろそろシャワーを浴びたい。