南方海域ひとりぼっち   作:Colonel.大佐

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今回から章を導入してみました。


撤退199日目 横須賀鎮守府

 本郷中佐は司令棟の廊下を小走りしながら、慌しく動いていた。

 今から10分前に、報道が呉鎮守府で銃声の発生を告げ、そして周辺海域に大量の艦娘が展開し、不穏な動きがある事について報道を続けていた。SNSでも堰を切ったように呉の市民が「大量の陸軍の戦車や装甲車が呉鎮守府の方面に向かっていった」「市街地でも銃撃戦の音が聞こえ始めた」「海上から絶え間なく砲声と砲火が見える」「投降を促す旨の放送があちこちで流れている」と写真や動画をアップロードし始めている。

 本郷中佐を含め、士官や下士官、さらに艦娘たちには寝耳に水のニュースだった。

 何も知らされていない彼ら、そして彼女らは少しでも情報を手に入れようと奔走していた。本郷中佐も、そのうちの1人だった。

 

 本郷中佐は作戦指令室へと入室する。巨大なモニターと、オペレーターや様々な通信装置が控えるこの場所こそ、横須賀鎮守府の頭脳、そして広大な日本近海の制海確保を支えている場所であった。

 同じように、ここへやって来ていた艦娘や士官たちの姿を確認した本郷中佐は、緊迫した面持ちでモニターを眺める大淀の肩を叩いた。

「何があった?状況は?」

 本郷中佐の言葉に、大淀は緊張感を張り詰めたまま答えた。

「呉鎮守府でクーデターです。海軍の陸戦部隊と陸軍が睨み合いを続けているそうです。それから空母「かが」と護衛艦「せとぎり」「てるづき」が応答を無視したまま対馬海峡を北上しています。また、艦娘同士による戦闘も発生しています」

 大淀の言葉を聞いて、本郷中佐は言葉を失った。

 モニターに表示される映像や情報が、大淀の言葉を一字一句間違いなく指し示していた。これが悪夢だと言うのなら自分の頭を撃ち抜いてでも夢から覚めるべきだと感じる程だ。

 中国と韓国海軍が厳戒態勢を発令、ロシア軍の太平洋艦娘艦隊が日本近海にて行動を開始、空軍がスクランブル発進……目まぐるしくモニターに表示される情報が、事の深刻さを伝え続けている。

 

 作戦指令室のドアが不意に開けられ、誰かが入ってきた。

 その顔、制服、そして階級章。この中将の男性こそ、横須賀鎮守府の総司令官その人だった。

 両脇には秘書艦である艦娘、伊勢と日向が、中将を守るように立っている。腰の日本刀の柄には、そっと片手が添えられている。2人は中将を守らんとするように、険しい顔を浮かべながら周囲に気を配っている。

「全員集まっているか」

 中将の言葉に、作戦指令室へ詰め掛けていた各艦隊の指揮官たちは直立不動の姿勢を取った。それぞれの顔を見回してから、中将はモニターを見た。

 総司令官である中将の顔は、驚くほど冷静だった。

 この情報の嵐の中で、冷や汗一つ浮かべておらず、呼吸も落ち着き、視線はじっとモニターを見ている。

「思ったよりも事態は深刻だな、中佐」

「はい」

 本郷中佐は額に浮かんだ嫌な汗を手の甲でぬぐいながら、中将の言葉に答えた。

「国防大臣から連絡があった。呉鎮守府で作戦指令部長がクーデターを起こした」

 その言葉に、周囲の指揮官たちはざわめきを隠さないまま、驚愕の顔を浮かべていた。

「心配はいらない。佐世保、舞鶴から艦娘部隊が急行し鎮圧に当たっている。陸軍も呉市内の反乱部隊を一掃中だ。作戦指令部長はその身柄を確保された、鎮圧もおそらく時間の問題だろう。もうすぐ、公式声明が発表される」

 安心させるために一通り中将自ら説明を行ってから、すぐに厳しい視線で周囲の指揮官たちを見回した。

「だが、万が一にでもこの横須賀鎮守府で作戦指令部長に同調し、決起を試みる者がいた場合は容赦はしない。私の目が黒いうちには裏切りは許さん、見つけ次第厳重に処罰する!いいか!!」

 語気を荒めた中将の言葉とその迫力に、指揮官の全員が気圧される。

 中将の経歴を考えれば無理もない、海軍が海上自衛隊だった頃から活躍し、深海棲艦との緒戦で、艦娘なしで深海棲艦と戦い、そして生き残った数少ない軍人である叩き上げの男なのだ。

「各指揮官はただちに艦娘部隊をいつでも出撃できるようにしろ、別名あるまで各艦隊を待機させる。機動部隊、打撃部隊、水雷戦隊、潜水艦隊、ありとあらゆる襲撃に備えろ。艦娘同士の戦闘が発生する可能性がある。上から指示が届き次第、次の行動を指示する。復唱の必要はない、行け!」

 命令が下された。

 指揮官たちは、不安なようで、それでいて安堵したかのような表情を浮かべた。

 命令が下るだけマシであった。それほど、現状は緊迫の一途を辿っていた。

 

 

翌朝 呉鎮守府 海軍総司令部

 

 大規模な戦闘から一夜明け、呉鎮守府は凄惨な様相を呈していた。

 海軍反乱部隊兵士、そして特殊部隊の交戦から端を発した戦闘は、反乱部隊側の一方的な敗北で終わった。同時に、各地で決起していた部隊も速やかに投降。さらに、指令部長の指示で日本海側を北上していた空母「かが」と護衛艦は、針路を変更し艦娘部隊と合流、こちらも投降した。

 呉鎮守府は、鎮圧のため派遣された陸軍部隊により制圧されている。反乱の有無にかかわらず、全ての兵士たちは一箇所に集められている状態だった。

 

 叢雲は、戦闘のどさくさではぐれた上官の提督を探すため、呉鎮守府の中を歩き回っていた。叢雲は陸軍の兵士に連行される艦娘たちとも幾度と無くすれ違った。

 彼女たちは、特殊部隊と同じ格好の叢雲の姿を見ると、目を伏せたり、敵意を向けたり、あるいは無感情な目を向けては、すれ違って去っていった。

 

 叢雲は気が滅入りそうな中、ようやく彼を発見した。

 彼は、米軍と陸軍と思しき将校と話をしていたが、叢雲の姿を視界の端に確認すると、敬礼を返して別れを告げ、そのまま叢雲の元へと小走りで戻ってきた。

「すまん、遅れた」

「遅いじゃないの。私をほったらかしにして勝手にどこかに行って」

 むう、と膨れる叢雲だったが、彼は平謝りをした。

「基地に帰るぞ」

 彼の言葉に、叢雲はようやく安堵した。

 

 ヘリポートには、灰色の淡色迷彩の軍用ヘリ――米軍のUH-1Yヴェノムが駐機されていた。叢雲が所属する傭兵部隊の移送のため、待機している。

 ヘリポートへ向かう道を歩きながら、彼は欠伸をもらしながら朝日を眺めていた。

「一仕事だったな」

「……そうね」

 叢雲は素っ気無く答えた。

「事後処理が大変そうね。この戦争はどうなるのかしら……」

 その言葉に、彼は答えた。

「まぁ、この戦争は転換期に入るだろうな。少なくとも今よりも悪くなる事は無いだろう」

 彼の言葉を反芻してから、叢雲はため息を吐いてから答えた。

「また仕事の山ね……」

「やっと仕事の山の終わりが見えてきたんだ。もう少しシャキっとしろ」

 彼の言葉に、叢雲は力なく笑って答えて見せた。

 

 

 

 

[ミッションログ 199日目]

 

 今日は全然通信がつながらないと言うか、誰も応答しない。

 せめて誰でもいいから応答してほしい。今日の那智農園料理の写真を一航戦へ送りたいんだけど。もういいや、寝よう。

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