[ミッションログ 138日目]
このあいだからひたすら酒の事を考えている。
酒が切れたらこの島は那智強制収容所へと早代わりである。絶海の孤島、ツマミあり(主にそのへんで取れる魚、芋)、飲む時間あり(働いてる時間よりも暇な時間が多い)、咎める野郎なし(提督も大淀も秘書艦もいない)、これほどまでに飲兵衛に好条件な場所でありながら、肝心の酒が無い!!
いや、手元に最後のウイスキーが1本があるのだが、これを開けたらおしまいだ。おそらく1晩持たない。飲んだら終わりという恐怖心だけが残りわずかな自制心となってこの手を止めている。
こうなったら密造だ!ここでバレても誰も咎めやしない。南方海域の真っ只中、私を停める艦隊の良心、大淀も始末書をすぐ書かせたがる中佐も、法の番人である警官もここまではこれやしないし、知りもしないだろう。それにバレてもかまうものか、ここは日本じゃなくて海外だから!
とまあ法的問題はさておき、お世辞にもよい環境ではないのが現実だ。
いや、酒自体は簡単に作れる。しかし、それは材料と素材と環境が揃った場合に限られるし、ご家庭でも簡単に作れる代物ばかりだが、ここは絶海の孤島の海軍基地、物資は非常に限られている。
そもそも、この基地を放棄する前から私は虎視眈々と密造酒作りに力を入れていた。勉強を重ね、素材を用意し、酒作りに必要な道具だって用意していた。しかし、その都度大淀は私の崇高なミッションをあの手この手で妨害し、時には裏で暗躍していたので作れなかった。大淀さえいなければタンク一杯分の酒ぐらいドンと密造してやったのにな!
せめてホワイトリカーぐらいあれば果実酒ぐらいは作れたかもしれないが、残念ながらそんなものは無いので諦める。あとは猿酒くらいか……いや、もっと原始的なのを試せば口噛み酒も造れるかな?前途多難だがやるしかないだろう。
ああ神様、私を禁酒させたくてこの島へ閉じ込めたのなら絶対に許さんぞ、20.3センチ砲でヨルダンあたりまでケツをぶっ飛ばしてやる。
ダメ元でアイオワに「頼むよ~お前らの軍事力でビールとウイスキーとつまみを送っておくれよ~アイオワえもん~」とメールで頼んでみたが「無理に決まってるでしょう」という旨の返信がた。当たり前か。
変わりにこれで我慢しなさいとアイオワから今日の一曲。
Buffalo Springfieldのヒットナンバー「For What It's Worth」だ。絶対このアイオワ、艦娘の魂がベトナムから帰ってきたばかりのやつだろう。
メコンデルタに沈む夕日が目に浮かぶ……あああああ酒がのみたあああい。
[ミッションログ 143日目]
今日は農園を一通り拡張していた。
脱出前に放置していた農園は拡張住みだ。ジャガイモ農園も収穫を終え、次の耕作に備えて那智印の肥料も用意しておいた。種芋を植えればまた栽培可能である。
もう一方の農園も、一通り準備完了ですでに何個か種を植えている。野菜を何品目か植えておき、上手くいったらその種を栽培するという方式を取ることにしている。他にも苗を監視所で栽培している。
幸いにも農業スペシャリストは通信を通してアドバイスできるよういつでも待機している。もう何かトラブルがあれば彼らにアドバイスを聞くとしよう。
そして、これから暇な時は釣りをして過ごす事にした。釣れる魚は小魚だったり変な魚が多いが、それでも私の生活には役に立つ。南方の珍しい魚でも貴重な食料物資となるし、干物や燻製にして保存するという手段もある。食べれそうな貝類も、島の裏側にある磯で取っているし、カニの類も最近は捕って食べている、これも結構美味いんだ。
意外と自給自足生活も夢物語ではないんだな、と再確認させられている。
さて、密造酒作りも進めながらあるプロジェクトも進めていきたい。
艤装の修復だ。
私の艤装は大破し、修復不可能の状態で通信ユニットのみかろうじて生きている状態だ。その通信ユニットも、現在は艤装から取り外してバッテリーとつなぎ、ほぼ据え置きで使用している。
艦娘開発部の三樹原は、残されたジャンクパーツを使って艤装を再構成させるという試みをやってみろと私に勧めてきた。
救出作戦が中止されている以上、ここで黙って座って人類が勝つのを待つよりかは、いずれ島を脱出し逃げ出す――または移動するという可能性もありえる。何にせよヒマだし、技術は覚えておくに越した事は無いため、私は彼女からここしばらく艤装修理・メンテナンスの基礎講習を受けている。
さて、この三樹原という技術屋、実は相当の実績があるそうだ。
半年前に五十鈴に実装された、五十鈴専用の爆雷攻撃ユニットの開発や、摩耶型艤装改二の設計、さらに集中配備機銃の設計なども担当したと言われている。すごい女だ。
元艦娘で、自身も摩耶だったと聞かされて私はようやく彼女の雰囲気と名前にピンと来た。
恐らく、前に大規模作戦で会った事がある。佐世保鎮守府の摩耶型艤装貸与者に、似たようなヤツがいた。だとすると……
いや、本人に聞くのはやめよう。
もしあの時の摩耶が彼女だったら、辛い事だろうからな。